つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

一風変わった野球マンガ

2005-07-31 14:41:24 | マンガ(少年漫画)
さて、もう高校野球の時期なんだねぇの第243回は、

タイトル:おおきく振りかぶって(1巻~4巻:以下続刊)
著者:ひぐちアサ
出版社:講談社アフターヌーンKC

であります。

野球マンガ、と言うと、弱小チームがスポ根まっしぐらで強くなるとか、現実じゃあり得ない球なんかを投げるピッチャーがいたりとか、そういうイメージが強かったりする。

まぁ、それはそれで少年マンガらしくておもしろいんだけど、このマンガはそういったところからちょっとずれた……いい意味でずれた野球マンガ。

まぁ、1巻の裏表紙の煽り文句からして、

オレらのエースは暗くて卑屈。勝つために、弱気なエースのために。行け、オレら!

ってんだけど、これがまたそのまんま(笑)

このエースが主人公で三橋廉。
ホントに暗いし、卑屈だし、弱気だし、泣いてばかりいるし、ビクビクしっぱなしだけど、絵柄のおかげか、おもしろいいいキャラになっている。

他のメインキャラはキャッチャーの阿部隆也、4番サードの田島悠一郎、キャプテンの花井梓などのチームメイト。

あと、マネージャーの篠岡千代、監督の百枝まりあ、野球部責任教師の志賀剛司などなど。

どのキャラも個性的で、うまく描き分けができていると思う。

ストーリーは、最初は、新しく硬式野球部が出来て、1年生ばかりのチームが出来るところから。
中学時代のチームメイトたちとの練習試合を挟んで、7月に出版された4巻ではようやく夏の大会の予選が始まるところ。

4冊も出ているのに、さほど試合はしていないけれど、そのぶん、きっちりと人間関係とかのドラマのほうも描いているから、気にはならない。

大きくは試合、ドラマ部分、練習(うんちくなどの解説含む)の構成かな。

解説部分はちょっとセリフが多いので、読むのがめんどくさくなるときがあるのが残念。

でもそうしたところ以外はよいので比較的オススメな野球マンガでしょう。


☆クロスレビュー!☆
この記事はLINNが書いたものです。
SEN&LINNの書いた同書のレビューはこちら

またこんなん手に取ってみた

2005-07-30 17:48:55 | 小説全般
さて、最近児童文学の賞取ってるのを見ると買ってみようかと思ったりするの第242回は、

タイトル:アーモンド入りチョコレートのワルツ
著者:森絵都
出版社:角川文庫

であります。

3つの短編が収録されたもので、どれも主人公は中学生。
それと各話に、それぞれテーマとなるピアノ曲がある。

10も20もあるわけではないので、それぞれひとつづつ。

・子供は眠る ~ロベルト・シューマン「子供の情景」より
主人公のぼくが5年前から4人のいとこたちと夏の2週間を過ごす別荘での話。
テーマで出てくるシューマンのピアノ曲は、別荘の持ち主の息子である章くんに、毎日夜10時になると強制的に聞かされるレコードから。

2週間の生活を仕切る章くんと、この夏の2週間を終わらせたくなくて章くんを立てて、章くんよりも優れたところを見せまいとするぼく、智明、ナス。
それぞれの気持ちや行動、不満と言ったところがうまく描かれている。

ストーリー的に特に目立ったところはないけれど、流れるように進んでいて、さらっと読める作品になっている。

・彼女のアリア ~J.S.バッハ「ゴルドベルグ変奏曲」より
不眠症で1ヶ月寝られない日々が続いているぼくと、球技大会をサボって訪れた旧校舎の音楽室で出会った、虚言癖のある藤谷りえ子の話。

おなじ不眠症だと言う藤谷とともに毎週火曜日に、不眠症のことや藤谷一家のとんでもない家庭事情などを語り合い、けれど、不眠症を始めとしてそれは全部藤谷の嘘で、ぼくは怒って毎週火曜日の音楽室へ行かなくなってしまう。

まぁ、ラストはいちおうハッピーエンドに終わるので安心して読めるけど。

この話でも、ぼくの気持ちがとてもうまく描かれている。
藤谷の話がすべて嘘だとわかって、もう火曜日の音楽室に行かなくなったあと、学校で見かけても、ぼくはまだ怒ってるんだと無視したり、けれどそのあとに、あれは少し酷かったんじゃないかと後悔したり、でもまだ藤谷が悪いんだと言い聞かせたりするところなどは、子供っぽくてほほえましい。

それにたぶん、心当たりがある、と言うか、中学時代を思い出してそういう気持ちになったりしたひとはけっこういるんじゃないかな。

懐かしいとともに、どこかくすぐったい感じのする優しい話になっていて、これは雰囲気のあるいい話になっている。

・アーモンド入りチョコレートのワルツ ~エリック・サティ「童話音楽の献立表」より
前の2話は少年が主人公だったけど、これは中学生の少女の奈緒が主人公。
あとは奈緒の友達で、おなじピアノ教室に通う君絵、ピアノ教室の絹子先生、そして絹子先生が呼び寄せた謎のフランス人のサティのおじさんの4人で描く、ピアノ教室を中心とした、ふわふわとした雰囲気のある話。

う~む、これはとてもいい雰囲気を楽しみつつ読みましょう。

以上。

……つか、それくらい雰囲気がよいのでね。

と言うわけで、総じていい本だと言えるかな。
オススメできる作品のひとつ、でしょう。

よいものもありいまいちなものもあり

2005-07-29 22:02:03 | 小説全般
さて、男性が書いた恋愛小説はかなーり久々な第241回は、

タイトル:スローグッドバイ
著者:石田衣良
出版社:集英社文庫

であります。

このひと、「池袋ウェストゲートパーク」の作者だったのね、知らなかったわ(爆)
まぁ、別にドラマとか邦画にさして興味がないから、だからどうしたなんだけどね。
だいたい、このひとの作品を読むのは初めてなので、余計な先入観はないほうがよい、うん。

さて、初めての作家というのもあったし、ふと文庫の帯に「10篇の物語」という文字が躍っていたので、短編集ならばと思って買ってみたもの。

とりあえず、それぞれの短編は、

・泣かない
・十五分
・You look good to me
・フリフリ
・真珠のコップ
・夢のキャッチャー
・ローマンホリデイ
・ハートレス
・線のよろこび
・スローグッドバイ

となっていて、全体的に総括すると、やはり短編集らしく、するするっと入っていけて後味のよい話もあれば、「あ、そぅ……」で終わるどーでもいい話も入っている。

けれど、雰囲気としては、どろどろした重さもあまりなく、さりとて軽すぎもせず、もっさりしすぎてもなく……で、軽く読むにはいいんじゃないかなぁ、と思う。

でも、ラストの傾向が似たものばかりなので、一気に読むと「あ、そぅ……」で終わる話が多くなってしまいそうな気がする。
逆に言えば、そう大きく期待を裏切るような終わり方ではないので、とても安心して読めるし、むしろ途中のキャラクターたちの心理とかを追って楽しむのが吉かもしれない。

情景描写、心理描写ともにしっかりしているので、そういう楽しみ方は十分できるんじゃないかなぁ。

なので、各話ごとの書評はなし。
比較的よかったと思ったのだけ書いとこう。

「ローマンホリデイ」
ローマの休日をきっかけに、ネットで知り合った女性は実は孫の名前を借りて掲示板に書き込みをしていた72歳のおばあちゃん。
主人公の男性がメールをやり取りするきっかけになった一文と、最後の一文の対比がくすっと笑えてよかった。

「ハートレス」
同棲しているセックスレスのカップルの話で、主人公のほうの女性が雑誌で見た、
『医学的には、健康なカップルのあいだで三ヶ月以上性交渉がない状態を、セックスレスという』
という言葉から、自分たちにも当てはまることに愕然とし、意気込んでセックスをしようと張り切る話。
いやらしさもなく、からっとしてて、くすくす笑えるところもあってよい。

未来少年ではない

2005-07-28 21:57:32 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、最近全然読んでない第240回は、

タイトル:名探偵コナン(1~50巻、以下続刊)
著者:青山剛昌
文庫名:少年サンデーコミックス

であります。

扇:実はYAIBAの方が好きだったりするSENでーす。

鈴:強いて言うならこっちのほうがいいかなぁと思うLINNで~す。

扇:強いてかよっ。アニメと比べると?

鈴:う~む、声がしっかりはまっているのでアニメのほうかなぁ。
つか、結局、途中途中のオリジナルを抜いたらマンガそのまんまの展開だから、動いて声があるぶん、アニメのほうが見やすい。

扇:漫画もアニメもここ二年近く御無沙汰なんだが。(笑)
で、コナンと灰原はくっついたのか?

鈴:ご無沙汰なのによく選んだよなぁ。まぁ、こっちが持ってるし、見てるが(笑)
で、なんでコナンと灰原なんだっ!
くっついたのはコナンと歩美ちゃんだ!(爆)

扇:その意味では、コナンが元に戻る=歩美が失恋する、なんだよなぁ。
ま、冗談はさておいて……超有名になった探偵漫画です。
どっちかと言えば推理物というより、活劇に近いのかな?

鈴:まぁ、確かに純粋に推理物というわけではないわなぁ。
そう言う意味では少年マンガらしいところも十分残してるってとこがまたいいのかもな。
さて、では恒例のキャラ紹介といくかね。

扇:じゃ、主人公の江戸川コナン。姓は江戸川乱歩、名はコナン・ドイルから。
本名工藤新一(探偵物語の工藤俊作からか?)、高校生探偵だったが、悪の組織の毒薬の効果で小学生の姿になってしまい、以後は今の名を名乗って難事件に挑む。

鈴:ではヒロインの毛利蘭。おそらく名字の毛利は怪盗ルパンの作者モーリス・ルブランからだろう。
主人公のコナン=工藤新一の幼馴染みで、憎まれ口を叩きつつも実は相思相愛という少年マンガの王道を突っ走るさぶいぼなキャラ。
ちなみに、都大会で優勝するほどの腕の持ち主。(このあたりも王道か)

扇:ではその親父で、三枚目探偵(?)の毛利小五郎。
当然、名の元ネタは明智小五郎、妻の名は妃英理(エラリー・クイーン)。
いつもへっぽこな推理を展開し、捜査を混乱させるトラブルメーカー。
ただし、最後はコナンに利用されて事件を解決するので名探偵と思われている。
いかにも情けない方だが、友人絡みの事件の時は結構格好良かった。

鈴:次に阿笠博士。ちなみに、「はかせ」でなく、本名「ひろし」(←どう考えても間違えるぞ)
当然のごとく、元ネタはアガサ・クリスティーだが、見た目は頭頂の怪しくなったおっさん(笑)
とは言うものの、けっこうな発明家で、コナン及び少年探偵団の面々にいろんなグッズを作っている。
で、これがまたコナンの推理&解決に必要不可欠だったりする。

扇:灰原哀、阿笠博士の助手(?)。
本名、宮野志保。コナンと同じく、薬で小さくなっている。
黒の組織の元メンバーであることから、様々な事件に関わることになる。
キッツイ言動と、組織に怯える姿が人気の秘密なのかも知れない方。
名前の元ネタはアイリーン・アドラーだろうか……あまり自信ないけど。

鈴:で、少年探偵団の面々。小嶋元太、円谷光彦、吉田歩美のコナンのクラスメイト3人組。
決して、ジャ○アン、スネ○、○ずかちゃんと言ってはいけない(爆)
基本的にコナンの推理にはお荷物っぽいが、それなりに活躍したりもする。

扇:って言うか、アニメの人気を支えているのはこやつらかも。
平次とかジンとかキッドとか好きなキャラはいるが、とりあえずこのぐらいかな。
で、怪盗キッドにコナンがケチョンケチョンにされたのはいつだっけ?

鈴:いつ……。
う~む、たいていは痛み分けの印象が強いがな、コナンとキッドは。

扇:つーか、私的にはコナンが活躍しない話の方が面白いんだよね。
もっともこれは長い漫画すべてに言えることかも知れないが。(笑)

鈴:まぁ、だいたい活躍してくれるのは最初のほうだけでいいわな。
そのうち、慣れてくるから活躍してんのかしてないのか、どうでもよくなるし(爆)
……あぁ、だから活躍してないほうが印象が強いんだ。

扇:というか、単に我々が推理物に興味がないだけではないのか?
てなわけで、いつものように褒めてるんだがけなしてんだか解らない解説ですが、本日の木曜劇場、そろそろお別れの時間でございます。
次回はあの平安巨編がいよいよ登場、どうぞご期待下さい。

鈴:……まぁ、単行本は買ってるし、テレビも見てるし、まったくないわけではない……と思う。……たぶん。……きっと。
で、次回ですが、往年の名ゲームの名前とはまったく関係ありませんが、いちおう、ほんとうに、巨編のはずです。

扇:平○京エイリアンぢゃねぇっ!

鈴:誰がわかるんだ、そんなもん!

蒼き狼の血族

2005-07-27 22:41:10 | 時代劇・歴史物
さて、天馬の血族ではない第239回は、

タイトル:モンゴル帝国の興亡(上)―軍事拡大の時代
著者:杉山正明
文庫名:講談社現代新書

であります。

泳げ、騎馬民族!
って……それは民明書房。

蒼き狼の子孫がいかにその版図を拡大していったかを描く名著。(断言)
私のような半可通は、チンギスが暴れ回った後、速攻で帝国が分裂して、中国部分だけフビライが支配した……というかな~り舐めた解釈しかしてなかったのですが、これ読んで一気に見方が変わりました。

戦闘に長けた騎馬民族が、奸智に長けた農耕民族を内に取り込むことによって、まれに見る強大な軍事勢力が形成され、自然、それは新たな戦いの場を求めて外征へと向かう……すべての富を集中させ、市民という特権階級の生活と権利を守るべく版図を広げていったローマ帝国とは明らかに毛色が違います。

初期ローマが採用していた元老院議員が文官と武官を歴任するというシステムは外敵との戦争激化に伴う専門軍人の台頭により瓦解しますが、モンゴル民族は飽くまで戦士であり、統治(搾取?)は吸収した他民族に任せていました。ここらへんも、急激に版図を広げた要因かと思われます。

どうもモンゴルというと徹底的に破壊し、根こそぎ奪い去るというイメージが強いのですが、チンギス・カンですら金との戦いでは和睦して軍を引いています。降伏した城を破壊した形跡もないし、そこに荒々しいだけの戦闘民族の姿は見えません。

歴史の授業でしかモンゴルを知らないという方には絶対オススメ。
あ、私も早く下巻を読まないと……。

下巻に続く

私は右利きです

2005-07-26 19:30:45 | その他
さて、両利きって凄いと思う第238回は、

タイトル:右利き・左利きの科学
著者:前原勝矢
文庫名:ブルーバックス

であります。

貴方は右利きですか、それとも左利きですか?
いや、どっちだからいいって訳ではありませんが……。

統計をもとに利き腕について様々な解釈を述べる書です。
なぜ利き腕が存在するのか、思考の差異など色々。
利き足や利き眼についての解釈も載っています。

あれ……終わり?

うーん、この手の考え方って血液型占いと同レベルかなぁと。
あっちの方は、いくら科学的に否定されても復活してくるし
四種類あるので、区別つけるのが楽しいからでしょうね。

左利きに対する偏見とその緩和の話は割と面白いです。
アインシュタインとダ・ヴィンチのエピソードもなかなか。
でも、基本は統計データとそれから読み取れる左右差の話。

利き手とそうでない手による諸動作の差とか、利き手は遺伝するかしないかの統計とかは一つの傾向として楽しむ分にはいいのですが、犯罪者の左利きの頻度などは、単なるデータと言い切るにしてもナンセンスでしょう。

ちょっと統計学に寄りすぎてる向きがあり、個人的にあまりオススメでない。
こういう考え方もできるかなぁ、程度の気持ちで読むのが吉。

ギャグ漫画はツッコむためにある

2005-07-25 23:43:51 | マンガ(少年漫画)
さて、暑さで死にそうな第237回は、

タイトル:内閣総理大臣織田信長
著者:志野靖史
出版社:白泉社

であります。

知る人ぞ知る劇画調のギャグ漫画。
はて、この可笑しさを言葉でどう伝えるべきか……。

時は90年代中頃――。
政界に渇を入れるべく、あの男が帰ってきた。
日本人なら誰でも知っているその男の名は織田上総介信長!

本能寺で死んだろ?

説明、一切なし!
ある日突然、49歳の信長が首相に……。
新聞に400年ぶり織田政権成立とか書いてあるし。(笑)

最初見た時は眼が点になりました。
ギャグ漫画は深く考えたら負けなんだろうけど……。
でもやっぱり何か間違ってる気がするぞ。

閣僚はみんなスーツにチョンマゲ。
ツッコむ奴はいるがせいぜい時代錯誤と口撃するぐらい。
なぜか居酒屋で閣僚会議やってたり(料亭ならまだ解るが……)、蘭丸が17歳で官房長官やってたりと変な所を探せばキリがありません。

ま、細かいところはさておいて。
歴史上の有名人が現代人の常識を覆す楽しいお話です。
一番非常識(褒め言葉)なのは信長ですが、さっさと順応して、あまつさえ染まってしまうのも彼だったり。(笑)

後期はちょっとパワーダウンしますが、最初の頃は間違いなくオススメ。
無茶苦茶なのに、凄く合理的にも思える信長軍団の活躍をお楽しみ下さい。

こういうのもまたよし

2005-07-24 15:44:40 | 小説全般
さて、第236回は、

タイトル:楽園のつくりかた
著者:笹生陽子
出版社:角川文庫

であります。

第50回の産経児童出版文化賞というのを受賞した作品らしい。

話は、中学受験から一流大学、一流企業への就職というエリートコースまっしぐら、と言う計画を持つ中学2年生の星野優が、突然父親の故郷……田舎へ引っ越し、村立のしかも分校に転校するところから始まる。

エリートコースこそが人生という優が入ったクラスはたった3人。
裏表紙の紹介文が言い得て妙なので、それを。

1.バカ丸出しのサル男
2.いつもマスクの根暗女
3.アイドル並みの美少女(?)

こうしたクラスメイトたちとの学校生活とともに、エリートコースへの道に固執する優の行動がメインとなる。

とてもキャラクターがしっかりしていて、おもしろい。

優はとにかくエリートコースを進むことがすべて、と言ったキャラで、いたらけっこうイヤ~な感じのキャラになりそうだけど、けっこう突き抜けていて逆に潔いくらい。

その他の3人、1の山中、2の宮下、3の一ノ瀬ともに変わった特徴を持つキャラではあるけれど、こちらもきちんと深みのあるキャラクターになっている。

このメインキャラ以外にも、優の母親や祖父、近くの町の不良たちと言ったサブキャラもいい味を出している。

ただ、キャラのことを言えば、中盤以降に出てくる父親の友人である松島とおる、と言うのが薄い。

また、ストーリーもとりたてて特徴があると言うわけではないけれど、そのぶん、安心できる話ではある。
分量そのものも多くはないし、あっさりと読める作品ではある。

ラストもほっとするような感じの話ではあるので、誰にでもオススメしやすいと思う。
文庫で値段も手頃、角川文庫の「発見。夏の100冊」で、たいていの本屋に置いてあるだろうから、入手もしやすい。

買って損はないと思うよ。

結局はこうなるんだろうねぇ

2005-07-23 20:38:53 | ファンタジー(現世界)
さて、久々にカラオケをしたので喉が痛いの第235回は、

タイトル:我が家のお稲荷さま 2
著者:柴村仁
出版社:電撃文庫

であります。

1巻の出来がそれなりによかったので、続きを買ってみた。

結局、電撃ってのは戦ってナンボ、ってのがよくわかる。

1巻は、『日常の中』での戦いが描かれていて、それも適度にあったので、そういう『日常』と(あえて言うなら)『非日常』とのバランスがよく、雰囲気のある作品になっていた。

だが、この2巻は、『非日常の中の日常』程度でしかなく、全体的に戦闘シーンに比重が傾いているため、1巻では作品世界を形作るのにいい役目をしていたものがなくなって、結局没個性気味。

キャラは前作同様、いい感じに出来ているのだが、結局ストーリーよりもキャラクターに頼っている感じが前作よりもする。

ストーリーは、昇、透兄弟が住む町とは違う土地を管理する土地神と、その土地神が持っていて、けれど盗まれてしまった秘宝を巡ってのお話。

話の内容や雰囲気はどうあれ、ストーリー展開としてはそつなく、かな。
繋がりも悪くないし、テンポはいいので、読み進めるのに問題はない。

ただ、クーの男姿がほとんどないのが気になるな。
水着姿だの出てくるし、どうしても、こう、受けを狙うために女姿ばかりにさせられているような邪推をしてしまいたくなる。

風呂上がりのコウのシーンもそうだなぁ。
水着姿のクーや風呂上がりのコウに、きっちりとイラストがついているあたり、まぁ、確実に受け狙いをしているんだろうね。

こういうのもあって、1巻に較べて2巻は総じて評価は低め。
2巻が、1巻でもあったようなこの作家らしい『日常』の雰囲気をそのままにしてくれていればよかったのだけど。

まぁでも、極めて数少ない読めるほうのライトノベルなので、3巻に期待したいところではあるけど。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『我が家のお稲荷さま』のまとめページへ
 ◇ 『ライトノベル一覧表(その1)』へ
 ◆ 『つれづれ総合案内所』へ

似て非なるもの

2005-07-22 01:35:49 | 小説全般
さて、それぞれを足すと9になる第234回は、

タイトル:村田エフェンディ滞土録
著者:梨木香歩
出版社:角川書店

であります。

「家守綺譚」にちょろっと出てきた村田という人物が、考古学を学ぶために留学したトルコでの出来事を記録したもの……と言う体裁で書かれた話。

構成とかも「家守綺譚」に似ていて、短編連作であること、誰かが書いたものであること、同時代であること、タイプの似通った主人公などからも似たような感じ……かもしれないけど、似て非なるもの、表と裏の関係、と言う印象。

ごくごく日本的な、人間にあらざるものを題材にして内向きに収斂していく感じの「家守綺譚」と、様々な文化、宗教、言葉などのバックボーンを異にする人間たちとの関わりを題材にして外向きに広がっていく感じの「村田エフェンディ滞土録」……そんな感じかなぁ。

まぁでも、話そのものは、中盤までは、下宿での人々……イギリス人のディクソン夫人、ドイツ人のオットー、ギリシャ人のディミィトリス、トルコ人のムハンマド……との出来事ややりとり、オットーに連れられて行った発掘現場でのこと、博物館での仕事、お稲荷さまへの粗相で病を得た昔話、アヌビス神への説教など、盛りだくさんだし、くすっと微笑えるところも多々あって、するするっと読めてしまう。

終盤に入ってからはやや重めになるけど、最終章を読むと、相変わらずきっちりと締めてくれるなぁ、と感心してしまうくらい、うまくまとめてくれている。

ただ、舞台がトルコで、馴染みの薄い場所だからか、「家守綺譚」ほど作品世界に入っていけなかった、ってとこはあったなぁ。

あと文章も、「エンジェル エンジェル エンジェル」のときのように、その時代の言葉遣いというのがあって、苦手なひとは少しつらいかも。
私も正直、トルコ=土耳古、ギリシャ=希臘、エジプト=埃及、ユダヤ=埃及、とか、こういうところは、「あれ? 待てよ、これはどう読んだっけ……」とルビが振ってあるところまで戻ることがしばしば……(^^;

まぁでも、慣れればその時代の雰囲気が出てていいんだけど。

さておき、この話を読んでいると、いろいろと思うところはあるんだけど、やっぱりこれに収斂されているのかなぁ、と思う。

「私は人間だ。およそ人間に関わることで、私に無縁な事は一つもない」

この言葉をじっくりと思いながら、もう一度、読んでみるといいかもしれない。

……なんて思ってみたり……。