つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

えぇ! これが!?

2012-07-15 20:38:41 | ファンタジー(現世界)
さて、第1023回は、

タイトル:吸血鬼のおしごと
著者:鈴木鈴
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:'02)

であります。

本を読むのはたいてい帰りの電車の中です。
そして読む速度は、おもしろいかおもしろくないかで顕著に変わってきます。

この作品はと言うと……かな~り読み進めるのに苦労しました。
でもこの作品、第8回電撃ゲーム大賞選考委員奨励賞受賞作なんですねぇ。

さて、そのストーリーはと言うと……

『ところはローマ。神学校に通うレレナは、叔父でもあるガゼット大司教に呼ばれて中央礼拝堂に来ていた。
そこでガゼット大司教から語られたのは、日本行きの言葉。日本人を母に持つハーフであるレレナは日本語がぺらぺらなので選ばれたと言うこともあるのだが、レレナはそこにクルセイダルと言う重要な任務の匂いを感じ取って日本行きを決める。

ところ変わって日本。東京都内にある何の変哲もなく、特徴らしい特徴もないのが特徴のベッドタウン湯ヶ崎町。
そんな町でツキ(黒猫)は、ボスとして君臨しつつも主人である月島亮史を叩き起こすところであった。
月島亮史――職業フリーター、種族吸血鬼。
日光がダメで、にんにくがダメで、十字架がダメで……いわゆるまんま吸血鬼の亮史は、日の出ている日中生活できないため、夜のアルバイトをしながら、血液パックの血を飲み、ついでに普通の人間のようにも食事をしながら、また使い魔のツキとともに何とか平穏に暮らしていた。

そんな亮史が住む廃屋同然の洋館に現れたのは幽霊だった。
顔半分がえぐれてしまったままの状態で現れた幽霊は、「痛い、苦しい」と訴えるが、亮史は幽霊の何たるかを知っていたため、その訴えを取り除くことができた。
……できたのはいいのだが、雪村舞と名乗ったその幽霊は、あろうことか亮史にまとわりつき、亮史の住む洋館にほとんど押しかけ同然で居着いてしまったのだ。

さて、ところ変わらず、湯ヶ崎町の某所。
レレナは目的地である教会を探して迷子になっていた。地図を見て、案内板を見て、場所を特定できたのはいいけれど、そこは空き地で教会などない。
途方に暮れたレレナは、寂しさのあまり、たまたま見つけた黒猫に縋るようにして黒猫を追いかけ――それはツキだったのだが――幽霊に続いて亮史の洋館に転がり込んでしまう。

ツキの忠告も聞かず、舞とレレナを受け入れてしまう亮史。
平穏な生活に珍客が訪れたものの、平穏な日々はそのままだったはずの湯ヶ崎町で事件が起きる。駅の看板に女性のバラバラ死体が杭で打ち付けられると言う残忍な事件だった。
その人間離れした事件の犯人を、亮史は吸血鬼の使い魔が、さらに吸血行為によって行ったために生まれた「亡者」のものと看破するが亡者は人を食らうものと関心を向けない。

しかし、その亡者にレレナがさらわれる事態となって……』

いやぁ、読むのに苦労しました(笑)
ちょうどこの前に読んだ「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」がそれなりにさくさく読めたのに対して、こちらはなかなか読み進めませんでした。
と言うことで、はっきり言って、おもしろくなかったです、はい。
これが最終選考まで残って、奨励賞を受賞したのが不思議なくらいです。
私が下読みさんなら、1次選考自体、通しませんね、これ。

まずストーリーですが、ほぼあらすじのとおりです。
ただ、視点移動が頻繁です。ちゃんと視点移動の際に、段落を区切ってわかりやすくしている点はいいのですが、目的も行動原理も異なるキャラたちの視点移動が頻繁なので、かなり流れを阻害しています。
ストーリー展開も穏やかと言えば聞こえはいいですが、だらだらしているだけで、おもしろみの微片もありません。
終盤でレレナがさらわれたことで、アクションシーンが出てきますが、盛り上がりに欠けますし、表現下手なのでわかりにくいことこの上ありません。
一応今後に続く伏線を張っていますが、こうも漫然とだらだらしたストーリー展開でおもしろみもなければ、いくら伏線を張ったところで興味のわきようがありません。

キャラもまったく魅力を感じません。
表紙折り返しの解説文には「魅力的なキャラクター達が大活躍!」とありますが、このお話のどこに「魅力的」で「大活躍!」と呼べるキャラがいるのか、不思議なくらいです。
あえて挙げるとすれば亮史の使い魔であるツキくらいでしょうか。
と言うか、主人公のはずの亮史がだらしなさすぎて相対的にツキのキャラが際立っているだけ、と言うだけかもしれません。
舞、レレナのヒロイン群にも魅力をまったく感じません。
舞は最初の悲劇的な様子から一変して元気いっぱいのキャラになりますが、ただそれだけですし、レレナもこの一冊だけでは目的も見えず、ただ巻き込まれただけの子でしかありません。
解説文に惹かれて手に取ると完全にバカを見るキャラたちです。

ただ、いい点を挙げるとすれば文章でしょうか。
視点移動が頻繁なのはすでに書きましたが、突然視点が変わることもなく、ちゃんと段落を区切っているので、視点移動で混乱することはあまりありません。
無用な傍点ルビや三点リーダーなどの多用もありませんので、作法自体は比較的まともな部類に入ります。
ですが、最近、作法にはうるさくなくなったので、これがプラス点になるかと言えば、そうとも言えません。
好感は持てますが、それだけですね。
肝心のストーリー、キャラにまったく魅力を感じないのでプラス点としては微々たるものです。

と言うわけで総評ですが、あえて言を加えることもなく、落第決定。
まぁ、まだ第8回で、ゲーム大賞の時代ですし、今のようにレベルの高い作品が多数応募されてきているころではないので、こういう作品が出てくるのも仕方がないのかもしれませんが、ホントにおもしろくありませんでした。
ラノベ以外にも多数読んでて、おもしろくないのは途中で挫折するのがほとんどだったりして、及第評価が多かったのですが、久々に文句なく落第決定なのは久しぶりですね(笑)


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これが走りになるのかな?

2012-07-09 20:25:27 | ファンタジー(現世界)
さて、ふたつの意味で走りだと思うの第1022回は、

タイトル:俺の妹がこんなに可愛いわけがない
著者:伏見つかさ
出版社:アスキー・メディアワークス 電撃文庫(初版:'08)

であります。

ふたつの意味で、というのはいわゆる「妹モノ」の走りではないかと言うことと、やたら長いタイトルが粗製濫造されているうちの走りではないか、と言うこと。
「妹モノ」は、これの人気にあやかってやたらと出始めた印象があるし、読む気も起きないやたら長いタイトルの作品が目につくようになったのも、これが最初ではないかと言う印象がある。

まぁ、それはさておき、アニメ化もされ、二期も決定している本作の第一作。
Wikiによると、著者人生最後の作品とも考えていたらしい作品であって、人気が出てよかったねぇ、と思ってはいるけど、内容は……。

『「普通」な人生でいい。
高坂京介は、特に趣味もなければ特徴らしい特徴もいらない――そんな「普通」で地に足のついた人生で十分だと思っている高校生だった。
家族構成は両親に妹の4人家族。
だが、この妹が京介とは正反対とも言える存在だった。

まだ中学生だが茶髪にピアス、おまけに雑誌のモデルもやるような美人でいわゆるイマドキの女子中学生の高スペック版とも言える妹で、普通なら自慢できる妹……と言いたいところなのだが、京介と妹桐乃との関係は最悪。
ここ数年、まともな会話をしたこともなければ、帰ってきたときの挨拶すら無視される始末。
もっとも、京介自身も別段そういう桐乃とのことはどうでもいいので、スルーしておけばいいだけのこと。

それで日常は過ぎていくのだと思っていたのだが、ある日のこと。
用を足しに向かった先で、出かける途中の桐乃とぶつかってしまい、桐乃のバッグの中身がぶちまけられてしまった。
拾おうとしてもそれを拒絶される始末だが、まぁ、桐乃との関係はこんなもんだと思っていた京介は、桐乃が出かけてしまったあと、玄関で妙なものを拾ってしまう。
それはアニメのDVDのパッケージで、中身は「妹と恋しよっ♪」というタイトルのゲームらしきDVD――。

家族の性格からまったくいったい誰のものか想像もつかない京介は、夕飯時、それとなく話題を振ってみると桐乃の様子が明らかにおかしい。
そこで京介は策を弄してコンビニへ出かけるふりをして桐乃の反応を見ようとしたのだが――見事にビンゴ。
そこには京介が拾ったDVDを探すために京介の部屋を家捜ししている桐乃の姿があったのだ。
明らかに桐乃の持ち物だとわかるのだが、桐乃はDVDの所有を認めない。面倒くさくなった京介は拾ったそれを桐乃に渡してさっさと退散願おうとしたのだが、桐乃の口から出た言葉は「私がこういうのを持っていてもおかしくない?」だった。

人の趣味など千差万別。桐乃がどういう趣味であろうとどうでもいい京介は「いいんじゃないか」と適当に答えてしまったのだが、これがいけなかった。
それをきっかけに、桐乃は「人生相談」という名目で京介を巻き込んでいく……。』

さて……個人的な好みの問題は置いといて、ストーリーの流れはいいと思う。
ストーリーは、京介が桐乃の秘密(オタク趣味で妹萌え)を知り、それに協力するハメになる、と言う巻き込まれ型のストーリー展開となっているが、幼馴染みの麻奈実のアドバイスをもらって、同じ趣味のSNSに入ったり、オフ会の観察を強制されたりしながら、最後には文字通りラスボスである親父との戦いを経て、「何故か」不仲の妹のために奮闘する、と言う内容。
まぁ、その「何故か」というのもわからないでもないので、京介の行動には無理はないのであろう。
私には妹がいないので、文中で同意を求められても何とも言えないが、理解はできるし、そういったところに無理がないので流れが悪くなることはない。

文章は京介の一人称で、やや好みが分かれそうな気はしないでもないが、途中で視点が変わることもなく、京介の語りで一貫しているところは好印象。
オフ会なども女性限定という縛りがあるにもかかわらず、いきなりひとりで行くのはと言う理由で観察者にされて、京介視点で描いているなど、卒がない。
無駄な傍点ルビや三点リーダーの多用などもあまり見受けられないので、文章の作法としてはきちんと一人称の作法を守って書いてくれているので文章面での評価は高い。

で、おもしろいかと言われれば、個人的には「普通」
キャラ萌えをあまりしないタイプなので、どのキャラがいいとかそういうところはない。
たぶん、キャラ萌えする人には作中徹底的にツンを貫いた桐乃が最後の最後でデレてくれたりするところにグッと来たりするのかもしれないが、あいにくとそういうのに萌えないタイプなのでデレてくれたところで何の感慨もない。
まぁ、ラストにタイトルと合わせて終わらせているのはうまく書いたな、と言う印象ではあるけれど。

と言うわけで、総評ではあるが、ラノベ点も加えて、良品としておこうか。
ストーリー展開、流れ、キャラ、文章ともに悪いところが見当たらないので、個人的におもしろかったかどうかは別にして、よくできた作品とは言えるだろう。
あとは読む人の好みの問題だと言えよう。
手放しでオススメはしないが、出来はいいので読んでみて損はない作品と言えるだろうね。

と言うわけで、総評、良品。
しかし個人的に2巻以降読むかは微妙なところ。アニメ見て、だいたいの話はわかってるってのもあるかもしれないけど、個人的にすごいおもしろかった、とは思ってないのでね。
ただ、著者にはホントによかったね、と言ってあげたい。
これが最後のつもりで書いたらしいのだから、人気も出て、続きも出て、アニメにもなって……作家を廃業しなくてすんだんだし、ね。


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匂いってわかりますか?

2012-07-02 20:41:15 | ファンタジー(現世界)
さて、ラノベばっかですいませんの第1021回は、

タイトル:ストライク・ザ・ブラッド1 聖者の右腕
著者:三雲岳斗
出版社:アスキー・メディアワークス 電撃文庫(初版:'11)

であります。

雰囲気とか、そういうのと似た感じで時折、匂いを感じることがある。
今回のは巻頭にあるカラーイラストと、そこに紹介されている文章を見て、「とある魔術の禁書目録」に似た匂いを感じて、初っぱなからかなりげんなりした。

とは言え、ストーリーまで似た匂いを感じるわけではないので、読み進めてはみたけれど……。

さて、ストーリーは、

『見習いの剣巫である姫柊雪菜は、所属する獅子王機関の長老である三聖に呼び出されていた。
そこで簡単な実力を試され、三聖の意図するところがわからない雪菜は、わけがわからないまま、第四真祖の存在を知らされる。

「一切の血族同胞を持たない、唯一孤高にして最強の吸血鬼」――それが第四真祖だった。
だが、他の真祖とは異なるその存在は、名前は知られていながらも都市伝説の類だと思っていた雪菜は、しかし三聖から第四真祖が実在することを教えられ、一枚の写真を見せられる。
そこに写っていたのは暁古城という男子高校生のもので、ごくふつうの高校生にしか見えない。
だが、その暁古城が第四真祖であり、雪菜はその監視役――場合によっては抹殺することを命じられる。

一方、自分の生活の裏でそんなことがあったことなと露知らぬ古城は、ファミレスの一角で友人の藍羽浅葱と矢瀬基樹とともに追試の勉強をしていた。
欠席がちで試験にも来ていなかった古城にとって追試は仕方がないのだが、夏休みも終わり間近、九教科の追試に体育のハーフマラソンの追試が待っているとなればやる気も起きない。
しかし、それでも時間は無情に過ぎていく。

勉強を教えてもらっている浅葱は、バイトがあると席を立ち、ちゃっかりと隣で浅葱の宿題を移していた基樹も用が済んだとばかりに帰って行ってしまう。
勉強を教えてもらう浅葱がいなければ、これ以上ファミレスにいても仕方がないので、古城もファミレスを後にしようとしたとき、古城は夕陽を背にしたギターケースを持った少女を見かける。
その少女こそ、姫柊雪菜――古城と雪菜の運命の邂逅だった。』

表紙の返しにある作品紹介には「学園アクションファンタジー」とあるけれど、まんまだね。
良くも悪くも普通の学園アクションファンタジーで目立った特徴もなければ、変わった設定とかもない。
設定については、最初に書いたとおり、「とある魔術の禁書目録」の匂いがするのだが、まぁ、これは後述。

ストーリーは古城の監視役に選ばれた雪菜が、あらすじのとおり接触し、ついでに古城の住むマンションの隣にまで引っ越してくると言う徹底ぶりで監視を続ける中、吸血鬼や獣人などの魔族が襲われる事件が発生し、それに首を突っ込むことになった雪菜と古城が、事件の首謀者であるオイスタッハと戦うハメになり、そしてオイスタッハの真の目的を知り、それをふたりで阻止することになる、と言うもの。
ストーリー自体はまぁまぁまとまっているほうかな。
言葉にできない違和感があるのだが、これは分析型の相方なんかが読むとしっかり説明してくれそうなのだが、感性派の私にはちょいと無理。
まぁ、ややマイナスの要素にはなるものの、そこまで気にするほどでもないのでラノベとしては許容範囲としておこう。

キャラも悪くはない。
特に性格や個性、行動原理に問題があるわけではないので、キャラ立ちはしているほうだろう。
ただ、これと言って目立つキャラがいるわけでもなく、ここでも普通さ加減が際立っているのだが……。

文章については、最初、無意味な傍点ルビがあって、これがまた続くのかと思ってげんなりしたものだが、これは最初だけでその後は三点リーダーの多用も少なく、ラノベとしては作法を逸脱しない比較的まともな文章だと言える。
相方がかなりボロクソに言っていたので、どうかと思っていたが、ストーリー、キャラ、文章ともにまともでこれはかなり意外ではあった。

マイナス面も少なく、良くも悪くも普通であることを除けば、悪いところが見当たらなさそうなラノベなのだが、上述のとおり、禁書臭が漂うのが難点だろうか。
邪推と言えばそれまでだが、その邪推をあくまでするとすれば、たとえば、

舞台となる魔族も生活する人口浮島「絃神市」。魔族も生活を保障され、その魔族の研究を行う研究機関や企業が集う街→禁書目録で言う「学園都市」
超人的な肉体を誇る獣人や吸血鬼など→能力者
獅子王機関→統括理事会
オイスタッハと言った祓魔師→まんま禁書に出てくる魔術師
同じくオイスタッハが装備する肉体強化などを行う装備→禁書目録で出てくる霊装

など、禁書目録の設定をアレンジしただけのものにしか見えない設定が多数出てくる。
キャラも終章で基樹が古城を監視する本来のスパイであることなど、友人でありながらスパイであると言うところなどは禁書目録の土御門に似たところがある。
気にしなければいいじゃないかと言う向きもあるかもしれないが、禁書目録を読んだことがある人ならば――ラノベではかなり人気のあるシリーズなのでラノベ好きなら読んだことない人のほうが少ないのでないかと思うが――やはり、この設定に似た匂いを感じる人は多いのではないだろうか。

完全なオリジナルを作ることは到底無理なので、何かしらの作品に似た部分が出てしまうのは仕方がないとは言え、ここまで似た匂いを振りまいていると、二番煎じという感が拭えない。

と言うわけで、それなりに悪い点はないながらも、この禁書目録臭がしてしまうと言う点がマイナスになって落第と言ったところだろうか。
もっとも、これがなくても普通の学園アクションファンタジーなので、及第以上の評価をすることはできないのだが……。


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