つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

少なくともナイーヴではない

2005-06-30 05:15:44 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、女性が描く青年漫画な第212回は、

タイトル:ナイーヴ(1)(2)(3)
著者:二宮 ひかる
出版社:白泉社

であります。

扇:乱読上等とブチ上げた割には無難なとこばかり狙ってるSENで~す!

鈴:そろそろマイナーなのもあげときたいと思ったLINNでーす。

扇:相変わらず半角だな、LINN君。

鈴:きみこそ、相変わらず全角だな、SEN君。

扇:で、ナイーヴなわけですが……。
俗に言う、オフィス・ラブを描いた話です。
もちろん、現実にやって後悔しても誰も責任取りません。

鈴:別に不倫ネタのマンガじゃないんだからよ……。

扇:でも休日出勤して、エレベーターで×××はヤヴァイのではないか?

鈴:まぁ、いいんじゃないの?
だいたい第1話から主人公のひとりの田崎さん、ヒロインの麻衣子を呼び出してラ○ホテル行きなんだし、第1巻なんかほとんど……だし、いいんでない?

扇:まぁ……意味なく裸描いてりゃいいやって漫画ではなくて、二人の関係を表す重要なファクターとして×××を使っているので良いのだがね。描写もかなりさっぱりしてるし。

鈴:さっぱりと言うか、いやらしさはないよね、このひとの描写。

扇:絵柄も小綺麗だしね。
男女合わせて顔のバリエーションが四種類ぐらいしかないのは言わないでおこう。
あと……主人公キャラは基本的に全部同じ。皆、割と古い感じの軟弱男(笑)。

鈴:それを言うなら女性キャラもほとんど似たような性格のキャラではあるが(笑)
じゃぁ、恒例のキャラ紹介にいっとくか。

扇:では主人公の田崎淳。
派遣でやってきた麻衣子に初日でいきなりコナかけるも、名前を間違えた阿呆。
しかしその後すぐに、この女とは×××できると解った嗅覚は凄いのかも知れない。
自分が常識人だと確信している節があるが、小狡くなれないため損するタイプ。
たまに飛ばす下ネタ、セクハラ発言のキレはむしろ女性の猥談に近いものがある。
終始、田崎さんと呼ばれていたので、名前が思い出せなかった(笑)。

鈴:ではヒロインの藤沢麻衣子。
第1話で田崎の呼び出しに応えるところが軽そうな感じはするが、妙な信念みたいなもので行動するひと。
かなり天然な気はするけど、田崎を手玉に取っているあたり、女性らしい気はしないでもない。

扇:短っ!
ところどころで謎の発言が出てくる、ある意味不思議ちゃん。
×××の後で、田崎が食事に誘ったら、知らない人と食事するのは苦手だと言うし。
(つーか、×××ならいいのか、×××なら!)
その日の晩のお出かけについて田崎がダダこねたら、オヤジみたい――とのたまう。
(いや、そこはどう考えてもガキだろ)
変なキャラです、そこに田崎はハマったのだが……。

鈴:はまるところが微妙におかしいよな、田崎。
まぁでも、わからんでもないが……(爆)

扇:わからんでもないのかよ、オイ。
確かに、解らんでもないのだが……。(爆爆)

鈴:お互いそれかいっ!
まぁでも、このひとの描く女性キャラって、何のかんの言ってかわいいんだよなぁ、いろんな意味で。

扇:可愛いだけに見えて、それぞれタイプの違うしたたかさはあったりするな。
女性が描いてるだけあって、ただのお人形さんはいなかった気はする。
ま、この漫画最強は麻衣子の同僚の林ちゃんということで。(笑)

鈴:まぁ、林ちゃんにかかれば麻衣子も恋愛初心者みたいなもんだし(笑)

扇:というか、麻衣子は肌合わせた回数はやたら多いが、恋愛経験値はかな~り低かった気がするんだが? 田崎も、「この女……ウブなフリをしてる訳じゃない、本当に何も解ってないんだっ」って言ってたしなぁ。

鈴:だが、そういうのがまた人気があるのじゃないかいな?
二宮キャラの中ではかなり人気の高いほうだと思うぞ。

扇:そうだな、私もこの娘は好きだ。
とりあえず、「結婚しないか?」って聞かれたらニッコリ笑って、
「死んでも、嫌」
だな。あの台詞は良い(笑)。

鈴:あぁ、よいな。
あのはっきりと、しかもにっこりと、ぜんっぜん悪気もなさそうな顔が笑えてよい。
でもなんか、このひとの作品は、妙にこういうよいと思えるところがあったりするな、他のマンガでも。

扇:「素直に笑って、はい、とか言ってりゃいいのに」とボヤく田崎に妙にリアリティを感じてしまうところがまた良い。(笑)
キャラクターの性格からすると田崎が麻衣子を引っ張ってくように思えるのですが、その実、振り回されているのは彼の方だったりします。
結婚話の他に、二股騒動やら、麻衣子の家庭の事情などのエピソードがあり、最後まで割と破綻なく読めます。

鈴:振り回される、というより、田崎の独り相撲で麻衣子のほうはぜんぜん何も変わってないんだけど~(笑)
破綻と言うより、麻衣子のキャラは不思議ちゃんだけど、けっこうふつうに、流れていくからねぇ、話は。

扇:ストーリーのキーは、田崎の「マズい……オレたぶんこの女にハマる……」と麻衣子の「私みたいなのが売り惜しみしても仕方ないでしょ?」です、多分。
最後までこれが引っかかって、話がこじれる。

鈴:まぁでも、こじれてると思ってるのは本人たちだけで、周りはそう思ってないのがまたおもしろいのだけど(笑)
でも、だいたい二宮の話はこういうタイプの話が多いね。

扇:短編はどうしても話がかぶっちゃってる感じがあるので何とも言い難いですが、これは三巻で綺麗にまとまってるので割とオススメです。
ところで、タイトルのナイーヴって誰よ? と考えつつ、さようなら~。

鈴:いちおう、ラストにふたりして臆病者だと言ってるから、ふたりなんだろう。
はい? と言う気はしないでもないけど~(爆)
と言うわけで、この辺で。
さいなら、さいならっ、……さいならっっ



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古イ事、記ス

2005-06-29 15:26:25 | 学術書/新書
さて、遠い昔の物語な第211回は、

タイトル:古事記の世界
著者:川副武胤
出版社:教育社

であります。

古事記、と言えば?
クマソを暗殺したヤマトタケル?
ヤマタノオロチを退治したスサノオ?
ちょっとマイナー所で岩戸の前で踊ったアメノウズメ?

古事記は――その編纂意図は置いといて――楽しい物語です。
八百万(やおよろず)というほどではありませんが、これでもかと神々が登場し、アイディア満載のエピソードを披露してくれます。

本書は、古事記の成立過程、編纂者の意図、時代背景などの歴史的考察から、他の神話との比較、神名の変遷、異なる神同士に存在する類似性などの神話的考察まで、総合的な視点で古事記を語る好著です。

各エピソード、特に神代の解説は非常に面白く、何を元にして、もしくは何を意図してその話が書かれたのかがよく解るようになっています。
もちろん一意見であって、これを鵜呑みにして古事記を語る必要はありませんが、自分が読み解く時の参考とするにはかなり便利。

じっくり読んでいると、古事記の物語作法は現代でも生きていることが解ります。
死んだキャラクターと似たキャラクターが出てきて前の奴の穴埋めをするとか。
味方側と敵側にシンメトリーになるようにキャラクターを配置するとか。
劣勢の時に、颯爽と新キャラが現れていいとこ持って行くとか。(笑)

原書もそうなんですけど、ヤマトタケルが死ぬとこまでなら楽しく読めます。
それ以降は……神話だけ楽しみたい人にはちょっとキツイかも。

蛇足ですが、本書は私が卒論で参考にした本の中の一冊です。
久々に開いてみたら、ドッグイヤーとアンダーラインの嵐
普通はこんなことしないんだが……。

時間銀行の者ではない

2005-06-28 12:55:46 | SF(海外)
さて、時間の解釈って難しいよなと思う第210回は、

タイトル:時間泥棒
著者:ジェイムズ・P・ホーガン
文庫名:創元SF文庫

であります。

この人、読むの初めてです。
噂に名高い、『星を継ぐもの』すら読んでおりません。
同名の全然内容の違う漫画は結構好きだったけど)

ニューヨークのあちこちで奇妙な事件が起こっていた。
時計が遅れていくのだ、場所によってまちまちに。
そんな中、国立科学アカデミーの理論物理学者の一人グラウスが珍妙な説をぶち上げた、「別次元の生物がこの次元の時間を盗んでいる!」

普通なら、「寝言は奥方の耳元で言ってくれ」で終わりだがそれで済む筈もない。
こともあろうに、上層部はこの理論に基づいて、時間喪失を刑事事件と断定した。
刑事コペクスキーとパートナーのディーナは、犯人や証拠はおろか事件そのものがあやふやなヤマの捜査に赴くハメになる。

心霊学者、哲学者、宗教家などなど、様々な人物を訪問する二人。
そのうちに、時間のズレが場所によって大きく異なっていることが判明する。
果たして、二人は実在すらも怪しい『時間泥棒』を捕まえることができるのか? そもそも事件として立証できるのか?(笑)

いい意味でも悪い意味でも小品といった感じ。
時間というものの解釈、アイディアは面白いです。
ただ、事件の真相と解決方法は……うーむ。

大ハズレではないけど、ビッグヒットではない地味な作品。
あと、私だけかも知れないけど妙にテンポが悪く、読みづらかったかな。
文章中に出てくるコペクスキーのおしゃべりは割と面白いです。
以下は相棒のディーナの服装を評した一文。

『茶のレザーのウォーキングシューズは品質もいいし、仕事の上でも実用的だし、冬のニューヨークにはまことに適切だが――四十五歳以下の女性がこんなものを履くのは社会通念に対する挑戦と見なして禁止すべきだろう』

やはりピンヒールでしょう。(笑)



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行こ、行こ

2005-06-27 12:55:45 | ファンタジー(異世界)
さて、ちょっと乗り遅れた気がしないでもない第209回は、

タイトル:ICO―霧の城―
著者:宮部みゆき
出版社:講談社

であります。

同名のアクション・ゲーム『ICO』のノベライズです。
ゲームにハマってから読んだので、ちょっと(かなり)先入観があるかも。

その村には一つのしきたりがあった。
角の生えた子供を生贄として海の上の城に捧げるという。
今年の生贄の名はイコ――村でただ一人、角を生やした子供。

13歳の誕生日、イコは神官達に連れられて城へと向かう。
城の中、立ち並ぶ石棺の一つに閉じこめられてしまうイコ。
偶然に助けられて石棺から出たイコは城内をさまよい歩く。

人気のない廃墟の城。
そこでイコは檻に入れられた少女と出会う。
言葉の通じない二人は手をつないで外界を目指すが……。

上記のストーリーは小説、ゲーム共通です。
イコの年齢、しきたり等についてゲーム本編では語られませんが、取扱説明書にあらすじが記載されており、ある程度の情報が得られます。

話を戻して、本書は500頁強、四章構成の長編ファンタジーです。
各章の色がかなり違うので、一章ずつ解説していくことにします。

『すべては神官殿の申されるまま』……一章です。
内容はほぼ作者のオリジナルで、ゲームのストーリーになかった、イコが村を出発するまでの過程と霧の城の伝説についての解説がメイン。
イコ、その育ての親である村長夫婦、友人でオリジナルキャラのトトの葛藤、悲哀、憤り等の心情が丁寧に描かれています。

本書で一番出来のいい章で、イコが選ばれた戦士だったりとか、伝説の書が出てきたりとか元のゲームを知っている身として小説独自の設定に引っかかる部分があったものの、良くまとまっており、次章に期待して一気に読めました。ここだけならオススメ。

『霧の城』……二章です。
ゲームの序盤~中盤に当たる部分で、イコと少女が城のあちこちを巡り、外界に通じる正門までたどり着くも、そこで強力な妨害者と遭遇するまでを描きます。
城に登場する物言わぬオブジェクトに作者なりの解釈が加えられているのが特徴……なんだけど、その見せ方がひどい。

ゲームにない要素として、イコが少女と手をつなぐと彼女の記憶がフラッシュバックするというのがあるのですが、これが余りにも多い。
元のゲームが解説を極力排して、美しい景色を自分なりに解釈して楽しむものだっただけに、これはもう最悪としか言いようがありません。
せめて、イコが観察しつつ想像する描写でとどめて欲しかったところです。
記憶の中で解説されるのでは想像の余地がないので、ファンタジーとして見ても劣悪。

さらに言えば、ゲームをやっていないと城の構造がよく解りません。
描写は細かいのですが、それがかえって読者を混乱させていると思います。
ゲームやった人、やってない人、どちらにも勧められない最低の章です。

『ヨルダ――時の娘』……三章です。
完全オリジナルの話で、イコが霧の城で出会った少女ヨルダの過去を描いており、本書の三分の一近くを占めています(笑)。
はっきり言って作者はこの章を書くのが目的だったんじゃないか? と思えるぐらい気合いが入った章……というか独立した短編。

過去の霧の城を舞台にヨルダの視点で話は進みます。
彼女と城主の確執、放浪の騎士オズマとの出会い、武闘大会、など様々な出来事が展開し、この世界の輪郭がおぼろげながらに見えて来る。
凄い! という程ではありませんが、ゲームと切り離して普通のファンタジーとして見れば悪くない出来だと思います。

ゲームのヨルダについてちょっと触れておくと、彼女のモチーフは鳥です。
最初に入れられていた檻は高い天井からぶら下がっており、モロに鳥籠。
道中で鳥が出てくるのですが、ほっとくと彼女は一緒に付いて行ってしまいます。
透き通る真っ白な衣装も、鳥の翼を思わせます。

『対決の刻』……四章です。
ここは敢えて詳しく触れません。
今までの複線を統合し、過去と現在を知ったイコが城主に挑みます。

で、全体的な感想を言うと。

駄目だこりゃ

ですね。

詳しく語られないとは言え、ゲームには美しいストーリーが存在します。
寂れた城の中で右も左も解らないイコが、同じように捕らわれた少女に出会う。
イコだけでも、ヨルダだけでも城から出ることはできません。

生贄の少年と籠の鳥の少女。
言葉の通じない二人にとっては、つないだ手だけが唯一の絆。
そしてその絆を断たれた時、イコはたった一人で巨大な敵に立ち向かうのです。

最後の戦いでは角折られちゃったりするのですよ。
血がどくどく流れるのを見た日にゃ、もうボルテージ全開。

この城主、絶対殺す!

と画面に向かって吠えたのは私だけじゃない筈。

ところが、この小説版ではイコの闘う背景がすり替えられてます。
詳しく書かないけど、過去からの因縁みたいな、伝説の再来みたいな。

ふざけるな

で、切り捨て御免ですな。

ゲームを知らない人には楽しめる……かな?
ただ、1890円の値段に見合ってるかはちょっと言いかねる。

とても安心できるファンタジー

2005-06-26 15:07:25 | マンガ(少女漫画)
さて、煩悩記念回から100回目の第208回は、

タイトル:妖精国(アルフヘイム)の騎士(単行本1~50巻、文庫1~23巻:以下続刊)
著者:中山星香
出版社:秋田書店(単行本:プリンセスコミックス、文庫:秋田文庫)

であります。

けっこう有名なマンガだろうとは思ってて、ちょうど文庫版が出始めたのを機に、買い続けている。

日本的な何でもありのファンタジーではなく、いわゆる剣と魔法の世界、と言う意味でのファンタジーってのを言うなら、これはかなりその手の正統派のファンタジーと言えるかもしれない。

滅びたアルトディアスの双子の兄妹、ローゼリィとローラント、敵である大国グラーンの王子でもあるアーサーの3人が主人公。
しかもそれぞれがいわゆる魔法の剣であるルシリス、シルヴァン、ソレスの所有者として、敵国グラーンとの戦い、冥府(ニブルヘム)の闇の魔物たちとの戦いを描いたもの。

もちろん、不老不死としてのエルフや精霊たち、神々と言った存在もいて、上記の意味でのファンタジーの要素はもれなく盛り込まれている。

ストーリーは、ローゼリィ王女、ローラント王子の子供時代から始まり、アルトディアスの崩壊、エルフに育てられるローゼリィ、復讐のために潜入したロリマーでのアーサーとの出会いなどを経て、グラーンや闇の者たちとの戦いへと進んでいく。

物語の進み方としては、特にインパクトのある展開とか、いい意味での裏切りみたいなのはなく、基本的にお約束で安心できる。

主役3人のうち、ローゼリィが中心キャラだけど、それ以外のエピソードもふんだんに入っているし、他の準主役級のキャラが大勢いるわりには、それなりにキャラの描き分けもしっかりしているほうだと思う。

ただ、やはり少女マンガだけに、ローゼリィとアーサーのラブラブっぷりは、耐えられないひとには耐えられないだろうなぁ。
私は比較的免疫のあるほうだけど、それでもさぶいぼなところが随所にあったりするので(笑)

あとは絵柄が受け付けられるかってのはあるとは思うけど、この2点をクリアできるなら読んでみてもいいと思う。

最近の、ファンタジー風としか言いようのない何でもありのファンタジーが蔓延しているライトノベルやマンガの中では、逆に数少ないほうになっているかもしれないので、何でもありに食傷気味の方にはよいでしょう。

ただ、単行本は50巻だし、文庫も23巻と、すでにだいぶ数が出ているので、全部揃えるのはちとつらいかも。
文庫だと1冊600円~700円程度だから、1冊700円と高いほうを取って23巻で16100円。
単行本でも1冊400円くらいとしても50巻で20000円。

……がんばって集めましょう(笑)



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久々に飲み込まれた

2005-06-25 18:38:16 | 小説全般
さて、「りかさん」の次はやはりこれでしょうの第207回は、

タイトル:からくりからくさ
著者:梨木香歩
出版社:新潮文庫

であります。

まず、お断りを。
今回は、書評と言うよりは感想と言ったほうがいいかもしれないので、あしからずご了承くださいませ。

さて、私は読んでいるときにはだいたい考えていると言うより、作品世界の中に浸って読んでいるので、読みながら考えることはあまりしない。
とても感覚的にストーリーやキャラが頭の中で進んで動いてくれるわけだけど、だから、ときどき、あまりにも感覚が作品世界に深く入りすぎてしまうときがある。

この作品は、かなり久しぶりにその傾向が強すぎた。

話は、「りかさん」の主人公であった蓉子が、大好きだったおばあちゃんが亡くなってから。

染織工房の外弟子として生活している蓉子は、おばあちゃんの家で、紀久、与希子、マーガレットという同年代の女性たちと同居生活を始める。

始めは蓉子たち4人の生活のことで、その中心にはなぜかまったく話さない、けれど存在感が際立っている「りかさん」がいた。
そうした生活の中から、最初は小さな謎みたいなものだった。

それは、いま思うと一枚の紬のような感じかもしれない。
それからりかさんを作ったと言う澄月という人形師のことや、お蔦さんという奥女中のことがまた1枚。
与希子や紀久の祖先の話がまた1枚。
4人の生活の中での神崎と言う男性を縁にした紀久とマーガレットの話。
唐草模様。
蛇と竜。
連続。
与希子の父の死とマーガレットの出産。

……など。

他にもいろんな要素があるのだけど、読み進めるごとに、何枚も何枚も折り重なって、だんだん重厚さを増してくる作品世界にどっぷりと沈み込んでいく感じ。

ここまで来ると、もう読み終わるまで抜け出せないので読む。
けど、この話は4人の女性の生々しいくらいの心理描写や姿が描かれているので、蓉子が本来使わない媒染剤で染織し、それを織っていく紀久の姿のところなんかは、かなり痛かった。

だいたい、この感覚になると数日間はこれを引きずってしまうので、ラストはかなり重要。

蓉子、紀久、与希子のりかさんを中心にした合作、燃えていく作品、与希子の父の死、マーガレットの出産……そして最後の小さなりかさんの軽やかな笑い声。

幾重にも折り重なったものが、ふわっと軽くなるような感じがして、やっぱりこのひとのラストは心地よい。

と、ひとしきり、感覚的なことを言っておいて、と……。
結局のところ、おもしろいのかと言われれば、とてもおもしろかったのであります(笑)

でも、この作品、かなり重い作品で、思うに、「西の魔女が死んだ」のような雰囲気の作品がすごい好き、っていうひとには、かなりつらいと思う。

ぜんぜん作品世界が違うし、ああいう優しい雰囲気に包まれた話ではないし、どうやら賛否両論あるみたい。
「西の魔女が死んだ」は好きだけど、私は「賛」のほうだなぁ。

理解力がないので、1回や2回読んだくらいじゃ、まだまだ自分の言葉でこうと言えるくらいにはなっていないけど……。

なので、また読み返して、何かわかったような感じになったら、また書こうっと。
(いっぺんやっといてまたかい、と言う苦情は受け付けません(笑))


☆クロスレビュー!☆
この記事はLINNが書いたものです。
SENの書いた同書のレビューはこちら

時系列でこの順番

2005-06-24 17:32:31 | 小説全般
さて、ファンタジーが少ないとぼやいたのにの第206回は、

タイトル:りかさん
著者:梨木香歩
出版社:新潮文庫

であります。

時系列、と言うとどうやら出版された時期は第207回に予定している「からくりからくさ」のほうが先に出版されたらしいのだけど、物語の時期としてはこちらが先になるので、と言うこと。

話のメインキャラは、「ようこ」と言う女の子と市松人形の「りかさん」、そして「おばあちゃん」
主人公の女の子とおばあちゃん、と言う構図は「西の魔女が死んだ」と似通った雰囲気に見えてしまうけど、印象としては、このりかさんのおばあちゃんのほうが謎めいた感じがやや強い、かな。
「西の魔女が死んだ」のおばあちゃんは「魔女」と言っているので、そういうイメージがついてしまった感じがあったから。

さて、話はと言うと、「リカちゃん人形」が欲しいようこがおばあちゃんに「リカちゃん人形」をねだったところから。
でも、請け負ってくれたおばあちゃんが送ってきてくれたのは「りかさん」と言う市松人形。

当然がっかりするようこは、けれどだんだん好きになって、そしてりかさんが来てから七日目の夜、りかさんはようこに話しかける……。

そこからようこの不思議な体験が始まり、その中で様々なことを知り、感じていく。

話の中でようことりかさんは常に一緒に行動するわけだけど、このりかさんのキャラクターがとてもいい。
照れたりするところにかわいらしさがあったり、どこか老成した泰然としたところがあったり、いろんな面が見えて、とても魅力的なキャラクターになっている。

体裁としては「養子冠の巻」と「アビゲイルの巻」の2本から成り立っている。

「養子冠の巻」は、ようこの家、友達の登美子ちゃんの家の雛飾り、それと一緒に出されていたいろんな人形の話を中心に語られている。
次の「アビゲイルの巻」につながる要素を散りばめつつ、タイトルにちなんだ組み立てとラストのようこ、りかさん、おばあちゃんの会話のシーンへ落ち着いていく。

ラストのようこのセリフがまた、3人と一緒に笑ってしまうくらいうまい。

「アビゲイルの巻」は、こちらはちょっと切なくなるような感じの話、かなぁ。
「養子冠の巻」の中で登美子ちゃんの家からついてきたと思われる幽霊らしき少女……背守の君と、アビゲイルという親善大使を勤めた西洋人形、そしてそれをずっと守ってきた汐汲と言う人形を主体に話が進んでいく。

やはりこちらもラストに至る3人のシーンがとても雰囲気がよくていい。
切ない雰囲気を吹き飛ばすのではなく、そっと優しく包み込んで中和していくような、3人のやりとりがあって、そして最後のりかさんの言葉が、いろんな気持ちをさっと宥めてくれるような感じがして秀逸。

と、ここでとりあえず、「りかさん」本編は終わり、文庫版では「りかさん」の後の話であり、「からくりからくさ」の後日談でもある短編「ミケルの庭」が書き下ろされている。

初っぱなから、本編との雰囲気や文章の違いに戸惑った。
「からくりからくさ」の延長線上にある話なので、「からくりからくさ」を読んでないといまいち飲み込めないところがある。

「りかさん」の主人公であるようこ=蓉子と、おなじ家……蓉子の亡くなったおばあちゃんの家に一緒に住んでいる紀久、与希子、そして中国へ留学してしまった同居人マーガレットの子供であるミケルの4人の話で、紀久のミケルに対する愛情と、燻っていた憎悪がうまく描かれている。

と言っても、「からくりからくさ」を読んでから納得、ではある。
なので、この短編はあとに残しておいて「からくりからくさ」を読んでからのほうがいいかもしれない。

と言うか、読んだあとにまたこれを読み返したときのほうが紀久の姿がとてもリアリティを持って迫ってくる感じがしたな。

女神さまでGO!

2005-06-23 16:29:09 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、少し前に記念した気がしないでもないの第205回は、

タイトル:ああっ女神さまっ(1~30巻:以下続刊)
著者:藤島康介
出版社:講談社アフターヌーンKC

であります。

鈴:どっかのマンガの沙織って女性キャラも女神だった気がするLINNでーす。

扇:日本って異国の女神の出現率高いな~とかツッコンでみるSENで~す。

鈴:そりゃぁ日本人って取り込んで自分のものにするのが得意だからな。
女神転生と言ういい模範があるし~(笑)
さて、おそらく本読みさんには、一度くらいは聞いたことがあるはずのマンガであります。

扇:加工してオリジナルのデザインに変えたりするのは日本の御家芸だな。
この漫画の場合、北欧神話が一応モチーフになっています。

鈴:確かに、一応だな。
そのうち、北欧神話ではない女神までたくさん出てくるし~。
さて、本書の特徴はこれに尽きるでしょう。
男が考える理想的な女性像です。

扇:いきなり直接表現だな。
確かに男に都合のいいタイプにビジュアルのせた漫画の典型ではある。

鈴:思いっきりファンに喧嘩売ってるな。
まったく否定せんが。
じゃぁ、いつものキャラ紹介、行っとくか。

扇:森里蛍一、猫実工大の自動車部に所属する普通の青年。
気弱、奥手、優柔不断と三拍子揃った見事な主人公。
一巻でいきなり出現した女神に向かってずっと側にいて欲しいと告白した、適応能力だけはずば抜けて凄い方。

鈴:確かにずば抜けているなぁ。
次にヴェルダンディ。蛍一のところへ願いをかなえにやってきた女神。
側にいてほしいという願いのために現代にいることになったのだが、これがまた結局蛍一に惚れる。
ちなみに、美人で、料理上手で、優しくて、歌がうまくて……これでもか! と言うくらいあり得ないキャラ。

扇:ありえねーというか人格疑うな、女神だからなのかも知れんが。
次に最強の女神ウルド。
ヴェルダンディーの姉で気分屋、破天荒、チラリズム担当な凄い方。
基本的にトラブルメーカーだが、要所要所で姉らしいところを見せる。

鈴:と言うか、ほんとうにお姉さんだな。このひとがいないとまとまらなかった話はいくらでもあるし。
さて、最後の3姉妹の末っ子スクルド。
癇癪持ちのわがまま娘。
ヴェルダンディが大好きでウルドが嫌いで機械マニアなお子様。
なぜか、このマンガの中でいちばん人気のある女神である。
なんでこんなのが一番人気なのか、まったく、これっぽっちも、
理解できない。

扇:それだけ、世の中にロリコンが多いってことだな。
しかし、今日のキャラ紹介は凄いな、色んな意味で(笑)。

鈴:確かに、すごい。
ストーリーに行くと、基本的にはそれぞれのキャラが主体になった短編のまとまり。
ただし、作者の趣味全開なので、わかりにくいことこの上ない。
と言うか、作者の趣味の塊以外の何者でもない。
そもそも、なぜ蛍一がBMWのバイクなのか、妹の恵が峠のクイーンと呼ばれているのか、なぜレース用のサイドカーが出てくるのか、など、バイクマニアの煩悩全開。

扇:もちろんそれだけでこれだけ続く筈もないので、蛍一とヴェルダンディーの異様に歩みののろい恋話、他の女性キャラが蛍一に胸キュン(死語)な話、神界のドタバタなどが間に挿入されている。

鈴:短編の集まりなので、いろんなのを作ってはいるな。
しかし、蛍一の周りの女神より、妹とか、自動車部の先輩とかのほうが、遙かにおもしろく、いいキャラなのは言ってはいけないことなのだろうか。

扇:読者の愛は別として、作者の愛はあっちの方に行ってる気がするな。とりあえず、「蛍ちゃん、ひょっとして不能?」と言った時点で妹の方が遥かに上手だ。

鈴:そうだな。妹のほうがよほどか大人だ。

扇:ところで、こんな風に散々言っときながらOVA買ったの誰でしたっけ?

鈴:私だ。……つか、最初はレンタルだ。
まぁでも、本編よりもビデオのほうが出来がよかったからなぁ。
出来がいい、だけではないのだがな、買った理由は。

扇:そこは、敢えて触れないことにしておこう。

鈴:それがいい。まったく別の話になってしまうだろうから(爆)
……しかし、本の帯に1200万部突破! なんて書いてるマンガをここまで書いていいのだろうかと言う気はしないでもないな。
まぁ、かまやしないけど~(笑)

扇:あの×万部突破って、売れた数じゃなくて刷った数だよな?
ま、多くの人を敵に回すだろうが、今に始まったことじゃないので。(笑)
敵の数はどう考えても君の方が圧倒的に多いが
温かい目で見守ってあげよう。

鈴:ほほぅ、そうか。
潜在的な敵は君のほうが圧倒的だとは思うが
それは言わないことにしておこう。
と言うか、この女神さまで確定だろう、お互い(爆)
……なので、背後から殺気を感じる前に終わるとしよう。

扇:こんなこと書いてますが、それなりに面白い漫画です。
女性には勧めないけどね、間違いなく。
では、今日はこれにて~。(加速装置で退散!)

鈴:ほんとうにそう思ってんのか?
まぁ、短編ばっかりなので、お気に入りの話があったとしても不思議ではないけど。
それくらいのもんです。
では、今回はこの辺で。
さよなら、さよなら……、さよならっ!(黄金聖闘士なみに退散!)

階段

2005-06-22 22:10:33 | 文学
さて、和名の方が有名だよなと思いつつ第204回は、

タイトル:怪談
著者:ラフカディオ・ハーン
文庫名:岩波文庫

であります。

小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの短編集。
『耳なし芳一のはなし』『むじな』等、二十編を収録。
全編書く気力はないので、気に入った短編の感想を書きます。

『耳なし芳一のはなし』……誰もが知ってる怪談話。芳一の耳を奪った怨霊の人間臭い台詞が面白い。もっとも、やってることはまさに化性の者のそれなのだが。

『おしどり』……たった3頁で起承転結を描ききっている非常に完成度の高い短編。最後にギョッとさせて終わりじゃないのが良い。

『かけひき』……首を斬るなら呪ってやるとのたまう科人と、やれるものならやってみろと豪語する屋敷の主人の対決。さらっとしたオチが上手い。

『鏡と鐘』……読者に結末を委ねるリドル・ストーリー。最後の一文にくすっとしてしまうのは私だけではあるまい。さて、貴方はどう思いますか?

『むじな』……ヒトケタ台の時に読んで本気で怖がってました、これ。ラストのオチと台詞は余りにも有名。そういや、怪人二十面相も同じようなことやってたなぁ。

『ろくろ首』……ろくろ首って、首を伸ばして行灯の油を舐める女怪じゃなかったっけ? この話だとちょっと違ってます、なぜだろう?

『雪おんな』……言っちゃ駄目、に限らず、禁忌を破るのは物語の永遠の定番ですね。しかし雪おんな、結構いい人だ。

以上、非常に味のある短編が揃っています。
短編好きなら、かなーりオススメ。

夜カミング

2005-06-21 23:28:31 | SF(海外)
さて、昔を思い出しつつ記す第203回は、

タイトル:夜来たる
著者:アイザック・アシモフ
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

表題作を含む五編を収録したアシモフの短編集。
読んだのは……わっ、十年以上前だ。
例によって一つずつ感想を書いていきます。


『夜来たる』……六つの太陽に囲まれた惑星ラガッシュに二千年に一度の【夜】が訪れる時が来た。サロ大学学長エイトン七七は、闇が人類の潜在的な恐怖を呼び起こし、世界の終わりを招くことを予見するが――。
SFの古典。登場人物の名前に数字が混じっているのがなかなかユニーク。終末が訪れるまでの時間、エイトン達は【夜】について様々な議論を展開するが、最後の時、予想を超えるそれに驚愕することとなる。彼らにとって【夜】は死と同義であり、結局のところ直面するまでそれを真に理解することはできないのだ。ただ、目の見えない子供としゃべれない子供がハーメルンの笛吹き男の難を逃れたように、この話も盲目の人間は生き延びることが出来たのではないか、と考えるのはちょっと意地悪だろうか(笑)。ちなみに、この短編を元にしたシルヴァーバーグの長編があるらしいがまだ発見していない、残念。

『緑の斑点』……セイブルック星の生命体には奇妙な特徴があった。眼にあたる部分に感覚器官と思われる緑色の絨毛の斑点があるのだ。問題は、動物に限らず、すべての生物に同様の斑点が存在していることだった。完全滅菌を済まし、地球への帰路を急ぐ宇宙船。しかし、ある事実が判明した時、恐怖が一人の学者を襲う――。
単一の生態系を持つ生物と人類のコンタクト話。謎の生物の心理描写と人間の会話が交互に描かれており、二つの生命の思考のギャップが面白い。

『ホステス』……スモレット夫妻の家にホーキンズ星の学者ハーグ・ソーランが宿泊することになった。妻のローズはシアン化物を呼吸するホーキンズ人と直にふれ合う機会を得て瞳を輝かせるが、夫のドレイクはあからさまに難色を示す。しかし、いざソーランがやってきた時、ドレイクは彼の生態に執拗なまでの興味を示した――。
ミステリ仕立ての異星人コンタクト話、ホラーも混じっていてなかなか贅沢。異星人であるソーランを観察するローズが逆に彼から人類の特殊性を指摘され、思考の迷宮に陥っていく展開は秀逸。ソーランの目的、ドレイクの目的が明かされていくプロセスも上手くまとまっていて、この短編集で一番読み応えがある。イチオシ。

『人間培養中』……原子力研究者の一人、ラルソンが自殺をはかった。警察、同じ学者筋の者達が彼から自殺の理由を聞き出そうとするが、彼は頑なに自らが死ななくてはならないのだと主張する。しかし、一人の医師と対面した時、ラルソンは恐るべき理論を展開し始めた――。
語りたいことはいくつかあるが、簡単にネタが割れてしまうので自粛。ちょっと地味で、いまいち乗れなかった。ラルソンの恐怖は解るが、ホラーとしてはちと冗長な感じ。

『C-シュート』……地球人の商船がクロロ人の軽巡洋艦に攻撃された。生き残ったのは僅かに七人。捕虜となった彼らはいがみ合いつつも助かる方法を模索するが――。
入れ替わり立ち替わり視点が変化し、七人の性格が浮き彫りになっていく密室心理劇。退役軍人、皮肉屋、臆病者、復讐者、現実主義者など、キャラクターも多彩。最もクールで計算高く見えつつも、実は感情を自制しているマリンのキャラクターが良い。


以上、非常に中身の濃い短編集です。
人間培養中は私的にはイマイチでしたが、他はかなりの当たり。
アシモフ好きなら間違いなくオススメ、未読の方の入門書としても最適。



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