つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

映画は無視する方向で

2007-04-07 23:55:42 | SF(海外)
さて、これも読んでたな、の第858回は、

タイトル:われはロボット
著者:アイザック・アシモフ
出版社:早川書房 ハヤカワ文庫(初版:'83)

であります。

ロボット物の古典です。
作者はもちろんアシモフ先生
短編集なので、例によって一作品ずつ紹介します。


『ロビイ』……ミセス・ウェストンは、八歳の娘・グローリアのことで頭を痛めていた。子守ロボットのロビイとばかり遊んでいて、人間の友達を作ろうとしないのだ。娘のことを案じた彼女は、夫を強引に説得してロビイを排除しようとするが――。
すべてはここから始まった。ロビイの事ばかり気にしているグローリアは未だ決定されていない未来であり、彼女の両親はロボットを受け入れる側と拒否する側の代表である。ところで、このロビイってやっぱりロビタの元ネタだったりするんだろうか?

『堂々めぐり』……第二次水星探検隊のメンバーであるパウエルとドノバンは不毛な議論を延々と続けていた。新型のロボット・スピーディが、セレンを取りに行ったまま、戻ってこないのである。果たして、スピーディに何があったのか――。
さすらいのトラブルバスター、パウエル&ドノバンの話その一。本作に限ったことではないが、ロボット三原則によって生じるジレンマを上手く利用し、ロボットを路頭に迷わせている。ハチャメチャな台詞を叫びつつ、うろうろするスピーディの姿は結構怖い。しかしなんでギルバートとサリバンなんだ?(笑)

『われ思う、ゆえに』……何度言い聞かせても、ロボットQT一号は、自分が人間に作られたことを認めようとしなかった。ちっぽけな中継ステーションが、彼の世界のすべてだったからだ。パウエルとドノバンは意地になって説得を繰り返すが、事態はさらに奇妙な方向へ進んで――。
暴走する内に、宗教家じみてくるQT一号の姿はひたすら不気味。自分の知識だけを材料に、世界のすべてを処理しようとする思考回路は、単にロボットだからと片付けられるものではない。貴方の近くにもいませんか、こういう人?(怖)

『野うさぎを追って』……パウエルとドノバンは、DV5号が仕事をサボることに苛立っていた。自分達が監視してさえいれば、件のロボットは配下となる六体のサブロボットを使ってちゃんと業務をこなす。しかし、ちょっと目を離すと――。
パウエル&ドノバン三部作のトリ。前二作よりさらに困った事態のように思えるが、物理的な方法で解決出来る問題だったりするのはなかなか面白い。ダジャレのようなオチも結構好き。

『うそつき』……何の変哲もない量産型ロボットの一体であるハーヴイに読心力があることが判明し、USロボット社は大騒ぎになった。ロボット排斥運動が進む中、他にもこんなイレギュラーが発生すれば、社は一気に潰されかねない。彼らは必死で調査を行うが、ロボ心理学者であるスーザン・キャルヴィン博士ですらハービイに心を読まれて動揺してしまい――。
一押し。心を読める力を授かりながら、三原則に従って罪を犯したハーヴイの姿は哀れだ。最後の一文も強烈な名品。さらに、後のロボット長編のネタ元にもなっている。気になる方は、イライジャ・ベイリ・シリーズをチェックして頂きたい。

『迷子のロボット』……意図的に第一条が弱められたロボットの内の一体が、宇宙基地から消えた。同型の六十二体のロボットに紛れて、外部に逃走しようとしたのだ。秘密裏に危険なロボットを製作した会社に怒りを覚えつつも、キャルヴィン博士は消えた一体を探す――。
ロボット陽電子頭脳に刻み込まれた第一条は、人間にとって最後の生命線である筈だが、人間自身がそれをさっ引いてしまうという設定が秀逸な作品。キャルヴィン博士とロボットの知恵比べが面白く、最後まで一気に読める。逃げ回るために嘘をつき続けたロボットの断末魔の叫びも強烈。

『逃避』……合同ロボット社から持ち込まれた奇妙な依頼。それは、USロボット社の誇る巨大思考マシン・ブレーンに、星間航行用エンジンを作るための問題を解明して欲しいというものだった。合同ロボット社の思考マシンを破壊した問題を、ブレーンは解けるのか――。
キャルヴィン博士が主人公だが、パウエル&ドノバンもゲスト出演してたりする美味しい話。何も知らされず、ブレーンが作った宇宙船に放り込まれる二人は本当に悲惨である。アシモフ版宇宙開発史の一部としても読める、興味深い一編。

『証拠』……新政派の政治家フランシス・クインはUSロボット社を訪れ、市長選に立候補しているスティーブン・バイアリイがロボットであるか否かを調査して欲しい、と執拗に迫った。もし、人間そっくりのロボットが秘密裏に作られていたとしたら、大変な問題になるのだが――。
俗物を絵に描いたようなクインをバイアリイが煙に巻く、ある意味コメディ。真相は伏せられているが、十中八九、キャルヴィン博士が正解であろう。ちなみに、これもある長編のネタ元になってたりするが……秘密。(読んだことがある方はすぐ解る筈)

『災厄のとき』……世界統監スティーブン・バイアリイは、困り果てた顔でキャルヴィン博士に助言を求めた。地球経済を完璧に管理する筈のマシンが誤作動しているのだ。キャルヴィン博士の出した驚くべき結論とは――。
ロボット開発史である本作のトリに相応しい作品。実際、行き着くところはこれしかないだろう。問題は、人類はその後の選択をどうするかだ。かくて物語はイライジャ・ベイリの時代へと移る……。


久々に読みましたが、満腹しました。
初期作品でありながら、後のロボット物にも見られる『三原則破り』の挑戦は目一杯行われています。
解説にもちょっと書いたけど、後の長編のネタ元と思われる作品もあり、アシモフをぐるっと一巡りした後、もう一度読んでみて欲しい一冊です。

SF好きは必読。
相変わらずミステリの要素も入っており、ロジック好きな方も楽しめると思います。
各短編の間に入っているキャルヴィン博士のお喋りも面白いのですが、アシモフ先生の解説も欲しかった……かな。



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永久機関の夢

2007-02-07 23:54:34 | SF(海外)
さて、読んだの忘れていた第799回は、

タイトル:神々自身
著者:アイザック・アシモフ
出版社:早川書房 ハヤカワ文庫(初版:S61)

であります。

久々の青背、そして、本当~に久々のアシモフです。
架空の物質『プルトニウム186』と、それを別宇宙から得るための機関『エレクトロン・ポンプ』を巡る物語。
三部構成なので、一部ずつ分けて紹介したいと思います。


『第一部 愚昧を敵としては……』……三十年前、フレデリック・ハラム博士はそれを発見した。この宇宙には存在しない物質『プルトニウム186』を。彼は、タングステン186を並行宇宙に送り、向こうからプルトニウム186を得る『エレクトロン・ポンプ』の開発を推進し、歴史上最も偉大な学者としてその名を知られることになった。だが、若き科学史家ピーター・ラモントは、ハラムが偉大な学者でも何でもないことを知っていた。そして、ポンプの危険性も――。

時間の経過と共に放射性が増大し、最終的にはタングステンに変化して安定するという無公害エネルギー『プルトニウム186』のアイディアが面白い。
ポンプでタングステンを並行宇宙に送り、向こうからプルトニウム186を得る→プルトニウム186がタングステンに変化する→またタングステンを向こうに送る、以下繰り返し。
これで終わりなら、ポンプは見事なまでの永久機関だが、これを使って人類の輝かしい未来を書く……何てのはアシモフ流ではない。この等価交換には重大な欠陥があり、その問題は第三部まで引っ張られるネタとなる。反対者であるラモントを突き動かすのが自尊心だったり、ポンプの父としてでんと構えているハラムがとんでもない小物だったりと、固い話に見えて妙に人間臭い連中が出てくるところはいかにもアシモフ。それにしても、最後の並行宇宙からの通信は恐ろしい……。


『第二部 ……神々自身の……』……感性子デュア、理性子オディーン、親性子トリットは三人で一つの『三つ組』だった。だが変わり者と呼ばれるデュアは、勉強ばかりしているオディーンと、融交することにこだわるトリットに嫌気がさし、三つ組を抜けることを願っていた。そんな時、彼女はエストウォルドと呼ばれる人物を知る。デュア達『軟族』とは異なる生命体『硬族』の彼は、世界のエネルギー問題を解決する、ある機械を作り出したらしいのだが――。

ポンプの向こう側にある並行宇宙の物語。感性子でありながら、理性子に近い考え方をするデュア、知識を求めるオディーン、本能に従うトリット、三人の視点を使って、人類とは全く異なる生物の生活を克明に描いている。我々からすれば異様極まりない彼らの生態を、セクシャルな表現をふんだんに用いることで解りやすく説明しているのは秀逸。加えて、ヒロインであるデュアのキャラクターが実に面白く、謎の人物エストウォルドの正体を探るミステリ要素も相まって、独立した中編として一気に最後まで読める。


『……闘いもむなしい?』……ルナ人のセルニ・リンドストロムは、地球から来た男に再コンタクトを試みた。彼がプロトン・シンクロトロンに興味を示したことを、バロン・ネビルが聞き咎めたからである。果たして、謎の観光客の目的は――?

ポンプ問題に一応の決着が付く第三部。再びこちらの世界の話だが、舞台は月となっている。地球から来た男の正体と目的は? なぜ月ではポンプが正常に作動しないのか? セルニの持つ秘密とは? など、謎がちりばめられているが、実は地球人とルナ人のラブ・ストーリーだったりする。(笑)


アシモフにしては珍しく、『銀河帝国もの』とも『ロボットもの』とも関係ない長編です。
これまた珍しく、ヒューゴー/ネビュラのダブル・クラウンに輝きました。
さらにさらに珍しく、セクシャルな表現が非常に目立つ作品だったりもします。

珍しづくしの逸品です、オススメ。
かなり長いけど、ファンなら読んで損はありません。
しかし、これがシルヴァーバーグの言い間違いから生まれたとは……。(笑)



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宇宙少年ではない

2006-06-05 22:10:32 | SF(海外)
さて、久々のSFだなの第552回は、

タイトル:スラン
著者:A・E・ヴァン・ヴォクト
出版社:早川書房

であります。

超能力SFの古典です。
初出は何と1940年! 以後、数多くの作品に影響を与えました。



街中が敵と化した中、ジョミーは逃亡を続けていた。
優しい母は、自分を逃がすために去った……味方はもう誰もいない。
一万ドルの賞金目当てに、無慈悲な人々が次々と行く手を阻むが、ジョミーは大人顔負けの体力でそれらをかわしていく――そう、彼は新人類『スラン』なのだ。

スランの少女キャスリーンは瀬戸際に立たされていた。
これまで人類の支配者キア・グレイの保護を受けて生き延びてきたが、遂に、異分子として処分される日が来たのだ。
秘密警察長官ジョン・ペティーの執拗な追及をかわし、彼女は生への道を見いだそうとするが……。

強欲な老婆グラニーを隠れ蓑にして、ジョミーは六年間生き延びた。
政府のスラン狩りは激しさを増しており、迂闊な行動は死に直結する。
だが彼は動いた、父の遺産を探し出し、新人類達の未来を切り開くために――。



『地球へ…』の元ネタとも言える超能力ミュータント物です。
頭髪の中に感覚毛と呼ばれる特殊な髪を持っており、これを使って超能力を発揮するスランと、それを迫害する人類が存在する未来世界が舞台。
特殊能力を持った者達の苦悩、それを恐れる人々の狂気、旧人類と新人類の生き残り戦争、といった題材を扱った作品群の元祖……になるのかな、これ以前を詳しく知らないので何とも言えませんが。

と、言ってもスランの能力はさほどぶっ飛んではいません。
常人を越える肉体と思考力、んでテレパシーってとこ。
サイコキネシス、火炎放射、電撃どれも使えませんし、超能力を使う時に瞳が燃えたりもしません……当然、エネルギー衝撃波とかもなし。(何の話だ、何の)

その代わりと言っては何ですが、主人公のジョミー君の性格がかなりぶっ飛んでます。
そもそも、母親がジョミーと別れる時の台詞からして凄い――

「(略)わたしたちの大敵キア・グレイを、お前の手で殺さねばならないかもしれないわ。たとえ、大宮殿の奥まで追いかけてもね(後略)」

争いを好まないタチだった夫を支えただけあって、かなりの現実主義者だったようですねお母様……でも、九歳の息子に言う台詞としてはかなりハイブロウなのでは?

母の遺言により、ジョミー君の今後の方向は決定されます。
人類は悪! スランは被害者! 僕はお父さんの残してくれた遺産を見つけ出して、仲間達を救うんだ!
やばいです、テロリスト街道まっしぐらです。

しかし、持って生まれたスランの能力がジョミー君に待ったをかける。
感覚毛を持たないことを利用して人間社会に潜伏している無植毛スランの存在、隠れ蓑として使っていた貧民街で聞いたスランの悪行の歴史……。
テレパシーと超知能を駆使することで得た新たな知識は、彼の信じるものを突き崩すのに充分なインパクトがありました。

さらに、六年間の間に同族である純スランと一度も接触できなかったことが致命的。
果たして彼らはどこに潜伏しているのか? 自分が信じている、気高い心を持ったスラン達というのはただの幻なのか?
疑心暗鬼に陥りながらも、ジョミー君は父の研究の成果が収められた秘密の場所へと突撃する!

父の遺産が何なのかは詳しく書きませんが、これを手にしたことでジョミー君は驚異的なパワーアップを果たします――性格的に。
今までマクロな視点を殆ど持ち合わせていなかったのが、いきなりスケールが大きくなり、純スラン、無植毛スラン、人類、どの血も流したくないというお父様が取り憑いたような台詞を吐き出したのは序の口。
純スランを心底憎んでいる無植毛スランの女性相手に――

「ミス・ヒロリー、これは自慢でもなんでもなくいえるけれど、現在、全世界の中で、このピーター・クロスの息子ほど重要な人物はいないんだ(後略)」

何てことまで言っちゃうんだから、凄いです。
もっとも後になって自分が、自意識過剰なガキンチョだったことは認めるようになりますが……。

ぶっ飛んだ性格のジョミー君の話と並行して、人類の研究対象たるキャスリーンの物語も描かれます。
保護者(?)であるキア・グレイとの微妙な関係、スラン根絶に躍起になっているジョン・ペティーとの対立、がメインかな。
テレパシーを使う時の描写が非常に凝っていて、一見何でもない人類同士の会話が非常に面白くなっているのは見事です。

ジョミー君にしろ、キャスリーンにしろ、その戦いの殆どがドンパチ抜きの頭脳戦なのはかなり好みですね。
章ごとに『引き』を用意し、どんどん先を読みたくなるようにしている構成も良いです。連載だからかも知れないけど。

ただ残念なのは、先に進むに連れてテンションが落ちていったこと。
ジョミー君はどんどん付いていけない性格になっていくし、キャスリーンは結局人類側のナビゲーター以上の役割を得られない。
純スラン、無植毛スラン、人類の三つ巴の対立をまとめるという壮大な目的を果たすにはメインの二人ではちと役不足だったのか、オチも無理矢理まとめた感じでした。

これだけのテーマとネタを創出したのは凄いとは思いますが、かなり引っかかる所も多い、微妙な作品です。
ただ、超能力物のルーツとして外せない作品の一つというのは間違いありません、SFファンなら読むべし。

そういえば、萩尾望都の『妖精狩り』もこの作品の影響をモロに受けてるなぁ……。(笑)



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木星のお値段は?

2006-04-10 23:44:26 | SF(海外)
さて、回数が凄いことになってきた第496回は、

タイトル:木星買います
著者:アイザック・アシモフ
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

お馴染み、アシモフの短編集。
なんと二十四編もの短編が収録されており、しかもそのすべてに作者自身のお喋りがくっついています。
例によって一つずつ解説を……といきたいのですが、全部書くととんでもないことになるので、お気に入りの作品をいくつか紹介するに留めます。


『バトン、バトン』……独善的で横暴なオットー伯父さんが出した難題。それは、過去の物体を取り寄せる機械を使って、金儲けをしろというものだった。弁護士の僕は、伯父さんの脅しに屈して知恵を絞るが――。
ユーモアの大家、と呼ばれるべく、アシモフが書いたコミカルな一品。無茶苦茶な性格のオットー伯父さんと、常に逃げ腰の主人公の会話が楽しい。オチもなかなか。

『猿の指』……SF作家マーミーとSF雑誌の編集長ホスキンズは、原稿の一部を変更することについて、激論を戦わせていた。話の最中に、マーミーは一つの賭けを持ちかけるが――。
小説を書く猿、と、それを巡る人々を描いた喜劇。洒落のきいたオチがいい。ちなみに、ここの小説家と編集者の論争は、現実にあったものをモデルにしているらしい。やはりと言うか、当然と言うか……。(笑)

『空白!』……タイムマシンの開発者バロン博士は言った。時間は不変である、故に、タイムパラドックスは起こりえないと。ポイントデクスターは、半信半疑で時間のエレベーターに乗り込み、未来を目指すが――。
ブラックなタイムトラベル物。編集側からタイトルを指定されて書いた作品らしいが、上手く使っていると思う。『永遠の終り』以前にこういうこともあったかも知れないなぁ、とか考えながら読むと面白い。

『木星買います』……異星人は莫大な報酬を提示して、木星を買いたい、と申し出た。彼らはしきりに、ラムベリーという存在を引き合いに出し、意地でも木星を手に入れようとするのだが――。
不穏な始まり方ながら、実はユーモラスなオチの付いている作品。木星を買ってどうするのか? ラムベリーとは何なのか? 真面目に考えれば考える程、オチでこけることになる。(笑)

『雨、雨、向こうへ行け』……お隣に引っ越してきたサッカロ家の人々はちょっと変わっている。いつも空ばかり見て、少しでも曇っていれば、決して外に出ないのだ。それには理由があって――。
ショートショートの王道とも言える、ショートホラー(何じゃそりゃ?)。無茶苦茶な話だが、これだけ短いと、細かいことは考えなくてもいい気はする。


他にも沢山あるのですが、とりあえずこのぐらいで。
どの短編も適度な長さなので、さらっと読むのに向いています、オススメ。
問題は……これも絶版だっけ?



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実はタイトルも引っかけ

2006-03-27 18:53:37 | SF(海外)
さて、しばらく二日酔いは経験してないなぁの第482回は、

タイトル:永遠の終り
著者:アイザック・アシモフ
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

アシモフ唯一のタイムトラベル長編です。
書こう書こうと思いつつ、忘れてました。

時間管理機関『永遠エターニティ』は、時間の枠外に存在し、人類平和のために時間矯正を行う特殊機関である。
だが、『永遠』に所属する者の中でも、航時機に乗り、別の時間に干渉することを許されるのは一部のエリートに過ぎない。
永遠人アンドリュウ・ハーランはその内の一人だった。

ある時、ハーランは482世紀の時間矯正の任務を言い渡される。
しかし彼は、任務の過程で出会った女性・ノイエスを愛してしまう。
時間矯正の結果、ノイエスが消滅してしまうことを知ったハーランは、『永遠』を欺いてでも彼女を生かそうとするが――!

例によって、ミステリ要素満載です。
計算上、どの時間軸にも存在しないことになってしまうノイエス。なぜか、それ以上先の未来に行くことができない時間の壁。そして、『永遠』発足の謎
色に目が眩んだ(失礼!)ことで始まったハーランの時間旅行は、ありとあらゆる謎を解くことに目的を変え、最終的にとんでもない事態を引き起こします。

あからさまに怪しい集団『永遠』の設定がいいです。
人類に危ない物(航時機含む)を持たせないことが平和につながると信じ、必死扱いて歴史を改竄してるってのが何とも。
崇高な理念を掲げてる割には、エリート意識丸出しだったり、内部で権力争いしてたりと……いかにも人間らしいですね。

こだわり体質のアシモフのこと、タイムマシン物の御約束への挑戦も忘れていません。
タイムパラドックスに近い事件を起こしてみたり、航時機に使用限界を設定してみたりと、そこかしこでお遊びを披露してくれます。
設定そのものが特異な分、ハーランの苦労は他のアシモフ作品の方々の倍増し、かも……危険な情事にいそしんでるのが悪いと言えば悪いのだが。(笑)

とまぁ色々書きましたが、この作品の最も特異な点は、
ラブストーリー
であることでしょう。

何せ、作品全体を支配しているのは、『永遠』でも航時機でも時間の流れでもなく、ハーランとノイエスの恋愛。
陰謀、策謀、危険に秘密と、いかにもミステリっぽいものが溢れているにも関わらず、最後は、この二人の感情がすべての決着をつけます。

読み終わった人に是非聞いてみたい!
――もし貴方がハーランだったら、最後の地でどうしますか?
(いや、あれは素晴らしいラストだと思うんですが……ハーランと違う行動を取る人がいてもいいんじゃないかな~、と思ったもので)

アシモフ好きな方、タイムトラベル物好きな方、どちらも満足できる完成度の高い作品です、かなりオススメ。
『永遠』を第二ファウンデーションのタイムパトロール版、と考えながら読むと、より楽しめるかも知れません。



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浜辺には何もありません

2006-01-02 17:53:23 | SF(海外)
さて、名前だけは知っていた、な第398回は、

タイトル:終着の浜辺
著者:J・G・バラード
文庫名:創元SF文庫

であります。

復刊フェア、と言うことで買ってきました、バラードの短編集。
元は『時間の墓標』だったらしいのですが、改題してるみたいです。
例によって一つずつ感想を書いていきます。

『ゲームの終わり』……死刑判決を受け、その日が来るまで別荘に監禁されているコンスタンチン。いつ、どんな方法で処刑されるのかは知らされていない。彼は付添人であり死刑執行人でもあるマレクから情報を引き出そうと試みるが――。二人の人物の見えざる戦いを描いた密室劇。与えられた娯楽がチェスと数冊の本だけというのがなかなか面白い。ラストのマレクの台詞が衝撃的。

『識閾下の人間像』……フランクリン博士はハサウェイの相手をすることに辟易していた。彼によれば、最近建てられた大型交通標識は識閾下を支配するための通信を行っているらしい。博士は付き合いきれないといった感じで、その考えを一蹴するが――。サブリミナル効果? 資本主義の袋小路を予見したような話。現実問題、CMってこういうものだと思う。

『ゴダード氏最後の世界』……突然、雲一つない空に雷鳴が響き渡った。町の人々は訝しむが、ゴダード氏だけは原因を知ることが出来た。彼が持つ箱庭の町の天井で蛾が暴れていたのだ――。クラインの壺のように、外と内が一体となった箱庭世界の物語。日々、人々を覗き見していながら、自分が良識人で、周囲の信頼を勝ち得ているものと信じ切っているゴダード氏の姿は滑稽。

『時間の墓標』……墓荒らし仲間のお荷物シェプレイはリーダーであるトラクセルから最後通牒を突きつけられた。タイム・トゥームを荒らして稼ぐか、さもなくば仲間を抜けるか――。シェプレイとトラクセル、二人のインテリ崩れの話。センチメンタルな上、最後まで未練がましい姿を見せる主人公シェプレイより、現実派のトラクセルの方が断然魅力がある。(爆)

『ヴィーナスの住人』……天文学研究所の一員としてバーノン山にやってきたワード。しかし、金星人を見たと主張するカンデンスキーと関わるうちに、何かが狂い始める――。ありえない物と遭遇した時、人はどう行動するのか? カンデンスキーには同情するが、ワードの行動を責める気にもなれない。

『マイナス1』……グリーン・ヒル精神病院から一人の患者が姿を消した。警察当局には知らせず、内々で穏便に事を済ませようとする医師達。しかし、いつまで経っても行方不明者は発見できず――。こわ~いお話。ラストの一文とリンクしているタイトルは秀逸。これ、舞台を村にしたら怪談話が一個作れそう。

『ある日の午後、突然に』……突然、激烈な発作に襲われたエリオット。何とか持ち直したが、同時に訪れたこともない筈のカルカッタの景色が脳裏に浮かんできた。記憶が混乱する中、さらなる発作が――。いわゆる、サイコホラー。エリオットが追い詰められていく描写は、スプラッタなど一つもないのにも関わらず、物凄くグロテスクに感じる。好きだけど。(笑)

『終着の岸辺』……原水爆実験の爪痕が残るエニウェトック島。廃墟の迷路をさまようトレーブンが見る様々なもの――。時間も空間も無視して内面世界を描きたくなる気持ちは解るけど、死と終末ばかり並べ立てられてもくたびれるだけ。おまけに物凄く読みづらい。

どの作品も暗いトーンに覆われています、明るい話が好きな人には不向き。
好きな作品はあるけど、全体的には微妙……。



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神の目を持つ女……?

2005-12-26 10:13:47 | SF(海外)
さて、先週に続いてこの方な第391回は、

タイトル:シビュラの目
著者:フィリップ・K・ディック
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

再び、ディックの短編集です。
前回の『マイノリティ・リポート』はかなり好みだったのですが、さてこちらは……。
例によって一つずつ感想を書いていきます。

『待機員』……コンピューター・ユニセファロン40Dが大統領を務める合衆国で、マックスはトラブル時に臨時で権限を受け継ぐ待機員に選ばれた。死ぬまで待ち続けるだけの退屈な仕事の筈だったが、ユニセファロンの故障で本物の大統領として権力を握ることになる――。
もしこんな世界が存在したとしたら、当然起こるであろう混乱を描いた話。マックスの変貌していく過程は非常に説得力がある。

『ラグランド・パークをどうする?』……『待機員』の続編。ちょっとカラーが変わり、サイオニック能力をキーにした政戦が描かれる。個人的にはイマイチ。

『宇宙の死者』……財界の巨人ルイ・セラピスが死んだ。片腕のジョニーは遺言に従って遺体を霊安所へと送るが、原因不明のトラブルにより、ルイを復活させることはできなかった。そのしばらく後、奇妙な現象が――。
死者を条件付きで蘇らせることができる世界の物語。怪現象の謎は、穴がすぐに見つかるので簡単に解ける。しかも、かなり長い割には事件そのものは解決していなかったりする。何とも言えない作品だが、半生者のアイディアは好き。

『聖なる争い』……ジュナックスB軍事計画コンピューターがレッド・アラートを発令した。担当者達はジュナックスが読み込んでいる最中だったテープを切ることで、一時的に機能を停止させるが、データの内容を見て愕然としてしまう。なぜ、警報は発令されたのか? 修理待機員スタフォードが謎に挑む――。
ゴシック体で印字されたジュナックスの台詞はインパクト大。スタフォードの謎解きも面白い。ただ、あのオチはちょっと……。

『カンタータ百四十番』……『ラグランド・パークをどうする?』の続編。様々なSFファクターが存在する未来社会での大統領選挙戦を描いた作品。筋自体は通っているものの、場面と人物がごちゃごちゃし過ぎて読みづらいことこの上ない。ドラマにもあまり魅力を感じなかった。

『シビュラの目』……作者の戯言しか聞こえてこない劣悪な作品。

うーん……これ! というのもないし、嫌いな作品は多いし、ちょっと私には合いませんでした。



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ツイン・ピークスではない

2005-12-20 21:31:56 | SF(海外)
さて、二夜連続でSFの時点で誰が書いてるかバレバレな第385回は、

タイトル:マイノリティ・リポート
著者:フィリップ・K・ディック
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

ディックの短編集です。
映画化された表題作を含む七編を収録。
例によって、一つずつ感想を書いていきます。

『マイノリティ・リポート』……三人の予知能力者による予測で未然に犯罪を防ぐシステムを作り上げ、犯罪予防局長官となったアンダートン。ある日彼は、オートメーションで発行される容疑者カードの中に信じられない名前を見てしまう――。
短編ながら、状況が二転三転する忙しい話。ひたすら主人公が状況に巻き込まれいくタイプの話だが、ちゃんと推理はできるし、オチもまとまっていていい感じ。

『ジェイムズ・P・クロウ』……近未来、地球はロボットに支配されていた。彼らに比べて能力的に劣る人間達は専用の居住区に押し込められ、鬱屈した日々を送っていたが――。
人間に対するロボットの反乱、ではなく、ロボットに対する人間の反乱の話。タイトルネームであるクロウがロボットと対決する方法はいかにも人間らしく、またそれに対してぐうの音も出ないロボット達の姿も面白い。

『世界を我が手に』……太陽系には地球以外に居住可能な惑星がないと判明した時、人は世界球という玩具に手を染めた。主人公は、極小の世界の創造に熱中する人々に警鐘を鳴らすが――。
世界を作り上げた挙げ句、破壊してしまう人々の姿は非常に説得力がある。ラストは予想がつくものの、結構ブラックで私好み。

『水蜘蛛計画』……宇宙植民計画に行き詰まりを感じた未来人達は、タイム・マシンで過去に行き、予知能力者達の知恵を借りようと画策する――。
いわゆる内輪ネタ。未来では予知能力者と認識されているSF作家達が実名で登場する。主役は『大魔王作戦』のポール・アンダースン。個人的にこういう遊びは大っ嫌い。

『安定社会』……進歩の頂点を極め、そこからの衰退ではなく安定を選んだ未来世界。ロバート・ベントンは自分が発明していない筈の発明品について統制官から呼び出しを受ける――。
SF、に見えて実はファンタジーかも。一つ解けていない謎がある(一文字で表現できる存在を認めれば説明はつくけど、それは何か嫌)が、最後のオチが上手いので気にしない。

『火星潜入』……地球と火星は緊張状態にあった。そんな中、最後の地球行きの便が火星から飛び立つ。しかし、その中には三人のスパイが――。
嘘発見器による乗客尋問でも火星の都市を消滅させた犯人が見つからなかった理由、についてのアイディアは面白いが、ストーリー(特にオチ)はイマイチ。

『追憶売ります』……なぜか執拗に火星行きを望む男。しかし金銭的な余裕がないため、最新技術による仮想記憶の刷り込みで代用しようとする――。
イチオシ。『マイノリティ・リポート』と同じく二転三転する話だが、こちらの方が密度が濃い。次々と記憶が切り替わるため大変そうに見える主人公だが、実は周囲が一番苦労しているというのも笑える。映画『トータル・リコール』の原作らしいが、見てないので比較はできない。

全体的にレベルの高い短編集だと思います、素直にオススメ。
好みはあるかと思いますが、どの作品も破綻してないというのはかなりポイント高し。



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パロディはノリが命

2005-12-19 18:19:16 | SF(海外)
さて、SFが押され気味なので第384回は、

タイトル:銀河遊撃隊
著者:ハリィ・ハリスン
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

『レンズマン』で知られるE・E・スミス作品のパロディ……らしい。
イマイチ不安があるけど、まずは読んでみて考えます。

超一流のエンジニア・ジェリーと天才科学者のチャックはひょんなことから、あらゆるものを瞬間移送できる新物質を作り出してしまった。
しかし、計算は完璧な筈なのにどうしても大きな誤差が出る……真空中でないと正確な結果が出ないのだ。
大がかりな実験を行うため、ガールフレンドのサリーと共にジャンボ・ジェットに乗り込む二人、しかし予想外のアクシデントで地球外へ放り出されてしまい……。

感想を一言で言うと――

楽しいB級映画

でした、以上。

いや、ほんとにそれ以外何と言っていいか……。(笑)

序盤はやたらアメリカ賛美を繰り返すのが鼻につきます。
それが薄れるのは中盤以降でしょうか、ここらでようやく、すべては作者の皮肉であることが解ってきます。
自らの力と正義を信じて突っ走る主人公達ですが、そのマヌケっぷりは壮絶、つか悪の軍団なら大量虐殺してもいいやみたいなノリで戦ってたら実は……とか。

明らかに元ネタを皮肉ったと思われる大風呂敷も凄い。
強い奴が出たと思ったらもっと強い奴が出る、賢い奴が出たと思ったらもっと賢い奴が出る、木星に飛ばされたと思ったら次は別の星!
最初はただのジャンボ・ジェットだった筈の飛行機も改造を施されてワープするようになるし、長さ1マイルの戦艦だとか、最終兵器まで出る始末。

もう、いつボスコーン様が出てきたって驚きゃしません。
「お前の言葉は決定的でもなければ、確定的でもない~」
んで、手にレンズはめたジェリーがサイキックで戦い、竜の姿のレンズ男も現れ、銀河パトロール引き連れてひたすらドンパチ!

すいません、暴走しました。
笑えるのは確かですが……ストーリー全体を通して見ると破綻している感は否めません。
御都合主義としか言いようのない展開、主人公達のわけの解んない思考回路、頭が痛くなるラスト、正直疲れました――ま、全部作者の皮肉なんでしょうけど。

本作最大の収穫はヒロイズムに酔ってる男共に茶々を入れるサリーでしょうか。
悪(てことになってる)相手に対してかなり安直な正義感で戦いを挑むメンバーがようやく見出した逆転の一手を潰したり、自己犠牲に目覚めて変な意味で盛り上がるところに、自分はそんなの嫌、と言ってみたりとやりたい放題。
位置的には、いわゆるヒーロー物お定まりの『さらわれるお姫様役』なのですが、ひたすら泣き虫なとこを除くとそんな自覚は皆無です……いいヒロインだ。

うーん、古いSFにツッコミ入れるのが好きな人にはオススメ……かなぁ。
コメディSFなら『銀河おさわがせパラダイス』の方が私は好きです。



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サリー・マイ・ラブ

2005-12-07 17:03:48 | SF(海外)
さて、SFのカテゴリーが増えてないので持ってきた第372回は、

タイトル:サリーはわが恋人
著者:アイザック・アシモフ
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

巨匠アシモフの短編集。
表題作を含む十五編を収録。
作品数が多いので、さらっと解説するに留めます……多分。(笑)

『正義の名のもとに』……動機ただしければ過つことなし、この言葉に集約される物語(もちろんこんな言葉は虚構に過ぎないが)。一人の理想主義者と一人の現実主義者が直面した国家紛争の話だが、アシモフ自身が書いているように、この中に存在する哲学はあまり好ましい物ではない。ただ、二人の会話はなかなか味があって好きだ。

『もし万一……』……本巻のみならず、私の知っているアシモフの短編の中でベスト1の逸品(『夜来たる』、『ホステス』よりも好きだ)。ロマンス不得手を自認するアシモフがラブコメに挑戦しているのも興味深いが、不思議な光景を見せてくれる万一さん(笑)のキャラクターのおかげでファンタジーの色彩も濃く、色んな意味で型破りな作品である。主人公の若夫婦が結婚五周年記念旅行に出かけるというシチュエーションも上手くはまっており、可愛らしいお話に仕上がっている。

『サリーはわが恋人』……フランケンシュタイン・コンプレックス(いわゆる機械達の反乱)を嫌うアシモフだが、極めて高度な陽電子頭脳に極めて高度な情報処理能力を持たせた場合、似たような現象が起こる可能性は常に追求していたと思う。ただし、この短編のサリーは明確にロボット三原則に反している――というか彼女は既にロボットではない、と思うのだがどうだろうか? どちらにせよ、この作品はあまり好きではない。

『蠅』……生命に共通するものとは何か? こう言うと大上段に構えてしまうそうになるが、極めてさらっとした答えがここでは示されている。ただ、三人の会話で展開されるこの話自体はあまり面白くない。

『ここにいるのは――』……なんと、またもロマンス(笑)。ワンアイディアものなので言及は避けるが、ラスでちょっとくすっとなってしまう。作者はこの話の主人公があまり好きではないみたいなことを書いているが、実はその間抜けっぷりを愛しているのではないかと思ったりもする。軽く読める、割と楽しい話。

『こんなにいい日なんだから』……どこでもドアが存在したら? という実験。これ、携帯電話や車に置き換えても話が成立するかも知れない。タイトルが秀逸で、作品をそのまま表現している。

『スト破り』……えげつない話。ごく少数の人間に汚れ仕事を押しつけておきながら、それに対して一片の敬意も払わないエゴイスト達の姿が描かれている。ただし、それは我々と無関係ではない。傑作かどうかはともかく、いい作品だと思う。

『つまみAを穴Bにさしこむこと』……即興で書かれたショートショート。らしいオチが付いており、笑える。

『当世風の魔法使い』……恋情触発大脳皮質因子、要するに惚れ薬を巡るドタバタ喜劇。この手の話は、極めて真面目な人が笑えない状況に陥るのが楽しいのだが、これもその部類に入る。オチの一文がなかなか強烈。(笑)

『4代先までも』……洗礼物語? なぜかレフコヴィッチという名前を探し求める男の話。かなーり、イマイチ。というか、無神論者にはピンとこないかも。

『この愛と呼ばれるものはなにか』……異種族の生態系というものは非常に興味深いが、異星人が人間に対して同様の興味を抱いたら? という実験。もっとも話自体はそんな堅苦しいものではなく、純然たるコメディとなっている。最後の部分を付け加えたという美人編集者に喝采を送りたい、いいオチである。

『戦争に勝った機械』……これまた駄洒落のような話。戦争を勝利に導いたマルチバックと呼ばれるコンピューターの話なのだが、その使用過程には色々と問題があって――ラスはそれかい! といったところに落ち着く。こういう話は大好き。

『息子は物理学者』……おばーちゃんの知恵袋的なお話。どこかミス・マープルを思わせるクレモナ夫人もいいが、ちゃんとその言葉に耳を傾ける息子も良い子だ。問題に対して、機械のスペック向上だけで対処しようとする人々の混乱も現代に通じるものがある。

『目は見るばかりが能じゃない』……かなり抽象的な内容で、ちょっとイマイチだった。ショートショートなので敢えて書かないけど。

『人種差別主義者』……これも短い。オチは好きだが、特にこれといった強烈な印象はない。

『夜来たる』ほどの完成度の高さはありませんが、ユーモア色の強いバラエティに富んだ短編集です。
個人的には『もし万一……』があるだけでオススメを付けたいけど、一番のウリはアシモフのお喋りが十五個も読めることかも知れない。(笑)



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