つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ホタルとマユの三分間書評『ようこそ無目的室へ!』

2008-08-13 19:03:31 | ホタルとマユ関連
さて、潜伏中はラノベ読み漁ってました(爆)、な第981回は、

タイトル:ようこそ無目的室へ!
著者:在原竹広
出版社:HOBBY JAPAN HJ文庫(初版:'08)

であります。


「不思議なこと?」
 メガネを光らせ圭助が訊いた。
「うん。透明人間。透明人間」
 一郎の本を指さしつつほづみは繰り返した。
「人が消えたの」
「はぁ? 消えた? なんだそりゃ」
「面白そうだ。よくわからないから、起こったことを時系列順に並べてくれ」
 興味津々といった様子で圭助が促す。
 ほづみは大きくうなずいた。
「うん、わかった。詳しく話すね」
   ――本文13頁より。星垣一郎の読んでいる『透明人間』を見て、皆に謎を提供する宮田ほづみ。



―書の海よ、私は帰ってきた!―


 「お里帰りしてきました、ホタルで~す♪」
 「マユだ。
 まずは、いつもに増して長い潜伏期間だったことを読者諸兄にお詫びしたい」
 「何か今、あり得ない発言を聞いたような……」
 「ま、たまにはな。
 いや、本当は6日の水曜あたりに『ダブルアーツ1』の記事を載せるつもりだったんだよ」
 「このブログにしては珍しく、出たばかりの新刊ですね♪」
 「でまぁ、巷の評判も確認しとこうかと思ってamazonレビューを確認したんだが……それが失敗だっだな。
 面白いぐらいに評価が真っ二つだったので、さらにググってみたらパクリ元が晒されてたり、細かい粗を叩かれまくってたり、挙げ句の果てには御子様お断りなネタがボロボロと――まったく……検索するだけで三日以上潰したのは久々だぜ」
 「ん~何と言うか……かなりズレた意味で注目されてますねぇ。
 裏を返せば、今でもジャンプの影響力は凄いってことなんでしょうけど」
 「にしても、初連載でここまでネタにされる漫画ってのは少ねぇだろ。
 おかげで、当初は『新人にしちゃそこそこ読める方なんじゃね?』って認識だったのが見事に覆されてな……絶望した! とまでは言わねぇが、記事は書けなくなっちまった」
 「それはまた珍しいパターンですね……。
 普段は、他の方々の意見は横に置いといて好き放題言ってるのに」
 「言ってるのに――って、自分はちゃっかりイイ子かテメェ!
 ともあれ、だ、安易な設定とか、キャラの行動の不自然さは置いとくにしても、『クロノクルセイド絡みのアレ』は言い訳しようがないので、クロノファンの怒りは正当な物だと思う。故に、レビューは控えさせて頂く」
 「フレアってないと死ぬって設定は面白いんですけどね~」


―久々の短編連作です―


 「さてさてさて、本日御紹介するのは――『ブライトレッド・レベル』はコケちゃったっぽいけど、こっちで巻き返せるか? 在原竹広さんの新作『ようこそ無目的室へ!』です!」
 「無目的部という非公式クラブに所属する四人組が、日常の小さな謎を解いていくキャラ物ショートミステリだ。ジャンルとしては安楽椅子探偵物と言えるだろう。
 電撃で四作出ている『桜色BUMP』シリーズは、はっきり言って謎解きも何もなかったが、こちらはちゃんとミステリしているのであたし的にポイント高い」
 「『桜色BUMP』シリーズは結構好きですけどね~。
 正直、ミステリとは呼べませんが、キャラ物ホラーとしてはそこそこ面白いではないかと」
 「好きとか言いつつ結構キツイこと言ってんな……ま、その話はまたいずれしよう。
 本作最大の特徴は、この作者にしては珍しく、超常現象が一切起こらないことだ。おまけに、無目的部の活動が活動なので、作品全体に何とも言えないまったり感が漂っている。他作品から入った読者は微妙に違和感を感じるかも知れないが、読みやすさは健在なので、そこらへんは読んでる内に解消される筈だ」
 「補足すると、無目的部というのは帰宅部の校内バージョンです。空いている部室を利用し、お喋りや読書にいそしむ、それだけで特に決められたルールはありません。部員も至って普通の方々で、怪しい呪具を持ち出してくるキャラとか、侵略者に立ち向かう生徒とかもいないです」
 「だから同作者の別作品の話はやめろっつーの。
 キャラの話が出たんで、主要人物四人についてさらっと紹介しとくか」


『宮田ほずみ』/二年四組。おっちょこちょいの元気娘で、話題の提供役。感情の起伏が激しく、圭助のキツイ言動に沈んでしまうこともある。時折、不自然な発言をするのだが……。
『樫圭助』/二年一組、ちっこくて童顔で四人組唯一のメガネ着用者。容姿に対するコンプレックス故、理屈先行で感情を軽視する傾向にあるが、詰めが甘いため余計に子供っぽく見えてしまうのは御愛敬。
『桐谷千尋』/三年六組、清く正しく美しい学園のスター……だが、その実態は男口調、勢い重視の姉御肌。無目的室でのみ、素の姿で登場する。圭助に惚れてたりするけど、本人にはまったく気付いてもらえてない。
『星垣一郎』/三年三組、本作の探偵役。穏やかな口調と、柔和な笑みが特徴の紳士。いつも本を手にしており、積極的に会話に参加することはしないが、最後にさらっと謎を解いて全員を煙に巻く。


 「トラブルメーカー、理論派の進行係、混ぜっ返し担当、自分は動かない探偵役、と見事に基本を押さえたラインナップですね」
 「安楽椅子探偵物の基本は押さえてあるな。
 一幕芝居、かつ、会話主体の話だから必然と言えば必然なんだが、各キャラの個性も良く出ている」
 「一郎さん、素敵ですよね~♪」
 「性格・容姿・能力、三拍子揃った完璧超人ってのは面白みがないのが定番だが、微妙にボケ体質だったり、何故か一人芝居が上手かったりと、味のあるキャラに仕上げてはいたな。
 でもどっちかっつーと、あたしは圭助の方が好みだ。攻撃力はそこそこだが防御力低いわ、すぐムキになるわ、実はドリーマーだったりするわと、とにかく可愛いんだよなァ」
 「前にも言いましたけど、マユさんの可愛いは絶対何か間違ってると思いますっ」
 「そこは見解の相違って奴かね。
 女性陣の方は、天ボケにツンデレと、見事までに王道だな。後は『無口』がいれば完璧だ」
 「いえいえ、微妙にひねってありますよ。ほずみちゃんは単なる天ボケではないですし、千尋さんも、乱暴に見えて実は繊細、と言った方が正しいかと思われます。
 どっちも可愛いタイプだけど、無駄に読者に媚びないのはいい感じですね♪」


―ストーリーはどうですか?―


 「ではでは、ストーリー紹介に参りましょう♪ 全八編のタイトルと概要は以下の通りです」


  一  教室で見たもの / ヤマネちゃんはどうして消えたのかな? 
  二  アイ・ポイント / 昇降口の正面にある絵は贋作? それとも本物?
  三  カレー好きのX / 屋上に来た人、帰っていった人の数が合わないのは何故?
  四  書店の彼女 / 店は終わったのに、お目当ての美少女書店員が出てこない!
  五  それでいいのかの猫 / 三人しかいない部室で、失せ物と言われても……。
  六  ラブレター・フロム・誰か / 怪文書みたいなラブレターもらっちゃったけど、差出人は誰?
  七  妹・由美子の話 / 幽霊が出たよ! え、違うの? 幽霊じゃない?
  八  影絵芝居 / いつもと違う無目的室、いつもと違う影二人――。



 「各短編は時系列順に並んでいますが、内容は独立しているので、通して読まなくてもさほど支障はありません。ただ、八話目の『影絵芝居』はそれまでの総括的内容になっているので、これだけは最後に回すべきでしょう」
 「短編連作のトリのお手本と言っても過言ではない見事なラストだったな。これだけでも、本作は充分評価に値する」
 「えーと……読者の皆様、マユさんは短編連作が大好物なので、評価にはかなり誇張が含まれます。くれぐれも御注意下さい。
 総まとめの第八話を外して考えると、どれが一番お好みですか?」
 「キャラ紹介と謎解きを兼ねる第一話は、最初のつかみとしては申し分ない。ちょっと謎の部分が弱い……というか謎でも何でもないんだが、各キャラの役割分担をはっきりさせているので、連作のトップバッターの役割はきちんと果たしている。
 圭助の恋話って趣向が珍しい四話も好きだ。これまた、順序立てて考えれば簡単に答えは出るんだが、出題者の目が眩んでるので微妙に情報が制限されてるのが面白い。
 後は七話かね。本作唯一の××トリックだったり、出題者が一郎なので圭助が探偵役に変わってたりと、いつもとは違った雰囲気が楽しめる。ミステリとしてもこれが一番出来が良かったな。
 人間消失の真相、店から出てこなかった書店員の謎、幽霊の正体見たり枯れ尾花、と並んだが……好みで選ぶなら四話か」
 「長っ……!
 マユさんが四話を選ぶのは意外ですね。てっきり、ひねくれた暗号解読ものの六話あたりだと思ってました」
 「いや、あれは全然ひねくれてねぇぞ、むしろ安直だ。圭助がわざわざ変な方向に持ってくので、んなわきゃねぇだろ! って突っ込んじまったぐらいだしな。
 そう言うそっちはどれがお好みなんだ?」
 「当然、一郎さん大活躍の第七話です!
 小学二年生の物真似までこなしちゃう一郎さんは、存在そのものが素敵ミステリーなのですよ♪」
 「お前、相変わらず完璧超人好きだなァ……」
 「違いますよ~、美形の完璧超人が好きなだけです」
 「同じだっつーの。
 ホタルのようにキャラ萌えするかどうかは別として、謎解きよりもキャラクターに重点が置かれてるのは確かだな。ただ、簡単とは言え、謎はちゃんと解けるようになっているし、不思議現象とかは一切介入してこないので、ラノベのミステリではかなりオススメの部類に入る」
 「ミステリにしては歯応えがない、という意見もあるかも知れませんが、頭の体操に近い感覚で肩の力を抜いて楽しんで頂ければ、と思います。
 逆に、ミステリ苦手な方は謎解きの快感を味わって下さい。本~当~に、難度低めですから」
 「『ショートショートの世界』の記事でも言ったが、こういう作品が増えれば、多少はショートショートの地位も上がるんじゃねーかと思う。と言うわけで、続編に期待だぜ」
 「裏表紙の紹介文にある、『ちょっと安楽椅子探偵風な物語、ここに開幕』の最後の二文字に期待したいところですね♪
 タイトルに『1』とは付いてませんけど」
 「期待してるんなら不吉なことは言うなっ!」



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