つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

絵は似せるもんじゃないか!?

2012-04-28 14:36:28 | SF(国内)
さて、そんなふうに思うわけですよの第1011回は、

タイトル:ミニスカ宇宙海賊パイレーツ
著者:笹本佑一
出版社:朝日新聞出版 ASHAHI NOVELS(初版:'08)

であります。

タイトルは……アニメのほうのお話です(笑)
だいたいアニメ化するに当たっては、多少なりとも原作のイラストと似せて絵を作るものだと思いますが、アニメの「モーレツ宇宙海賊」のほうの絵を、本書のイラストの違うこと違うこと。
原作知ってて、アニメを見た人は絵柄の違いにかなり戸惑うんじゃないかぁ、と思うわけですよ。

それはさておき、「エリアルシリーズ」で一世を風靡した(と思う)笹本氏の新シリーズですが、アニメ先行で見てだいたいのあらすじは知ってはいるのですが……。
ストーリーは、

『白凰女学院高等部1年加藤茉莉香、ヨット部所属。ついでにレトロな喫茶店「ランプ館」でウェイトレスのバイトもこなす元気印の高校生。
ヨット部でのシミュレーターを終えて、他の部員たちより先に学校を出た茉莉香はランプ館でのバイトに精を出していた。
そこに現れた一組の男女。母の知り合いだというふたりは、茉莉香に突然、宇宙海賊の船長にならないかと持ちかけてくる。

わけもわからずその場はしらばっくれた茉莉香はバイトを終えて帰宅。夕食の支度をしていた母の梨理香にランプ館での出来事を話していると、家に来訪者が訪れる。
その来訪者はランプ館で出会った男女で、女性のほうはミーサ、男性のほうはケインと名乗った。
夕食をともにしながら、梨理香とふたりきりだと思っていたら実は父親は数日前に死んだことなど、事情を聞いた茉莉香は正式に「合法の宇宙海賊」である海賊船弁天丸の船長就任要請を受ける。

合法の宇宙海賊――茉莉香たちが暮らす海明星が宗主星との独立戦争の最中、弱体な戦力を補うために時の政府が発行した私掠船免状を持つ宇宙海賊のことだった。
独立戦争そのものは1世紀以上も前のこと。歴史の教科書にすら載っているような時代の話だが、免状そのものは有効なまま。
そしてその免状の更新には、船長の直系の継嗣でなければならないため、茉莉香に白羽の矢が立ったのだった。

とは言え、いきなり宇宙海賊の船長なんて……と返事を保留した茉莉香だったが、そこへ新任の教師として赴任してきたケイン、おなじく新たな保険医として赴任したミーサと再会することになる。ついでにケインはヨット部の顧問にもなっていた。
おまけに編入生として分校からやってきたチアキ・クリハラと言う女生徒までいて、しかもヨット部へ入部。
作為的な匂いがぷんぷんする中、ケインが星間航行の免許を持っていると言うことでヨット部は夏休みの合宿を兼ねて、所有する帆船型の宇宙船オデットⅡ世号で宇宙に出ることに。

単なる女子校のヨット部による練習航海。しかし、中継ステーション係留時からハッキングが行われ、練習航海中も不穏な気配が流れる。
そんな中、茉莉香の取った行動とは? そして茉莉香は宇宙海賊になるのか?』

なんて書いてますが、プロローグで茉莉香が宇宙海賊やってるシーンがあるので、宇宙海賊にはなるんですけどね(笑)

さておき、アニメを見ていたからだろうとは思いますが、絵ってやっぱり偉大ですね。
プロローグはいいんですが、第一章の最初から読むのをやめようかと思いました(笑)
と言うか、この手のSF経験値の低い私には、横文字の単語は意味わかんないし、茉莉香がヨット部のシミュレーターで大気圏突入のシミュレーションを行っているところ、オデットⅡ世号でのトラブルや航海など、ある程度のSFとか、飛行機とか、そういうのの知識がないと、まったく情景が思い浮かびません。
かろうじて読めたのは、アニメでこのシーンはああいう絵だった、と言うのが頼りになったわけで、そうでないとSF経験値の低い方にはかなりつらいのではないかと思います。
特にスペースオペラと銘打っておきながら、内容はラノベに近いので、ラノベ感覚で手を出すとホントにつらいと思います。

ストーリーは、宇宙海賊とは言っても宇宙海賊の仕事をしているのはプロローグだけ。あとは茉莉香が船長になる決断をするまでのヨット部での練習航海での出来事が中心です。
ストーリー展開はまぁまぁです。大きな破綻があるわけでもなく、そつなく進んでいきます。
武装も何もないオデットⅡ世号を襲う謎の宇宙船との電子戦が主となってストーリーは進み、茉莉香の発案でこれを退ける、と言うのが大筋の流れですが、どうやらこれが契機となって茉莉香は船長になる決意をするわけですが……。
決意に至るまでの茉莉香の心理描写が乏しいので、まったく説得力に欠けます。
まぁ、いろいろと想像することで楽しんでください、と言うことなのかもしれませんが、想像するのにすら心理描写に乏しいので、これもかなりきついのではないかと思います。

文章は最近のラノベ作家とはさすがに違って作法を心得ていますが、キャラの演じ分けがうまくないので、頻繁に話し言葉がいったい誰が喋っているのか、と言うのがわかりにくいことがあります。
キャラが多数出てきて……と言うのならわかりますが、当直でブリッジに詰めている茉莉香とチアキのふたりの会話ですら、どっちの台詞なのかがわかんないときが出てくるのはどうかと思いますね。
喋り言葉に特徴をつけるなり、地の文でフォローするなりして、きちんとわかるように書いてもらいたいものです。
典型的な「著者には想像できて書いてるけど、読んでるほうには伝わらない文章」です。

キャラもいまいちです。
アニメを見ていたので、その分脳内補正が効いてくれてキャラが立っているように見えてしまいますが、ホントのところはかなり微妙な線でしょう。
主人公の茉莉香からして、謎の宇宙船との電子戦に対して発案して撃退するなど、普通の女子高生にはどう足掻いても無理っぽそうなことを一晩で計画してしまったりと、遺伝という言葉で片付けるには無理があろうかと思います。
まぁ、宇宙海賊の船長になろう、って言うんだからこれくらいのことはできてくれないと困る、と言う意図はわかりますが、説得力を持たせてくれなければ評価にはマイナスにしかなりません。
主人公の茉莉香がこれなのだから、他のキャラに至っては推して知るべしでしょう。
SF経験値が低い、と言うのを差っ引いても、アニメを見てなかったらさっぱりな作品です。

と言うわけで、軽く読めそうなスペースオペラ……と言いたいところですが、悪いところばかり目立ってしまっているので、総評は落第です。
アニメのほうは絵があってわかりやすいので、おもしろかったのですが、よくアニメ化されたようなぁ、ってくらいです。
SF経験値の高い方にはいいかもしれませんが、それ以外の人にはまずオススメしません。

あ、そうそう、ひとつだけいいことがありました。
アニメを見ていたので、喋り言葉がちゃんと各キャラの声優さんの声で脳内再現してくれました(笑)
これは楽しかったなぁ(笑)
いや、別にそれだけですけど……。


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第一印象って大事よね

2012-03-09 22:37:37 | SF(国内)
さて、第992回は、

タイトル:なぞの転校生
著者:眉村卓
出版社:角川書店 角川文庫('75)

であります。

1975年って37年前だよ、古いなぁ、この作品……。
と言うわけで、Amazonに該当するものが出てこなかったけど、手に入るのがあったのでそちらにリンクしました。

ちなみに、表題作と「侵された都市」の中編2作なので、それぞれストーリーをば。

『「なぞの転校生」
よく晴れた日曜日、広一はでかけるために団地のドアを開け放った。
廊下を歩きながら何気なく隣室六四〇号室のほうを見た広一は、そこに名札がかかっているのを見て驚いた。
空き室だったはずの六四〇号室。しかし、昨日まで引っ越しの気配はなかったからでもあった。

そこへ六四〇号室の住人であろう少年が現れると息を呑んだ。まるでギリシャ彫刻を思わせるような美少年だったからだ。
怪訝そうな少年に、広一は気まずくなって立ち去ろうとしたが、少年は用事でもあるのか、広一の後を追うようにしてエレベータに乗り込んだ。
――そこへ運悪く停電が起こり、ふたりはエレベータの中に閉じ込められてしまう。
すると少年はポケットライトのようなものを取り出し、鬼気迫る様子でエレベータのドアに穴を開けようとする。

幸い、停電はすぐに復旧したものの、広一は異様な行動を取る少年とこれ以上関わりたくなかった。
だが、それはかなわぬことだった。翌日の月曜日、少年――山沢典夫は、広一のクラスに転校してきたからだった。

典夫は瞬く間にクラスの人気者になった。美少年の上、勉強しているふうでもないのに成績はよく、スポーツをやらせても万能。
人気者になってもおかしくないだけの才能を持った典夫は、しかし奇妙な言動や行動があった。
単なる夕立に放射能汚染の危機を感じてわめいたり、運動会の競技の途中、ジェット機の音で競技を放り出したり……。

しかもそれは典夫に限ったことではなく、典夫と同時期に転校してきた生徒がいて、その生徒たちも同じだったのだ。
さらには広一の学校だけでなく、大阪市内のいくつもの学校で同じような生徒が現れていて……。

「侵された都市」
記者をしている古川は、取材を終えて羽田へ向かう飛行機の中にいた。2時間後には見慣れた羽田空港に到着するはずだったが、到着直前、機体は不自然な挙動を取る。
それでも何とか持ち直し、羽田空港へ着陸した――はずだったが、そこには見慣れた羽田の景色ではなかった。

まるでロケットの発着場のようなそこは、乗客はもとより、機長と言った飛行機のクルーでさえ知らない景色だった。
とにかく様子を見てこなければ何もわからない。古川は、副操縦士の桜井とともに、飛行機を降りて空港事務所らしき建物へと向かった。
ほとんど使われず、廃墟のようなそこを調べていると、どこからともなく円盤状の物体が飛来してくる。
それと同時に、まるで神の声のようにその円盤の元へ向かわなくてはならない衝動に駆られてくるのだ。
桜井も同様のようで、先を争うようにふたりは円盤の元へ向かおうとして――壊れかけていた階段から落ちて気を失ってしまう。

目覚めたとき、円盤はすでにおらず、代わりに何人かの人間が現れ、ふたりを連れて行く。
連れて行かれた先で、円盤への強迫観念を消し去られた古川を待っていたのは、古川が乗った飛行機が降り立ったのは30年後の東京で、バーナード人という宇宙人に支配され、人間は奴隷のように使われているのだと言う現実だった。』

まずは「なぞの転校生」からだけど、これ、1998年に映画化されてるんだね。Amazon見て初めて知ったわ~(笑)
でも、映画化されるほどおもしろいか、これ?

まず初手に感じた、と言うか最初の1ページを読んだときに感じたのが、まるで起承転結の起を抜かして始まったな、ってこと。
それでもうコケた。
読む気が失せた。
でもレビューのためにと読み進んでいって、やっぱり最初の印象って大事だなぁと思った。

ホントに小説として単純におもしろくない。

文章は簡潔と言えば聞こえはいいが、はっきり言って言葉足らずで深みはないし、心理描写も不足気味でキャラが掴みにくい。
設定になんか目を瞠るようなものもなければ、ストーリー展開も驚きや凝った仕掛けというものもなく、盛り上がりに欠ける。
テーマは……まぁ、書かれた時代を反映したものなので、いま読むとしっくり来ない部分はあるのは仕方ないとは思うけど、テーマそのものに「だからどうした」という程度の感想しか抱けないのでさほど魅力に感じることもない。
児童書として講談社青い鳥文庫からも出ているようだけど、はっきり言って児童書で再版する理由がわからない。

まるっきりいいとこなしだな、この作品。


――で、次の「侵された都市」はと言うと、これまた「なぞの転校生」並みにおもしろくないから困ったもの。
主人公の古川はタイムスリップして、未来へ来てしまって、そこは宇宙人に支配された地球。
そこで出会ったレジスタンスとともに戦って、元の時代に戻るストーリーなのだが、文章のせいなのか、ストーリー展開のせいなのか……まぁ、その両方だろうけど、古川がレジスタンスとともに戦う理由がまったく見えてこない。
おかげでキャラは上っ滑りして人間味はないし、ストーリーもありふれた題材で目新しさはない。(目新しさと言う点では書かれた時期から考えれば仕方がない面もあるかもしれないが)

これまたいいところを見つけろと言うほうが無理としか言いようがない作品。

まぁ、この人の作品は初めて読んだからこれだけで評価するのは危険だが、あんまり2冊目を読もうとは思えないよなぁ、最初がこれじゃ……(苦笑)
と言うわけで、当然総評としては落第。
これ以外の評価をつけろと言われても無理って作品は逆に珍しいんじゃないかなぁ。


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映画化……するの?

2006-12-20 23:37:02 | SF(国内)
さて、名前だけは知ってた第750回は、

タイトル:神様のパズル
著者:機本伸司
出版社:角川春樹事務所 ハルキ文庫(初版:H18 単行本初版:H14)

であります。

第三回小松左京賞受賞作。
題名と粗筋に惹かれて読んでみました。
読む前から、ちょっと不安はありましたが……さて。



何もかも中途半端な大学生・綿貫は、迷った末、鳩村ゼミを選択した。
就職はおろか卒業すら危ない状況でも、同級生の保積蛍の尻を追いかけるのをやめられなかったのだ。
だが、友人の佐倉の御膳立てで皆揃ってお茶……という段になったところで、彼は鳩村先生に呼び止められてしまう。

鳩村は非常に厄介な頼み事をしてきた。
不登校の天才少女・穂瑞沙羅華をゼミに参加させて欲しいと言うのだ。
相手はまだ十六歳だが、飛び級で大学に入って来た天才少女である。綿貫はひとまずコンタクトを試みるが――。



SFと言うより、ファンタジーと言った方が正しいかも。

狂言回しの綿貫と知識担当の穂瑞が、『宇宙の作り方』という難問に挑むSFです。
他にもキャラクターは出てくるけど、どいつもこいつも記号人間なんで特に気にする必要なし。
一応、穂瑞の対局に『一人で百姓仕事をしているお婆さん』がいますが、キャラクター描写があまりにも簡素なため、作者の意図ほど重要な位置を得ていません。むしろ、執拗なまでに彼女のことを気にする綿貫の思考回路が理解不能です。

本文は綿貫の日記という体裁で書かれた一人称。
そして、読む前から危惧していたことではありますが、綿貫(生徒)と穂瑞(教師)の会話は、大部分が物理学の講義になっています。
つまり――

『綿貫の知識=作者が要求する最低レベルの知識』

なのですが……いくら綿貫が駄目な生徒でも、当然の如くある程度の知識は持っており、結局のところ物理嫌いにはチンプンカンプンな単語が説明一切なしで山のように飛び交うのは難。
まともに読むなら、最低でも、『一般相対性理論』『特殊相対性理論』『クオーク』『超ひも理論』『エネルギー=質量×光速度の二乗』について事前に知っておく必要があるでしょう。
(この時点でウチの相棒が挫折するのは確実)

で、その『宇宙の作り方』なのですが……ここぞとばかりに作者の妄想が炸裂してます。
一番笑えたのは、「神はサイコロを振らない」と言わんばかりの、穂瑞の態度。
量子力学は誰も扱いたがらない、と綿貫は言っているが、それって、作者が扱いたがらないってことじゃないのか? とか邪推してしまいました。

ちなみにこの話、青春小説っぽい味付けがされていますが、その部分に関しては放り投げに近い形で終わってます。
ラスト近くに起こる事件の後は、殆ど綿貫の独白で、淡々とその後あったことが記されているだけ。
綿貫と穂瑞の間に何らかの決着が付く会話やシーンが用意されているわけでもなく、綿貫の自己満足だけですべては『明日』へと続きます……舐めんな。

自分の思い付きを世間に公表したいって気持ちは解らないでもありませんが、その目的だけ果たしたら後はやっつけ仕事で終わらせて、『小説』と言い張るのはいかがなもんでしょう? よって、オススメしません。
じゃあ、『良く出来た嘘』なのか? と言うと、穂瑞のやった『宇宙創生のシミュレーション』なんて、穴だらけで正直笑い飛ばすしかないってのがどうにも……。

まるでRPG?

2006-11-12 16:11:42 | SF(国内)
さて、これは1冊完結なのねの第712回は、

タイトル:<柊の僧兵>記
著者:菅浩江
出版社:朝日ソノラマ ソノラマ文庫(初版:H2)

であります。

これも古い作品……と言うか、平成2年ってまだぴちぴちしてたころだもんなぁ……(笑)

さて、ストーリーは、ある惑星での物語。
面積のほとんどを乾いた広大な砂漠である惑星で暮らす人々は、点在するオアシスを聖域として、その聖域の小山を神ニューラと崇めていた。
だが、そこは恵みの水をもたらすと同時に、人々にとって毒となる空気をもたらす場所でもあった。

過酷な環境で生きる人々の中にあって、身体の弱い「白い子供」と呼ばれる少年ミルンは、他の青年たちとおなじように生活が出来ないことに悩んでいた。
ニューラとオアシスの恵みを受けて暮らす中、聖域での儀式の途中、円盤に乗った何者かが襲来し、儀式に集まっていた村人たちを虐殺していく。

それから逃げ延びたミルンと、ふたつ年下でおなじ「白い子供」の少女アジャーナは、ミルンの母の言葉に従い、人々に様々な技術を伝え、長い年月を生きる「柊の僧兵」に助けを求めるため、広大な砂漠へ一歩を踏み出す。

えー、よくも悪くも、ふつうで、何のひねりもない話だぁね。
ありきたりなRPGのストーリー展開をそのまま持ってきたようなもので、酷いハズレと言うこともなければ、当たりと言うわけでもない。

だいたい、

主人公のミルン=勇者
アジャーナ=ヒロイン兼魔法使い(魔法は使わないけど頭脳労働に比重あり)
3人の柊の僧兵=三賢者で協力者

と言う構図で敵である異星人ネフトリアと対決する、と言うこれだけとRPGのキーワードで、おそらく本読みのひとには、どういうストーリー展開をするのか、と言うのが簡単に想像がつくだろう。
総じて言うなら、SFを舞台にしたミルンの成長物語だし。

いちおう、ミルンやアジャーナと言った「白い子供」以外に、砂漠に順応した頑強な人々の動きや、柊の僧兵たちにかかるネタなど、一転二転するところもあるが、意外性があるわけではない。
もっとも、前の「オルディコスの三使徒」のように物語やキャラが軽視されていると言う部分はないし、展開やストーリーがわかりやすいので、安心して読めるとは言える。
……言える、と言うか、それしかなかったりするんだけど……。

それにしても、最近のこのひとの作品は雰囲気のあるよい作品があるが、昔のは……いまいちやな……。

ハリウッド戦車物?

2006-11-08 22:41:20 | SF(国内)
さて、SFも浮上するか? な第708回は、

タイトル:くたばれ戦車商隊
著者:上原尚子
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H1)

であります。

お初の作家さんです。
『覇邪の封印』のゲームブックを書いた方らしいのですが……覚えてない。
敵の超重戦車に仲間を奪われた青年が、過去にケリを付けるために復讐戦を挑む物語です。



時は未来――月に建設された都市群が地球に対して独立戦争を仕掛けている時代。
解放戦争と呼ばれるそれは、月都市の大半を巻き込んで二十年以上続いている。
だが、月のすべての都市が地球と敵対しているわけではなく、中立を保つ都市も多数存在した。

そんな状況下で、中立都市内の反地球勢力は極秘裏に解放軍、及び、ゲリラへの援助を開始した。
戦局が拡大するにつれて軍事企業の介入も活発になり、その流れは『商隊』と呼ばれる賞金稼ぎ部隊を生むに至る。
商隊が地球側の兵器を自前の装備で破壊し、そのスコアに応じて企業が賞金を出し、その戦果を解放軍が買うというシステムの確立により、月は巨大な軍事市場と化していた。

戦車商隊『チーム2355』のリーダー・ユカヤは突然の成り行きに衝撃を受けていた。
一年前、自分のいたチーム2228をたった一台で潰滅させた超重戦車『リトルマレイ』――奴を仕留める依頼が、直接自分の元に来たのだ。
こちらのメンバーはアタッカー三人、バックアップ二人、装甲車一台、装備はせいぜい対戦車歩兵分隊クラスでしかない……が、ユカヤは決して逃げるわけにはいかなかった!



一言で言っちゃうと、根性で勝とうとする連中と物だけで勝とうとする連中の戦い、です。
時代は未来、舞台は月ですが、軍事テクノロジーは二十世紀レベル(未来の品は宇宙服とホバーバイクぐらい)だし、月の戦場特有の描写も少ないので、第二次世界大戦ものとして読んでも差し支えはないでしょう。
ユカヤ達2355のメンバーは装甲車に乗って戦場を駆けめぐるのですが、車内が非常に広いため、作品の雰囲気は戦車物と言うより戦艦物に近いかも。

でもね――

シャワー室付きの装甲車って何よ?

シャワー室、休憩室、ホバーバイクとジープの格納庫まであるって……どれだけデカい車やねん!
一応、敵への攻撃はアタッカー(歩兵)が行うみたいですが、攻撃チームである以上、装甲車が攻撃を受けることも多い筈……つーか、冒頭でいきなりユカヤが敵の装甲車をバズーカで破壊してるし……。
こんなでっかい的を用意して戦車に挑む時点で、ナンセンスの極みですね。ついでに言うと、何で後半に出てくる敵のヘリコはこいつを狙わなかったんでしょう? 謎だらけです。

主人公側がこのていたらくですから、敵はもっとひどい。
ターゲットのリトルマレイは、重装甲が売りの超重戦車なのですが……イラスト見る限り、その大きさは駆逐艦レベル。

お前はマウスか?

補助火器はどこ? デカさだけが売りのマウスも機銃だけはちゃんと付けてたぞ。
機銃がないにしても、せめて随伴歩兵ぐらいは付けろ! 近接戦でカモられるだけだぞ!
つーか、一緒に付いてきてる装甲車や戦車も適当に固定機銃撃つしか能がないのか? 歩兵出せ、歩兵! そんなんだから、ユカヤ達アタッカー三人組にいいようにやられちまうんだよ!

ド素人かお前らっ!

地球人は、余程、戦車商隊の戦法を学ぶ気がなかったらしいですね。
バズーカに地雷に手榴弾と、ユカヤ達は対戦車兵器使い放題なのに、地球人はノロマな棺桶を沢山揃えて力押しって……よくもまぁこれで二十年も戦えたもんです。

ついでに言うとドラマも薄い。
メンバー五人、及び、ユカヤの元チームメイトであるザックの視点を使い回すことで群像劇っぽい話にしようとしてるんですが、個々のエピソードの扱いが軽すぎて空中分解してます。
そもそも、何でみんながユカヤを信頼するのかさっぱり解らない。もうちょっと強硬に彼と対立し、魂をぶつける奴がいないとドラマが盛り上がらないんですが。

落第です、褒めようがありません。
ユカヤにとって人生のハイライトとも言えるリトルマレイの撃破は敵のマヌケな戦い方のおかげで盛り上がらないし、最後に語られるユカヤの相棒コーのサブストーリーも何じゃそりゃって感じで……どうにかして下さい、もう。

未来の……

2006-10-10 21:58:15 | SF(国内)
さて、仕方ないとは言え、これは……な第679回は、

タイトル:未来形J
著者:大沢在昌
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H13)

であります。

お初の作家さんです。
長編ですが、割と短い(200ページ)ので手に取ってみました。



ある日、三人の人間が同じ文面のメッセージを受け取った。
「午後五時、丸池公園噴水前。あなたの助けが必要です。J」
菊川真は通信機能のないワープロで、茂木太郎は自分のパソコンで、立花やよいは携帯電話で……。

午後五時、指定された場所には四人の人間が集まっていた。
件の三人だけでなく、自分の占いで何かを感じ取った卜占術師・赤道目子がいたのだ。
これに、偶然通りかかった山野透を加えた五人は、謎の人物Jを救うため動き始める――。



菊川のワープロで謎の人物Jと連絡を取りつつ、彼女を救うために五人組が奔走するSFです。
カバー裏の解説によれば、長編ファンタジック・ミステリーらしいのですが……そうか?
序盤の展開がとにかく強引で、気付いた時には皆さんJを救う使命感に燃えてらっしゃいました。何なんだこいつら?

Jの特徴は――

・自分が誰か思い出せないこと。
・どこか遠いところにいること。
・過去の自分に危険が迫っていて、助かるには五人の助けがいること。
・天使さん(笑)に今いる場所に連れてきてもらったこと。
・天使の協力のおかげで五人組とコミュニケーションを取れていること。

他にもあるのですが、一応このぐらいにしときます。
貴方達は選ばれた戦士です、とか言い出す怪しい人物にしか思えませんね。
これを素直に信じて、彼女を助けるために頑張ろう~、なんて動き出すのはかなり無理があります。

そこで作者は、もっと怪しい人物を出すことでバランスを取ろうとしました――卜占術師・赤道目子がそれです。
重々しい口調で突飛な発言を繰り返す彼女は、Jに匹敵するぐらい怪しいオーラを放っており、このおかげで異常な状況がある程度緩和されています。
納得いくかは別として、一応先を読んでみるか……という気にはなりました。上手いと言えば上手い。
(ちなみにこの目子さん、先に進むにつれて的を射た発言が増え、実はかなりの常識人であることが判明します……味のあるキャラだ)

その後の展開は割と素直でした。
五人組は手探りでJのことを調べ、彼女に関係があると思われる人物を当たります。
実はその人物は現在行方不明で――と、この先は本編で。

あとがき読んで初めて知ったのですが、この作品、携帯電話で配信された作品だったらしいです。
多少展開が強引でも、短いページ数で読者の興味を引く必要があったのですね。ちょっと納得。
もっともそれで評価が上がるかと言われると……。

深く突っ込まなければ、気楽に読める作品として拾ってみてもいい……かも。
一応、事件は作者の手で終わらせているのですが、Jに迫る危機が何なのかは最後までぼやかしてあり、すべての謎が解けるエピローグは一般公募の中から選ぶという形式を取っています。
で、選ばれた最優秀作なのですが……悪くはないし、謎も解けてるんだけど、さほどインパクトはなかったですね。(爆)


☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
LINNの書いた同書のレビューはこちら

「後日談」に

2006-10-06 20:30:31 | SF(国内)
さて、慌てて前の作品を借りてきたの第675回は、

タイトル:五人姉妹
著者:菅浩江
出版社:早川書房(初版:H14)

であります。

前の「永遠の森 博物館惑星」と同様、9編の短編が収録された短編集だが、こちらは連作ではなく、それぞれが独立した作品群。

「五人姉妹」
三十五歳になる園川葉那子は、園川グループの社長令嬢にして、グループが総力を挙げて開発した成長型人工臓器の被験者だった。
幼いころにつけられた人工臓器の不具合のために作られた4人の葉那子のクローン。
理知的な吉田美登里、かわいそうな自分を演じながら得られる財産を値踏みする小坂萌、クローンであることに心を病んでしまった海保美喜、クローンであることも何もかも受け入れ、愛情を受けて天真爛漫に育った国木田湖乃美。

様々な事情から出会うこととなった4人の姉妹との出会いと、葉那子の死の間際を描いた作品。

「ホールド・ミー・タイト」
電脳空間で客の望む理想の人物を演じるキャリアウーマンの松田向陽美は、5歳も年下の部下になった男性への思いを、しかし、おなじ電脳空間のバーや抱き枕ならぬ、抱かれ枕相手に発散していた。
もうすぐ30になる自分と恋する相手への気持ちの中で揺らぐ向陽美は、電脳空間で流行し始めたシステムを経験したあと、いつものバーでバーテンダーの水木に、彼が使った言い回しを語り、そこから思いも寄らない話を聞く。

「KAIGOの夜」
<中枢>というシステムがすべてを知り、動かし、ときに人間に任せる時代。
ケンは、フリーライターのユウジにいまどき、わざわざ介護をしなければならないロボットを作った<中枢>、そしてそれを購入した、元介護士という老人ヨシユキ氏の話をし、ともに取材に向かう。
そこで見、聞いたことにふたりは<中枢>の思いをぶちまける……。

「お代は見てのお帰り」
「永遠の森 博物館惑星」の後日談で、博物館惑星アフロディーテが舞台。
紙材料の技術者のバート・カークランドは、仕事にかこつけて息子に芸術や自然科学の勉強をさせるために、アフロディーテを訪れた。
知識の宝庫であるアフロディーテを気に入っていたバートだったが、運悪く、大道芸のカーニバルの真っ最中。大道芸嫌いのバートは、息子が大道芸に毒されないようにと気を張るがアーサーは大道芸への興味を隠せない。

実は大道芸人にとっては天才科学者であり、バートにとっては嫌いな父、バート、そしてアーサーの3世代に跨る親子というものを描いた作品。

「夜を駆けるドギー」
ハンドルネーム、コープスは、ドギーというロボット犬とネットで知り合ったHANZしか関係の接点がない引きこもり気味の少年だった。
ドギーシリーズのホームページをHANZの助力を得て立ち上げてからしばらくして、奇妙な書き込みが入った。
タイトル:夜を駆ける雑種のドギー
様々な目撃情報や学割を導入してまで売上を援助した自治体などの裏の思惑などが絡み、噂のドギーはとんでもないことを起こす。

「秋祭り」
ドームの中で完全に管理され、遺伝子操作され、間引かれ、完璧な形で出荷する現在の農業を担う、農業従事者の募集の一環として行われた見学に来た試験管テストチューブで生まれた林絵衣子は、あるものを探しに来ていた。
完璧なシステムの中で作られる農作物……そんな工場のような町で行われる秋祭りに一抹の期待を込めていたが……。

「賤の小田巻」
大衆演劇の座長を務める父を持つ入江雅史は、人格トレース終身保養施設、通称AIターミナルに入所した父との関係で、ある記者からの取材を受けていた。
引退公演に賤の小田巻を選び、その映像を遺書とした父……芸を捨てて会社を興し、成功した息子への恨みか、他の何かの理由か、また大した功績もなく、大衆演劇の座長で終わった父をなぜAIターミナルは入所を許可したのか。
様々な憶測が交錯する中、雅史は面会した父から真実を知る。

「箱の中の猫」
横ではなく、縦の直線距離400キロ……森村優佳は、宇宙ステーションのクルーである恋人の普久原淳夫との十日に一度のプライベート通信で、同じ未来を夢見ていた。
しかし、あるときからステーションと地上との通信時間にずれが生じ、原因不明のそれは次第に秒から分へ、時間へと次第に長くなっていき……ステーションは、地上の観測から消えてしまう。
それでも通信は出来るため、優佳は十日ごとのプライベート通信を続け……。

シュレーディンガーの猫を使った逢えない恋人同士の思いが、広がっていく時間のずれの中で交錯する物語。

「子供の領分」
アベマリア療養孤児院に住むマサシは、記憶喪失の少年だった。おなじ孤児院に住む子供たち、マリ先生の役に立つことが大事なマサシだったが、孤児院に現れた不審者、と言う存在が事件の発端になる。
みんなの役に立ちたい、と言う心を逆手に取ろうとする不審者にマサシは……。

うぉ~、長ぇ~……(爆)
木曜劇場を除けば最長かもしれん……。

さて、評価だが、この短編集は良品の部類に入るだろう。
SFの短編集だが、前の連作短編とは違って、一話完結というのが設定などの細かいところを書いていられない、と言うところもあるだろうが、そうしたどうでもいい設定解説や説明が少ないのはいい。
……と言うより、これはどちらかと言うとSFと言う舞台や小道具を使っているに過ぎない「物語」であることが、私にとっては大きい。

だが、それだけでなく、きちんとどれも物語であり、人間をきっちりと描いている。
また、作品によって感じ方の強弱はあるが、どれも概ね雰囲気が感じられ、特に余韻はどの作品にも感じられる。
煽りに「”やさしさ”と”せつなさ”の名手による洗練と成熟のSF作品集」とあるが、この文句に嘘はないだろう。

個人的には、けっこうラストは小っ恥ずかしいくらいだが、けっこうこういう話は好きということで「ホールド・ミー・タイト」、自らの出生からあるものを探し、そのせつなさを描く「秋祭り」が秀逸、かな。

別の意味でネタがない……

2006-10-02 18:22:18 | SF(国内)
さて、またも先週に続いて、な第671回は、

タイトル:星界の紋章III――異郷への帰還
著者:森岡浩之
出版社:早川書房 ハヤカワ文庫(初版:H8)

であります。

老舗ハヤカワが社運を賭けた(半分冗談ではない)、スペースオペラ長編の最終巻です。
実は私、スペオペには物凄い偏見がありまして、これもなかなか手出す気になれませんでした。
ま、基本はボーイミーツ・ガールだし、気楽に読めばいっか~、と自分の背中をテラトンハンマーで押してみたのですが……さて、結果は?
(一部前回の記事と重複する箇所があるように見えますが、気のせいです)



成り行きで、ジントとラフィールは怪しい活動家達と行動を共にすることになった。
監禁先に向かう道中、活動家達は、王女を人質にして自分達の夢をかなえる! という脳天気な作戦を口にする。
ラフィールはアーヴの常識を教えてやり、ジントは作戦放棄を忠告するが、それでも彼らの意志は固かった。

そんな一行の前に人類統合体の軍隊が立ち塞がる。
捕縛されることを嫌ったラフィールが光源弾倉を放ち、たちまち銃撃戦が始まった。
予想外の展開に萎える活動家達と別れ、ジントとラフィールは二人だけで追っ手に立ち向かう。

一方、宇宙では惑星クラスビュールを巡って帝国と人類統合体の艦隊戦が始まっていた――!



これまで、一週またぎで一冊ずつ紹介してきた星界の紋章ですが――

すいませんネタ切れです。

いや、ほんとにネタ切れなんですってば。
前巻で作者の野望が尽きたのか、主役二人の関係にこれといった変化はないし。
宇宙でドンパチ始まったけど、頭のネジが飛んでるアーヴの指揮官が『人類統合体』相手に七面鳥撃ちやってるだけで盛り上がりも何もないし。
先週紹介しなかった、惑星クラスビュールのエントリュア警部と人類統合体のカイト君の、呉越同舟なアーヴ探索紀行も退屈なだけとあっては……もう。

敢えてネタを挙げるなら、活動家気取りのへっぽこ四人組でしょうか。
反帝国クラスビュール戦線なんて大仰なチーム名を名乗ってますが、やったことと言えば、後先考えずに王女誘拐して自分達の立場を悪くしただけ。
犯罪犯すにゃ人が良すぎるし、理想をかなえるには頭脳が足らなさすぎ、おまけに誘拐した筈の御子様二人に庇ってもらって逃走って……いや~、平和な連中ですねまったく。(毒)

後は……特にないな。
アーヴのイイ人っぽい連中によるジント君懐柔作戦とか、ラフィールの昇進面接(デキレース)とか、今後も一緒の軍隊で頑張ろうねみたいな主役二人組の密談とかあったけど――どうでもいいです。
それとジント君、そこにいる優しそうな顔した人は、「君らが抵抗したところで無駄だからさっさと降伏してね」って態度で君の母星に降伏勧告をした指揮官だぞ、解ってんのか? をい。

あ、大事なキャラを忘れてました。
ジントとラフィールを助けた、ロボット馬!
間違いなく、本巻のMVPです――つーか、他のキャラいらない。
彼の最期は涙なくして語れません。
私が許す! 撃った奴死刑っ!

今回も、謹んで×を献上させて頂きます。
これが新時代のスペースオペラなら、私はスペオペなんていりません。

苦手なものは苦手なのさ

2006-10-01 20:03:29 | SF(国内)
さて、読み慣れないジャンルやねの第670回は、

タイトル:永遠の森 博物館惑星
著者:菅浩江
出版社:早川書房(初版:H12)

であります。

地球と月の重力均衡点のひとつ、ラグランジュ3に浮かぶ小惑星を改造した巨大博物館「アフロディーテ」。
人類が手に入れられる限りのありとあらゆる動植物、美術品、音楽、舞台芸術を集めたここで学芸員……それぞれの分野を統括する「美の男神アポロン」に所属する田代孝弘が、9編の短編連作の主人公。

手術によって端末なしに頭に浮かべたことがデータベースなどのシステム群にアクセスできる直接接続者と呼ばれる学芸員だが、学芸員とは名ばかり。
統括部署という名前もあって、様々な問題や厄介ごとを持ち寄ってくるそれぞれの分野の学芸員や、食えない所長の無理難題を、おなじ学芸員だが絵画工芸部「知恵と技術の女神アテナ」に所属するネネ・サンダースと言った同僚たちに助けられながら解決していく物語。

詳細は長くなりすぎるので簡単に各話を。

「1 天井の調べ聞きうる者」
高名な美術評論家のブリジット・ハイアラスが絶賛し、脳神経科病棟の患者が音楽が聞こえると言う画家でもないコーイェン・リーという人物が描いた抽象画の評価を任される話。

「2 この子はだあれ」
非直接接続者のセイラ・バンクハーストが、恐竜学者と人類学者のカミロ、ルイーザという老夫妻の持つ人形の名前を探してもらいたい、と言う依頼を持ち込み、それを解決する話。

「3 夏衣の雪」
能の笛の家元襲名披露にまつわる兄と、家元を襲名する弟との確執を、襲名披露リサイタルの舞台準備の中で描く話。

「4 ける形の手」
孝弘はほとんど出ず、動植物部署のデメテルの学芸員ロブ・ロンサールが、アフロディーテで公演を行うダンサーのシーター・サダウィを博物館内を案内する傍ら、ダンサーとしてのシーターを取り戻させる話。

「5 抱擁」
すでにアフロディーテを退職した旧世代のシステムを持つマサンバ・オジャカンガスが過去のシステムの利点を再度夢見てアフロディーテを訪れる話。
以降の短編に頻繁に登場し、メインキャラとなる孝弘よりも新世代のシステムを移植されたマシュー・キンバリーが登場。

「6 永遠の森」
マシューが企画し、それの目玉として展示される人形と箱庭にまつわるそれぞれの作者とその親族や会社との確執、そして作者ふたりの残された思いを描いた話。

「7 嘘つきな人魚」
デメテル職員が心血を注いで作った人工海に過去、鉄分補給のために置かれた人魚像に惹かれた少年と、その作者ラリーサ・ゴズベックと言う作家の話。
あれこれ書いてくとネタバレになるので、ここはこれだけ。

「8 きらきら星」
小惑星イダルゴで発見された種子と、色彩が施された微片をアフロディーテが調査することとなり、そのうち、微片を担当するアテナの学芸員クローディア・メルカトラスと、その補助として派遣された図形学者ラインハルト・ビシュコフがその謎を解明する話。

「9 ラヴ・ソング」
短編連作のラスト。
「1 天井の調べ聞きうる者」で登場し、時々その話題が触れられていたピアノの名器「ベーゼンドルファー・インペリアルグランド」、通称「九十七鍵の黒天使」と、イダルゴで発見され、培養に成功した蓮のような花、ベーゼンドルファーの持ち主で高名なピアノ奏者ナスターシャ・ビノジエフ、さらに孝弘の妻で最新のテストナンバーシステムを埋め込んだ美和子を交え、孝弘がこれまでに調整と言う名の仕事で失ってきたものを取り戻す話。

それぞれの短編、そして連作としての一貫したストーリーの流れとも、きっちりと出来ており、読み応えは十分。
とは言え、SFと言うと、どうしてもSTORYよりもSCIENCEと言う印象が強く、これも博物館という舞台設定のせいもあって、かなり面倒くさい説明が多く、辟易するところが多々ある。
また、これも仕方がないのだがカタカナ文字の多さも同様に読んでいて読みづらい。

だが、これはまだそうした設定や世界の中にあって、孝弘を中心とする学芸員たち、博物館を訪れる人物たちのドラマがしっかりと描かれているぶん、SCIENCEに偏りすぎたSFよりはよっぽどかマシな作品であろう。

……それでも、やっぱりこうも説明調の会話や地の文が多く、カタカナ文字が乱舞する作品は苦手だな……。
流れが悪くなるところがどうしても出てくるからね。

好みとか、そういうところを差っ引いたとしても、総評は及第。
ただし、偏見たっぷりの私のSFと言うジャンルの中では、SFはちょっと……と言うひとにも比較的オススメしやすい作品であろう。

王女人形売り出し中

2006-09-25 17:01:32 | SF(国内)
さて、先週に続いて、な第664回は、

タイトル:星界の紋章II――ささやかな戦い
著者:森岡浩之
出版社:早川書房 ハヤカワ文庫(初版:H8)

であります。

老舗ハヤカワが社運を賭けた(半分冗談ではない)、スペースオペラ長編の二巻目です。
実は私、スペオペには物凄い偏見がありまして、これもなかなか手出す気になれませんでした。
ま、基本はボーイミーツ・ガールだし、気楽に読めばいっか~、と自分の背中をテラトンハンマーで押してみたのですが……さて、結果は?
(一部前回の記事と重複する箇所があるように見えますが、目の錯覚です)



帝都に向かう途上、ジントとラフィールの乗る巡察艦は正体不明の敵に補足された。
勝ち目が薄いことを悟った艦長は、二人を小型連絡艇に乗せて艦外に送り出す。
二日後、連絡艇はフェブダーシュ男爵領に到着した。

男爵領での『ささやかな戦い』にケリを付け、二人は再び平面宇宙に入った。
だが、スファグノーフ門を前にして、敵の戦列艦に出くわしてしまう。
どうにか追跡を振り切り、通常空間へ戻ったものの、目指す惑星クラスビュールは戦場と化していた。

ジントとラフィールは、通信艦隊の基地から帝都行きの便に乗るという当初の計画を破棄し、クラスビュールに強行着陸するのだが――。



というわけで、作者は見事、ジントとラフィールを二人っきりにすることに成功しました。(笑)
前巻でかなり世界説明をしたおかげか、二人の会話の分量も多くなり、大分ラブコメの色が濃くなっています。
長衣姿のラフィールを見て感動的な抱擁を期待するジント君、敵軍に向かって乙女が口に出来ないようなスラングを叫ぶラフィール、敵の占領下にある街に入るために半分趣味で選んだ服をラフィールに着せるジント君! 等々、御子様二人の小冒険に相応しい(?)お遊びイベントは概ねやってますね。

物語は二部構成で、前半は宇宙を舞台にした脱出行、後半は地上を舞台にした隠密行といったところ。
宇宙ではラフィールの技能が頼みの綱でしたが、地上はジント君の独壇場となり、立場が逆転します。
地上育ちの成り上がり貴族ジントが、不慣れな世界に戸惑う王女ラフィールをフォローするという展開からして、冗談抜きで地上編は『ローマの休日』ごっこかも。

結構危険な状況にも関わらず、二人のノリが割と軽いので、空気が重苦しくなってないのは良いです。
でも、ジントが検問突破する時に脇にいるラフィールのことを、「人形です」と言って誤魔化したり、終盤辺りで、反帝国クラスビュール戦線を自称する馬鹿丸出しな連中が出てきたのはどうかと……。
まぁ、アーヴのルーツをたどっていくと地球の弧状列島にたどり着くなんていう呆れた設定に比べりゃ可愛いもんですが。

それと、前回の記事でも指摘した『奇妙なひらがな表記』ですが、さらにひどくなっています。

「しょうじき(正直)」
「きょくりょく(極力)」
「どうよう(同様)」
「ちょくせつ(直接)」
「そうばん(早晩)」

これが台詞の中だけの話なら、ジントとラフィールの年齢を設定から七歳引き(つまり十歳と九歳になる)にすることで何とかフォローできるのですが、地の文でもやっちゃってる時点で――
お話になりませんね。

飽くまで、ジントとラフィールのラブコメとして見るならギリギリ及第点……にしようかと思ったけど、やっぱ駄目な物は駄目。
二人のズレた会話とすれ違う認識は見てて楽しいんですが、それ以外がひどすぎる。
一応、次巻も読みましたが――。