つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

この分野だけは好きなんだよねぇ

2008-02-10 16:22:54 | その他
さて、今回は特殊な本だよんの第945回は、

タイトル:宇宙探査の50年 SPACE スプートニクからカッシーニまで ナショナルジオグラフィック傑作写真集
編集・出版:日経ナショナルジオグラフィック社(初版:'07)

であります。

いまはだいぶ書店でも月刊誌が並んでて、名前を知ってるひとはけっこういるんじゃないかなぁ、と思うナショナルジオグラフィック誌。
あらゆる自然科学を網羅し、豊富な写真と専門性にも溢れる解説で、私も一時期、この雑誌を定期購読してました。

……つーか、私が購読してたころは書店でなんか販売してなくて、年間購読の申し込みして送られてくるものを読むしか手がなかったんだよねぇ。
そういうのを思うと、やっぱり日本での知名度が上がった、ってことなんだろうねぇ。

さて、自然科学系なんてのは私にとってかな~り……と言うか、おそらくいまの中学の理数系ですらついていくのが厳しいくらいのオンチ(爆)
だけど、この雑誌だけは特別。
そしてその中でも、この写真集のように「宇宙」に関わるものと言うのはとても興味がある。
そんなわけで、ナショナルジオグラフィックのホームページに行ってみると、こんな写真集があるではないか! ってことであっさり購入(笑)

内容は、

「序文」
ジョン・グレンのインタビューを含む数点の写真による序章。

「空の彼方へ -宇宙探査の歩みー」
アポロ11号の打ち上げの様子(観客たちの姿、ロケット発射の写真など)を含む、宇宙探査の歩みを様々な写真とともに解説されている章。
ソビエト時代のライカ犬を乗せた宇宙飛行のライカ犬の写真から、宇宙に連れて行かれたチンパンジー、有人飛行の写真など、序盤は成功の道のり。

でも最後はやはり、スペースシャトル「コロンビア」の空中分解の写真。
集めた破片とかを集めて、スペースシャトルのどの部分にあったのか……そんな残骸だらけの写真はただそれだけで痛ましい。

とは言え、ここのはあんまり個人的に興味は薄いんだよね(笑)

「果てしなき世界 -恒星と銀河の観測-」
ここからが本番。
地球の天文台から撮影されたものから、現在打ち上げられている様々な観測衛星……有名なハッブル宇宙望遠鏡などの観測や撮影から得られた、遙か彼方の銀河、ガス雲、星の誕生の瞬間などなど……。

だいぶんCGを使って処理されているとは言え、その幻想的、且つ壮大な宇宙の姿はただ写真を隅から隅まで眺めるだけでも満足。

「地球の兄弟 -太陽系の素顔-」
今度はうって変わって地球を含む太陽系の惑星や太陽に焦点を当てた章。
こちらは「果てしなき世界」のときとは違って、身近な惑星の知らない側面や貴重な写真などが多数あっておもしろい。

つか、ソビエト……金星でよく53分も機能したもんを作ったよ……。
いくら宇宙開発競争が激しかった時代だとは言え、1975年だもんなぁ。

あと、この章のメインは火星。
いまでもいろいろと議論されている火星の水に関する話題がけっこうあっておもしろい。

「我らが故郷 -宇宙から見た地球-」
あまりページ数としては多くないんだけど、宇宙から見る地球……単に「青く輝く惑星」というありふれたものだけに留まらない、ヒマラヤ山脈の詳細な写真などは、やはりこうしたものならでは。

Google Earthとか、衛星写真を気軽に見られる時代だとは言え、こうしたものでは味わえない地球の姿が見える。


……と、130ページにも満たない写真集ながら、全編フルカラーで見応え抜群の出来。
さすがに自然科学誌として長い歴史を持つだけあって、写真集としては素晴らしい。

……素晴らしいんだけど、やっぱりちょっと本誌のように解説が詳細、ってわけにはいかないので、写真を眺めて楽しむのはいいんだけど、少しくらいの知識がないとつらい、ってのは万人向けってわけじゃないよなぁ。
これでもっと詳細で、わかりやすい解説がきっちり入っていたら、文句なしにオススメ、って言えるんだけどねぇ。
ただ、逆に言えば興味のあるひとにとってはオススメ。

写真集だから値段もちょいとお高めだけど、「果てしなき世界」や「地球の兄弟」とかの写真はホントに見ているだけでもいいくらいだから。

でも最大の難点は、おそらく手に入りにくい、と言うことだろうか。
私もネットで広島市内にある本屋の在庫を検索して、ようやく紀伊國屋書店にあった最後の1冊を手に入れることが出来た、ってくらいだし。
関東圏だとまだまだあるのかもしれないけど、地方の人間にはAmazonあたりで購入するのが吉かも。

と言うわけで、個人的にはかなりオススメしたいところではあるけれど、いろいろと敷居の高い部分がある、と言うことで総評としては及第。
でもやっぱり、興味のないひとにも見てもらいたいなぁ。
まだまだ謎に満ち溢れた宇宙の姿を、これほど綺麗な写真で眺められるものは少ないと思うしね。

たまにはこういうのもありってことで……

2008-01-20 15:20:04 | その他
さて、一応商業ベースの本だからいいよねの第939回は、

タイトル:東方求聞史紀 Perfect Memento in Strict Sense.
著者:ZUN
出版社:一迅社(初版:'06)

であります。

あぁ、とうとうこれを出す事態になってしまった……。
はっきり言って、趣味です。
100%、趣味のための本です。

ストーリーは……ってないのよ~(爆)
これはとあるものの設定資料集+読み物要素が入った本なのです。

そのとあるもの、と言うのは同人で発表され、同人の世界では絶大な人気を誇る「東方Project」と言うシューティングゲームシリーズ。
NECのPC-9801のころからあったシューティングで、Windowsになってから現在で都合10作発表されている。
そうしたたくさんの作品の中での世界観「幻想郷」を舞台に、稗田阿求と言う記憶能力を持って転生する少女が、幻想郷のことをまとめた、と言う体裁で書いた「幻想郷縁起」が本書。

内容は、
「妖怪図鑑」
設定上、現世界と結界で隔離され、江戸時代くらいのイメージの幻想郷に登場する妖怪……と言っても、妖精やら幽霊やらなんやらと、Windows版以降で最新作以前に登場した人間以外の存在の特徴やらが書かれている。
また、ゲーム以外にも僅かに商業ベースで描かれている妖怪などもいたりする。

「英雄伝」
こちらは妖怪ではなく、妖怪図鑑同様、Windows版以降の主人公など、人間のほうの紹介。
ゲーム上のストーリーに関わった話などもあったりと、けっこう詳細。

「危険地域案内」
幻想郷に存在する地名を紹介した章。
「人間の里」とか、「三途の川」とか、危険地域なのか? ってところがあったりするが、基本的に妖怪が跋扈する世界なのでたいていが危険地域(笑)

「独白」
これは幻想郷縁起の著者である稗田阿求が、この縁起をまとめるに当たっての考えなどを綴った部分。

「未解決資料」
これはタイトルどおり、稗田阿求が資料として不完全なため、まとめきれていないものをとりあえず収録した章。

以上の5章に渡る設定資料集のようなものだが、最新作以外(最新作は'07発売なので)の妖怪、人物などが網羅されている。
また、設定と言いながらも基本的に稗田阿求が読み物として執筆していると言う体裁を採っているので読み物としてもおもしろい。

他にも下段に注釈があるのだが、注釈と言うよりはツッコミだったりと、くすっと笑えるところも随所にあり、ゲームをやったことがあるひとにとっては、かなりオススメできる本と言える。

……と言うことは逆に言えば、知らないひとにとってはこれほどどうでもいい本はないのかもしれない。
と言うか、設定資料集なんてものは、その作品を知っていなければそもそも買やしねぇわな(爆)
画集だってそうだし。

てなわけで、Windows版以降のすべてを持っていて、このゲームが大好きな私としては二重丸のオススメをつけたいところではあるし、読み物としても十分おもしろい内容となっているけれど、結局ひとを選ぶ、と言う点はネック。
となると、総評としては当然、及第止まり。

でも、このゲーム、音楽はいいし、シューティングが苦手なひとにも配慮した間口の広い難易度選択が出来たりと、シューティングゲームとして極めてレベルの高い作品ではあるので、ゲーム好きなひとにはちょっと手にしてみるのはいいと思う。
ZUN氏のホームページ「上海アリス幻樂団」には体験版もあるしね。

敢えて本編ではないものを

2007-04-14 23:27:52 | その他
さて、死兆星見えてるかも知れない第865回は、

タイトル:横山光輝三国志事典
編者:論風社
出版社:潮出版社 希望コミックス(初版:83')

であります。

お食事処に置いてある漫画ランキング一位(つれづれ取材班調べ)である『三国志』の解説本です。
原作全六十巻を通して読む気力はありませんが、これはたまーに読み返す時があります。
2003年に『横山光輝三国志大百科』が出ている時点で、無理にこれを読む必要はないかも知れませんが……そこは突っ込まない方向で。(爆)

今でこそ珍しくなくなった漫画解説本ですが、当時としては珍しい存在でした。
長年に渡って読まれてきた古典の漫画版であり、コミックトムの顔だったことが、本書を生むきっかけとなったのではないかと思います。
ちなみに、当時のコミックトムのキャッチコピーは、『驚異の200ページ連載!』……って、驚異を通り越して、異常……。

で、気になる中身なのですが、七章構成+カラーページで、余すところなく横山三国志の魅力を伝えています。
各章について、かいつまんで書くと――

第一章……名場面集です。桃園の誓いや赤壁の戦いなど、厳選した20の名場面を、漫画の絵とともに紹介しています。しかし、孫策との約束を守って太史慈が三千の兵を連れてきたシーンって……名場面なんだろうか?(笑)

第二章……名勝負集です。いずれ劣らぬ名将達の対決を十個紹介。基本は一騎打ちですが、中には複数の人間が絡み合う乱戦もあります。さりげに最後は、知謀の対決だったりするのが面白い。

第三章……戦略集です。一騎打ちが武将の華なら、こちらは軍師の華といったところ。作中で使用された計略を、当初の目論見から実際の結果まで、さらっと紹介しています。個人的に、一番オススメの章。

第四章……名言集です。メインは曹操と劉備三兄弟ですが、一般人の味のある台詞も入ってたりします。しかし曹操、名言多すぎ……。(笑)

第五章……人物事典です。人数が多すぎるため、全員をカバーできているわけではありませんが、記憶を掘り起こすには役立つかも。解説は少なめ。

第六章……雑学集です。本作の元になった『三国志演義』や、三国時代の豆知識を紹介しています。漫画、もしくは原作を知らない方でも楽しめるのはポイント高し。また、最後に地名事典が付いています。(かな~り有り難い)

第七章……三国志から生まれたことわざのリストです。意外な言葉のルーツが判明するかも。

この他、作者である横山光輝のインタビューや、参考資料のリスト、三国時代の地図、年表なども収録されており、三国志を読む際のハンドブックとしてはかなり質の高い内容になっています。
これが出た時、横山三国志はまだ完結してなかったりするという些細な欠点はありますが、ファンなら拾ってみても損はないかと。

なぜ続が先なのかは聞かない方向で……

2007-02-09 23:58:59 | その他
さて、読むのにかなり苦労した第801回は、

タイトル:続ドイツ装甲師団
著者:加登川幸太郎
出版社:朝日ソノラマ 文庫版新戦史シリーズ

であります。

同文庫の「ドイツ装甲師団」の続編。
前作は戦車の発展、装甲部隊の成立等について触れていた(らしい)のですが、本書は、出来上がった部隊の運用について述べています。
砂漠の狐と呼ばれたロンメルから、ソ連の英雄カツコフまで、戦車という兵器を戦場の主役にまで押し上げた名指揮官達の采配をとくと御覧あれ。

あ、終わっちゃった。
(久々だな、このフレーズ)

内容としては、各章ごとに一人の指揮官にスポットをあて、その人物の伝記に近い話と並行して、できたばかりの装甲部隊が戦場に投入され、次第に戦場を支配するようになった過程を書くというもの。
前方指揮という優れた運用法によって迅速かつ正確に行われた機動戦、歩兵主体の部隊とは一線を画す大規模な包囲戦、戦車のスペックが物を言う装甲決戦など、数多くの実戦の記録が紹介されています。
無論、戦術的な話ばかりではなく、補給線の維持や侵攻ルートの決定といった戦略的な話もしっかり出てきます。

新しいことを始める時、旧来の常識が邪魔をするのは世の常ですが、装甲部隊も例外ではありませんでした。
指揮官が先頭に立たないと全軍が一丸になって動ことができないのに、それは非常識だと小言を言われ、戦車主体でいきたいのに、台数を減らされて歩兵や装甲車で穴埋めされたり、機動力を生かして電撃戦をしかけようとしてるのに、部隊は通常の行軍と同じ感覚で動いてたり……もう、何が何やら。
おまけに、『独ソ大戦車戦―クルスク・史上最大の激突』でも書いたように、上司が余計な口を出して全体の足を引っ張ります。前と後ろに敵を抱えたグデーリアンの明日はどっちだ?(笑)

かなり中身の濃い戦記です。
この手の本が好きな人にはオススメ。

難があるとすれば、『独ソ大戦車線~』よりさらに広い地域を扱っている(ノルマンディーからスターリングラードまで)にも関わらず、載っている地図が簡略化されていて、地名と位置が解り辛いこと。
時間の合間に読んでいたので私は無理でしたが、もし読まれるのであれば自前で地図を用意することをオススメします。
あと、人名やたら多いので覚えるのにかなり苦労しました……せめて索引を付けてくれ。

小宇宙を感じた……ことはない

2007-01-17 23:59:59 | その他
さて、最近ペース落ちっぱなしの第778回は、

タイトル:聖闘士星矢大全
監修:車田正美  編集:PROJECT SEIYA
出版社:集英社 ジャンプコミックスセレクション(初版:H13)

であります。

聖闘士星矢のムック本です。
一時期流行った、コミック解説書というやつ。
打ち切りにした漫画の解説本を、臆面もなく出すあたり、さすが集英社ですね。

中身をざっと分類すると――

(1)ストーリーダイジェスト
(2)各キャラ解説
(3)インタビュー
(4)世界考察
(5)その他コラム
(6)用語辞典

といったところです。
以下、各項目について簡単に解説します。

(1)ストーリーダイジェスト
名場面カット込みで、銀河戦争編、白銀聖闘士編、黄金聖闘士編、ポセイドン編、ハーデス編の解説をしています。個人的には、黄金聖闘士との戦いをもうちょっと詳しく書いて欲しかった気もしますが、忘れた記憶を掘り起こすには充分です。オールカラーなのも嬉しいところ。

(2)各キャラ解説
各キャラのプロフィール、聖衣展開図、経歴等を紹介する項で本書の大部分を占めます。主役の星矢は4ページ、他の四人は3ページ、その他の人物は2から1/2ページと、キャラの格差が激しいのが特徴。アイオリアが2ページもらってるのに、アイオロスが1ページってのはちょっと可哀相かも。

(3)インタビュー
作者・車田正美に加え、アニメ版星矢役の古矢徹、スタッフ、果ては、ファン代表としてミュージシャンのToshiyaまで登場するインタビュー集。なぜか、車田正美と新日本プロレスの選手四名の対談が入ってたりもする。

(4)世界考察
各階級の聖闘士の役割を真面目に分析してみたり、登場していない聖衣の想像図を描いてみたりと、かなり気合いの入った世界考察。ツッコミ所満載の本作だが、この項目だけは、そんな部分にもフォローを入れている。ちょっと首を傾げる部分もないではないが、原作を読破した方には一番オススメ。

(5)その他コラム
世界考察と違って、こちらはギャグ調。主要キャラ五人に対してツッコミを入れたり、戦いの合間の小さなエピソードを拾い集めてみたりしている。

(6)用語辞典
本編に登場した専門用語の解説。真面目なものに混じって、妙な解説が載っているのがいい。暗黒四天王=『星矢達のパチモン』、金牛宮=『かませ牛の宮』など、原作を知る方ならクスっとしてしまうネタ満載で、ある意味一番笑える項目。

以上――!

見た目薄い割には良くできてます、これ。
値段も手頃だし、ファンには結構オススメ。

はやったのいったい何年前だ

2007-01-06 15:41:21 | その他
さて、カテゴリ増えたよなぁとしみじみ思うの第767回は、

タイトル:グリム、アンデルセンの罪深い姫の物語
著者:松本侑子
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H11 単行本初版:H8)

であります。

一昔……いや、二昔か……?
もっと前かもしれないけれど、流行りましたよねぇ、一時期、「本当は恐ろしいグリム童話」とか、絵本やディズニーなど、子供のころは当たり前のようにハッピーエンドだったりした優しい物語の原書が、ほんとうはすごい残酷な話だったりするのよ~、って内容の本。

本書も、そうした中のひとつ、と言えるものだが、著者のあとがき曰く、原典にある差別性などを残しつつ、パロディとして、また著者の小説として書いたもの、らしい。

で、本書で扱われている童話は、

眠り姫 → 「眠り姫が性に目覚めるとき」
白雪姫 → 「白雪姫の魔女裁判」
赤ずきん → 「おませで可愛い赤ずきん」
シンデレラ → 「シンデレラと大足の姉たち」
青ひげ → 「青ひげの失楽園」
人魚姫 → 「男の国へ行って死んだ人魚姫」
マッチ売りの少女 → 「マッチ売りの少女娼婦」

の7作。

ストーリーは、基本的に原典を踏襲しているので、ここで言うまでもないが、確かに、「シンデレラ」で姉たちがガラスの靴を履けるようになるために、母親につま先やかかとを切り落とされたり、「赤ずきん」で二匹目の狼に熱湯をかけて殺すなどのシーンはきっちり描かれている。

ただ、「マッチ売りの少女」の話だけは趣を異にして、物語よりもマルクスが「共産党宣言」をした当時の少女売春の情勢を語るのに比重が傾いている。

作品の特徴として物語の最後に、その童話で語られている教訓が書いてある。
これがまた、いまから見れば当時の感覚ってすごいのね、ってくらい。
あとは、「シンデレラ」の足の小ささに中国の「纏足」の話を持ってきたり、キリスト教的な男尊女卑の当時の社会を皮肉ってみたりと、なかなか毒が感じられるところが特徴かな。

しかし、フェミニズム的な批評がどうとか、いろいろと意図してこうしたパロディを書いているらしいが、さして興味のない話題なので「ふぅん」で終わってしまうなぁ。
差別性がどうのって話は、「へぇ、そうだったんだ」と感心して読めるが、それ以外にはなぁ。
分析タイプには、いろいろと解釈のしようもあるだろうし、おもしろいのかもしれないけれど、私みたいなタイプには筋のわかっている話をなぞるだけ、って感じでいまいちおもしろみに欠けるかな。

パロディはパロディでも、「ルードヴィッヒ革命」みたいなのだったら、楽しく読めるんだけどなぁ(笑)

原作命

2006-12-15 15:47:11 | その他
さて、いらんトラックバックがうざいんじゃ~の第745回は、

タイトル:「枕草子」を旅しよう 古典を歩く3
著者:田中澄江
出版社:講談社 講談社文庫(初版:H10)

であります。

「枕草子」には、第13段「山は」や第62段「川は」など、地名にまつわる清少納言の好みや感想と言った段があり、また清水寺などへ詣る段などがあり、そうした「枕草子」にまつわる場所を旅する著者が、旅先での出来事や思いを語る旅行記のようなもの。

構成は7つに分けられているので、それぞれを。

「清少納言というひと」
これは序章のようなもので、著者が思う清少納言の人物像が語られている。

「「春はあけぼの」と東山」
有名な第1段の解説よりは、東山、つまり京都の東山三十六峯を中心に、登山や植物に詳しい著者がそうした峯についての話題を語る。

「宮詣でと寺詣り」
章は分かれているが、前章に引き続き、山とともに、「枕草子」で登場する神社仏閣を訪れたときのことを語る。

「「夏はよる」と賀茂あたり」
葵祭りに始まり、賀茂神社などの話題に触れながら、藤原道長との政争に負けて没落した定子の周辺にまつわる段に思いを馳せる章。

「「秋は夕暮れ」と東国への夢」
第111段「関は」などに上げられている東国の地名などから、静岡や埼玉の狭山市などに赴いたときの話を中心に語る。

「「枕草子」と畿内」
こちらは前章とは一転して、畿内。
もちろん、京都、奈良が中心で、各段に登場する船岡、嵯峨野などを訪れたときのことを語る。

「「冬はつとめて」と「枕草子」の成立」
場所としては三輪山、そして定子の鳥辺野陵と対するようにある一条天皇陵などへ赴いたときのことを語る。

以上、都合7章だが、旅行記と言うよりは、どちらかと言うと、著者が「枕草子」をもとに清少納言の人物像を想像する、と言った趣が強い。
登場する地名やいわゆる「ものづくし」、宮中での出来事など、各段で語られる中から、自らが仕えた定子への思いを想像し、「こうだったのではないか」「あれはこういうことではないか」と想像する著者の語りがよく出てくる。

まぁ、そうしたところは、好みや解釈の違いがあるので、「そうかいな?」と思うところや、「ふむ……」と興味深いところもあったりする。
……するのだが、やっぱり、原作が好きでないと、ぜんっぜん面白くないと思うぞ、これ……(笑)

逆に言えば、好きならば、それなりに興味深く読める本ではある。
とは言っても、ひとを選ぶ本と言うことで辛うじて及第と言ったところだろうか。

二人で一人……とは違います

2006-11-28 23:54:35 | その他
さて、このジャンルは初めてだ、な第728回は、

タイトル:おかしな二人
著者:ニール・サイモン
出版社:早川書房 ハヤカワ演劇文庫(初版:H18)

であります。

ブロードウェィの喜劇王ニール・サイモンの戯曲です。
おかしな二人組の共同生活と破綻、そして……を描くコメディ。



ある蒸し暑い夏の夜……スピード、マレー、ロイ、ヴィニーの四人はオスカー・マディソンの家で週に一度のポーカーに熱中していた。
家主のオスカーは四十三歳のスポーツ記者。離婚後は一人暮らしをしており、皆で集まるには都合がいい。
部屋が荒れ放題なこと、胃を壊しそうなつまみが出ること、家主が妻に払う慰謝料について愚痴を撒き散らしながら借金を重ねること、を我慢する必要があるものの、皆は概ねこの時間を楽しんでいた。

椅子は六つあるが、今日は一人分開いている。
いつもならここで灰皿を綺麗にしている筈の男――フィリックス・アンガーが来ていないのだ。
敢えて考えないようにしていたが、立て続けに電話が鳴り、フィリックスが行方不明になったこと、愛妻と離婚したこと、自殺すると言って家を飛び出したことが判明すると、さすがの悪友達も慌て始めた。

この世の終わりのような顔をして、フィリックスはやってきた。
泣き叫ぶ彼を強引に落ち着かせ、メンバーは一人ずつ帰っていく。
なおも妻と子への未練を口にするフィリックスに、オスカーは言ってしまった――ここで一緒に暮らそう、と。



他人を支配したがる人間は、程度の差はあれど煙たがられるものです。
特に、自覚がないタイプは致命的です……いや、その方が多いけど。
フィリックス・アンガーはこれにピッタリ当てはまる、物凄く鬱陶しい男です。

料理が大好きで、、飲み物とつまみは常に欠かさず、ポーカーをしている最中でも割り込んで個人の好みを尋ね、暇さえあれば台所で何か作っている。
異常と言える程の潔癖性で、部屋はいつもピカピカにし、コースターなしにグラスを置いたら小言を言い、空気清浄機を勝手に止めたらチクチクと釘を刺す。
お喋りが大好きで、相手の状況を無視して、離婚調停中の妻への愛を延々と語り続ける……。

頼むから静かにしてくれ。

すいません、私はせいぜい三日が限界です。
こんなのと四六時中一緒にいたら、オスカーならずとも辟易するでしょう。
オスカーのいい加減な性格も問題あると思いますが、にしてもフィリックスの干渉ぶりはひどい。

全三幕の芝居で、第一幕はフィリックスがオスカーの家に転がり込む話、第二幕は猛威を振るうフィリックスと我慢の限界に達したオスカーの激突、第三幕は遂に訪れた破局とその後の後始末、といったところ。

軽妙な会話は絶品で、二人の両極端な性格を上手く表現しています。
ポーカー四人組の区別が付かないかも知れませんが、こだわらなくても特に問題ありません。
翻訳の問題なのか、そこかしこに女言葉が出てくるのはちょっと引っかかりますが……。
(特にフィリックスはその傾向が強いです。そういうキャラと言ってしまえばそうなのですが)

良くできたコメディです。オススメ。
特に専門用語も出てこないので、普段演劇見ない方でも読めます。
上手が右側、下手が左側ということだけ覚えておけば充分です。(笑)

ギャグのネタではない

2006-11-27 23:52:25 | その他
さて、真っ先に神宮寺三郎が浮かんでしまった第727回は、

タイトル:ザ・ハードボイルド――ものにこだわる探偵たち
著者:馬場啓一
出版社:CBS・ソニー出版(初版:H61)

であります。

ハードボイルドと聞いて、貴方は何を連想するだろうか?

酒、煙草、トレンチコートー――基本中の基本だろう。
車、コーヒー、ギャンブルー――うん、悪くないラインだ。
ソフト帽、グラサン、ベスパP150X――いや、それはちょっと限定し過ぎかも知れない。

本書は、ハードボイルド小説の主人公達の特徴を調べ、系統別に分けてまとめた解説本です。
これさえ読めばハードボイルド物を理解できる……というわけではありませんが、パロディを書くネタには困りません。(笑)
以下、各章について簡単に解説します。

『第1章 酒と酒場』……酒の蘊蓄をたれたり、酒場で女性を口説くのは、ハードボイルド野郎共の特徴である。まず一杯、物語はいつもそこから始まり、そこで終わるのだ。一番長いが、酒の銘柄の解説が多く、興味のない方にはただただ退屈な章だったりする。

『第2章 煙草のけむり』……ハードボイルド野郎共にとって、酒がガソリンなら煙草はオイルである。考えをまとめる時、会話のきっかけをつかむ時、彼らは決まって煙草に火をつける。煙草の銘柄の細かい解説はないが、当然、嫌煙家が楽しめる章ではない。

『第3章 探偵と遊戯』……遊戯と言うより、勝負といった方が正しいだろう。ポーカー、ビリヤード、チェス、果ては依頼人との金銭交渉まで、彼らの周囲には勝負が溢れている。ページ数も内容もちょっと薄い章。ま、賭け事について詳しく語り出したらキリがないが。

『第4章 道具と小物たち』……ライター、ナイフ、カメラ、テープレコーダーなどの用例。これまたページ数、内容ともに薄い。酒に力を入れすぎたからか?

『MID-NIGHT SECRET』……筆者+温水ゆかり+内藤陳の対談。ハードボイルド四方山話。

『第6章 銃と武器たち』……銃は戦闘シーンの主役である。酒や煙草と違って生死に関わるため、ハードボイルド野郎共のこだわりも半端ではない。もっとも、殺陣に比べて銃撃戦ってあまり盛り上がらないが。

『第7章 あの車を追え』……車はハードボイルド野郎共の顔である。自分の車の話題が出ると、彼らは(飽くまで平静を装って)くどくどと語るのが常だ。性能を取るか、見た目を取るか、両方取るかは個人によって違うが、走ればそれでいいと言う者は一人もいない。

『第8章 事件当時の服装』……帽子とトレンチコートが基本。このイメージを確立したのは、やはりチャンドラーだろう。他の服装もあるが、今でも根強い人気を誇るファッションである――これで大体説明がつく章。

『第9章 戦いと休息の部屋』……ねぐらの話。一等地に事務所を構え、家具に使う金をケチるのが王道だろう。ただし、ソファだけは大きいものを買わなくてはならない。色々なことに使えるからだ。(笑)

『第10章 男の食卓』……値段は安く済ませるが、味と手間には妙にこだわるのがハードボイルド野郎共の食事である。特にコーヒーと卵にはやたらとうるさい。こういう客を店側が敬遠するのは至極当然と言える。

ベースはチャンドラーで、それと一緒に他作品の描写を紹介している、といった感じの本です。
チャンドラーマニアの方なら、「この程度のことは誰でも知っている」と笑ってしまうかも。
ちなみに私は一冊も読んだことがありません。(笑)

引用と解説の繰り返しなので、読み物としては二級。
ハードボイルド物(もしくはそのパロディ)を書く時のカタログとしては便利かも。
もっとも、気合い入れて書こうとすると、もっと細かい資料が必要になると思いますが……。

お手軽ウィズ

2006-11-15 18:31:27 | その他
さて、久々にその他のカテゴリーも増やしてみよう、な第715回は、

タイトル:ウィザードリィ・外伝II イマジネーションズ ガイドブック
監修:ベニー松山  編集:BENT STUFF
出版社:アスキー アスキームック(初版:H5)

であります。

ゲームボーイで好評を博した『ウィザードリィ・外伝II 古代皇帝の呪い』の副読本&攻略本です。
ウィザードリィ関連ムックとしては、以前紹介した『ウィザードリィのすべて――ファミコン版』に匹敵する名著。
ちなみに、石垣環のコミック版『ウィザードリィ外伝』とはまったく関係ありません。

監修がベニー松山だけあって、内容は『ウィザードリィのすべて』とほぼ同じ。
カラーページにモンスターイラストと豆知識、モノクロ頁にウィザードリィ基本講座、各階マップと攻略、魔法・アイテム・モンスターの各種データを載せています。
イラストが豊富な上、解説の書き方が上手いため、仮にゲームを持っていなかったとしても読むだけで面白い点まで『ウィザードリィのすべて』と同じです。ここらへんはさすが。

しかし、この本の最大の特徴は……ゲームに登場するすべてのアイテムにグラフィックを付け、それを装備した姿とともにカラーページで披露している所にあります。
古き名品・聖なる鎧から、外伝オリジナルの最強兵器・ベイキングブレードまで、ゲームでは名前と能力から想像するしかなかったアイテムを非常に美しいCGで表現しています……これ見るだけでも買う価値あり。
もちろんそのすべてに解説が入っており、攻略に役立つ上、さらにプレイヤーの想像力をかき立ててくれます。

他の記事も負けてはいません。
カラーページのモンスター解説では、旧ゲームボーイの制約で白黒表示だったモンスターすべて(最終ボス除く)に彩色を施し、一挙紹介しています。
さらに、召喚魔法でのみ呼び出せるモンスター――つまりゲーム本編ではグラフィックが用意されていない連中にまで、新たにイラストを書き起こして紹介するという念の入れよう。

モノクロ頁も、ゲームでは表現されていなかった部分の解説に大きな頁を割いています。
細かいストーリー紹介、冒険の舞台アルマールの情勢、そして何と言っても、イラスト付き迷宮各階ガイド!
その階が造られた目的や、そこに潜む危険な敵の存在について、まるで研究書のような考察を行っています。と言うか、制作者が書いてるんだから、裏設定の公開と言った方が正しいのかな? どちらにせよ面白いのですが。

あ、もちろん攻略記事がおざなりってわけではありません。
クライマックスとなる第十層、第十二層を除けば、ワープゾーンの位置まで書き込まれた詳細なマップが載っています。
アイテムリストには特殊効果および使用時の破壊パーセンテージまで書いてありますし、モンスターデータは数値データに加え特殊能力に防御効果まで網羅しており、これ一冊でゲームがクリアできます。

ゲーム自体についても少し触れておきましょう。

ウィザードリィ・外伝IIは旧作の良さを受け継ぎながらも、新たな面白さを加えた意欲作でした。
明らかに正伝のIを意識したマップ、懐かしの顔触れに混じって出てくる風神・雷神・阿修羅といった東洋の面々、強力無比ながら特定の種族にしか使えないオリジナルアイテム等々、魅力的な要素が満載。
しかも、迷宮支配者を倒したと思ったらその背後に黒幕が存在し、最後は魔界に乗り込んで六魔王やティ×マッ×と対決するという凄まじくスパルタンなストーリーが用意されており、強くなりすぎて相手がいないという不満を吹き飛ばしてくれました。
今だと中古でしか手に入らないでしょうが、ファンなら一度は遊んでみて欲しい傑作です。

イマジネーションズ・ガイドブックの名に恥じない傑作です。オススメ。
ただし……いつものパターンで絶版だったりしますが……。(爆)