つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

超妹大戦シスマゲドンって……駄洒落?

2008-07-30 11:11:35 | ファンタジー(現世界)
さて、多分深く考えてはいけないんだろう、な第980回は、

タイトル:超妹大戦シスマゲドン1
著者:古橋秀之
出版社:エンターブレイン ファミ通文庫(初版:'06)

であります。

ひょんなことから、イモコン(妹コントローラー)なる怪しげな機械を手に入れた烏丸サトルが、妹・ソラの操縦者となって、数多に存在する『妹使い』の争いに巻き込まれていく物語です。
ぶっちゃけ、機動武闘伝Gガンダムのメカを全部妹にして、『S-1妹グランプリ』と名を変えた、超人オリンピックに放り込んだよーな話。
各超人――じゃなくて、妹の解説が妙に凝っており、民明書房ならぬ民萌書房の解説があったり、妹強度(単位は×万シスター)が設定されてたり、ジョジョのスタンド能力そのまんまの六角グラフ(精密動作性とか成長性などの表記も同じ)が付記されてたりと、無駄に熱いです。

熱い……?
そもそも古橋秀之って熱いか?
熱いもの(メカとか武術とか格ゲーとか)が好きで、それをネタにすることが多いようだけど、作品自体はちっとも熱くない気がするのは私だけか?
さー、盛大に喧嘩を売るぞ! ファンの方は今すぐ引き返すべきだ。つーか、読んだら絶対怒る!(自信アリ)








いいんですか? 本当に喧嘩売っちゃいますよ? かめ○め波で吹っ飛んた所に野獣の腕が炸裂し、落ちたらドリルが待っていて、挙げ句の果てに鎌で切り刻まれるなんて目に遭っても知りませんよ? あ、もちろんそーなるのは私の方だけど。(爆)


一見すると、異色作に見える本書ですが……古橋秀之作品であることを考えるとちっとも異色ではありません。
相も変わらずの物量作戦です。
ここで言う物量とはネタのことを指します。ネタとは、所謂『パロディ元』だけでなく、カテゴリーやジャンルのことも意味します。
尋常でない量のネタを投入し、そのド迫力をもって読者を圧倒する! これはデビュー作の『ブラックロッド』から続く古橋秀之のカラーであり、それ故に物量作戦と書きました。
彼の物量作戦には二つの特徴があり、これは初期から全く変わっていません。良い方と悪い方があるのですが、まず、良い方からいきましょう。

☆ネタが解る人に対してのサービス精神が凄まじい。

これはパロディを書く人に必須の能力だと思います。
書くからには、それ、が好きな人を楽しませなくては話になりません。
車の話を書くなら車について調べ、格闘ゲームのパロディを書くなら指が折れるまで遊び尽くし、レンズマンの外伝を書くなら(笑)、本家レンズマンを可能な限り研究するのは当然でしょう。
その点において、古橋秀之は隙がありません。何というか、作品から雄叫びが聞こえてくるぐらい愛を詰め込んで下さいます。恐らく非常に真面目な方なのでしょう。

しかし、問題は次です。

☆ネタの加工が壊滅的なまでに下手。

はっきり言いますが、古橋秀之の作品はとにかくくどい。何がくどいって、ネタに関する説明が。そして、くどすぎる説明の割に、ネタそのものはストーリー上さほど重要ではなかったりする。つまり、ネタを作品内で生かす能力が決定的に欠けているのです。

前述の機動武闘伝Gガンダムの監督・今川泰宏と古橋秀之が、似ているようで似てないのは、ひとえにこの能力の差だと思います。
アニメの話で恐縮なのですが、今川泰宏の作品に『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』というのがありまして、これが原作丸無視ぶっこいて横山光輝キャラを手当たり次第に出すという凄い話なのですが――これ、いちいち元ネタ知らなくても全く問題なく楽しめます。何故なら、監督の作った『ジャイアントロボの世界』の中に無理なく溶け込んでいるからです。
しかし、古橋秀之の作品にはそういった点が欠片も存在しません。一番マシだと思える『ブラックロッド』からして、興味のない人にとっては退屈な説明が延々と続き、読む気力を減退させます。(まぁ、サイバーパンクってそういう面があるのは否めませんが)
見せ方がとにかく下手な上、ストーリーの流れにもそっていない――これって致命的なのではないかと。

例えば、このS-1妹グランプリには『秘湯☆湯けむり地獄』というチェックポイントが出てきます。
ここは飛行タイプのキャラであろうと徒歩で渡らなくてはならず、しかもタオル以外のものは身に付けてはいけない。
もうこれだけで、どんな事が起こるのかは想像がつきます。まー、よーするにあれ――読者サービスという奴です。
期待を裏切らず、間欠泉が吹き出して女性陣のタオルが落ちる。そんなことは、ネタが提供された時点で最初っから解ってます。(笑)

でも、それ以上がないのだ。

本当に、ヒネリもなく、それしか起こらない。
そしてこれは、他の数多に存在するイベントでも同様なのです。まったくと言っていい程、決められたこと以外が起こらない。
スポット的にネタが投入され、ストーリーはそれと無関係に進んでいく……どうにかして下さい、ホント。
もっとも、ストーリーが素晴らしいかと言うと、物量作戦で投入されたネタをさっ引いたら極めて脆弱な物語しか残らなかったりしますが。(←これも、初期の頃から変わらない)

とどめに、対照的な作家として、古橋秀之と同じく初期の電撃文庫を支えた高畑京一郎の名を挙げておきます。
元ネタがあるという点では彼も同じでした。『タイム・リープ』は『時をかける少女』のオマージュだし、『クリス・クロス』は『クラインの壺』の影響下にあります。
が、しかし、ネタの処理という点において高畑京一郎の能力は古橋秀之の比ではありません。

高畑京一郎の作品はネタを知らなくても全く問題なく読めます。
しっかりとしたストーリーに、スパイスとして元ネタがちょっとだけ添えられており、全体的に見ると原作よりパワーアップした感すらあります。
何故なら、古橋がネタに対する過剰までの愛を作品に注ぎ込んでいるのに対し、高畑は飽くまで自分の物語を構築することに終始しているからです。

本書のカバーの著者紹介にある、「~『鬼才』『逸材』『この人もうちょっと売れるといいね』などの評価を恣にする~」という一文に引っかかって、長々と書いてしまいました。
結局、この方が爆発的に売れない理由って、やっぱり本人自身にあるような気がしますね~……逆に、それは熱狂的な固定ファンを生む土壌でもあるんだろうけど。
あ――本書の紹介そのものが頓挫してる。(爆)



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ホタルとマユの三分間書評『人類は衰退しました3』

2008-07-27 23:30:58 | ホタルとマユ関連
さて、時間ギリギリセーフ? な第979回は、

タイトル:人類は衰退しました3
著者:田中ロミオ
出版社:小学館 ガガガ文庫(初版:'08)

であります。


 助手さんは水筒を手放そうとはしません。一度傾け一度おろして、それでおしまい。水分補給のルール。彼が破っているルール。
「全部飲んでしまったら……!」
 片手を水筒に、片手を少年の額に当て、向こう側に押しやる……熱いっ……熱でも出ているんじゃないかという額の熱さ。熱の塊みたいな少年の頭部が、飲み口をがっちりと挟んで離そうとしません。
 喉が鳴りました。
 一度、二度――
「や、やめなさいっ」
 二度、三度――
「やめて!」
 お腹の底から声が割れるほどに叫ぶと、動きが止まります。素早く水筒を奪取。
 中身は?
「ああ……」
 半分。あの数秒にも満たない時間で、一気に半分。
「なんてことを……!」
「……」
   ――本文137頁より。極限状態で理性を放棄しかけた助手さんを止める主人公。



―気付くの遅すぎ?―


 「復活しました~、ホタルで~す♪」
 「……マユだ」
 「おや? どうかされました? 毒と麻痺と呪いと石化とエナジードレインを喰らった後、首ちょんぱされたような顔してますけど」
 「(どういう顔だ、そりゃ……?)
 『人類が衰退しました2』の紹介をした後、あたしはもっぺん二章を読み返してあることに気付いた」
 「はぁ……あまり期待してませんけど、一応お伺いしましょう」
 「これそのまんま不確定性原理ネタじゃねぇかっ!
 つーか、《助手》のことを『不確実な存在』と呼んでる時点で気付くべきだったんだよな~。主人公が妖精郷に行くたびに××するのも説明が付くし、ついでに言えば、一章で『シュレーディンガーの猫』の話が出ている。
 量子論については以前読んだ『不思議の国のトムキンス』でもしっかりネタにされてたのに、何で今頃思い出すかな、あたしはぁぁぁっ!」
 「つまり、とっても解りやすいヒントを思いっきりスルーしてたってことですか?」
 「あー、そうだよ! ったく、自分の間抜けさ加減に嫌気がさすぜ!」
 「でもですね~」
 「あぁ? 理系オンチのくせして、あたしが気付かなかった別のネタを発見したなんて下らんジョークを聞かせる気じゃねぇだろうな?」
 「その、復活聖原理主義者だかシュバルツシルトの虎だか猟師利器学だかで、タイムパラドックスの説明は付くんですか?」
 「!Σ( ̄□ ̄;)」
 「あ、堕ちた」


―お里帰りされました?―


 「さーて、本日御紹介するのは……ようやく最新刊まで辿り着きました。ガガガ文庫の絶対王者! 『人類は衰退しました3』です♪」
 「本巻は一、二巻と異なり、長編『妖精さんの、おさとがえり』一本とおまけの『六月期報告』から成る」
 「いえいえ、おまけがもう一本付いてますよ~。助手さんの描いた絵本『ティードラゴンと鉢植えの都市』が巻末に収録されてます♪」
 「おまけは置いといて、とりあえず本編の話をするぞ。
 国連が始めた新事業ヒト・モニュメント計画の一貫で、主人公達がクスノキの里の近くにある都市遺跡の調査をする話だ。イメージ的にはまんまSF風ダンジョンRPGで、飲料水の不足、謎のバイオ生命、等の様々な危機が主人公達を襲うという、いつになくシリアスな内容になっている」
 「ちょっと補足しますね。
 序盤、調査のためにクスノキの里の電気供給が増えるのですが、電波が苦手な妖精さん達は、それに呼応して一斉に里から退散してしまいます。これにより、今まで妖精さん達の加護を受けていた主人公の生存能力値(TRPG好きの方のみ解る言い方をすると、ヒーローポイント)は一気に低下、リアルに危険な目に遭うようになってしまいます」
 「そういう時に限って、助手と二人だけで遭難しちまうんだから、この主人公もよくよく運がねぇよな」
 「ゲームマスター(作者)の陰謀って気もしますが、本当にトラブルに巻き込まれやすい体質ですね~……」
 「主人公と助手の二人組は、旧世界の存在に直接、間接的に触れつつ、出口を求めて閉じた巨大都市の中をさまよう――大筋はそんなところだ。
 二人組を閉鎖空間に放り込んだおかげで、彼女達の行動を制御しつつ突発的なイベントを起こしやすくなった。そのため、本巻はいつもに増してネタが多い」
 「メインは、さっきマユさんが言ったようにダンジョンRPG、それもコンピューターゲームじゃなくて、テーブルトークとかゲームブックと言った紙媒体の方ですね」
 「だな、妖精が主人公に渡した『まぬある(マニュアル)』なんてそのまんまだし、主人公が学舎にいる頃、ゲームブックで遊んでいたと思われる記述もどっかにあった」
 「初期パーティが、魔法の使えない魔法使いと剣の使えない剣士って時点で、そこはかとなくデスゲームな感じはしますけどね……」
 「そういや、敵が出てきた途端終わりかけたな。もっとも、そんな状況で助手が敵リスト(希望含む)作ってたのは笑えたが。
 他に目に付いたネタと言えば、ウィズ、ドルアーガ、ギャザ、ポケモン――ってゲームネタばっかりかよ!」
 「脈絡もなく登場した猫耳メカ少女と重機マニアのメカ青年がいたじゃありませんか。
 前者はパーマンバッジを身に付けてたし、後者の格好はそのまんまサイボーグ009でしたよ」
 「ああ、《ぴおん》と《オヤジ》か。実はこの二つの名前には元ネタがあって――」
 「そこはネタバレ禁止っ!」


―全体としては?―


 「相も変わらずの面白さなのですが、前半は今までとはちょっと毛色が違いましたね」
 「冒頭に引用したが、主人公マジで死にかけるからな。
 水を求めて彷徨うあたりの描写はなにげにハードで結構好きだ」
 「妖精さんが出てこないのは大きかったですね~。おまけに助手さんが何も喋らないので、余計に空気が重く感じられました」
 「パーティメンバーが増える中盤以降は、割といつもの雰囲気に近くなるんだが、コメディ好きの人間に序盤はちと辛いかも知れねーな。
 ただ、今まで断片的にしか解らなかった本作の世界観が、大分はっきりとした形で示されているのは興味深い。極限状態に置かれた主人公の心理描写も秀逸で、無機質な未来都市の内部探索行なのに、思ったより冗長にならずに済んでいる」
 「後半はいつものハチャメチャっぷりが炸裂しているので、一気に読めばあまり違和感はないかと思われます♪」
 「だな。ゲスト二人絡みのオチもなかなか洒落てたし、言うことなしだ」
 「謎のゲストキャラ二人の正体については、正直不意打ちに近かったのですが……全体を通して描かれている『お里帰り』というテーマを考えると、非常にらしい人選(?)だったかも」
 「意味不明の行動も、一応筋が通ってたしな。
 もっとも……SFにしちゃちと甘すぎるというか、童話チックな感じはしたが」
 「だーから、本作はちょっとブラックなおとぎ話なのですよ。
 いい加減、SFにこだわるのやめません?」
 「いーや、これはSFだ! 機械に感情与える時点で何か引っかかるがSFなんだっ!」
 「『高度に発達した電子頭脳は人の脳と区別がつかなくなる』で万事オッケーなのですよ♪ 良いではないですか、機械が幸せを感じる世界があっても」
 「しかしだなァ……奴らに搭載されているのは所詮、人間を騙すための疑似インターフェイスであって、言ってみればただのハッタリ、イリュージョン、そんなものが太陽系の暖かさを感じるなんてのは、メルヘンどころかギャグなわけで、ああ、よく考えたらこの話ってギャグだったなとか思ってみたりもするんだが、それで誤魔化されるほどあたしは青くない、なんて微妙に歳月を感じさせる嫌な思考がうんぬんかんぬん――」
 「エエイ、夜苛魔死威ッ!」



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ホタルとマユの三分間書評『人類は衰退しました2』

2008-07-22 16:46:00 | ホタルとマユ関連
さて、ようやく二巻目です、な第978回は、

タイトル:人類は衰退しました2
著者:田中ロミオ
出版社:小学館 ガガガ文庫(初版:'07)

であります。


 小さな目で見る世界は、あまりにも玄妙で美しいものでした。
 不意にわたしは、自然の中に駆けていき、そのまま解けてまじりあってしまいたいという、らちもない考えに支配されていました。
「うーん、それはまたこんどでー」
 ……いや、今度とかじゃなくて、一生やったらダメなんですけどね。
 夢追いの結末は、いつだって生々しいデッドエンドです。
 ああ、新しい展開になるたびに、妖精的本能が理性を浸食していっている気が……。
「みはらしのいいところにいきたいですなー」
 そうそう、妖精さんのいそうな場所を見極めるんですよ。
「そこで、おべんと?」
 違います!
   ――本文54頁より。一人ボケツッコミをかます主人公。



―暑いのですよ~―


 「こ~んにちは~、ホ~タ~ル~です~♪」
 「マユだ。お前、まだ酔ってるのか?
 「そんな~ことは、ないのです~よ。暑~さが原因で~、電子頭脳~が、オ~バ~ヒ~ト気味なだけ~です~」
 「(妖怪じゃなかったのかよ?)
 ええい、まだるっこしい! さっさと頭冷やすなりして復活しやがれ」
 「大~丈~夫~、久々~にドルアーガの塔を起~動さ~せて、60階踏~破すれば簡~単に治り~ます~」
 「レトロゲーム攻略したら治るって、どういう熱暴走だ……?


―妖精さんリターンズ♪―


 「さてさて、本日御紹介するのは……すいません大分遅くなりました、ガガガ文庫の大黒柱! 『人類は衰退しました2』です!」
 「(本当にあっさり立ち直りやがった……!)
 前巻の紹介が二ヶ月前か……確かに、ちょっと気長に構えすぎたな」
 「3もまだ読んでる途中ですしね……次はなるべく急ぐので、皆様お許し下さい。
 というわけで本巻の内容ですが、人間と妖精さんの架け橋となる仕事――と言えば聞こえはいいけれど、実際はほとんど何もすることがない調停官の主人公と、とっても不思議な現生人類・妖精さんのまったりとした交流を描く、という基本ラインは変わっていません。前巻と同じく、中編二本とおまけの『五月期報告』を収録」
 「第一章『人間さんの、じゃくにくきょうしょく』は、妖精作と思われる怪しいスプーンを使った主人公が、思考回路も身体サイズも妖精並みに変化してしまって苦労する話だ。パロディネタがてんこ盛りで、知ってるとかなり笑えるが、知らなくても充分に楽しめる作品に仕上がっている」
 「第二章『妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ』は、前巻で話題にされていた《助手さん》を迎えに行く話です。でも、妖精さんがくれたバナナを食べてから何かが狂いだし、主人公は何度も同じ場面に遭遇するという不思議体験をすることになります」
 「ざっくり言っちまうと、『人間さん~』はおとぎ話風味のSF、『妖精さん~』はSF風味のおとぎ話だな」
 「そのココロは?」
 「いや、なんつーかフィーリングで
 「む~……それはどうかと思いますよ~。こじつけでもいいから何か理由を下さい」
 「敢えて言うなら、一章は最初から最後まで明確な説明が付けられるが、二章ははそうでないから、かな?
 前者の場合、キーアイテムのスプーンの効能ははっきりしてるし、主人公がそれによって失ったものを取り戻すという展開も自然で、読んでて最後まで話がブレない」
 「うんうん、とっても解りやすい話でしたね~。
 不思議の国のアリスよろしく、ちっちゃくなっちゃった主人公が、元に戻るためにあちこち回るというメインストーリーのおかげで、寄り道の多さにも関わらず最後まで混乱せずに読めました」
 「だろう。
 ところが後者は、当初の目的こそ助手を迎えに行くことだが、それが行方不明の彼を捜すことになって、さらに妖精の用意したバナナのおかげで時間がぐるぐる回り、その内、目的事態がどーでも良くなってくる。つまり何というか……安定感がねーんだ」
 「それは仕方がないでしょう。この話、主役が主人公から妖精さんにシフトしてますから
 「確かに、最初から最後まで振り回されっ放しだったな、主人公……」
 「人の理解の範疇にない妖精さんが主体となる以上、第二章は不明瞭な話にならざるを得ないのだと思います。そういう意味では、『SF風味のおとぎ話』というのは当たってますね」
 「い……いつになく論理的な指摘をするじゃねぇか。何か悪いもんでも喰ったか?」
 「失礼な! 私はいつもこうです。
 妖精さんが主人公に仕掛けた罠(?)と、それを行った目的については序盤ではっきりと示されてますけど、それに薄く重なるように、助手さんと妖精さんの関わりが存在するのも、話をややこしくしている原因の一つですね。
 一応、最後にみんな揃うシーンで、一連の仕掛けが助手さんの現実認知のために用意されたものだった可能性が示唆されていますが……実のところ、それだけでは説明がつかない部分もあって、最終的には――
やっぱり妖精さんって不思議!
で納得する以外ないのは、いかにも童話らしいと思います。でも、こういうふわふわした感じって好きですよ♪」
 「ホタル――とりあえず病院行け
 「だから何でですかっ!」


―どちらがお好みでせう?―


 「今回も二本立てで、どちらも面白いのですが、敢えてオススメするなら――」
 「一章だな。生物のサイズと認識力の範囲が比例しているという説を軸にした思考ゲームを堪能出来る。怒濤のネタラッシュのおかげでテンションが下がらないのもいい」
 「はうっ! 私の台詞消されたっ!」
 「役には立たないが何が起こるか解らない妖精アイテムの数々は面白ぇし(特に『BLACK HOLE』は良かった)、言葉はおろか思考まで妖精化してしまった主人公の行動はもう笑うしかない。
 『じょーい!(訳:楽しみます!)』な~んて台詞が、シリアスな状況でも出ちまうんだからなァ」
 「あとはパロディネタですか。
 『スプーンおばさん』『冒険者たち』『アルジャーノンに花束を』、他にありましたっけ?」
 「書名ネタがあったな、『これからはじめるCOBOL~学べば一生飯が食える~』って、皮肉かよ!
 カエルも何か元ネタがありそうなんだが、あたしにゃ解らなかった」
 「親指姫じゃないんですか? 花の王子様は出てきませんけど」
 「そんなメルヘンチックなネタはいらんっ!」
 「作品の半分を占める要素をさらっと否定しないで下さい。
 全体を通してみると、メインのネタは『アルジャーノン~』でしょうか。そう言えば、どこかで名前もちらっと出てました」
 「それがすべてと言うわけじゃないが、妖精版『アルジャーノン~』といった感じの作品にはなってるな。面白いから無問題だが」
 「私としては、ちっちゃい状態の主人公と妖精さん達の会話が面白かったですね。いつもは平仮名なのに漢字が交じってたりとか、とぼけてるけど知性を感じさせる台詞がなかなか新鮮でした」
 「というわけで、二章はなかったことにして、一章を思う存分楽しんで頂きたい」
 「ちょっとちょっとちょっと! 何勝手に終わらせてるんですか! 私のオススメは二章ですよ」
 「ロジックが通じない世界は謹んでパスさせてもらう。
 まー、あれだ、いつものように『可愛いっ!』で済ませとけ」
 「だからある程度は通じますってば。さっきも少し触れましたけど、最後の主人公達の考察はそれなりに筋が通ってましたし」
 「あれで納得できるかっ! ああ、読めば読む程頭が痛ぇ……」
 「まぁまぁ、ジュースでも飲んで落ちついて下さい」
 「(ごくごく)……おい、味がしないぞ。何ジュースだこれ?」
 「私特製のバナナ・オレです」
 「! ――バナナの原産地はどこだ?」
 「さぁ、つるっと滑って、妖精さんワールドにれっつごーなのですよ♪」
 「××××××××××××××××!!!!!」



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海皇紀36巻についてつらつらと ~つれづれ号外~

2008-07-15 23:53:55 | つれづれ号外
さて、さりげに買ってたりする号外拾弐回目は――。

タイトル:海皇紀36巻(以下続刊)
著者:川原正敏
出版社:講談社 月刊少年マガジンコミックス(初版:'08)

であります。

当ブログでは初の紹介となる、ファンタジー海洋冒険活劇『海皇紀』の最新巻です。
戦闘力は大陸一の兵法者トゥバン・サノオ並み(つーか、実際にやり合ったら陸奥の技とかで勝っちゃうんだろうなァ……)、知謀は放浪の大軍師チャダの弟子であるアル・レオニス並み(唯一、ファンに土を付けた? でも、その後で完敗)、な主人公ファン・ガンマ・ビゼンが悪知恵と操艦技術を駆使して、大国ロナルディアに戦いを挑む物語ですね。
つーかぶっちゃけ、どんな能力を持ったキャラが出たところで『ファンには劣る』って注釈が付くから、主役は放置プレイかまして、他のキャラ達の二番手争い見てる方が楽しい漫画だと思ってるのは私だけ?(これは同作者の作品『修羅の門』にも言える)

例によって、既刊読了前提&ネタバレ満載で参ります、未読の方はくれぐれも御注意下さい。(定型文)


さてさて、属国であった大陸一の農業国ガルハサン(倉庫とも言う)を落とされ、いよいよ本腰を入れ始めたロナルディア陣営。
必勝を期して東部戦線に大部隊を送り込むものの、雨の中奇襲をかけたウォルハンによって魔道部隊5万を殲滅させられ、逆に足下が危うくなります。
しかし、神速を誇るウォルハンと言えど無補給で西進を続けることは出来ません。そこでロナルディアは、海上からウォルハンを支援する海の一族を叩くべく、ナルド海入口ホルアフト海峡に主力カノン艦隊を終結させるのですが――ってのが前巻までのおおまかな粗筋。

で、本巻ですが、いよいよ海の一族対ロナルディア海軍の大海戦が始まりました。
影船八隻+海将の乗る大型艦七隻が北西に進路を取り、西から来たロナルディア第一・第二・第三艦隊がターンしてそれを追っかける展開。
カノンを避けつつ進むファン達は、次第に陸に追いやられていきます――超遠距離兵装がないからこれは仕方ないよね。

風上にいるロナルディア側が次第に距離を詰め、砲弾によって影船の帆が破られ始めたところで海将達の艦が間に入ります。
各艦、乗組員全員を艦内右舷側に待避させ、海将が舵を取って影船の盾になる構え。
どうやら、トーマ率いる主力艦隊が西からやって来るまで耐えるつもりのようです。(←他人事)

炸薬を詰めてないとは言え砲弾の威力は凄まじく、真っ先にヴィナン・ガルー(ウォルカ・ベアスが死んだ後、海将に復帰した方ですね)が戦死。
エピソード的に優遇されているジト・サントニウスも、負傷しながら舵を握り続けます。
他の方々も、「海の一族を甘く見るなよ」とか言いながら格好付けて下さるんですが……殆ど顔見せ程度の出番しかもらってなかったせいか、とっても薄い。

そいでもって、岬に追い詰められたところでトーマ到着!
このまま挟み撃ちか? と思われたのですが……ここで、怪しい動きを見せていたエラウド・オルデン君率いるロナルディア第三艦隊が間に割って入ります。
「海の一族の大海帥とやら‥‥よくやったよ君は‥‥しかしここまでだ」とか言っちゃうあたり、『主人公舐めた奴はヘコまされる法則』に忠実ですね。いや~真面目な子だ。(笑)

その2ページ後、例によってファンが1ページ丸々使って余裕ぶっこきます。
割って入ってくれてむしろ好都合なんだそうです――要するに、罠にかかる獲物が増えたってことね。
トーマはトーマでZ旗を振り、そのまま、カノンを撃ちまくる第三艦隊に突入! あ、よく考えたらこの状況ってトーゴー・ターンのオマージュなんだ、立場が逆だけど。

くたびれたので、後はダイジェストで。
トーマ率いる艦隊はその三分の一が火艦でした。
しかも、二つの艦の間に綱を張って逃げ道塞いでいる鬼仕様――この攻撃により、第三艦隊はあっさり潰滅します。

どうにかエラルド君は岬側に逃れたのですが、トーマの特攻を喰らって爆散。(ち~ん)
さらに、第三艦隊に当たらなかった火艦が第一・第二艦隊をも襲い、それを逃れた艦も、混乱に乗じて火矢を放つ影船で海の藻屑と化します。
味方を残してすたこら逃げる第二艦隊の旗艦を影船八番艦が追っかけていくところで、次巻に続く――まぁ、沈めちゃうのは解ってますが。

以上――大変盛り上がらない大海戦でした。(爆)

というか、陸軍もそうなんだけど、ロナルディア無能者多すぎ。
せめてもうちょっと敵側の顔キャラの扱いを上げて下さい……唯一役に立つエラルド君からして、せいぜいアグナにぶっ殺されたウォルカ・ベアス程度ってのはどうかと。
艦数を多くしてカノン撃ちまくっても、結局最初から最後までファンの手の内で全員踊ってるだけじゃ、一大決戦(?)って感じはしませんよ~――アレア・モスやイバト・ルタといった味方側の顔役も持ち味を全然発揮してませんし。(むしろ、ファンの側でツッコミ役を担当しているアグナの方が断然目立っている)

個人ドラマが気になるので次も買いますけどね……。(爆)



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ホタルとマユの三分間書評『蒼海訣戰』

2008-07-11 03:08:41 | ホタルとマユ関連
さて、昨日こそは記事が公開されてるだろう――と思われた方、ごめんなさい遅刻しました! な第977回は、

タイトル:蒼海訣戰(1~5巻:以下続刊)
著者:納都花丸
出版社:一迅社 REX COMICS(初版:'06)

であります。


「三笠。
 その……ごめんな、今日は俺のせいで、兄さんに会えなかったり…先輩に絡まれたりして――――――」
「うん、でも。
 俺がやってないって言ったとき、お前が信じてくれて、うれしかった。
 だから今日のことは貸し借りなしにしようぜ」
「うん!
 ……なあ、三笠。
 俺、やっぱりまだよくわかってないかもしれないけど、秋津人と追那人でたくさん違いがあるんだろうけど――――――同じじゃないけど、でも。
 俺たち、友達になれるよな?」
「――――――うん!」
   ――1巻130頁、三笠と初瀬の会話より。



―久々に飲みに行きました―


 「こんばんは~、ホタルでーす♪」
 「マユっす。
 何で今日は夜の収録なんだ?」
 「実はさっきまでお友達とお酒飲んでたのです~」
 「酒……って、いいのかよ未成年!」
 「推定1200歳デスガ何カ?」
 「(そういやこいつ妖怪だったな……)
 で、サシだったのか? それとも集団でドンチャン騒ぎか?」
 「一対一でじっくりと昔話をしてきました。
 あ、このブログの話題も出ましたよ。ホタル君、君の書評には愛が足りないね――って褒められちゃいました~♪」
 「(明らかに褒めてねぇだろ、それは!)
 そりゃ良かったなァ……他に何か言ってたか?」
 「えーと……細かいアラまで見つけ出すのが美徳とされた時代は終わった! 『今、書評は優しさの時代へ』なのだよ! ――って力説されてましたけど?」
 「それはイー×のキャッチコピーだっ! あー、それで誰か目星がついたぜ――後で礼を言っておこう、丁重にな」
 「カクテルおごってもらったので、私は御機嫌なのですよ♪ ん~、カルアミルク美味しい~♪」


―猫耳+仮想戦記?―


 「さて、本日御紹介するのは――『なんちゃって坂の上の雲』なんて野暮は言いっこなし! コミックREXの顔役の一つ『蒼海訣戰』です!」
 「でも、誰がどー見たって『坂の上の雲』だよな」
 「だからそれを言っちゃ駄目っ!」
 「言っちゃ駄目っつってもなぁ、主人公とその兄のモデルが秋山兄弟なのはほぼ確実だぞ」
 「確かにそうかも知れませんが、これはこれで面白いんだからゴチャゴチャ言わないのっ!
 というわけで本作の内容ですが、日清~日露戦争時代をモチーフにした猫耳軍記物です!」
 「いや、それもかなり偏った見方だろ。
 つーか、猫耳三人しか出てきてねーぞ! ついでに言うと尻尾も生えてる!」
 「何を脳が干涸らびたようなことを言ってるんですか。
 読者の89.4%は猫耳目当てで本書を購入してるんですよ!(国土地理院調べ) もはや、猫耳軍記物と言い切ることに何の差し障りもありません! 猫耳キャラさえいれば、ヴェラヤノーチ帝国など小指で粉砕できます!
 「んなわけあるかぁっ!
 ったく……これ以上混乱する前に、きちっとストーリー解説だけはしとくぞ。
 三つの異なる民族が共存する多民族国家・津州皇國(つーか、ぶっちゃけ大日本帝国)を舞台に、水軍志官寮で明日の水軍士官を目指す若者達の姿を描く仮想戦記物だ。ホタルが言ったように、日清戦争後、日露戦争前の時代をモチーフにしており、タイトルの『蒼海訣戰』も日本海海戦のことだと思われる。いちいち口で解説するのも面倒なので、以下に、本作独自の用語と元ネタを列記する」


 【津州皇國(つしまこうこく)】――十五世紀以上に渡って女帝が支配する秋津州國が、汐見王朝と追那人居住地を併合して、二六二四年に誕生した立憲君主制国家。二六五一~二六五三年の津楠戦争(日清戦争)、二六六〇~二六六二の津州皇國内乱(順序が逆だが戊辰戦争?)を経て、現在(二六六四年)、百五代姫巫女(ひみこ)の皇女・壱代(いよ)が統治している。
 【追那人(おいなじん)】――世界で唯一、とがった耳と尻尾を持つ民族で、モデルはアイヌ人。少数民族のため、人口の八割を占める秋津人からは現在でも差別されている。ふとした瞬間に視力以外の視界が開けて、その場にいる他人の意識が流れ込んで来る、カムイピリマ(※リは小文字)という特殊な感覚を有する。中でもカムイピリマを感じる力が特に強い者をカムイサシミと呼ぶ。
 【汐見人(しおみじん)】――金髪碧眼の民族で、モデルは琉球人。ちなみに、一巻の三笠の発言からすると、金髪でない者もいるようだが、詳細は不明。追那人同様、秋津人から差別されており、津州皇國内乱では故郷を最後の戦地にされるというとばっちりまで受けた。
 【水軍志官寮】――説明するまでもないが、大日本帝国で言うところの海軍兵学校、つまりエリート養成所である。元ネタは三年制(時代によって変化)だが、こちらは二年制のようだ。所属する生徒には階級が与えられており、兵卒よりも上の身分として扱われる。
 【ヴェラヤノーチ帝国】――400年の帝政が続く大国。元ネタは多分、ロシア帝国であろう。今の所詳細は不明だが、五巻終了時に怪しい某人物が、「ヴェラヤノーチに行く」と発言しているので、六巻で実態が明らかになる……かも。

 
 「長っ! これはキャラ紹介は次の項に移した方が良さそうですね」
 「だな。しかし、今回は随分と変則的な記事になってるなァ」


―キャラ紹介!―


 「ではでは、猫耳主人公の三笠真清君、15歳!
 経緯は不明ですが、幼少時に三笠家の養子になった追那人の少年で、元の名はサネク。
 おにーさんに憧れて軍人を目指し、初の追那人、しかも十五期首席として水軍志官寮に入寮、周囲の偏見の目と戦いつつ立派な水軍士官を目指すとっても前向きな子です♪
 最大の特徴は猫耳と尻尾ですが、加えて、涙腺が緩いという属性まで備えており、尋常でない可愛さを誇ります。
 萌え要素、天才思考、特殊能力(カムイサシミ)を持つ猫耳少年に死角なしっ! いつ初瀬君が堕ちるか、本当に楽しみですね~♪」
 「何でそこで、や○い話が出てくるんだっ! まったく……油断も隙もあったもんじゃねぇな。
 では、真清の親友の初瀬忠信、同じく15歳。
 十五期次席で真清のルームメイト。水志寮幼年部にあたる巧玉舎では常に首席だった。
 とにかく明るく屈託のない性格で、初対面から追那人である真清に対しても普通に接してきた、ある意味大物。天ボケの気もあり、十五期生のムードメーカー的存在である。
 その実、学業に関しては非常に真摯で、慣れないまとめ役を代わってもらおうと甘えた態度を取る真清を叱咤する場面もあった。
 津楠戦争で父親を失っており、それがトラウマとなっている」
 「絵に描いたようないい子ですよね~、初瀬君。こういう友達って貴重だと思います。
 では、真清君と初瀬君の先輩で、裏の主人公とも言える八島文行君。
 十四期首席で、水志寮唯一の汐見人です。
 真清君と違って秋津人に対する対抗意識が非常に強く、ほとんど誰とも口をきかず、自分の実力を誇示することで身を守っている……ちょっとイタイ子ですね。
 当初は、同じ被差別民族ということで真清君を味方に引き入れようとしていましたが、彼が三笠家の養子と知って逆上、以後は目の敵にするようになります。
 言動は乱暴なものの、微妙に面倒見のいいところがあって、時々フォローを入れてくれるのが救いと言えば救いでしょうか……でもこの子苦手」
 「言ってることは決して間違ってないんだが、立ち回りが下手で損してるよな、八島は。
 何げに文字数がヤバげなので、残る二人はまとめていくぞ。
 真清の兄で陸軍騎兵大尉の三笠光清と、ヒロインにして今上皇帝の壱与
 前者は先の内乱で英雄に祭り上げられた男で、真清の目標となる人物だ。性格はそんまんま頼れる兄貴で、精神的に未熟な弟を色々とフォローした後、レヒトブルグに留学する。真清のことは弟と認めているようだが、『追那の女は抱かない』と発言するなど、民族問題には色々と思うところがあるらしい。もしかして――追那人の女と別れさせられた過去とかあるのか?
 後者はわずか14歳で即位し、現在16歳になったがまだまだ自分に自信が持てずにいる少女皇帝だ。巫女姿とドジっ子属性で、本作の萌え要素の一翼を担う重要キャラだが、立場が立場だけに真清と絡んだのは今の所一度だけだったりする。ちなみに、二巻冒頭で二六六四年即位となっているが、二六六二年の誤植だな(笑)」
 「教官と他生徒の紹介もしたいのですが……スペースがないので割愛します。吉野教官とか、かなり重要なキャラなんですけどね……」


―総評としては?―


 「絵はかなり綺麗ですし、青春群像劇としても良く出来ていると思います♪ 少年漫画的な戦闘シーンは今の所ありませんが、話が進めばそういう展開もあるのではないかと。代わりと言っては何ですけど、二巻の兵棋演習は艦隊戦の醍醐味が味わえる上、各キャラの個性が出ててかなり面白かったですね。
 でもやっぱり、何と言っても猫耳が――(以下略)」
 「あー、お前がその結論に行き着くのはハナから解ってたぜ。
 表紙が猫耳全開なんで軽く見られてしまうかも知れないが、その実、結構骨太な作品だ。
 今、ホタルが言った兵棋演習の場面はかなり凝ってたし、真清や八島が差別と戦うシーンや、生徒達の若者ならではの葛藤もちゃんと描かれている。もっともそれだけだと華がないので……その、なんだ……猫耳少年とか巫女少女とかを出して、上手くバランスを取ってるな。
 グロいシーンもないので、割と幅広い年齢にオススメできる逸品と言えるだろう」
 「一・二巻は水志寮での生活がメイン、三巻では追那人の秘密と光清さんの旅立ちを描き、四・五巻はいよいよ練習艦に乗って乗艦実習、担蓮(大連)上陸と、どんどん話が大きくなってきてるので、今後も期待大ですね!」
 「もっとも今のペースだと、タイトルの蒼海訣戰まで行き着くには、十年ぐらい時をすっ飛ばすか、単行本五十巻ぐらい描かないと無理だぜ。
 それまでコミックREXが保てばいいがなァ~……クックック
 「あの~……それで一番痛手を受けるのは、続きが読めなくなって絶望する自分だってこと、解って言ってます?



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ヴィンランド・サガ6巻買いました! ~つれづれ号外~

2008-07-04 18:43:15 | つれづれ号外
さて、実は本記事よりこっちの方が人気あるんじゃないかとか思ってしまう号外拾壱回目は――。

タイトル:ヴィンランド・サガ6(以下続刊)
著者:幸村誠
出版社:講談社 アフタヌーンKC(初版:'08)

であります。

お待ちかね、キングダムと双璧をなす、歴史漫画の決定版、『ヴィンランド・サガ』の最新巻です。
以前、五巻まで紹介したので、ちょうど続きになりますね。(ウチにしては珍しい!)
例によって、既刊読了前提&ネタバレ満載で参ります、未読の方はくれぐれも御注意下さい。(定型文)


道中色々ありまして、遂に最凶トルケル軍団に追いつかれてしまったアシェラッド達。
トルケルの放ったヴァルキリーズ・ジャベリン改(2141236+強P。ゲージ2消費。ガード不可)によってザコ四人を殲滅され、一同はパニック状態に陥ります。
いつもの如く冷静に対処するアシェラッドでしたが、燻っていた反乱の火種を消すことはできず、敵を目前にして仲間同士の不毛な争いが――ってのが前巻までの大まかな内容。

で、本巻、いよいよトルフィンVSトルケル最終戦が始まりました!
アシェラッド先生は、「ねずみが熊にケンカを売ってやがる……」とかおっしゃってましたが――いや、そんなレベルじゃないでしょう。
敢えて言うなら、「スズメがプテラノドンに喧嘩を売ってやがる……」ってとこでしょうか。(ん? 大して変わらないか?)

つーかね、相手は廬山昇龍覇(623+P)で、突進してくる馬を真正面から吹っ飛ばす戦闘生物ですよ!
いくらトルフィンが加速装置を備えているからって、真正面からやり合って勝てる相手ぢゃないです。
まー、主人公特権って奴でかなり差は縮められますけどね……。

すいません、不毛なツッコミでした。
大方の読者の予想通り、序盤はスピードで勝るトルフィンが微妙に優勢。
トルケルの力任せの攻撃を紙一重でかわしつつ、ナイフでちょっとずつダメージを与えていきます。

トルケル御大、気付いてみれば服はボロボロ、手足は血だらけ。
手下達が驚愕する中、「いいぞトルフィン。お前に敵う奴ァ、オレの手下にも5人といないだろう」と、好敵手を絶賛します。(でもその言い方だと、アスゲートの方が強いってこと?)
もっともその直後に、「だがなァ、トルフィンよ。確かに強いが、お前の剣はなにか……なんかこー…フツ~~~ってカンジ?」と続けるあたり――あンた本当に挑発上手いね。(笑)

怒りゲージMAXで突進するトルフィン! 対するトルケルはダブル・アクス・クラッシャー(41236+強K→追加入力46+K)で迎撃!
しかしこれは命中せず、再び二匹の獣は激しい戦闘に入ります。
再び斧を交差させるトルケル、またしても同じ技かと思われましたが――

「真・ダブル・アクス・クラッシャアアアァァァ!」(236236+強K→追加入力46+K。ゲージ1消費)
※音声はイメージです。実際の台詞とは多少異なります。

斧で雪を吹き飛ばして視界を遮り、その隙に蹴りを放つトルケル!
しかし、オートガードを実装しているトルフィンは、それすらも防ぎます。
足のバネで蹴りの衝撃を殺し……「え?」――

トルフィンは人類初の有人飛行に成功しました。

ああ……地上があんなに遠いよ、父上。
トルケルだって豆粒みたいに見えるさ! あははははははは!
――その高さから落ちたら、普通は死にます。




閑話休題。
アシェラッドの手引きで本隊から離れたクヌートですが――夢の中でラグナルと最後の別れをしていました。
相変わらず、「王子なんてやだよぅ~」と嘆く彼に、ラグナルは自分の行ったゆとり教育を詫び、教育係として助言を与えます。
一言で言ってしまえば、諦めてハイパー・クヌートとして覚醒しようねってとこ。

目覚めたクヌートを待っていたのは、自分を賭けて争うビョルンとザコ十人、そして、相変わらずやさぐれているヴィリバルド神父でした。
もはや地上に自分を愛してくれる者はいなくなったと語るクヌート。
しかし、ヴィリバルド神父はラグナルの想いを否定し、愛とは何かを改めて問います。
(ここの問答は実に面白いので、ぜひ本編をお読みになって下さい! ……書くのが面倒になったわけじゃないです、多分)

かくて、この世に愛などないと悟ったクヌートは、自らの手で楽園を掴み取るために立ち上がる!
暴走ビョルンを正気に戻し、後からやってきた追っ手をも従えて、堂々凱旋。
トルフィンとトルケルの決闘が終わった場に現れ、威厳バリバリの言葉で全員をシメます――凄ぇ。

……あ、そう言えば、トルフィンVSトルケル戦、決着付きました。
アシェラッドをセコンドにしたトルフィンが、トルケルの弱点を攻めて逆転勝利――なのですが、実際は痛み分けに近かったですね。
泥仕合になりかけた所でトルケルの舎弟アスゲートが横槍を入れ、プライドが傷ついたトルケルが負けを認めた、そういう終わり方でした……つーか、これ以外にトルフィンが勝つ方法はないとも言えるが。(笑)

「父王とケンカだ」と宣言するクヌート! 「そのケンカ、助太刀しよう」と申し出るトルケル! ラグナル殺害を告白し、許されるならば自分を使って欲しいと願い出るアシェラッド! 顔キャラ達が歴史の大きな流れに乗る中、話に全く付いていけないトルフィン(主人公)の明日はどっちだ!?(笑)


いやマジでね、途中まではしっかり主人公だったんですよ。でも、ボロボロになってようやく愛しのアシェラッド(?)を取り戻したと思ったら、クヌートに美味しいとこ全部もってかれちゃって……何というか、この先の運命を象徴してる感じですね。そう言えば『聖戦士ダンバイン』のショウ・ザマも、戦いがシーラVSドレイクの様相を呈してからは、単なる一兵士に成り下がったなァ……。



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ホタルとマユの三分間書評『魔法鍵師カルナの冒険(ロックスミス・カルナの冒険)』

2008-07-02 23:03:25 | ホタルとマユ関連
さて、最近はライトノベルと漫画しか紹介してない気がする第976回は、

タイトル:魔法鍵師カルナの冒険(ロックスミス・カルナの冒険)
著者:月見草平
出版社:メディアファクトリー MF文庫J(初版:'05)

であります。


「ありがとうございました」
「私は金庫の鍵を開けただけ。そんなに感謝されるようなことはやってないわ」
 マリはかぶりを振った。
「いいえ、あなたは十年前の私に会うための扉の鍵を開けてくれたんです」
 そう言うとマリはクロネッカーを引き連れて大通りの方に消えて行ってしまった。
 私は右手に握られた銀貨を見た。
 初めて、自分で仕事を請けて仕事をして報酬をもらった。魔法も使わない、簡単ですぐ開く鍵だったし、まだ全然実感が湧いていないけど、私は鍵師として本当の意味でデビューを果たした。
 タイムカプセルが開いた時に女の子が見せた顔を頭に浮かべながら、私は自分がどうして鍵師になりたいと考えるようになったのかを思い出した。鍵を開けた時、お客がお祖父ちゃんに見せる嬉しそうな顔。それに憧れて私は鍵師になろうと思ったんだ。
   ――本文172頁より。カルナと、とある依頼人の会話。



―毎度遅れております―


 「こんにちは~、二週間ぶりのホタルでーす♪」
 「マユだ。
 漫画の新刊をひたすら漁ってたら、いつのまにか十日以上過ぎちまったなァ……」
 「というわけで、悪いのはぜーんぶマユさんです」
 「おい、自分はちゃっかり安全圏か、コラ!
 「御存知の通り、私はちゃんと仕事してましたよ~。ほら、言って言って」
 「あ~、以前から企画だけはあった漫画専用目録がようやく完成した。かなり地味な作業なんで時間はかかったがな」
 「でも、苦労に見合うだけの価値はあるのですよ♪
 例によって、最新の投降覧の【☆『目録へのショートカット』兼『総合案内板』】から行けます」
 「とりあえず、紹介済コミックを男性向け、女性向けの二つに分類し、『コミックス一覧表(白組)』『コミックス一覧表(紅組)』にまとめてある。今後、変更する可能性もあるが、その場合はまた告知する予定だ。
 あと、微妙に一覧表の配置を変更した。作家で検索する場合は『作家別一覧表一括表示』、作品タイトルで探すなら『タイトル別一覧表一括表示』で、すべての目録を一度に見られるようにしてある」
 「作品タイトル別の目録はまだ、ライトノベルと漫画、一部のシリーズ作品しか用意してませんけど、順次追加していく予定――ですよね?」
 「そこは気力と体力次第だな。
 仮に作るとしたら、ジャンル別に作成するつもりではいる」


―鍵師と言っても、某俳優さんのあれではありません―


 「さて、今回御紹介するのは――創刊からはや六年、ようやく業界内での地位も安定したか? なMF文庫Jから『魔法鍵師カルナの冒険(ロックスミス・カルナの冒険)』です!」
 「第1回MF文庫Jライトノベル新人賞『審査員特別賞』受賞作。
 内容的には、古典的な剣と魔法の世界を舞台にした、ファンタジー職業物、といったところだ」
 「その台詞、そのままそっくり『葉桜が来た夏』の時の焼き直しですね……」
 「人のことが言えんのか? お前だって、思いっきり定型文じゃねぇか」
 「それはそれ! これはこれ!(By 島本和彦
 ざっとストーリーを紹介すると――見習い魔法鍵師(ロックスミス)のカルナちゃんが、魔物宝箱(モンスターボックス)に追いかけられたり、銀髪碧眼の美形魔術師に熱を上げたり、日常業務のついでに魔王を封印したりするお話です」
 「ついでかよ!(何か、今日はツッコミ所がやたら多いな)
 序盤はカルナとその師匠のミラによる魔法鍵師の解説、次いで実際の仕事の描写、さらに、舞い込んでくる大仕事の依頼、と、ストーリーの流れは職人物の王道を忠実に踏襲している。
 主役のカルナが15歳の割にはやたらと優秀で、ミラはミラで大陸一の魔法鍵師だったりするので、見せ場となる鍵開けのシーンがスムーズに進みすぎるのがイマイチ引っかかると言えば引っかかるか」
 「そこはテンポを重視した結果と見るべきでしょうね。こういう特殊な設定を利用した作品って、解説が長くなる傾向が激しいですから」
 「まぁ、その通りなんだが……初手でいきなり『伝説の鍵師エドガード=ランキンが施錠した鍵!(作中ではランキンズワークと呼ばれる)』が出てきて、ミラのフォローがあったとは言え、それをカルナが無難に開けちまうってのはどうかな~と思うぞ」
 「ん~、確かに……ランキンズワークの鍵は作中に三度登場しますけど、『解錠に失敗したら死んだり廃人になったりする恐ろしい鍵!』という大仰な設定の割には、どれも肩すかしでしたね……」
 「これで、名前が売れてるだけの山師の作品ってんならまだ解るんだが、それだと下手なコメディで終わっちまうからなァ」
 「師弟漫才してる日常はともかく、仕事に関してはカルナもミラも大真面目なのでそれはちょっとマズイでしょう。
 ちょっと視点を変えて、職人物ではなく、キャラ物としてはどうですか? キャラ数少ないですけど」
 「そりゃ、カルナが可愛いの一言に尽きるだろ」
 「とうとう百合に目覚めましたかっ!」
 「違うわっ!
 師匠を信頼し、ひたむきに魔法鍵師を目指すところが純粋に可愛いと言ってるんだ。
 挑戦心に溢れてはいるものの増長はしないし、豪快な師匠に振り回されているようで、実はミラの抱えている問題を薄々察していたりもする。少々天ボケ気味だったり、惚れっぽいところはあるが、基本的に毒のない真面目な娘だ」
 「素直な成長物語向きの主人公と言えるでしょうね。
 一応、少年向けラノベなので、ミラの趣味でフリフリの服を着せられる――といった萌え要素も持ってたりします♪」
 「胸は洗濯板だけどな!」
 「そういうこと言ってるとオヤヂ疑惑発生しますよ」


―総評といきませう―


 「非常ーに素直な作品です♪
 鍵師見習いとして一生懸命頑張るカルナちゃんの姿を描きつつ、ミラさんの過去と鍵絡みの陰謀を絡めて、最後の魔王サバテとの対決まで持っていく展開はまさにファンタジーの王道!
 これ! といった濃さはないので、尖った作品を求める方には不向きかも知れませんが、変に奇をてらった作品と違って安心して読めます」
 「素直すぎて、中盤からラストまでの展開があっさり読めてしまうのは難ありだ。
 世界最高峰の鍵であるランキンズワークを安売りした結果、肝心の鍵開けのカタルシスが削がれてしまっているのもどうかと思う」
 「でも、二回目と三回目の鍵は省くわけにはいきませんよ。一回目はオマケに近いですが、あそこでランキンズワークの説明をしておかないと、後のシーンが説明過多で冗長になる可能性が高いです」
 つまり、一回目、もしくは二回目の鍵開けは失敗するべきだったんだよな。そうすれば、三回目の鍵開けがかなりシリアスなものになった筈だ」
 「デビュー作なのでページ数的に余裕がなかったのもあるのでしょうが、確かに成長物語としては安易に成功し過ぎてる感じはしますね……。
 個人的には、カルナちゃんが一人で店番をする第三章『胸騒ぎのお留守番』にもうちょっと力を入れて欲しかった気がします」
 「(あたしは安易とまでは言ってないんだがな……)
 それについては同意見だ。冒頭でも紹介した、『他人から見ればささやかだけどカルナにとっては重要な仕事』を丹念に書けば、成長物語としてかなり面白いものになったと思う」
 「他の章は60~70頁取ってあるのに、三章だけは30頁ちょっとで終わってるんですよね……。カルナちゃんのキャラを立たせる上でも重要な章だと思うので、もっと色々書いて欲しかったです」
 「ラストに魔王復活という大仕掛けを持ってきたかった作者の願望も解らないではないが、事が事だけに師匠のミラの方が目立って、カルナがそれに引きずられる形になっちまったのは明らかにマイナスだな。
 つーかキツイこと言えば、『誰かが魔王復活を目論んでいる! これを阻止するには、腕のいい鍵師が必要だ!』ってネタそのものが極めてチープだ」
 「ですね。
 魔王討伐やるぐらいなら、麗しき師弟愛を前面に押し出して――」
 「だからいい加減百合話から離れろっ!」



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