つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ホタルとマユの三分間書評『ようこそ無目的室へ!』

2008-08-13 19:03:31 | ホタルとマユ関連
さて、潜伏中はラノベ読み漁ってました(爆)、な第981回は、

タイトル:ようこそ無目的室へ!
著者:在原竹広
出版社:HOBBY JAPAN HJ文庫(初版:'08)

であります。


「不思議なこと?」
 メガネを光らせ圭助が訊いた。
「うん。透明人間。透明人間」
 一郎の本を指さしつつほづみは繰り返した。
「人が消えたの」
「はぁ? 消えた? なんだそりゃ」
「面白そうだ。よくわからないから、起こったことを時系列順に並べてくれ」
 興味津々といった様子で圭助が促す。
 ほづみは大きくうなずいた。
「うん、わかった。詳しく話すね」
   ――本文13頁より。星垣一郎の読んでいる『透明人間』を見て、皆に謎を提供する宮田ほづみ。



―書の海よ、私は帰ってきた!―


 「お里帰りしてきました、ホタルで~す♪」
 「マユだ。
 まずは、いつもに増して長い潜伏期間だったことを読者諸兄にお詫びしたい」
 「何か今、あり得ない発言を聞いたような……」
 「ま、たまにはな。
 いや、本当は6日の水曜あたりに『ダブルアーツ1』の記事を載せるつもりだったんだよ」
 「このブログにしては珍しく、出たばかりの新刊ですね♪」
 「でまぁ、巷の評判も確認しとこうかと思ってamazonレビューを確認したんだが……それが失敗だっだな。
 面白いぐらいに評価が真っ二つだったので、さらにググってみたらパクリ元が晒されてたり、細かい粗を叩かれまくってたり、挙げ句の果てには御子様お断りなネタがボロボロと――まったく……検索するだけで三日以上潰したのは久々だぜ」
 「ん~何と言うか……かなりズレた意味で注目されてますねぇ。
 裏を返せば、今でもジャンプの影響力は凄いってことなんでしょうけど」
 「にしても、初連載でここまでネタにされる漫画ってのは少ねぇだろ。
 おかげで、当初は『新人にしちゃそこそこ読める方なんじゃね?』って認識だったのが見事に覆されてな……絶望した! とまでは言わねぇが、記事は書けなくなっちまった」
 「それはまた珍しいパターンですね……。
 普段は、他の方々の意見は横に置いといて好き放題言ってるのに」
 「言ってるのに――って、自分はちゃっかりイイ子かテメェ!
 ともあれ、だ、安易な設定とか、キャラの行動の不自然さは置いとくにしても、『クロノクルセイド絡みのアレ』は言い訳しようがないので、クロノファンの怒りは正当な物だと思う。故に、レビューは控えさせて頂く」
 「フレアってないと死ぬって設定は面白いんですけどね~」


―久々の短編連作です―


 「さてさてさて、本日御紹介するのは――『ブライトレッド・レベル』はコケちゃったっぽいけど、こっちで巻き返せるか? 在原竹広さんの新作『ようこそ無目的室へ!』です!」
 「無目的部という非公式クラブに所属する四人組が、日常の小さな謎を解いていくキャラ物ショートミステリだ。ジャンルとしては安楽椅子探偵物と言えるだろう。
 電撃で四作出ている『桜色BUMP』シリーズは、はっきり言って謎解きも何もなかったが、こちらはちゃんとミステリしているのであたし的にポイント高い」
 「『桜色BUMP』シリーズは結構好きですけどね~。
 正直、ミステリとは呼べませんが、キャラ物ホラーとしてはそこそこ面白いではないかと」
 「好きとか言いつつ結構キツイこと言ってんな……ま、その話はまたいずれしよう。
 本作最大の特徴は、この作者にしては珍しく、超常現象が一切起こらないことだ。おまけに、無目的部の活動が活動なので、作品全体に何とも言えないまったり感が漂っている。他作品から入った読者は微妙に違和感を感じるかも知れないが、読みやすさは健在なので、そこらへんは読んでる内に解消される筈だ」
 「補足すると、無目的部というのは帰宅部の校内バージョンです。空いている部室を利用し、お喋りや読書にいそしむ、それだけで特に決められたルールはありません。部員も至って普通の方々で、怪しい呪具を持ち出してくるキャラとか、侵略者に立ち向かう生徒とかもいないです」
 「だから同作者の別作品の話はやめろっつーの。
 キャラの話が出たんで、主要人物四人についてさらっと紹介しとくか」


『宮田ほずみ』/二年四組。おっちょこちょいの元気娘で、話題の提供役。感情の起伏が激しく、圭助のキツイ言動に沈んでしまうこともある。時折、不自然な発言をするのだが……。
『樫圭助』/二年一組、ちっこくて童顔で四人組唯一のメガネ着用者。容姿に対するコンプレックス故、理屈先行で感情を軽視する傾向にあるが、詰めが甘いため余計に子供っぽく見えてしまうのは御愛敬。
『桐谷千尋』/三年六組、清く正しく美しい学園のスター……だが、その実態は男口調、勢い重視の姉御肌。無目的室でのみ、素の姿で登場する。圭助に惚れてたりするけど、本人にはまったく気付いてもらえてない。
『星垣一郎』/三年三組、本作の探偵役。穏やかな口調と、柔和な笑みが特徴の紳士。いつも本を手にしており、積極的に会話に参加することはしないが、最後にさらっと謎を解いて全員を煙に巻く。


 「トラブルメーカー、理論派の進行係、混ぜっ返し担当、自分は動かない探偵役、と見事に基本を押さえたラインナップですね」
 「安楽椅子探偵物の基本は押さえてあるな。
 一幕芝居、かつ、会話主体の話だから必然と言えば必然なんだが、各キャラの個性も良く出ている」
 「一郎さん、素敵ですよね~♪」
 「性格・容姿・能力、三拍子揃った完璧超人ってのは面白みがないのが定番だが、微妙にボケ体質だったり、何故か一人芝居が上手かったりと、味のあるキャラに仕上げてはいたな。
 でもどっちかっつーと、あたしは圭助の方が好みだ。攻撃力はそこそこだが防御力低いわ、すぐムキになるわ、実はドリーマーだったりするわと、とにかく可愛いんだよなァ」
 「前にも言いましたけど、マユさんの可愛いは絶対何か間違ってると思いますっ」
 「そこは見解の相違って奴かね。
 女性陣の方は、天ボケにツンデレと、見事までに王道だな。後は『無口』がいれば完璧だ」
 「いえいえ、微妙にひねってありますよ。ほずみちゃんは単なる天ボケではないですし、千尋さんも、乱暴に見えて実は繊細、と言った方が正しいかと思われます。
 どっちも可愛いタイプだけど、無駄に読者に媚びないのはいい感じですね♪」


―ストーリーはどうですか?―


 「ではでは、ストーリー紹介に参りましょう♪ 全八編のタイトルと概要は以下の通りです」


  一  教室で見たもの / ヤマネちゃんはどうして消えたのかな? 
  二  アイ・ポイント / 昇降口の正面にある絵は贋作? それとも本物?
  三  カレー好きのX / 屋上に来た人、帰っていった人の数が合わないのは何故?
  四  書店の彼女 / 店は終わったのに、お目当ての美少女書店員が出てこない!
  五  それでいいのかの猫 / 三人しかいない部室で、失せ物と言われても……。
  六  ラブレター・フロム・誰か / 怪文書みたいなラブレターもらっちゃったけど、差出人は誰?
  七  妹・由美子の話 / 幽霊が出たよ! え、違うの? 幽霊じゃない?
  八  影絵芝居 / いつもと違う無目的室、いつもと違う影二人――。



 「各短編は時系列順に並んでいますが、内容は独立しているので、通して読まなくてもさほど支障はありません。ただ、八話目の『影絵芝居』はそれまでの総括的内容になっているので、これだけは最後に回すべきでしょう」
 「短編連作のトリのお手本と言っても過言ではない見事なラストだったな。これだけでも、本作は充分評価に値する」
 「えーと……読者の皆様、マユさんは短編連作が大好物なので、評価にはかなり誇張が含まれます。くれぐれも御注意下さい。
 総まとめの第八話を外して考えると、どれが一番お好みですか?」
 「キャラ紹介と謎解きを兼ねる第一話は、最初のつかみとしては申し分ない。ちょっと謎の部分が弱い……というか謎でも何でもないんだが、各キャラの役割分担をはっきりさせているので、連作のトップバッターの役割はきちんと果たしている。
 圭助の恋話って趣向が珍しい四話も好きだ。これまた、順序立てて考えれば簡単に答えは出るんだが、出題者の目が眩んでるので微妙に情報が制限されてるのが面白い。
 後は七話かね。本作唯一の××トリックだったり、出題者が一郎なので圭助が探偵役に変わってたりと、いつもとは違った雰囲気が楽しめる。ミステリとしてもこれが一番出来が良かったな。
 人間消失の真相、店から出てこなかった書店員の謎、幽霊の正体見たり枯れ尾花、と並んだが……好みで選ぶなら四話か」
 「長っ……!
 マユさんが四話を選ぶのは意外ですね。てっきり、ひねくれた暗号解読ものの六話あたりだと思ってました」
 「いや、あれは全然ひねくれてねぇぞ、むしろ安直だ。圭助がわざわざ変な方向に持ってくので、んなわきゃねぇだろ! って突っ込んじまったぐらいだしな。
 そう言うそっちはどれがお好みなんだ?」
 「当然、一郎さん大活躍の第七話です!
 小学二年生の物真似までこなしちゃう一郎さんは、存在そのものが素敵ミステリーなのですよ♪」
 「お前、相変わらず完璧超人好きだなァ……」
 「違いますよ~、美形の完璧超人が好きなだけです」
 「同じだっつーの。
 ホタルのようにキャラ萌えするかどうかは別として、謎解きよりもキャラクターに重点が置かれてるのは確かだな。ただ、簡単とは言え、謎はちゃんと解けるようになっているし、不思議現象とかは一切介入してこないので、ラノベのミステリではかなりオススメの部類に入る」
 「ミステリにしては歯応えがない、という意見もあるかも知れませんが、頭の体操に近い感覚で肩の力を抜いて楽しんで頂ければ、と思います。
 逆に、ミステリ苦手な方は謎解きの快感を味わって下さい。本~当~に、難度低めですから」
 「『ショートショートの世界』の記事でも言ったが、こういう作品が増えれば、多少はショートショートの地位も上がるんじゃねーかと思う。と言うわけで、続編に期待だぜ」
 「裏表紙の紹介文にある、『ちょっと安楽椅子探偵風な物語、ここに開幕』の最後の二文字に期待したいところですね♪
 タイトルに『1』とは付いてませんけど」
 「期待してるんなら不吉なことは言うなっ!」



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ホタルとマユの三分間書評『人類は衰退しました3』

2008-07-27 23:30:58 | ホタルとマユ関連
さて、時間ギリギリセーフ? な第979回は、

タイトル:人類は衰退しました3
著者:田中ロミオ
出版社:小学館 ガガガ文庫(初版:'08)

であります。


 助手さんは水筒を手放そうとはしません。一度傾け一度おろして、それでおしまい。水分補給のルール。彼が破っているルール。
「全部飲んでしまったら……!」
 片手を水筒に、片手を少年の額に当て、向こう側に押しやる……熱いっ……熱でも出ているんじゃないかという額の熱さ。熱の塊みたいな少年の頭部が、飲み口をがっちりと挟んで離そうとしません。
 喉が鳴りました。
 一度、二度――
「や、やめなさいっ」
 二度、三度――
「やめて!」
 お腹の底から声が割れるほどに叫ぶと、動きが止まります。素早く水筒を奪取。
 中身は?
「ああ……」
 半分。あの数秒にも満たない時間で、一気に半分。
「なんてことを……!」
「……」
   ――本文137頁より。極限状態で理性を放棄しかけた助手さんを止める主人公。



―気付くの遅すぎ?―


 「復活しました~、ホタルで~す♪」
 「……マユだ」
 「おや? どうかされました? 毒と麻痺と呪いと石化とエナジードレインを喰らった後、首ちょんぱされたような顔してますけど」
 「(どういう顔だ、そりゃ……?)
 『人類が衰退しました2』の紹介をした後、あたしはもっぺん二章を読み返してあることに気付いた」
 「はぁ……あまり期待してませんけど、一応お伺いしましょう」
 「これそのまんま不確定性原理ネタじゃねぇかっ!
 つーか、《助手》のことを『不確実な存在』と呼んでる時点で気付くべきだったんだよな~。主人公が妖精郷に行くたびに××するのも説明が付くし、ついでに言えば、一章で『シュレーディンガーの猫』の話が出ている。
 量子論については以前読んだ『不思議の国のトムキンス』でもしっかりネタにされてたのに、何で今頃思い出すかな、あたしはぁぁぁっ!」
 「つまり、とっても解りやすいヒントを思いっきりスルーしてたってことですか?」
 「あー、そうだよ! ったく、自分の間抜けさ加減に嫌気がさすぜ!」
 「でもですね~」
 「あぁ? 理系オンチのくせして、あたしが気付かなかった別のネタを発見したなんて下らんジョークを聞かせる気じゃねぇだろうな?」
 「その、復活聖原理主義者だかシュバルツシルトの虎だか猟師利器学だかで、タイムパラドックスの説明は付くんですか?」
 「!Σ( ̄□ ̄;)」
 「あ、堕ちた」


―お里帰りされました?―


 「さーて、本日御紹介するのは……ようやく最新刊まで辿り着きました。ガガガ文庫の絶対王者! 『人類は衰退しました3』です♪」
 「本巻は一、二巻と異なり、長編『妖精さんの、おさとがえり』一本とおまけの『六月期報告』から成る」
 「いえいえ、おまけがもう一本付いてますよ~。助手さんの描いた絵本『ティードラゴンと鉢植えの都市』が巻末に収録されてます♪」
 「おまけは置いといて、とりあえず本編の話をするぞ。
 国連が始めた新事業ヒト・モニュメント計画の一貫で、主人公達がクスノキの里の近くにある都市遺跡の調査をする話だ。イメージ的にはまんまSF風ダンジョンRPGで、飲料水の不足、謎のバイオ生命、等の様々な危機が主人公達を襲うという、いつになくシリアスな内容になっている」
 「ちょっと補足しますね。
 序盤、調査のためにクスノキの里の電気供給が増えるのですが、電波が苦手な妖精さん達は、それに呼応して一斉に里から退散してしまいます。これにより、今まで妖精さん達の加護を受けていた主人公の生存能力値(TRPG好きの方のみ解る言い方をすると、ヒーローポイント)は一気に低下、リアルに危険な目に遭うようになってしまいます」
 「そういう時に限って、助手と二人だけで遭難しちまうんだから、この主人公もよくよく運がねぇよな」
 「ゲームマスター(作者)の陰謀って気もしますが、本当にトラブルに巻き込まれやすい体質ですね~……」
 「主人公と助手の二人組は、旧世界の存在に直接、間接的に触れつつ、出口を求めて閉じた巨大都市の中をさまよう――大筋はそんなところだ。
 二人組を閉鎖空間に放り込んだおかげで、彼女達の行動を制御しつつ突発的なイベントを起こしやすくなった。そのため、本巻はいつもに増してネタが多い」
 「メインは、さっきマユさんが言ったようにダンジョンRPG、それもコンピューターゲームじゃなくて、テーブルトークとかゲームブックと言った紙媒体の方ですね」
 「だな、妖精が主人公に渡した『まぬある(マニュアル)』なんてそのまんまだし、主人公が学舎にいる頃、ゲームブックで遊んでいたと思われる記述もどっかにあった」
 「初期パーティが、魔法の使えない魔法使いと剣の使えない剣士って時点で、そこはかとなくデスゲームな感じはしますけどね……」
 「そういや、敵が出てきた途端終わりかけたな。もっとも、そんな状況で助手が敵リスト(希望含む)作ってたのは笑えたが。
 他に目に付いたネタと言えば、ウィズ、ドルアーガ、ギャザ、ポケモン――ってゲームネタばっかりかよ!」
 「脈絡もなく登場した猫耳メカ少女と重機マニアのメカ青年がいたじゃありませんか。
 前者はパーマンバッジを身に付けてたし、後者の格好はそのまんまサイボーグ009でしたよ」
 「ああ、《ぴおん》と《オヤジ》か。実はこの二つの名前には元ネタがあって――」
 「そこはネタバレ禁止っ!」


―全体としては?―


 「相も変わらずの面白さなのですが、前半は今までとはちょっと毛色が違いましたね」
 「冒頭に引用したが、主人公マジで死にかけるからな。
 水を求めて彷徨うあたりの描写はなにげにハードで結構好きだ」
 「妖精さんが出てこないのは大きかったですね~。おまけに助手さんが何も喋らないので、余計に空気が重く感じられました」
 「パーティメンバーが増える中盤以降は、割といつもの雰囲気に近くなるんだが、コメディ好きの人間に序盤はちと辛いかも知れねーな。
 ただ、今まで断片的にしか解らなかった本作の世界観が、大分はっきりとした形で示されているのは興味深い。極限状態に置かれた主人公の心理描写も秀逸で、無機質な未来都市の内部探索行なのに、思ったより冗長にならずに済んでいる」
 「後半はいつものハチャメチャっぷりが炸裂しているので、一気に読めばあまり違和感はないかと思われます♪」
 「だな。ゲスト二人絡みのオチもなかなか洒落てたし、言うことなしだ」
 「謎のゲストキャラ二人の正体については、正直不意打ちに近かったのですが……全体を通して描かれている『お里帰り』というテーマを考えると、非常にらしい人選(?)だったかも」
 「意味不明の行動も、一応筋が通ってたしな。
 もっとも……SFにしちゃちと甘すぎるというか、童話チックな感じはしたが」
 「だーから、本作はちょっとブラックなおとぎ話なのですよ。
 いい加減、SFにこだわるのやめません?」
 「いーや、これはSFだ! 機械に感情与える時点で何か引っかかるがSFなんだっ!」
 「『高度に発達した電子頭脳は人の脳と区別がつかなくなる』で万事オッケーなのですよ♪ 良いではないですか、機械が幸せを感じる世界があっても」
 「しかしだなァ……奴らに搭載されているのは所詮、人間を騙すための疑似インターフェイスであって、言ってみればただのハッタリ、イリュージョン、そんなものが太陽系の暖かさを感じるなんてのは、メルヘンどころかギャグなわけで、ああ、よく考えたらこの話ってギャグだったなとか思ってみたりもするんだが、それで誤魔化されるほどあたしは青くない、なんて微妙に歳月を感じさせる嫌な思考がうんぬんかんぬん――」
 「エエイ、夜苛魔死威ッ!」



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ホタルとマユの三分間書評『人類は衰退しました2』

2008-07-22 16:46:00 | ホタルとマユ関連
さて、ようやく二巻目です、な第978回は、

タイトル:人類は衰退しました2
著者:田中ロミオ
出版社:小学館 ガガガ文庫(初版:'07)

であります。


 小さな目で見る世界は、あまりにも玄妙で美しいものでした。
 不意にわたしは、自然の中に駆けていき、そのまま解けてまじりあってしまいたいという、らちもない考えに支配されていました。
「うーん、それはまたこんどでー」
 ……いや、今度とかじゃなくて、一生やったらダメなんですけどね。
 夢追いの結末は、いつだって生々しいデッドエンドです。
 ああ、新しい展開になるたびに、妖精的本能が理性を浸食していっている気が……。
「みはらしのいいところにいきたいですなー」
 そうそう、妖精さんのいそうな場所を見極めるんですよ。
「そこで、おべんと?」
 違います!
   ――本文54頁より。一人ボケツッコミをかます主人公。



―暑いのですよ~―


 「こ~んにちは~、ホ~タ~ル~です~♪」
 「マユだ。お前、まだ酔ってるのか?
 「そんな~ことは、ないのです~よ。暑~さが原因で~、電子頭脳~が、オ~バ~ヒ~ト気味なだけ~です~」
 「(妖怪じゃなかったのかよ?)
 ええい、まだるっこしい! さっさと頭冷やすなりして復活しやがれ」
 「大~丈~夫~、久々~にドルアーガの塔を起~動さ~せて、60階踏~破すれば簡~単に治り~ます~」
 「レトロゲーム攻略したら治るって、どういう熱暴走だ……?


―妖精さんリターンズ♪―


 「さてさて、本日御紹介するのは……すいません大分遅くなりました、ガガガ文庫の大黒柱! 『人類は衰退しました2』です!」
 「(本当にあっさり立ち直りやがった……!)
 前巻の紹介が二ヶ月前か……確かに、ちょっと気長に構えすぎたな」
 「3もまだ読んでる途中ですしね……次はなるべく急ぐので、皆様お許し下さい。
 というわけで本巻の内容ですが、人間と妖精さんの架け橋となる仕事――と言えば聞こえはいいけれど、実際はほとんど何もすることがない調停官の主人公と、とっても不思議な現生人類・妖精さんのまったりとした交流を描く、という基本ラインは変わっていません。前巻と同じく、中編二本とおまけの『五月期報告』を収録」
 「第一章『人間さんの、じゃくにくきょうしょく』は、妖精作と思われる怪しいスプーンを使った主人公が、思考回路も身体サイズも妖精並みに変化してしまって苦労する話だ。パロディネタがてんこ盛りで、知ってるとかなり笑えるが、知らなくても充分に楽しめる作品に仕上がっている」
 「第二章『妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ』は、前巻で話題にされていた《助手さん》を迎えに行く話です。でも、妖精さんがくれたバナナを食べてから何かが狂いだし、主人公は何度も同じ場面に遭遇するという不思議体験をすることになります」
 「ざっくり言っちまうと、『人間さん~』はおとぎ話風味のSF、『妖精さん~』はSF風味のおとぎ話だな」
 「そのココロは?」
 「いや、なんつーかフィーリングで
 「む~……それはどうかと思いますよ~。こじつけでもいいから何か理由を下さい」
 「敢えて言うなら、一章は最初から最後まで明確な説明が付けられるが、二章ははそうでないから、かな?
 前者の場合、キーアイテムのスプーンの効能ははっきりしてるし、主人公がそれによって失ったものを取り戻すという展開も自然で、読んでて最後まで話がブレない」
 「うんうん、とっても解りやすい話でしたね~。
 不思議の国のアリスよろしく、ちっちゃくなっちゃった主人公が、元に戻るためにあちこち回るというメインストーリーのおかげで、寄り道の多さにも関わらず最後まで混乱せずに読めました」
 「だろう。
 ところが後者は、当初の目的こそ助手を迎えに行くことだが、それが行方不明の彼を捜すことになって、さらに妖精の用意したバナナのおかげで時間がぐるぐる回り、その内、目的事態がどーでも良くなってくる。つまり何というか……安定感がねーんだ」
 「それは仕方がないでしょう。この話、主役が主人公から妖精さんにシフトしてますから
 「確かに、最初から最後まで振り回されっ放しだったな、主人公……」
 「人の理解の範疇にない妖精さんが主体となる以上、第二章は不明瞭な話にならざるを得ないのだと思います。そういう意味では、『SF風味のおとぎ話』というのは当たってますね」
 「い……いつになく論理的な指摘をするじゃねぇか。何か悪いもんでも喰ったか?」
 「失礼な! 私はいつもこうです。
 妖精さんが主人公に仕掛けた罠(?)と、それを行った目的については序盤ではっきりと示されてますけど、それに薄く重なるように、助手さんと妖精さんの関わりが存在するのも、話をややこしくしている原因の一つですね。
 一応、最後にみんな揃うシーンで、一連の仕掛けが助手さんの現実認知のために用意されたものだった可能性が示唆されていますが……実のところ、それだけでは説明がつかない部分もあって、最終的には――
やっぱり妖精さんって不思議!
で納得する以外ないのは、いかにも童話らしいと思います。でも、こういうふわふわした感じって好きですよ♪」
 「ホタル――とりあえず病院行け
 「だから何でですかっ!」


―どちらがお好みでせう?―


 「今回も二本立てで、どちらも面白いのですが、敢えてオススメするなら――」
 「一章だな。生物のサイズと認識力の範囲が比例しているという説を軸にした思考ゲームを堪能出来る。怒濤のネタラッシュのおかげでテンションが下がらないのもいい」
 「はうっ! 私の台詞消されたっ!」
 「役には立たないが何が起こるか解らない妖精アイテムの数々は面白ぇし(特に『BLACK HOLE』は良かった)、言葉はおろか思考まで妖精化してしまった主人公の行動はもう笑うしかない。
 『じょーい!(訳:楽しみます!)』な~んて台詞が、シリアスな状況でも出ちまうんだからなァ」
 「あとはパロディネタですか。
 『スプーンおばさん』『冒険者たち』『アルジャーノンに花束を』、他にありましたっけ?」
 「書名ネタがあったな、『これからはじめるCOBOL~学べば一生飯が食える~』って、皮肉かよ!
 カエルも何か元ネタがありそうなんだが、あたしにゃ解らなかった」
 「親指姫じゃないんですか? 花の王子様は出てきませんけど」
 「そんなメルヘンチックなネタはいらんっ!」
 「作品の半分を占める要素をさらっと否定しないで下さい。
 全体を通してみると、メインのネタは『アルジャーノン~』でしょうか。そう言えば、どこかで名前もちらっと出てました」
 「それがすべてと言うわけじゃないが、妖精版『アルジャーノン~』といった感じの作品にはなってるな。面白いから無問題だが」
 「私としては、ちっちゃい状態の主人公と妖精さん達の会話が面白かったですね。いつもは平仮名なのに漢字が交じってたりとか、とぼけてるけど知性を感じさせる台詞がなかなか新鮮でした」
 「というわけで、二章はなかったことにして、一章を思う存分楽しんで頂きたい」
 「ちょっとちょっとちょっと! 何勝手に終わらせてるんですか! 私のオススメは二章ですよ」
 「ロジックが通じない世界は謹んでパスさせてもらう。
 まー、あれだ、いつものように『可愛いっ!』で済ませとけ」
 「だからある程度は通じますってば。さっきも少し触れましたけど、最後の主人公達の考察はそれなりに筋が通ってましたし」
 「あれで納得できるかっ! ああ、読めば読む程頭が痛ぇ……」
 「まぁまぁ、ジュースでも飲んで落ちついて下さい」
 「(ごくごく)……おい、味がしないぞ。何ジュースだこれ?」
 「私特製のバナナ・オレです」
 「! ――バナナの原産地はどこだ?」
 「さぁ、つるっと滑って、妖精さんワールドにれっつごーなのですよ♪」
 「××××××××××××××××!!!!!」



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ホタルとマユの三分間書評『蒼海訣戰』

2008-07-11 03:08:41 | ホタルとマユ関連
さて、昨日こそは記事が公開されてるだろう――と思われた方、ごめんなさい遅刻しました! な第977回は、

タイトル:蒼海訣戰(1~5巻:以下続刊)
著者:納都花丸
出版社:一迅社 REX COMICS(初版:'06)

であります。


「三笠。
 その……ごめんな、今日は俺のせいで、兄さんに会えなかったり…先輩に絡まれたりして――――――」
「うん、でも。
 俺がやってないって言ったとき、お前が信じてくれて、うれしかった。
 だから今日のことは貸し借りなしにしようぜ」
「うん!
 ……なあ、三笠。
 俺、やっぱりまだよくわかってないかもしれないけど、秋津人と追那人でたくさん違いがあるんだろうけど――――――同じじゃないけど、でも。
 俺たち、友達になれるよな?」
「――――――うん!」
   ――1巻130頁、三笠と初瀬の会話より。



―久々に飲みに行きました―


 「こんばんは~、ホタルでーす♪」
 「マユっす。
 何で今日は夜の収録なんだ?」
 「実はさっきまでお友達とお酒飲んでたのです~」
 「酒……って、いいのかよ未成年!」
 「推定1200歳デスガ何カ?」
 「(そういやこいつ妖怪だったな……)
 で、サシだったのか? それとも集団でドンチャン騒ぎか?」
 「一対一でじっくりと昔話をしてきました。
 あ、このブログの話題も出ましたよ。ホタル君、君の書評には愛が足りないね――って褒められちゃいました~♪」
 「(明らかに褒めてねぇだろ、それは!)
 そりゃ良かったなァ……他に何か言ってたか?」
 「えーと……細かいアラまで見つけ出すのが美徳とされた時代は終わった! 『今、書評は優しさの時代へ』なのだよ! ――って力説されてましたけど?」
 「それはイー×のキャッチコピーだっ! あー、それで誰か目星がついたぜ――後で礼を言っておこう、丁重にな」
 「カクテルおごってもらったので、私は御機嫌なのですよ♪ ん~、カルアミルク美味しい~♪」


―猫耳+仮想戦記?―


 「さて、本日御紹介するのは――『なんちゃって坂の上の雲』なんて野暮は言いっこなし! コミックREXの顔役の一つ『蒼海訣戰』です!」
 「でも、誰がどー見たって『坂の上の雲』だよな」
 「だからそれを言っちゃ駄目っ!」
 「言っちゃ駄目っつってもなぁ、主人公とその兄のモデルが秋山兄弟なのはほぼ確実だぞ」
 「確かにそうかも知れませんが、これはこれで面白いんだからゴチャゴチャ言わないのっ!
 というわけで本作の内容ですが、日清~日露戦争時代をモチーフにした猫耳軍記物です!」
 「いや、それもかなり偏った見方だろ。
 つーか、猫耳三人しか出てきてねーぞ! ついでに言うと尻尾も生えてる!」
 「何を脳が干涸らびたようなことを言ってるんですか。
 読者の89.4%は猫耳目当てで本書を購入してるんですよ!(国土地理院調べ) もはや、猫耳軍記物と言い切ることに何の差し障りもありません! 猫耳キャラさえいれば、ヴェラヤノーチ帝国など小指で粉砕できます!
 「んなわけあるかぁっ!
 ったく……これ以上混乱する前に、きちっとストーリー解説だけはしとくぞ。
 三つの異なる民族が共存する多民族国家・津州皇國(つーか、ぶっちゃけ大日本帝国)を舞台に、水軍志官寮で明日の水軍士官を目指す若者達の姿を描く仮想戦記物だ。ホタルが言ったように、日清戦争後、日露戦争前の時代をモチーフにしており、タイトルの『蒼海訣戰』も日本海海戦のことだと思われる。いちいち口で解説するのも面倒なので、以下に、本作独自の用語と元ネタを列記する」


 【津州皇國(つしまこうこく)】――十五世紀以上に渡って女帝が支配する秋津州國が、汐見王朝と追那人居住地を併合して、二六二四年に誕生した立憲君主制国家。二六五一~二六五三年の津楠戦争(日清戦争)、二六六〇~二六六二の津州皇國内乱(順序が逆だが戊辰戦争?)を経て、現在(二六六四年)、百五代姫巫女(ひみこ)の皇女・壱代(いよ)が統治している。
 【追那人(おいなじん)】――世界で唯一、とがった耳と尻尾を持つ民族で、モデルはアイヌ人。少数民族のため、人口の八割を占める秋津人からは現在でも差別されている。ふとした瞬間に視力以外の視界が開けて、その場にいる他人の意識が流れ込んで来る、カムイピリマ(※リは小文字)という特殊な感覚を有する。中でもカムイピリマを感じる力が特に強い者をカムイサシミと呼ぶ。
 【汐見人(しおみじん)】――金髪碧眼の民族で、モデルは琉球人。ちなみに、一巻の三笠の発言からすると、金髪でない者もいるようだが、詳細は不明。追那人同様、秋津人から差別されており、津州皇國内乱では故郷を最後の戦地にされるというとばっちりまで受けた。
 【水軍志官寮】――説明するまでもないが、大日本帝国で言うところの海軍兵学校、つまりエリート養成所である。元ネタは三年制(時代によって変化)だが、こちらは二年制のようだ。所属する生徒には階級が与えられており、兵卒よりも上の身分として扱われる。
 【ヴェラヤノーチ帝国】――400年の帝政が続く大国。元ネタは多分、ロシア帝国であろう。今の所詳細は不明だが、五巻終了時に怪しい某人物が、「ヴェラヤノーチに行く」と発言しているので、六巻で実態が明らかになる……かも。

 
 「長っ! これはキャラ紹介は次の項に移した方が良さそうですね」
 「だな。しかし、今回は随分と変則的な記事になってるなァ」


―キャラ紹介!―


 「ではでは、猫耳主人公の三笠真清君、15歳!
 経緯は不明ですが、幼少時に三笠家の養子になった追那人の少年で、元の名はサネク。
 おにーさんに憧れて軍人を目指し、初の追那人、しかも十五期首席として水軍志官寮に入寮、周囲の偏見の目と戦いつつ立派な水軍士官を目指すとっても前向きな子です♪
 最大の特徴は猫耳と尻尾ですが、加えて、涙腺が緩いという属性まで備えており、尋常でない可愛さを誇ります。
 萌え要素、天才思考、特殊能力(カムイサシミ)を持つ猫耳少年に死角なしっ! いつ初瀬君が堕ちるか、本当に楽しみですね~♪」
 「何でそこで、や○い話が出てくるんだっ! まったく……油断も隙もあったもんじゃねぇな。
 では、真清の親友の初瀬忠信、同じく15歳。
 十五期次席で真清のルームメイト。水志寮幼年部にあたる巧玉舎では常に首席だった。
 とにかく明るく屈託のない性格で、初対面から追那人である真清に対しても普通に接してきた、ある意味大物。天ボケの気もあり、十五期生のムードメーカー的存在である。
 その実、学業に関しては非常に真摯で、慣れないまとめ役を代わってもらおうと甘えた態度を取る真清を叱咤する場面もあった。
 津楠戦争で父親を失っており、それがトラウマとなっている」
 「絵に描いたようないい子ですよね~、初瀬君。こういう友達って貴重だと思います。
 では、真清君と初瀬君の先輩で、裏の主人公とも言える八島文行君。
 十四期首席で、水志寮唯一の汐見人です。
 真清君と違って秋津人に対する対抗意識が非常に強く、ほとんど誰とも口をきかず、自分の実力を誇示することで身を守っている……ちょっとイタイ子ですね。
 当初は、同じ被差別民族ということで真清君を味方に引き入れようとしていましたが、彼が三笠家の養子と知って逆上、以後は目の敵にするようになります。
 言動は乱暴なものの、微妙に面倒見のいいところがあって、時々フォローを入れてくれるのが救いと言えば救いでしょうか……でもこの子苦手」
 「言ってることは決して間違ってないんだが、立ち回りが下手で損してるよな、八島は。
 何げに文字数がヤバげなので、残る二人はまとめていくぞ。
 真清の兄で陸軍騎兵大尉の三笠光清と、ヒロインにして今上皇帝の壱与
 前者は先の内乱で英雄に祭り上げられた男で、真清の目標となる人物だ。性格はそんまんま頼れる兄貴で、精神的に未熟な弟を色々とフォローした後、レヒトブルグに留学する。真清のことは弟と認めているようだが、『追那の女は抱かない』と発言するなど、民族問題には色々と思うところがあるらしい。もしかして――追那人の女と別れさせられた過去とかあるのか?
 後者はわずか14歳で即位し、現在16歳になったがまだまだ自分に自信が持てずにいる少女皇帝だ。巫女姿とドジっ子属性で、本作の萌え要素の一翼を担う重要キャラだが、立場が立場だけに真清と絡んだのは今の所一度だけだったりする。ちなみに、二巻冒頭で二六六四年即位となっているが、二六六二年の誤植だな(笑)」
 「教官と他生徒の紹介もしたいのですが……スペースがないので割愛します。吉野教官とか、かなり重要なキャラなんですけどね……」


―総評としては?―


 「絵はかなり綺麗ですし、青春群像劇としても良く出来ていると思います♪ 少年漫画的な戦闘シーンは今の所ありませんが、話が進めばそういう展開もあるのではないかと。代わりと言っては何ですけど、二巻の兵棋演習は艦隊戦の醍醐味が味わえる上、各キャラの個性が出ててかなり面白かったですね。
 でもやっぱり、何と言っても猫耳が――(以下略)」
 「あー、お前がその結論に行き着くのはハナから解ってたぜ。
 表紙が猫耳全開なんで軽く見られてしまうかも知れないが、その実、結構骨太な作品だ。
 今、ホタルが言った兵棋演習の場面はかなり凝ってたし、真清や八島が差別と戦うシーンや、生徒達の若者ならではの葛藤もちゃんと描かれている。もっともそれだけだと華がないので……その、なんだ……猫耳少年とか巫女少女とかを出して、上手くバランスを取ってるな。
 グロいシーンもないので、割と幅広い年齢にオススメできる逸品と言えるだろう」
 「一・二巻は水志寮での生活がメイン、三巻では追那人の秘密と光清さんの旅立ちを描き、四・五巻はいよいよ練習艦に乗って乗艦実習、担蓮(大連)上陸と、どんどん話が大きくなってきてるので、今後も期待大ですね!」
 「もっとも今のペースだと、タイトルの蒼海訣戰まで行き着くには、十年ぐらい時をすっ飛ばすか、単行本五十巻ぐらい描かないと無理だぜ。
 それまでコミックREXが保てばいいがなァ~……クックック
 「あの~……それで一番痛手を受けるのは、続きが読めなくなって絶望する自分だってこと、解って言ってます?



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ホタルとマユの三分間書評『魔法鍵師カルナの冒険(ロックスミス・カルナの冒険)』

2008-07-02 23:03:25 | ホタルとマユ関連
さて、最近はライトノベルと漫画しか紹介してない気がする第976回は、

タイトル:魔法鍵師カルナの冒険(ロックスミス・カルナの冒険)
著者:月見草平
出版社:メディアファクトリー MF文庫J(初版:'05)

であります。


「ありがとうございました」
「私は金庫の鍵を開けただけ。そんなに感謝されるようなことはやってないわ」
 マリはかぶりを振った。
「いいえ、あなたは十年前の私に会うための扉の鍵を開けてくれたんです」
 そう言うとマリはクロネッカーを引き連れて大通りの方に消えて行ってしまった。
 私は右手に握られた銀貨を見た。
 初めて、自分で仕事を請けて仕事をして報酬をもらった。魔法も使わない、簡単ですぐ開く鍵だったし、まだ全然実感が湧いていないけど、私は鍵師として本当の意味でデビューを果たした。
 タイムカプセルが開いた時に女の子が見せた顔を頭に浮かべながら、私は自分がどうして鍵師になりたいと考えるようになったのかを思い出した。鍵を開けた時、お客がお祖父ちゃんに見せる嬉しそうな顔。それに憧れて私は鍵師になろうと思ったんだ。
   ――本文172頁より。カルナと、とある依頼人の会話。



―毎度遅れております―


 「こんにちは~、二週間ぶりのホタルでーす♪」
 「マユだ。
 漫画の新刊をひたすら漁ってたら、いつのまにか十日以上過ぎちまったなァ……」
 「というわけで、悪いのはぜーんぶマユさんです」
 「おい、自分はちゃっかり安全圏か、コラ!
 「御存知の通り、私はちゃんと仕事してましたよ~。ほら、言って言って」
 「あ~、以前から企画だけはあった漫画専用目録がようやく完成した。かなり地味な作業なんで時間はかかったがな」
 「でも、苦労に見合うだけの価値はあるのですよ♪
 例によって、最新の投降覧の【☆『目録へのショートカット』兼『総合案内板』】から行けます」
 「とりあえず、紹介済コミックを男性向け、女性向けの二つに分類し、『コミックス一覧表(白組)』『コミックス一覧表(紅組)』にまとめてある。今後、変更する可能性もあるが、その場合はまた告知する予定だ。
 あと、微妙に一覧表の配置を変更した。作家で検索する場合は『作家別一覧表一括表示』、作品タイトルで探すなら『タイトル別一覧表一括表示』で、すべての目録を一度に見られるようにしてある」
 「作品タイトル別の目録はまだ、ライトノベルと漫画、一部のシリーズ作品しか用意してませんけど、順次追加していく予定――ですよね?」
 「そこは気力と体力次第だな。
 仮に作るとしたら、ジャンル別に作成するつもりではいる」


―鍵師と言っても、某俳優さんのあれではありません―


 「さて、今回御紹介するのは――創刊からはや六年、ようやく業界内での地位も安定したか? なMF文庫Jから『魔法鍵師カルナの冒険(ロックスミス・カルナの冒険)』です!」
 「第1回MF文庫Jライトノベル新人賞『審査員特別賞』受賞作。
 内容的には、古典的な剣と魔法の世界を舞台にした、ファンタジー職業物、といったところだ」
 「その台詞、そのままそっくり『葉桜が来た夏』の時の焼き直しですね……」
 「人のことが言えんのか? お前だって、思いっきり定型文じゃねぇか」
 「それはそれ! これはこれ!(By 島本和彦
 ざっとストーリーを紹介すると――見習い魔法鍵師(ロックスミス)のカルナちゃんが、魔物宝箱(モンスターボックス)に追いかけられたり、銀髪碧眼の美形魔術師に熱を上げたり、日常業務のついでに魔王を封印したりするお話です」
 「ついでかよ!(何か、今日はツッコミ所がやたら多いな)
 序盤はカルナとその師匠のミラによる魔法鍵師の解説、次いで実際の仕事の描写、さらに、舞い込んでくる大仕事の依頼、と、ストーリーの流れは職人物の王道を忠実に踏襲している。
 主役のカルナが15歳の割にはやたらと優秀で、ミラはミラで大陸一の魔法鍵師だったりするので、見せ場となる鍵開けのシーンがスムーズに進みすぎるのがイマイチ引っかかると言えば引っかかるか」
 「そこはテンポを重視した結果と見るべきでしょうね。こういう特殊な設定を利用した作品って、解説が長くなる傾向が激しいですから」
 「まぁ、その通りなんだが……初手でいきなり『伝説の鍵師エドガード=ランキンが施錠した鍵!(作中ではランキンズワークと呼ばれる)』が出てきて、ミラのフォローがあったとは言え、それをカルナが無難に開けちまうってのはどうかな~と思うぞ」
 「ん~、確かに……ランキンズワークの鍵は作中に三度登場しますけど、『解錠に失敗したら死んだり廃人になったりする恐ろしい鍵!』という大仰な設定の割には、どれも肩すかしでしたね……」
 「これで、名前が売れてるだけの山師の作品ってんならまだ解るんだが、それだと下手なコメディで終わっちまうからなァ」
 「師弟漫才してる日常はともかく、仕事に関してはカルナもミラも大真面目なのでそれはちょっとマズイでしょう。
 ちょっと視点を変えて、職人物ではなく、キャラ物としてはどうですか? キャラ数少ないですけど」
 「そりゃ、カルナが可愛いの一言に尽きるだろ」
 「とうとう百合に目覚めましたかっ!」
 「違うわっ!
 師匠を信頼し、ひたむきに魔法鍵師を目指すところが純粋に可愛いと言ってるんだ。
 挑戦心に溢れてはいるものの増長はしないし、豪快な師匠に振り回されているようで、実はミラの抱えている問題を薄々察していたりもする。少々天ボケ気味だったり、惚れっぽいところはあるが、基本的に毒のない真面目な娘だ」
 「素直な成長物語向きの主人公と言えるでしょうね。
 一応、少年向けラノベなので、ミラの趣味でフリフリの服を着せられる――といった萌え要素も持ってたりします♪」
 「胸は洗濯板だけどな!」
 「そういうこと言ってるとオヤヂ疑惑発生しますよ」


―総評といきませう―


 「非常ーに素直な作品です♪
 鍵師見習いとして一生懸命頑張るカルナちゃんの姿を描きつつ、ミラさんの過去と鍵絡みの陰謀を絡めて、最後の魔王サバテとの対決まで持っていく展開はまさにファンタジーの王道!
 これ! といった濃さはないので、尖った作品を求める方には不向きかも知れませんが、変に奇をてらった作品と違って安心して読めます」
 「素直すぎて、中盤からラストまでの展開があっさり読めてしまうのは難ありだ。
 世界最高峰の鍵であるランキンズワークを安売りした結果、肝心の鍵開けのカタルシスが削がれてしまっているのもどうかと思う」
 「でも、二回目と三回目の鍵は省くわけにはいきませんよ。一回目はオマケに近いですが、あそこでランキンズワークの説明をしておかないと、後のシーンが説明過多で冗長になる可能性が高いです」
 つまり、一回目、もしくは二回目の鍵開けは失敗するべきだったんだよな。そうすれば、三回目の鍵開けがかなりシリアスなものになった筈だ」
 「デビュー作なのでページ数的に余裕がなかったのもあるのでしょうが、確かに成長物語としては安易に成功し過ぎてる感じはしますね……。
 個人的には、カルナちゃんが一人で店番をする第三章『胸騒ぎのお留守番』にもうちょっと力を入れて欲しかった気がします」
 「(あたしは安易とまでは言ってないんだがな……)
 それについては同意見だ。冒頭でも紹介した、『他人から見ればささやかだけどカルナにとっては重要な仕事』を丹念に書けば、成長物語としてかなり面白いものになったと思う」
 「他の章は60~70頁取ってあるのに、三章だけは30頁ちょっとで終わってるんですよね……。カルナちゃんのキャラを立たせる上でも重要な章だと思うので、もっと色々書いて欲しかったです」
 「ラストに魔王復活という大仕掛けを持ってきたかった作者の願望も解らないではないが、事が事だけに師匠のミラの方が目立って、カルナがそれに引きずられる形になっちまったのは明らかにマイナスだな。
 つーかキツイこと言えば、『誰かが魔王復活を目論んでいる! これを阻止するには、腕のいい鍵師が必要だ!』ってネタそのものが極めてチープだ」
 「ですね。
 魔王討伐やるぐらいなら、麗しき師弟愛を前面に押し出して――」
 「だからいい加減百合話から離れろっ!」



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ホタルとマユの三分間書評『二十面相の娘』

2008-06-21 08:00:50 | ホタルとマユ関連
さて、アニメ化に便乗したわけじゃないです……多分、な第975回は、

タイトル:二十面相の娘(全8巻)
著者:小原愼司
出版社:メディアファクトリー MFコミックス(初版:'03)

であります。


「私という人間をもう一人作ろうとしているのです。
 大戦を経て、私は世界に絶望させられた。
 だから私はこの世界を私好みのパノラマに描き変えたい。
 そのためには少しばかりの仲間と――もう一人私が必要です」
   ――一巻。二十面相の台詞より。



―プレステ1って現役ですよね?―


 「こんにちは~♪ 今更ながら、ヴァルキリー・プロファイルをプレイ中のホタルでーす♪」
 「マユだ。つーか……またゲームネタかよ!」
 「やっぱりこのゲームの戦闘システムは楽しいですね~。今でも充分遊べます」
 「まぁ、ストーリーがほとんどダイジェスト状態なのと、某ボスが超弱なのを除けばいいゲームではあるな」
 「ロキ様弱っ! とか言うなっ!」
 「やれやれ……わざわざ言わないでおいてやったってのになァ~」


―漫画版はこんな感じ―


 「さて、本日御紹介するのは――コミックバーズよりはまだマシか? 知る人ぞ知るマイナー月刊誌コミックフラッパー! の看板作品の一つだった『二十面相の娘』です!」
 「現在、番外編の『二十面相の娘――うつしよの夜』が同誌に連載されているが、それについては別の機会に触れることにする。
 タイトルネームから解ると思うが、本作は江戸川乱歩の『怪人二十面相』をモチーフにした60年代風活劇漫画だ。二十面相に救い出された少女・チコが、自分の命を狙う叔母や、二十面相の秘密を狙う者達と対峙しつつ、一人の人間として成長していく様を丁寧に描く良作で、一度このブログでも紹介している。(→過去記事はこちら)」
 「乱歩関係のネタがいくつも出てくるのも魅力ですね。絵まで懐かしい感じなのはちょっと引っ掛かりますが……」
 「あ~、確かにちと粗い絵だが、乱歩世界の雰囲気には合ってると思うぞ。初期はともかく、後期は大分安定するしな」
 「漫画と言うより、絵本っぽい感じなんですよね~。載ってる雑誌がアフタヌーンだったら全く問題ないんですけど、それ以外の雑誌だと何か違和感があります」
 「アフタヌーンは昔っから特殊空間だからなァ……。
 ストーリーは概ね四部構成で、順に――チコと二十面相一味の活躍、離散を描く『二十面相の娘編』、実家に連れ戻されたチコが独自に二十面相の行方を追う『探偵編』、二十面相の過去を知る怪人物との長い戦いを描く『白髪の魔人編』、すべてのキャラが東京に集い、大戦の忌まわしき遺産を巡って絡み合う『二十面相編』――となっている。また、チコの友人の小糸春華が少女探偵団を結成するといった枝葉的エピソードが存在する他、連載前に掲載された読みきり版が一巻に収録されている」
 「なお、『~編』の名称はマユさんが勝手に付けたもので、公式のものではありません。誤って日常会話で使用したりすると白い目で見られるので注意して下さいね♪」
 「いらん解説は入れんでよろしいっ!
 それはさておき、アニメ版は視たか?」
 「絵が微妙に違うんで視てません。視たら視たでハマりそうですけど……。
 ちなみに公式サイトは↓こちらです」


『二十面相の娘』アニメ公式サイト


 「原作者・小原愼司さんのインタビューも掲載されているので、興味のある方は覗いてみて下さい♪」
 「ホタルは否定的な意見を吐いたが、TRAILER見る限りなかなかイケてるぜ。
 んじゃ、例によってキャラ紹介といくか」


―キャラクター紹介やっときます?―


 「ではでは主人公の、美甘千津子――通称チコちゃんから。
 両親を早くに失い、叔父夫婦に引き取られたものの、遺産を狙う二人に毎日毒を盛られていた薄幸の美少女。毒に気付いて食事を拒否し続けていましたが、限界寸前のところで二十面相に救われ、以後、彼と行動を共にします。
 ちなみに年齢は、二十面相と別れる直前で『じき13』とのこと。仲間達と過ごした時間は二年余りだったらしいので、初登場時は十歳ぐらいだった計算になります……聡明過ぎ。
 凛々しいという表現がぴったりくる少女で、年齢にそぐわぬ冷静な思考と、二十面相に仕込まれた(と思われる)体術を駆使して、数々の敵と互角に渡り合います。二十面相を慕い、闇に消えた彼をひたすら追い続けるイメージが強いのですけど、自分の行く先も見据えており、最終回ではしっかりとそれを言葉にしました」
 「では、江戸川乱歩が生み出した日本を代表する大怪盗・二十面相、年齢不詳。
 原作では愉快犯に近いところもあったが、こちらはスーツの似合うナイスミドルで、大戦(これがどの戦争を指すのか作品内では明確にされていない)中のある極秘研究に携わっていた人物とされている。世界各地を巡って様々なものを盗むが、それはすべて過去を清算するためだった……と、これ以上はネタバレになるので割愛。(爆)
 清波製薬の社長によれば、その正体は超人化計画に携わった将校・新田二郎である可能性が高いらしい。また、五巻では魔人が他者に二十面相を紹介する際、白須麻という名を口にしている。しかし、どちらも情報としては断片的で、結局、彼の本名は最後まで明かされることはなかった。
 肉体改造は受けていないようだが、改造人間とも互角に渡り合える高い戦闘能力を有する。銃器の扱いにも長けており、原作と違って、危険と判断した者を殺害することもある。
 チコにとっては、まんま優しいお父さんであり、『自分で見て自分で聞いて自分で考える。これ以外に何かを成す方法はない』等、数々の言葉で彼女の人格形成に多大な影響を与えた」
 「長っ! マユさんて、ひょっとしてオヤヂ趣味ですか?」
 「違うわっ!
 二十面相はもう一人の主人公だし、この作品のすべての登場人物と何らかの関係があるから、これぐらいの長さになるのは仕方ねーだろ」
 「では、チコの兄貴分のケン君。
 二十面相の組織の下っ端で、背伸びしたがりなお年頃の17歳。チコが入った当時は子供っぽさが目立ったものの、凶悪な盗賊『虎』に左目を潰され、仲間と別れた後に覚醒、眼帯と煙草が似合うクールなキャラになりました。と言うか……チコもそうなんですけど、設定年齢より4、5歳上にしか見えません。
 二十面相が自分を捨てたと思い込み、しばらく根に持っていたのですが、自分のボスは自分だと気付いたことで大きく成長。後に、香山望という強力な相棒を得て、一人の盗賊として大成します――喜んでいいのか解りませんが(笑)」
 「名前が出たので、清波製薬の研究員・香山望、24歳。
 同じ研究員の津矢高志とともに、戦時中の超人化計画『人間タンク』の再現を試みるも失敗。清波社長に切り捨てられ、姿をくらまして独自に研究を続けていた。二十面相の遺産に過去の研究資料が含まれていると考え、チコに接触するが、結局何も得られずに終わる。その後はちらっと1カット登場しただけで出番がなかったが、七巻で思い出したように復活した。
 投薬の影響か、顔から胸にかけて血管が異様に浮き上がるという症状が出ているものの、刃すら弾く強靱な肉体と超反応速度を得ており、戦闘力は非常に高い。その比類なき格好良さから、乱歩作品に元ネタがあると睨んでいたんだが……自力じゃ気付けなかった、ちっ。
(なお、最終巻最終ページにて、ネコ夫人であることが判明。やられた、そいつがいたかっ!)」
 「では最後に、乱歩作品もう一人の顔役・明智先生。作中では明智小五郎という名は出てきませんが、『D坂の殺人事件』に言及するシーンがあるので、かの名探偵と考えて間違いないでしょう。
 登場時から一貫して二十面相を追っており、実際、かなり近いところまで迫っていましたが、結局、一度も本人と対面することはありませんでした。『十年は出遅れている』と言っている通り、二十面相よりもかなり若く、事件そのものには間に合わずに後で色々と解説するのが主な役割。
 本作は飽くまでチコと二十面相の話なので、明智先生に暴れてもらっても困るのでしょうが……それにしても扱いがちょっと低かったような気が……。一応、二十面相の正体は突き止めたみたいですけど、それも、すべてが終わった後でした」
 「ん? 最後って、まだ友人と冥土と三下のサブキャラ三人組紹介してないぞ?」
 「あ~……そういう方々もいましたね。
 では、怪人とか魔人とか超人とかと比べると影が薄いのですが、チコの日常に関わってくる、小糸春華&トメ&空根(敬称略)。
 春華ちゃんはチコちゃんの同級生で、小糸財閥の御令嬢です。当初は子分を二人従えて意地悪を仕掛けてくるボス猿でしたが、二十面相絡みの事件を経て、後に親友となりました。16歳になったら政略結婚させられることが決まっており、今を楽しむことに全力を傾ける、ある意味もう一人のチコ。
 トメさんは美甘家のメイドで、チコちゃんの世話係です。数少ないチコちゃんの味方の一人で、微妙に母親のような役回りを演じました。年齢は18歳の筈ですが、大人びた雰囲気のため二十代にしか見えず、本人もそれを気にしてたりします。ちなみに漢字で書くと『留』、岡山出身とのこと。
 空根先生は所謂へっぽこ探偵。本人の能力はとてつもなく低いにも関わらず、他人のおこぼれで手柄を立てることがあったりします。小悪党的な面もあり、かなり鬱陶しいキャラでしたが、後に改心、頼りないけど一応善人っぽい方になります」
 「あからさまにやる気のねー解説だな、おい。
 余談だがこの三人、白髪の魔人編では揃って催眠術で操られ、二十面相編では見事に戦力外通告を受ける……憐れだ」


―総評をどうぞ!―


 「絵さえ気にしなければ非情に良い作品です♪
 少女の中にいるもう一人の二十面相とは? 彼が持っているとされる過去の遺産とは? 二十あるといわれる彼の本当の顔とは? チコちゃん、明智先生、怪しい方々、皆が追っかけ回す中、ふらりと現れては闇に消えていく二十面相の活躍を御堪能下さい」
 「先に言われちまったが……チコを主人公に据え、彼女を囮にして他のキャラを動かすことで、逆に二十面相の魅力を引き出している傑作だ。
 エログロテイストは皆無に等しいが、乱歩作品特有の怪しい空気は受け継いでおり、油断してると、キャラが唐突に別人に変わったり、人形に化けたり、ロケットパンチ(笑)かましたりする。個人的には三巻でチコが解剖台に寝かされて――」
 「ソレ以上ハこーどに触レルゾ」
 「触れねーよ。残念なことに、未遂に終わったからな」



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ホタルとマユの三分間書評『葉桜が来た夏』

2008-06-16 00:05:40 | ホタルとマユ関連
さて、ラノベ紹介するのも久々な第974回は、

タイトル:葉桜が来た夏
著者:夏海公司
出版社:アスキー・メディアワークス 電撃文庫(初版:'08)

であります。


「授業って……おまえ、学校に行く気か!?」
 愕然とする学に、葉桜は当然のような表情でうなずいてみせた。
「当たり前よ。共棲体は、可能な限りたくさんの時間を一緒に過ごすべきなんだから。あなたが一日の大部分を過ごすのは学校なんでしょ? だったら、私もついてくのは当然じゃない」
「どこが当然だよ! だいたいその格好で行く気か?」
 葉桜の服装は、薄手の半袖ジャケットにセミタイトスカートだった。とても学校へ行く格好には見えない。葉桜はきょとんとした表情で目を瞬いた。
「何か変?」
「変とかじゃなくて、私服で行く気かって聞いてるんだ。おまえ、制服なんて持ってないだろ」
「せいふく……?」
   ――本文71頁より。



―更新遅くて申し訳ありません―


 「御報告、御報告~♪」
 「一ヶ月ぶりに、『ホタルとマユの楽屋裏』を更新したぜ。今回は『テガミバチ』に関して、とりとめもない会話をしてる」
 「オマケページに現実逃避する暇があるなら、さっさと書評書けって噂もあったりしますが……」
 「だから自虐ネタはやめろっつーの」


―どんなお話ですか~?―


 「さて、本日の紹介はライトノベルの大店・電撃文庫から『葉桜が来た夏』です!」
 「第14回電撃小説大賞〈選考委員奨励賞〉受賞作。
 内容的には、二〇二×年の滋賀県彦根市を舞台にした近未来SFボーイ・ミーツ・ガール物、といったところだ」
 「ちょっと補足して……異星人アポストリに母親と妹を殺された少年・南方学君が、政治的な理由から、アポストリ評議会議長の姪・葉桜ちゃんと共棲することになるというお話です。
 アポストリなんかと同居できるかっ! と怒り狂う学君ですが、命をかけて自分を守ろうとする葉桜ちゃんの真面目さに、ちょっとずつ態度を軟化させていき、さらに彼女の過去を知ってしまって――と、この手の異種間恋愛物としては王道中の王道ですね」
 「共棲ってシステムは、まーいわゆるルームメイト的な意味もあるんだが……アポストリの特殊な生態が絡んでるせいで、ぶっちゃけた話、見合いと大して変わらない制度になってる。ネタバレになるんで詳しくは話せないけどな」
 「では、そのアポストリについて簡単に説明しておきましょう。
 アポストリとは女性だけで構成される異星人です。赤い目を持つ以外、外見は人類とまったく同じ。十代半ばで成長を止めてしまうため、年齢に関わらず皆、若い姿をしています。その身体能力と科学技術は人類を遥かに上回っていますが、唯一、銀に弱いという弱点を持ちます」
 「ついでに世界観について説明しておこう。
 200×年、巨大な十字架状の構造物が宇宙より飛来した。落下予測地点は東京。日本政府は米軍に核使用を要請し、ただちに攻撃が行われた。しかし、落下地点こそずれたものの、十字架は破壊されることなく琵琶湖に着水。中から出てきた異星人アポストリと人類は交戦状態に入る。
 血みどろの戦争の末に、日本人は一億二千万の内の二百万、アポストリは十万の内の三万人を失い、ようやく講和が成立。旧彦根市は、人とアポストリが共存する彦根居留区となり、共棲というシステムが導入されて十九年が過ぎた……」
 「ちなみに、学君は高校一年生・十五歳で、戦時中はまだ生まれてません。悲劇が起きたのは十歳の時、謎の隻腕のアポストリによる自宅襲撃でした」
 「最後にもう一つだけ補足しとくと、主人公の親父・南方恵吾はアポストリに対する日本の親善大使だ。このため、南方家襲撃事件は公表されず、なかったことになっている。まー……そりゃ、息子も荒むわな」
 「作品概要はそんなところですね。感想としてはどうですか?」
 「読了直後の印象は、絵も内容も電撃っつーよりソノラマっぽい作品、ってとこか」
 「それは抽象的過ぎませんか……? 出来ればもうちょっと具体的に」
 「いやこれが、『淫靡な姿で迫る仇敵アポストリを前に、学は復讐心を維持出来るのか! 以下次号!』ってんなら、まだ電撃らしいんだが、特に燃える展開とか萌える展開とか吠える展開があるわけでもなく、最初から最後まで至って普通のSF物だったからな」
 「それじゃ場末の18禁ゲームになっちゃいますよ……後、以下次号って、続きませんから。
 ただ、マンガ的要素にあまり力を入れてないという意見については同感ですね。一部の読者層を狙った女の子キャラとか、強力な戦闘力を誇る異星人とのバトルとか、入れてあるにはあるんですが、ちょっと薄味でインパクトに欠けてます」
 「見た目は和服ロリ、中身は葉桜の叔母で評議会議長の茉莉花とか、狙いまくってるよなァ。セーラー服着て恵吾と会ってるシーンなんかは笑えた。
 葉桜も白いネグリジェ姿で学に迫ったりして、結構頑張ってはいるんだが……イマイチ突き抜けてない」
 「多分、と言うか、ほぼ確実に、この方ラブコメ苦手なんだと思います。ツンデレ気味の学君が、生真面目な葉桜ちゃんに惹かれていく過程も、正直上手いとは言い難かったですし」
 「一応、さらっと全体的な流れについても言っとくか。
 章立ては、プロローグ+一~五話+エピローグの七分割。各章の中身を一言で言うと、(0)人類とアポストリのファーストコンタクト→(1)学と葉桜の出会い→(2)共棲開始→(3)葉桜の秘密判明→(4)テロリスト暗躍→(5)事件勃発→(6)これからもよろしく、ってとこだ。枚数の関係もあるんだろうが、必要なことだけ書いて終わってるという印象が強い」
 「ライトノベル的には、学校生活がメインの二、三章に力を入れるべきなんでしょうけど……薄かったですねぇ。大分長くなったので、そろそろ総評に移りましょうか」


―結局、駄目ですか?―


 「ずばっと言っちゃうと、中途半端な作品ですね。
 主人公二人のミクロな話は、起伏に乏しく、描写も不足してます。アポストリが憎い~と、言ってる割に、学君は三章であっさり堕ちますし、その理由も至ってありきたりで特に面白みはありませんでした。
 マクロな話も、かつて殺し合った種族同士が一つの都市を焦点に絡み合う、といった深みのあるものではなく、『不穏分子が事件起こしたのでそれを潰してもみ消しました、はい終わり! 今回の危機はとりあえず去りました、めでたしめでたし』ってだけで、大仰な設定だけが一人歩きしている感じです」
 「い……いつになく毒舌だな。何か特別気に入らないとこでもあったのか?」
 「問題は三章ですよ、三章! 愛のない共棲なんて嫌だと泣き崩れる金髪少女、ネグリジェ越しに触れる肢体、明かされる残酷な真実! ここまで来たらもう押し倒すしかないでしょ? どーしてそこで欲望の電車に駆け込み乗車しないかな、学君っ! コノ根性ナシガァァァァァッ!
 「場末の18禁ゲームそのものじゃねぇかっ! つーか、昼メロか?」
 「せめてキスの一つもして下さい。でないと、私が欲求不満で死にます」
 「なんつー身勝手な理由を……。
 ま、あたしもこの作品はあんまり褒める気がしないけどな」
 「そうなんですか? マユさん好みのSF話だし、ストーリーも特に破綻してはいないので、及第点ぐらいは出ると思ってましたが」
 「作り込みがとにかく甘い。
 作品のキモであるアポストリの設定がまるでなっちゃいねぇ。種族的特徴が××鬼そのまんまってのは大目に見るとしても、何で地球に来たのか、それまでどういう歴史を刻んで来たのか、そもそも、地球に来るまでどうやって種を維持して来たのか、不明のままってのはどういう了見だ?」
 「そう言えば、共棲を行ったのは学君のお父さんが最初でしたね」
 「つまり、アポストリは宇宙を旅しながら、自分達以外の生命体を捕食して種族保存を続けてきた、と想像出来るんだが、葉桜の台詞からするとそんなのは偏見らしい。正しい歴史を教えてないのか、単に事実を隠蔽してるのか。どちらにせよ、ロマンチストの恵吾が考える程、アポストリは綺麗な種族じゃねぇのは確実だ。
 後、葉桜が『母親』という単語を使ってたのも引っかかったな。自分の父親にあたる存在を、『母親の共棲者』と呼んでる時点で、『両親』って概念はアポストリにはない筈だ。『親』なら解るが、『母親』という単語が出てくるのはおかしい。
 こういう細かいアラは山程あるので、探してみるのも楽しいかもな」
 「そちらも毒舌全開ですねぇ。
 となると、総評としては落第ってことになるんでしょうか?」
 「趣味で『若い女ばっかりの種族』を出すのが悪いとは言わねぇが、それを作品内で生かすための努力を怠ってる時点で、SFとしては間違いなく落第だ」
 「恋愛物としても落第ですよ。主人公二人の心理的葛藤が殆ど描かれてなくて、ただ単に似た境遇だったというだけで、後は流れにまかせてくっついちゃうなんて安直にも程があります」
 「おいおい……ボロクソじゃねぇか。何かフォローしてやれよ」
 「イラストはさっぱりしてて好みですね♪ ちなみに、表紙の絵が一番失敗してます。中のカラーページの絵はもうちょっと綺麗です」
 「それは作品に対するフォローじゃねぇだろ……」



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ホタルとマユの三分間書評『颯爽登場! 第一話 ―時代小説ヒーロー初見参―』

2008-06-06 21:06:38 | ホタルとマユ関連
さて、最近時代劇視てないなぁ……な、第973回は、

タイトル:颯爽登場! 第一話 ―時代小説ヒーロー初見参―
監修:高橋千劔破  編集:新潮社
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:'04)

であります。


「口惜しい奴等だ。憎い奴等だ。口惜しがっても、憎らしがっても、生きたままではどうにもならぬ。わしは死んで取り殺すぞ。可愛い女房まで自害をさせ、この清左衛門の手足をもぎ、口を塞ぎ、浅ましい身の上に落した奴等、――どうしてこのままに置くものか」
 と、呻きながら、枕元で途方に暮れている、吾が子をぎょろりと睨むように見詰めると、枯木のように瘠せ細った手で、引き寄せて、
「俺は死ぬぞ、雪太郎。死んでお前の胸の中に魂を乗り移らせ、お前の手で屹度あやつ等を亡ぼさずには置かぬのだ」
   ――本文281頁。『雪之丞変化』より。



―ゆるキャラの定義って?―


 「皆さんこんにちは、ホタルで~す♪」
 「マユっす」
 「何か普通過ぎてイマイチ……」
 「普通で何か問題があるのか?
 それはさておき、前々回『人類は衰退しました』を紹介した時、最後に『ゆるキャラ』の話をしたよな?」
 「しましたがそれが何か?」
 「あたしは単に『ゆるいキャラ』の略称だと思ってたんだが、厳密にはちょっと違うらしいな。
 Wikipediaによると――(以下引用)

『国や地方公共団体、その他の公共機関等が、イベント、各種キャンペーン、村おこし、名産品の紹介などのような地域全般の情報PR、当該団体のコーポレートアイデンティティなどに使用するキャラクターのこと』(引用終わり)

ってことになってる」
 「語源は『ゆるい+キャラクター』なんだから、別に公共マスコットに限る必要はないと思いますけどね」
 「まぁな。
 で、興味が湧いたんで色々調べてみたら、何か凄いものを発見した。まずは下記のサイトを見てくれ」

→『太秦戦国祭り公式サイト』

 「東映太秦映画村で開催されるお祭りですね♪
 トップページの写真に写ってる方が斬馬刀担いでるのが、何か時代を感じさせます」
 「フッ……それはまだ序の口よ、右下のバナーをクリックしてみな。
 『URYU ― A WILD BOAR ―』って書いてある奴だ。このイベントの公式キャラのページに行ける」
 「カラス天狗うじゅ……?
 え~と、これは……何と言うか……ひょっとして暴走してますか実行委員会?」
 「萌えキャラってとこが、時代の流れを感じるだろ?
 あたしは最初見た時、目が点になったぜ。つーか、東映太秦映画村のマスコット・かちん太より目立ってるってどうよ?」
 「あー……あはははは……まぁ、そういうディープな話はこの後、楽屋裏でやりましょう」


―ウチも少しは受けそうな作品を選びませんか?―


 「さて、今日の一冊は――廃れゆく時代小説の救世主となれるか? 『颯爽登場! 第一話 ―時代小説ヒーロー初見参―』です」
 「廃れゆくとかぬかすなっ!
 あとテンション低いぞ、お前。いつもの如く無駄に愛想振りまけよ」
 「だって……これ刊行は2004年ですけど、載ってる作品は一番新しいので1939年(!)ですよ。あり得なくないです?
 古くさ~い、読み辛~い、受けが取れないぃぃぃ~(切実)
 「黙レ、小娘ガァァァァァッ!
 『時代が望む時、名作は必ず甦る!』って言葉を知らないとは言わせねぇぞ!」
 「それは仮面ライダーの話でしょ……。
 えーと、本書は時代小説のメジャー作品の中から七作品を選りすぐり、それぞれの第一話のみを収録したアンソロジーです。要するに、『いきなり最終回』の逆バージョン時代小説版ですね」
 「サブタイトルから想像付くと思うが、時代劇ヒーローの初登場シーンを集めることを基本コンセプトにしている。故に、大河小説の類は選ばれていない」
 「収録作品は以下の通りです。なお、ここに挙げているのはシリーズ名で、第一話のタイトルではありません」



●大菩薩峠/中里介山 著。1913年発表。
 ――四十一巻にも及ぶ、未完の大作。当初は、『音無しの構え』と呼ばれる剣技を修め、罪なき者すら手にかけるダークヒーロー『机竜之助』を主人公とした仇討ち物語(※ただし、狙われるのは竜之助の方である)だったが、途中から数多くの主人公の足跡を追う群像劇に変化した。幕末を舞台にしており、島田虎之助や近藤勇といった実在の人物も登場する。


●鞍馬天狗/大仏次郎(おさらぎじろう) 著。1927年発表。
 ――勤王志士に味方する謎の覆面剣士・鞍馬天狗(こと倉田天膳)と、彼を慕う少年・杉作、元盗賊・黒姫の吉兵衛の活躍を描く娯楽巨編。シリーズは全四十七作を数え、それに伴って天狗の立場も変化するが、最後まで庶民のヒーローというスタンスだけは変わらなかった。アラカンこと嵐寛寿朗主演の映画が非常に有名。


●丹下左膳/林 不忘 著。1927年発表。
 ――赤茶けた髪、隻眼隻腕、右顔面に深い一線の刀傷、時代劇ダークヒーローの代名詞と言っても過言ではない怪剣士・丹下左膳の生き様を描くピカレスク・ロマン。ただし、初登場作となる『新版大岡政談・鈴川源十郎の巻』では、左膳は主役どころか完全な悪役であり、お約束通り善玉に敗れて退場する。しかし、六年後に発表された『丹下左膳』でちゃっかり主人公として復活、正義の味方っぽい役回りを演じて絶大な人気を博した。


●旗本退屈男/佐々木味津三 著。1929年発表。
 ――「天下御免の向こう傷」で知られる直参旗本・早乙女主水之介が、退屈を持て余した末、様々な揉め事に首を突っ込んでいく痛快娯楽作品。無役で千二百石を頂戴しているという時点でツッコミ必至だが、ノリが面白いので許せてしまうところが凄い。二十近く歳が離れており、甲斐甲斐しく兄の世話を焼く可愛い妹・菊路、その恋人で、見た目は華奢ながら主水之介すら認める凄腕の美剣士・霧島京弥等、狙いまくったレギュラーキャラクターも魅力。


●国定忠治/子母沢 寛 著。1932年発表。
 ――本書で唯一、実在の人物を主人公とした作品。すいません、股旅もの嫌いなんで解説はパス。個人的な感情抜きにしても、説明不足な上に視点がふらふらしてて非常に読み辛い作品だと思います。


●雪之丞変化/三上於菟吉 著。1934年発表。
 ――中村菊之丞一座の若き女形・雪之丞が、親の敵である五人の男を追い詰めていく華麗なる復讐絵巻。つい半年前、NHK正月時代劇として放送(主演は滝沢秀明。狙いまくってますな)されたので、御存知の方も多いかと思われる。主人公の雪之丞と、相棒である義賊・闇太郎の対比が見事で、映画、舞台等では一人二役で演じられるのが通例。なお、冒頭に紹介したのは、今際の際に父・清左衛門が雪之丞に言った台詞である。


●桃太郎侍/山手樹一郎 著。1939年発表。
 ――「姓は鬼退治、名は桃太郎」と、洒落た名乗りで現れる好男子・右田新二郎が、図らずも自身を捨てた丸亀藩のお家騒動に巻き込まれていく陰謀劇。天涯孤独の身でありながら、飽くまで明るく、長屋の子供達のヒーローとして生きる新二郎のキャラクターが清々しい。ちなみに、「ひとつ、人の世の生き血を啜り~」という口上で悪を斬りまくるのはドラマのオリジナルである。



 「は~い、終わり終わり♪」
 「心底嬉しそうだな、おい。
 言い忘れてたが、各作品の末尾には、第一話の後の粗筋とシリーズ全体の解説が付記されている。粗筋は概略ながら結末まで記してあり、解説は原作のみならず映画の話にまで及んでいるので、続きを読まなくても作品の全体像を知ることが出来るのは嬉しいところだ」


―で、本書の意義は?―


 「あれ、まだ続くんですか?」
 「黙らっしゃい。
 これで終わっちまったらあたし等が出てる意味がねぇだろ。せめて、気に入った作品の一つぐらい挙げろや」
 「気に入った作品……趣味でいくなら『雪之丞変化』でしょうか。異様に句読点が多い文章に閉口しましたけど、雪之丞のキャラクターは良くできてるし、長崎の仇を江戸で討つという洒落た設定も好きです。これだけは続きを読んでみたいですね」
 「親父の怨念背負ってる割には、暗さが感じられないのが雪之丞の美点だな。とにかく二本差しの主人公が多い時代小説の中にあって、元大商人の息子で今は舞台役者というのもいい。あ~、そういや『THE八犬伝』の毛野のエピソードも、女形が復讐を果たす話だったなぁ。作画が安定しないアニメだったが、あの回だけは妙に力が入っていた」
 「ちょっとちょっとちょっと、貴方が脱線してどうするんですか。
 時代劇好きらしく、好きな作品を三つか四つぐらい挙げてみて下さい」
 「いや~それが、名前は知ってるけど読んだことない作品ばっかりでな。ドラマならともかく、原作に付いてはあまり言うことがなかったりするんだ。
 本書読んだ限りだと、『旗本退屈男』と『桃太郎侍』かね。どちらも勧善懲悪物でストーリーが解りやすく、一応この第一話だけで一つの話が終わっているので続きを気にしなくてもいいのが有り難い」
 「『鞍馬天狗』は大ピンチのいいところで終わってますし、『大菩薩峠』と『雪之丞変化』は物語の触りの部分といった感じですからね……。こういうの読むと、いかに解説が充実してるとは言え、これ一冊の価値ってあんまり高くない気がしてくるんですけど」
 「そうか? カタログとしちゃ結構優秀だと思うけどな。色んな作品を拾い読み出来るし、続きを読まなくても大体のストーリーは把握出来るから、時間がない現代人には便利だぜ」
 「マユさん、実は時代小説苦手なんじゃないですか?」
 「い、いや……そんなことはねぇぞ。
 確かに、説明文が長ったらしくてなかなか先に進めないとか、チャンバラやってりゃそれでオッケーって感じでストーリーぐだぐだだったりとか、作者が主人公に乗り移って自己満足に浸ってるだけだったりとか、ハズレを引いた時の破壊力が凄まじいジャンルではあるが、それでもあの独特の雰囲気は捨てがたい……と思う」
 「お後がよろしいようで」



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ホタルとマユの三分間書評『テガミバチ』

2008-06-02 23:46:46 | ホタルとマユ関連
さて、ようやく最新刊まで揃えました、な第972回は、

タイトル:テガミバチ(1~4巻:以下続刊)
著者:浅田弘幸
出版社:集英社 ジャンプコミックス(初版:'07)

であります。


―今日はかなりガチで行きます―


 「皆さん御無沙汰してました、ホタルでーす♪」
 「マユっす――つーか、いきなり自虐ネタかよ!
 「こともあろうに、ゲームに浮気してたらしいですよ。何て嘆かわしい!」
 「お前にそれを言う資格はねぇ!
 今日は本筋の話が長くなりそうなんで、さっさと先へ行くぜ」


―絵本ですか? 漫画ですか?―


 「さて、本日御紹介するのは……月刊ジャンプ最後の輝き! 表紙は童話チックだけど、中身はしっかり少年漫画な『テガミバチ』です!」
 「連載開始と同時に、雑誌側が大々的に売りにかかった作品だな。
 実はたまたま初掲載の号読んでたりするんだが、絵といい内容といい月ジャンのカラーとは全く別物で、劣化版週間少年ジャンプな作品が多い中、思いっきり浮いてたのをよく覚えてる」
 「そもそも画力が段違いなので、浮くのも仕方ないと思いますけど……。
 ちなみにコミックスも普通の新書サイズでありながら、三巻までカラーページ付きという破格の待遇を受けてます。前作のI'll(アイル)完結から本作開始まで二年以上経っていることから、可能な限り企画を詰め、雑誌の顔を作ろうとしたことが伺えます」
 「穿った見方をすれば――古臭いイメージの付いた月ジャンを切り捨てて、SQを創刊するため、新雑誌の顔となる作品を事前に用意した、とも考えられるがな」
 「もうっ! 裏事情知ってるわけでもないくせに、偉そうなこと言わないで下さい!
 それと、まだ作品内容に全然触れてませんよ。ほら、さっさと解説する!」
 「(こいつ、小姑キャラが完全に定着しやがったか……)
 一日のすべてが夜という不思議な国・アンバーグラウンド(以下AG)を舞台に、危険を顧みずテガミを届ける国家公務郵便配達員BEE――通称テガミバチ達の活躍を描く異世界ファンタジーだ。
 主人公の少年・ラグが、テガミバチの最高称号者『ヘッド・ビー』を目指すという王道話を軸に、彼がこの道に入るきっかけとなった青年・ゴーシュの失踪事件、『こころ』に反応して人を襲う巨大生物・鎧虫の謎、首都アカツキに連れ去られたラグの母の正体等、色々と深読み出来る要素を絡めて魅力的なストーリーを展開している。
 個々のエピソードは浪花節全開だが、マクロなストーリーは結構ヤバげなので、幅広い読者にオススメ出来る間口の広い作品と言えるだろう」
 「補足を入れると、AGは海からつながる巨大な川によって分断された三つの区域から成っており、住む区域がそのまま身分に直結しています。
 人工太陽の真下に位置し、特権階級だけが住むことを許された首都アカツキ。それを取り囲むドーナツ状の区域で、中産階級が住むユウサリ。さらにその外側に位置し、貧しい者達が細々と生きる地方・ヨダカ。これらの区域は関所を兼ねた橋でつながっていて、渡るには政府発行の通行証が必要となります」
 「この設定からして、かなり厄いよな。
 さらに補足すると、アカツキとユウサリをつなぐ橋は一本だけで、門番(ゲートキーパー)によって厳重に管理されている。また、人工太陽の恩恵が薄いユウサリ外延~ヨダカの闇の世界は、さっきもちらっと触れた鎧虫が生息する危険地帯となっていて、旅には常に危険が伴う。だからこそ、区域間を行き来するテガミバチは非常に重要な役職となるわけだが、政府の手先ってことで国民からはあまりいい印象を持たれていない」
 「これだけ地域格差が激しいと話も暗くなりがちですが、そこはそれ、主人公・ラグ君と相棒のニッチちゃんのキャラがとっても可愛いので救われています♪ と言うか、この子達いなかったら、私この作品読んでなかったかも」
 「……たまにはその『可愛い』抜きでキャラの説明はできねーのか?」
 「可愛いものは可愛いからいいんです!」
 「それ、説明になってねーぞ……。まぁいい、キャラの話が出たところで、一人ずつ紹介なぞしておこう」


―キャラクター紹介なのですよ!―


 「では、主人公のラグ・シーリング君、十二歳。
 母一人子一人でヨダカの片隅に生きていたアルビス種の少年。七歳の時、謎の一団に母を連れ去られ、『テガミ』として友人宅に配達されたという悲しい過去を持ちます。
 自分を、育ての親であるサブリナおばさんの所まで送ってくれたテガミバチ・ゴーシュに憧れ、いつか彼と母に再会することを誓い、ヘッド・ビーを目指す典型的な成長キャラ。
 主人公特権は、左眼に埋め込まれた赤い精霊琥珀の義眼の力を借りて、心弾『赤針』を撃つことが出来ること。この弾には、物に込められた『こころ』を映し出す効果があり、ストーリーの重要なキーとして使われることが多いです。
 感受性が強く、ほぼ毎回他人の心を見ては号泣します。こういう優しい子、大好きです♪
 「あの涙腺の緩さは既に一芸と化してるよなァ。
 ちなみに、心弾とは『こころ』の欠片のことで、本来はテガミバチ達の武器である『心弾銃』なしに発射することはできない。鎧虫を倒す唯一の方法は、この心弾を内部に撃ち込むことなんだが、なぜ連中が『こころ』に反応して崩壊するかは不明とされている」
 「次いで、サブ主人公のニッチちゃん。
 金色のたてがみに海色の瞳を持つ伝説の生物『魔訶』の血を引くとされる少女。見た目はラグよりさらにちっちゃい女の子ですが、黒い毛に覆われた獣の腕を持ち、足下まで延びたツインテールの髪を剣に変化させてあらゆる物を切り裂く強力な戦闘者です。
 一度、ラグによって見せ物小屋に配達されてしまいますが、自力で脱出して再会、後に彼の相棒(ディンゴ)となります。二人が再会し、共に行くことを決めるシーンは本作屈指の名場面!
 舌足らずな口調、とにかく多い言い間違い、野性味溢れる行動パターン等、子供っぽさが目立ちますが、時折ひどく大人びた意見を口にするあたり、実は見た目より年長の可能性ありです。上記の特徴も、人とは異なる種族だから、で説明ついちゃいます。
 いつも頭の上に乗っけている珍獣・ステーキとセットで、この漫画のマスコット的存在かも」
 「えらく強いマスコットだな、おい。つーか……鎧虫の首切り落とすって、どれだけ硬いんだよあの髪!
 あと、こいつの持ちネタと言えばパンツかね。育った環境からかニッチは一張羅の下に何も着ておらず、ラグの勧めでようやくパンツだけは履くようになったという経緯があるんだが、二人の絆を象徴するアイテムとしてその後何度も使われている。パンツで表される絆ってのも何だかな~って感じだが、深く考えてはいけない」
 「普通はラグが付けた名前の『ニッチ』が絆の証となるんでしょうが……どう考えてもこっちの方が目立ってますね。
 ではでは、出番は少ないけど最重要キャラなゴーシュ・スエード。ラグと出会った時は18歳で、今は23歳……の筈。
 命を賭して、幼いラグを港町キャンベルまで届けたテガミバチ。旅の間は、飽くまで配達員という立場で接していたのですが、配達終了後に本来の優しさを見せ、彼の友人となりました。
 ラグと同い年の妹シルベットがおり、車椅子生活を余儀なくされている彼女のために身を粉にして働いていましたが、首都アカツキに栄転後、謎の失踪を遂げます。果たしてその真意は?
 なお、ある事件が元で記憶の大部分を失っており、これも本作の大きな謎の一つとなっています」
 「あの事件にゃ明らかに裏があるよなァ……クックック。また、楽屋裏あたりで考察してみたいところだ。
 では名前が出たので、ゴーシュの妹シルベット・スエード。十二歳。
 初登場はラグが見たゴーシュの記憶で、いかにも寂しがりな美少女……だったんだが、五年の歳月で鍛えられたのか、ユウサリで対面した時には『車椅子の女豹』と名乗る気っ風のいいキャラと化していた。  
 借金取り(と間違えられたラグ)に啖呵を切ったり、駆け回るニッチをスカートで捕獲(!)したり、『兄は死んだの!』と言い切ったりする等、勝ち気な面が目立つが、中身はラグに近いところがあり、涙を堪えつつ兄の帰りを待ち続けていた。健気、という表現がしっくりくる娘だな。
 後にラグとニッチの家主となるが、味覚が破壊されているのか、凄まじく不味いスープを作っては二人を怯えさせている……」
 「えーと……他に誰かいましたっけ?」
 「他には、郵便館『ハチノス』の館長ラルゴ・ロイド、副館長でゴーシュの想い人のアリア・リンク、ラグの仕事仲間のコナーとザジがいる。あと、レギュラー入りするかは不明だが、4巻で出てきたDr.サンダーランドJr.もいい味出してたな」
 「あ、速達専用配達員のジギー・ペッパーさんをお忘れなく。
 二巻でゲスト出演しただけでしたが、ラグに勝るとも劣らない夢を持つすっごく格好良い方でした!」
 「あー、そんなのもいたな。しかし、ジギー・スターダストって言って通じる読者が何人いるんだろうか……」
 「どこのどなたですか、その方?」
 「いや、通じないならそれでいいんだ……はぁ~……」


―総評でございます―


 「絶妙なコンビネーションを誇る主人公二人、謎をふんだんに散りばめた物語、陰影を強調したシャープな絵柄、どれを取っても一級品! 無条件でオススメできる逸品です!
 「ホタルの場合、可愛ければ何でも無条件で勧めてる気がするのはあたしだけか……?
 ともあれ、オススメの作品なのはあたしも同じだ。ラグがテガミバチに憧れ、採用試験を受け、合格してテガミバチとして活躍するという流れをきっちり描きながら、同時に、彼を取り巻く人々の物語や、世界そのものの謎を小出しにして話に奥行きを持たせているのはポイントが高い。
 『テガミ』とはすなわち人の『こころ』であり、『テガミバチ』とは『こころ』を届ける職業である、という理念を中心に据え、それを象徴するキャラとしてラグという少年を描くことで、話が空中分解することを防いでいるのも見事だ」
 「長っ! 素直に、いい作品だ、ぐらいで済ませとけばいいのに……」
 「それじゃ書評の意味がねぇだろうよ。
 最後に、各巻に必ず掲載されている巻頭詩を紹介しておこう。実に簡潔にこの物語を表している名文だ。未読の方は、どんな作品かを想像する参考にして頂きたい」


すべてのもののなかで
先立つものは「こころ」である
すべてのものは「こころ」を主とし
「こころ」によってつくりだされる……
   (「アンバーグラウンド教典」第一掲より)




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ホタルとマユの三分間書評『人類は衰退しました』

2008-05-21 23:52:47 | ホタルとマユ関連
さて、すいません更新が大分遅れました、な第970回は、

タイトル:人類は衰退しました
著者:田中ロミオ
出版社:小学館 ガガガ文庫(初版:'07)

であります。


―楽屋裏までお見せします―


 「ホタルでございま~す♪」
 「マユでありんす♪」
 「最初の挨拶って難しいですね……」
 「常春の国マリネラって偉大だよなぁ……」
 「既に御存知の方もいらっしゃるかと思いますが、この度新たに、私達の雑談専用のページ『ホタルとマユの楽屋裏』を設置しました! 最新の投降覧の【☆『目録へのショートカット』兼『総合案内板』】の、『怪しいページを作りました!』の所から行けますので、興味がある方は是否お越し下さい♪」

「現在は、前回紹介したPS2のゲーム『グリムグリモア』の話の続きを掲載している。こういった記事内での雑談の続きをやる場合、後から元記事の方にもリンクを入れるようにする予定だ」
 「この記事の末尾にも、後から楽屋裏へのリンクが張られる可能性があるってことですか?」
 「いんや。今回の雑談は楽屋裏設置の紹介だから、これ以上話すことは何もねーと思うぞ」
 「がーん……せっかくの新企画なのに」


―どんな作品ざましょ?―


 「さぁて、本日御紹介するのは……遂に来ました、ガガガ文庫の一番星君グレート! 『人類は衰退しました』です!」
 「創刊と同時に大々的に売りにかかった、まさに文庫の顔と言える作品だ。ジャンルとしては、まったり系世紀末SFといったところか」
 「緩やかに破滅に向かっている筈なのに、まったく悲壮感がない人類と、彼らに代わって全世界に生息している(と目されている)妖精さん達の微笑ましい交流を描く、ファンタジック・コメディですね!」
 「フッ……こいつを、ファンタジー扱いするとは。ホタル、てめぇ厄いな
 「(なぜここでみどろネタ? しかも全然似てないし……)
 その根拠は? と言うか、マユさんってジャンル限定するの嫌いじゃありませんでした?」
 「別にファンタジー部分がおざなりだと言うつもりはない。つーかむしろ、かなりしっかり描かれていると言うべきだろう。だが、その中に潜んでいるSF要素がかなり濃いんで、あたしはこれはSFだと言ってるだけだ」
 「厄いとか言っといて、随分当たり障りのない答えですねぇ……。
 本書は『妖精さんたちの、ちきゅう』と『妖精さんの、あけぼの』の二つの中編と、おまけの『四月期報告』から成っています。
 第一章『妖精さんたちの、ちきゅう』は、人類最後の教育機関《学舎》を卒業した主人公の少女(かなりの人見知り)が、故郷のクスノキの里に戻り、新任の調停官として新人類《妖精さん》と親睦を深める話。基本的な世界観については、大体この章で語られています。
 第二章『妖精さんの、あけぼの』は、前の話に引き続き、主人公が妖精さんの生態を調べるのですが、原始時代ごっこから始まった彼らの遊びは急速に変化して……というお話。最後のオチは結構ブラックでした」
 「(いつになく真面目な解説だなァ……)
 最大のキーである妖精だが――平均身長10センチ、三等身の小型人類だ。言っとくが羽根は生えてねぇ。
 台詞はすべて平仮名表記、甘い物好きで簡単に餌付けされてしまう、恐怖を覚えるとみんな揃って失禁&気絶するといった間の抜けた特徴を数多く持つ。が、その反面、思い付きだけで何でも作ってしまうとんでもない知性と技術を有し、さらに、生きるために食物を必要としない、繁殖方法が不明で気付いたら増えている、という既存の生物とは一線を画す存在でもある。
 この手の情報は主に主人公の語り口調の地の文と、調停官である彼女の祖父の口から語られるんだが、論理的かつ細かくて実に素晴らしい
  「正直な話、そういった小難しい部分は読み飛ばしちゃっても問題ないです♪
 本作は人類の現状やら、妖精さん達の生態といった説明にかなりのページを割いており、第一章前半などは殆どそれのみで埋まっています。しかし、それらの話は実際に妖精さん達と出会う一章後半でも出てきますし、何より、実際に目の前に対象がいる方が理解もしやすいです。なので、序盤の情報量に挫折しかけた方は、斜め読みでどんどん先へ行っちゃいましょう」
 「ちったぁ真面目に読めよ……と言いたいところだが、その指摘はあながち間違ってねぇ。
 妖精達は、『かんたんのはんたい』とか『にんげんさんは、かみさまです』といった知的なんだか間が抜けてるんだかよく解らね~どっかズレた台詞を吐きまくることで、ラノベらしいライトな雰囲気を醸し出してくれるんだが、人間同士の会話ってのはふざけた所はあっても何だかんだ言って真面目なんだよなァ……。ストーリー自体も、妖精が登場してから俄然面白くなるので、情報過多な序盤でくじけかけた人は、ホタルの言うように斜め読みで済ますか、気合いと根性で突破して欲しい」
 「無論、設定好きの方はしっかり隅々まで読んであげて下さい。マユさんのおっしゃる通り、論理的かつ詳細な解説がなされているので、充分に知的好奇心を満足させることが可能です。不明なとこは不明のままで残してあるのも面白さを引き出してますね」


―で、面白かったの?―


 「本作はシリーズ物で、既に三作が出ている。2も読んだし、3も買ってきてはあるんだが、それについてはまた今度だ。とりあえず、この巻の感想としては――」
 「妖精さん可愛いっ!」
 「(に……似てねぇ……)
 あ~、まぁ……何だ。上のホタルみたいな顔した妖精達が、いい意味で予想を裏切る暴れっぷりを見せてくれたので前評判以上に面白かったな
 「いつになく歯切れが悪いですね? 妖精さん達、可愛くありません?」
 「いや……可愛い、とは思うぞ。どこからともなく現れてうじゃうじゃ増えるし、どいつもこいつも恐がりで一斉に失禁するし、行動原理はガキみてーだが、集団になると人類を遥かに上回るテクノロジーでとんでもないもの作っちまうし、まるで電子生命みてぇだ。ちょっかい出したらすぐに反応するから、色々実験してみたくなるよな」
 「貴方の可愛いと、私の可愛いは、根本的にズレてると思います……。
 最後に、各章の見所なぞを紹介しておきましょうか。
 『妖精さんたちの、ちきゅう』は何と言っても、主人公の微妙なアプローチに、はしゃいだり怯えたりする妖精さん達がとにかく可愛いです! 私も主人公のようにスイッチがオンになっちゃいそう。
 『妖精さんの、あけぼの』は、最初から最後までお菓子に振り回される妖精さん達がこれまた可愛い! お菓子のオマケの話も楽しいです」
 「お前、『可愛い!』しか言ってねぇぞ。
 前者は、名前を持たない妖精達が、名付けをしてくれる主人公を神と呼び、勢いで近代都市やら神像まで造ってしまう展開に注目だ。
 後者は、プチ人類史……と見せかけて、飽くまで妖精独自の急激進化(?)を遂げる様が興味深い。前章で語られた、『妖精は生きるために食物を必要としない』という設定をちゃんと生かしているのもいいな」
 「お互い、好きなところが全然ちがいますねぇ~」
 「裏を返せば、それだけ作品の間口が広いってことさ。最初にちょっと話したが、SF要素もファンタジー要素も手を抜かず、上手いこと融合させている傑作だ。主人公やその祖父の名前を敢えて明かさないことで、寓話的な面も持たせており、様々な角度から読むことが出来る。ここ最近のライトノベルの中では、かなりのオススメと言っていいだろう」
 「もしかして、今回はオチなしですか?」
 「商業的には、最近のゆるキャラブームに上手いこと乗っかった作品って見方も出来るぜ♪」
 「作品の出来はいいんだからそういうこと言わないのっ!」



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