つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

失敗作

2005-09-23 19:02:38 | ファンタジー(異世界)
さて、こんなことを言うときついとは思いつつの第297回は、

タイトル:天の階 竜天女伝
著者:森崎朝香
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

とりあえず、最初のがなかなかだったので、まぁ、他に手を出してはずれを引くよりは、と思ったんだけど、見事にはずれ。

まぁ、こういうのもやってみようと言う意気込みはいいけど、失敗したら元も子もないわな。

……さておき、話は前と同様、古代中国を舞台にしたファンタジー。
前作「雄飛の花嫁」から時代が下り、統一王朝が出来たくらいの時代がベース。

ときの皇帝は、後宮に数多の女性を侍らせつつも、後継たる男子が産まれない。
ある占いに従い、出会ったのがとある隠者で、ある年のある時期に生まれた女児が後継たる男児を産むであろう、との予言を受ける。

それを受け、国中を探して9人の女児を捜し出し、18になる年に後宮へと召し上げることとなった。
その中には、恨みを持った妾に誘拐され、この捜索にかからなかった女児もひとりいて、まぁ、これが主人公と言うことになるのだろう。

著者のあとがきに曰く「いろんな『お約束』を集めた話」と言うだけあって、この選ばれた9人の女性たちは、確かにお約束なタイプ、と言える。
宰相の娘で、容姿、才覚ともに後宮においてさえ並び立つ者がいない女性や、皇帝の寵を受け、栄達を望む野心的な女性、かたや栄達などには興味がなく、好きな本を読んで暮らす女性、雛育ちであるが故に無知で、純朴な、けれどそれが寵を競う後宮にあって皇帝の寵を得る女性……などなど。

また、主人公は不吉な予言から頑なに女であることを厭い、剣を取って戦う女性になっている。

まぁ、これだけのキャラがいるのはいいとしよう。
主人公にまつわる占いと、皇帝が得た予言との関係も、ネタとしては、まぁ許容できるものと言えるだろう。

ただし、300ページに満たないたった1冊の文庫の分量で、これらの9人の話を、しかも主人公がいるのでそこにもページを割かないといけないと言う状況の中で描くとなると、どうしてもキャラクターに深みと言うものがなくなってくる。

前作の主人公も、お約束なキャラではあったけれど、しっかりと書き込まれた心理描写のおかげで、魅力的なキャラクターになっていたけれど、この作品ではそうした部分が大幅に抜け落ちているために、キャラクターが「お約束」と言う表面で捉えられる、薄っぺらなだけのものになっていて、主人公と9人のメインキャラそれぞれに魅力がほとんど感じられない。

主人公、皇帝に与えられた占い(予言)との関係、主人公が出会う男性の素性、主人公の素性、9人のメインキャラともに、せめて上下巻くらいで、じっくりと書き込んでくれれば、もっとキャラにも話にも深みが出て、読み応えのある作品になったのではないかと思う。

1冊と言う分量に縛られていたのであれば、9人のメインキャラの話ではなく、主人公を中心とした話にしたほうが、もっと読める話になっていたと思う。

そう言う意味で、はっきりと、著者には悪いが、『失敗作』と言っておく。
前がそれなりにいい得点をつけられただけに、非常に残念ではあるのだが……。