つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

やはりこの流れに……^^;

2012-09-04 19:21:27 | ファンタジー(異世界)
さて、アニメ化される、またはされたことを知る→原作を読む、が定着してきたなぁの第1025回は、

タイトル:織田信奈の野望
著者:春日みかげ
出版社:ソフトバンク クリエイティブ GA文庫(初版:'09)

であります。

アニメ主体なのでどうしてもラノベばっかりになってしまって申し訳ないです。
いえ、ラノベ以外の普通の小説も読んでいるのですよ?
単に記事にしていないだけで。

まぁ、今は予約していたのが次々と借りれたのでラノベが続いていると思ってくださいな^^;

さておき、ストーリーは、

『戦国ゲームや戦国ネタが好きな普通の高校生相良良晴は、気がつくと何故か戦国時代の真っ直中にいた。
敵として認識され、攻撃されるもドッジボールで常人離れした「当たらない」能力を持つ良晴は何とか逃げ延び、とある本陣へ辿り着く。
そこは今川義元の本陣で……だが、決定的に違うところがあった。
今川義元が十二単を着た美少女だったことだ。

夢だと思っているとは言え、殺されそうになっている良晴は義元に家臣にしてくれと頼み込むが貴族趣味の義元はあっさり拒否。
逆に、家臣の松平元康(後の徳川家康)に殺されそうになる始末。
仕方なく、転がっていた槍を拾って応戦するも「避ける」こと以外にこれと言った能力も技能もない良晴にどうこうできるはずもなく……だが、そこへ織田軍に寝返ろうとしていた足軽が良晴を助けてくれたのだ。

その足軽は良晴を織田側の忍びと見て助けてくれたのだが、あいにくと良晴はそんな存在ではない。
だが、織田信長と言えば能力さえあれば足軽であろうと取り立ててくれる合理主義者。不埒な夢で意気投合した足軽――木下藤吉郎とともに織田領へと向かうが、その途中で藤吉郎は流れ弾に当たって死んでしまう。
木下藤吉郎――後の豊臣秀吉が死んでしまったことに愕然とする良晴の前に、藤吉郎の相方だと言う忍び風情の蜂須賀五右衛門と名乗る少女が現れ、死んだ藤吉郎との約束――ともにこの乱世で出世してみせる――を果たすため、ほんの短い時間、意気投合した藤吉郎の代わりに良晴に仕えると言ってくる。

とりあえず、何ができるかわからないが、織田家に仕官するため、織田軍の本陣へと向かう。
本陣は今川勢に囲まれていたが、五右衛門の助けもあり、信長を助けることに成功。
そして仕官を頼む良晴に下されたのは、「蹴り」だった。
曰く「わたしの名前は、織田信奈よ」』

さて、ストーリーだけど、何の脈絡もなく戦国時代に放り込まれた良晴が、信奈に仕官し、サルというあだ名をつけられ、現代の戦国ゲームなどで培ったそれなりに曖昧な知識をもとに、ツンデレでじゃじゃ馬な信奈と喧嘩しつつもサポートし、桶狭間の戦いで今川義元を討ち取るまでを描いたもの。
天下統一どころか、外国の宣教師から聞いた世界までを見据えた信奈に共感し、戦国時代の知識をもとに良晴が信奈をサポートし、困難を乗り越えていくのが基本的なストーリー展開。

まず言える印象としては、とてもテンポがいい、と言うこと。
はっきり言って、初っぱなから何の脈絡も――本当に何の理由付けもなく、戦国時代に飛ばされるという出だしに挫けそうになったけど、それさえ乗り切ってしまえば、このテンポの良さはかなりの好印象。
「トムとジェリー」ではないが(笑)、良晴と信奈の口げんかもテンポがいいし、他の戦闘シーンなどもこのテンポが落ちないのもいい。
ここまでテンポの良さを持続させられる小説は少ないのではないだろうか。
この点に関しては特筆に値する。

キャラは、まぁ、流行りの歴史上の人物を全員(じゃないけど)、美少女にしちゃいました系で特に見るところはない。
まぁ、それぞれの個性はしっかりしているほうなので、悪くはない、とだけ言っておこう。

あとは文章だが……半分以上が会話文で占められているのはいかがなものかと思う。
括弧付きの会話文だけではなく、地の文までキャラの台詞が入っているので、ほとんど会話文だけで成り立っているような印象を受けてしまう。
基本、良晴の視点で描かれるが、時々別の誰かの視点が唐突に入ってくるのもいただけない。
小説の文章と言うより、何かの脚本を読んでいるような感じがする。(脚本のほうがもっと簡潔できちんと状況説明されているかもしれないが、基本、台詞が主体という意味では脚本に近い印象がする)
まぁ、逆に言えばこの文章がテンポの良さを引き出していると思えば、悪くはないのかもしれないが……。

さて、総評だが、テンポの良さはかなりの好印象なのでいい点をあげたいところだが、結局は流行り物のひとつ。
キャラも個性はしっかりしているが特筆すべきところはないし、文章も地の文合わせて半分以上が会話文というのもどうかと思うので、良品の評価はあげられないなぁ。
なので及第とさせてもらうが、本当にテンポの良さだけは買う。
ハマれる人にはこのテンポの良さはさくさく読めていいと思うので、良品未満くらいの評価でオススメできるとは思う。
とりあえず、この1巻を読んでみて、テンポの良さにハマれば続きを買うのもいいだろう。

あ、ちなみに著者もあとがきで書いているが、時代考証などのアレンジや設定に現代風味が混じっているのはパラレルワールドなので勘弁してね(意訳)、と言っているので、そういうところにうるさい人には向かないだろう。


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ア行に戻ってきました(笑)

2012-04-22 19:12:17 | ファンタジー(異世界)
さて、図書館の書棚もぐるりと1回回りましたの第1010回は、

タイトル:花守の竜の叙情詩リリカ
著者:淡路帆希
出版社:富士見書房 ファンタジア文庫(初版:'09)

であります。

ラノベだと電撃以外あまり食指が伸びないのですが、図書館の本棚に置いてあったので手を取ってみた。
ファンタジア文庫と言うと、ラノベの黎明期にはいろいろといい作品があったんだけど、最近はとんと目立つ作品が見当たらないので、ほんとうにいつ以来だろうって感じだけど……。

さて、ストーリーは、

『カロルという島の小国オクトス――エパティークは家族やその側近、神官たちとともに地下の霊廟にいた。
オクトスの父王エルンストの葬儀のためだった。慣例に則って行われる葬儀は、しかし粗野な物音に中断させられる。
対立していた隣国エッセウーナの兵士に襲われたのだ。王の死は国民にすら知らされていなかったはずなのに、エッセウーナはこのときを狙って襲ってきたのだった。
恐怖に駆られる中、何故かエパティークだけは命を取られず、連れ去られてしまう。

一方、オクトスを陥落させたエッセウーナでは、オクトスを陥落させた祝宴の中、テオバルトは祝宴を抜け出して中庭にいた。
そこへテオバルトを慕うかわいい妹姫のロザリーが現れ、無邪気に話しかけてくる。
それに応対していると、オクトス陥落の立役者である第一王子のラダーが現れ、テオバルトにオクトスに伝わる銀竜の伝説の話を持ち出してくる。

千年の昔、オクトスが敵の島国に襲撃されたとき、少年王だったオクトスの姉姫がオクトスを守るために聖峰スブリマレから身を投げ、銀竜となってオクトスを救ったと言う伝説を。
捕らえられたと言うオクトスのエパティーク、銀竜の伝説――ラダーの真意に気付いたテオバルトだったが、身分の低い母親から産まれ、その母も今は亡く、何の後ろ盾もないテオバルトに、第一王子で嗣子であるラダーに逆らう術はなかった。

かくしてテオバルトは奴隷商に身をやつし、エパティークとともに銀竜を呼び出すという夢物語のような旅へと旅立つことになった。』

うわー……、すごいふつうでまともなファンタジーだ(笑)

ストーリーは、銀竜を呼び出すために旅をするテオバルトとエパティークが当初は反目し合いながらも、途中買われてきたエレンという少女との触れ合いも通じて、エパティークがオクトスでの実情を知り、変わっていく過程を中心に、テオバルトと和解し、互いに心惹かれ合っていく、と言うありがちなファンタジー。
ストーリー自体に目を瞠るようなネタや展開はなく、エパティークの心の変化がさほど長くない旅では早すぎるきらいがあるものの、気になるところはそれくらいだろうか。
同じことがテオバルトにも言えるのだが……。
他にも、カロルという島がどの程度の大きさの島なのか、と言った基本情報がすっぽり抜けていて、世界観が掴みにくいと言う難点がある。
いいところとしては、伝承されている詩を効果的に使って、エパティークとテオバルトが惹かれ合う姿や、銀竜の伝説を語っていると言うところだろうか。

文章も基本はエパティークとテオバルトの視点から交互に描かれており、文章の作法も問題なく、ラノベとしてはかなりまっとうな部類に入る。
たまに主人公ふたりとは違う視点で描かれる場面があるので、きちんとふたりの視点だけで書いてほしかったと言う面はあるものの、そこまでひどいわけではないのでここはまだ許容範囲内だろう。

あとはキャラだが、上記のようにエパティーク、テオバルトともに心の変化が性急なのがキャラをブレさせる一因となっている。
テオバルトも実際は妹姫のロザリーをかなり可愛がっているのだが、当初はそんなところがしっかりと描かれていないので、銀竜召喚が成功した暁にラダーに望んだ条件なども唐突に見えてくる。
エパティークにも王女としての矜持や、それを見直し、変わっていく過程が表現不足の感があって、やはりキャラのブレが見え隠れする。
ありがちとは言え、ストーリー全体としては悪くないだけに、キャラがこれなのは残念ではある。

と言うわけで総評だけど、キャラのことに目をつむれば、ファンタジーの王道のひとつなので割合安心して読める作品とは言えるだろう。
いまのところ3巻まで出ているとは言っても、この1冊でとりあえずの完結を見ているので、2巻以降を読むかどうかの判断もしやすい。
いいところ、悪いところ、双方ともにあってやはり及第と言ったところになるだろうか。
ファンタジア文庫であまり期待していなかったぶんだけ、好印象ではあるのだけど、さすがに良品とは言い難いので、こういう結果に落ち着くのが妥当なところだろう。
ネタバレになるので言えないのだけど、個人的には2巻以降、エパティークとテオバルトふたりの関係をどう展開してくれるのか、興味はあるので読むとは思うけど……。

それにしてもAmazonでの評価は高いものの、新品がすでに2巻以外手に入らないってのも何だかなぁって感じだね。
まぁ、ストーリーもキャラも王道で、ツンデレとかキャラに萌えるような作品でもなく、アクションが充実しているわけでもないので、悪くない話ながらもあんまり人気は出なかったんだろうなぁ、とは思うけど。


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いつまで続くんだ、これ……

2012-04-14 14:20:22 | ファンタジー(異世界)
さて、とりあえずあと1冊だなぁの第1007回は、

タイトル:コーラル城の平穏な日々 デルフィニア戦記外伝2
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C★NOVELS Fantasia(初版:'11)

であります。

図書館で借りれる茅田さんの本はあと1冊「祝もものき事務所2」だけになった。
記事にはしてないけど、「クラッシュ・ブレイズシリーズ」も全部読んでるし、残すはこれだけ。
まぁ、予約数がそれなりに多いので、3巻が出てようやく2巻なんてことにもなりかねないんだけど(笑)

さておき、本書は中編2本、短編1本で構成された外伝作品。
前の外伝とは違って、今回はデルフィニア戦記で主人公だったウォルやリィも出てくる作品となっている。
それにしても、いったいいつまでこのキャラで作品書いていくつもりなんだろうね、茅田さん。
もともとは中央公論じゃなくて、大陸書房からデルフィニアは出てたはずだから、かれこれ十何年は続いてる計算になるんだよねぇ。

ま、とりあえずストーリーは各話ごとに、

『「ポーラの休日」
デルフィニア国王ウォルの愛妾ポーラは、とある夕餉の席でウォルから休みを取らないかと提案される。住居にしている芙蓉宮から出たことのないポーラに気晴らしを、との配慮からだった。
最初は遠慮していたものの、王妃であるリィの勧めもあって、ポーラはコーラルの市街見物に出かけることになった。
そんな折、懇意にしているラモナ騎士団長の妹アランナが訪れ、市街見物に同行することに。
市街には詳しいアランナの提案で、魔法街へ行くことになったポーラとアランナ。ふたりは魔法街についてあれこれ話をしているうちに、未だくっつく気配のないイヴンとシャーミアンの話になり、ふたりをくっつけさせるために惚れ薬を買いに行くことに決定してしまっていた。

一方、そんなことが目的になっているとは知らないリィとシェラは、ウォルに頼まれてふたりの護衛のために、ふたりの後をつけていた。
女性ふたりの買い物の長さに辟易しているリィたちの前に、変装したバルロとナシアスが現れる。ふたりは魔法街で起きた誘拐事件の調査をしていると言うのだ。
折り悪く、ポーラとアランナのふたりは問題となっている占い師の館に赴き、姿をくらましてしまう。
すわ、今度はポーラとアランナのふたりまで――リィとシェラ、バルロにナシアスは大慌てで誘拐事件の解決に全力を挙げることとなるが……。

「王と王妃の新婚事情」
結婚式当日、国家間の約束事など無視して攻めてきたタンガの軍勢――結婚式を中止して戦場へ駆けつけ、タンガを退けたウォルとリィ。
戦勝に沸く中、ウォルとリィの天幕は静かだった。中止したとは言え、結婚式を挙げたふたりに遠慮して、ふたりの天幕には人が近寄ってこなかったのだが、そこではふたりが静かに闘志を燃やしていた。
色気も何もないふたりは、カード博打をしていたのだった。

「シェラの日常」
シェラがリィの侍女となってからしばらく――リィとの生活にも慣れてきたある日のこと。長雨が続いた後の晴れた日、リィは友人である黒馬のグライアで遠出をするために出かけていった。ただし、シェラが4日間煮込んだシチューがようやく食べられると言う日で、夕食までには戻ってくる、と言うものだった。
リィが出かけた後、久しぶりの晴れに西離宮の掃除や寝具の洗濯などをするシェラ。
そこへ新たな食糧管理番が西離宮で消費される食料の量が多すぎると言ってきたり、王宮の女たちに国王が頭を悩ませているもめ事について聞いたりと平穏な日常を過ごしていた。

リィがいない間は自由のきくシェラは、王宮の女たちから風邪で仕事を休んでいる女官の見舞いに行くことになり、その帰り道、どうもよろしくない雰囲気で男が貴族らしい女性に迫っている場面に出くわしてしまう。
見過ごすことができず、女性の手助けをしたシェラが待っていたのはトラブルの数々だった。』

デルフィニア戦記のファンの方には懐かしくも、楽しめる作品だろうなぁ。
「ポーラの休日」は、お約束の、実は誘拐なんかされていなくて、リィたちが勘違いで大騒ぎする作品で、オチを見ればリィたちが滑稽な道化師を演じていた、と言うもの。
「王と王妃の新婚事情」はこの人にしては(極めて)珍しく、数ページ程度のショートショートで、結婚式直後のタンガ戦での一幕を切り取ったもの。
「シェラの日常」は、平和な日常だったはずがある貴族の女性を手助けする羽目になったり、リィの刺客が現れたり、そのせいでリィが楽しみにしていたシチューが台無しになってしまうかもしれない、と言う事態に追い込まれたりと後半部分で、いろいろと展開を見せて、いったいこれのどこが「日常」やねん、とツッコミを入れたくなる内容になっていたりする。

各ストーリーの展開はともかく、こちらもまた珍しく、きちんと独立した中編、短編になっているのが茅田さんにしては珍しい。
この人の外伝作品の短編は、「レディ・ガンナー外伝」もそうだったし、「暁の天使たちシリーズ」の外伝もそうだったけど、短編連作に近く、各話に関連性があるのが今までの傾向(難点)であったので、きちんと独立して成り立っているのはいい傾向だろう。
ストーリー自体もちょっと勢いというものが足りない気はするものの、ファンならば十分に楽しめる作品となっていておもしろい。
まぁ、逆にそうでなければ意味はないんだけど……。

デルフィニア戦記のファン、もしくは茅田さんのファンならば買いの1冊であろうけど、そうでなければ人物相関図がわからないので手に取る必要はないでしょう。
まぁ、外伝作品なんてのは本編を知らなければ楽しめない側面があるので、読者限定になってしまうのは仕方がないところではあるんだけど……。

そういうわけで、読者限定という意味で総評は及第。
本編は何も考えずに単純に楽しめる作品なので、18巻という巻数をものともしない奇特な方は本編を読んでから外伝に取りかかってみてください。
基本的に本編はオススメだし、文庫版も出ているので比較的手にしやすくはなってはいるとは思うけど、さすがに18冊を無条件でオススメはしないので。


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これが……

2012-02-24 23:00:40 | ファンタジー(異世界)
さて、ほんとうは別のを借りたかったんだけどの第986回は、

タイトル:パンツァーポリス1935
著者:川上稔
出版社:メディアワークス 電撃文庫('97)

であります。

ほんとうは「GENESISシリーズ 境界線上のホライズン」が本屋で平積みされていたり、アニメになっていたりしていたので、こちらを読みたかったんだけど、あいにく図書館の予約が入っていたので断念。
そこでならばデビュー作なんかを、というわけで本書です。

ストーリーは、

『1920年のドイツ……ドイツで最も有名な冒険家であるフーバー・タールシュトラーセを乗せた有人宇宙船は、打ち上げの成功とは一転、予定の衛星軌道に乗らず、宇宙へ飛び出そうとしていた。
衛星軌道を周回するしか機能がない宇宙船で重力圏外へ行くと言うことは死とイコールであった。
それを知った技師であり、宇宙船を設計したパウルは、親友であるフーバーとの交信を行うが、フーバーはパウルに最期の言葉を残し、パウルはフーバーを追って宇宙へ行くことを決意する。

15年後……。
1935年のドイツのとある上空では、ドイツ空軍の飛行空母ブラドリックブルクの甲板でふたりの男が対峙していた。
ひとりは青年で、もうひとりは空母の指揮官である軍人だった。

青年ヴァルターと指揮官であるオスカーは軍で開発された機体dp-XXXを巡って意見を戦わせていたが、dp-XXXで宇宙へ行きたいと主張するヴァルターと、dp-XXXを危険視するオスカーとではいくら話を続けても平行線をたどるだけだった。
交渉は決裂し、オスカーはヴァルターを始末しようとするが、そこへdp-XXXが迫ってくる。
dp-XXX、ヴァルターがカイザーブルクと呼ぶ機体は、空母から出撃した機体を撃破し、ヴァルターを乗せてベルリンへと飛び去っていった。

一方、ドイツでも五指に入る武器商の娘であるエルゼは、広大な自宅の森の中で馬を歩かせながら父親と口論になっていた。
そのとき、森の中から煙が出ていることに気付き、そこへ向かうと兵器の使用で故障したカイザーブルクを修理するために降り立ったヴァルターとパウルに出会う。

ふたりのカイザーブルクで宇宙へ行くと言う夢に興味を覚えたエルゼは、カイザーブルクの性能や機体を見聞きしたり、修理のための協力をしたり、はたまたカイザーブルクにヴァルターとパウルのふたりを追ってきた軍との戦闘になし崩し的に巻き込まれたりするうちに、宇宙へ行くことに惹かれていく。』

読み終わったあと、真っ先に思ったのが、キャラもストーリーもオチも薄っぺら~い話だな、と言うこと。
巻初のカラーイラストにある人物紹介に簡単なキャラ説明がある。
ヴァルターは「傲岸不遜、この世に恐れるものないって感じの青年」とあって、そのとおり。
……と言うか、それ以外に語りようがないほどにそれだけのキャラで人間味の微片もない。

パウルは頑固者とあるが、いわゆる職人気質的な頑固者のステロタイプなキャラだし、エルゼに至ってはなぜふたりに協力し、なぜ宇宙へ行くことを決意したのかと言った重要な部分がすっぽり抜け落ちていて、キャラが立っていない。

ストーリーも特に目立った特徴もなく、盛り上がりにも欠け、割合平板に進んでいく。
まぁ、ヴァルターのフルネームとか、成長していくカイザーブルクの過程とか、空中戦とか、人によっては読みどころはあるのかもしれないけど、正直「それで?」って感じでおもしろいとは全く感じなかった。

まぁ、設定だけはしっかりしているようで、カラーイラストの最後に年表があったり、精霊の力を結晶化したものを動力とする精霊式駆動機関と言った概念、実在の地名や歴史(第一次世界大戦とか)を使いながらもパラレルワールドとしての世界観を構築と言ったところとかは評価していい部分であろうか。
表紙裏の「変形成長する飛行戦闘艦。光剣で斬りむすぶ空中戦と、数多くのアイディアを盛り込んで」って煽り文句、単に設定のことしか言ってないか? って気がしてきた……。

しかし、これが第3回電撃ゲーム小説大賞<金賞>受賞作ってんだからなぁ。
まぁ、まだ3回目だし、いまみたいに秀逸な作品が多数応募されるような時代じゃなかったのかもしれないけど、それにしてもこれが金賞ってのはなぁ……。
私が審査員だったら金賞どころか最終選考にすら選ばないぞ、きっと。

と言うわけで、ラノベ点を考慮するまでもなく、落第決定。
もっとも、最初がこれでもいろいろ書いていれば「境界線上のホライズン」みたいに人気が出て、アニメにもなる作品が出てくるんだから、書き続けていくのも大事なことなんだぁねぇ……。


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要注意

2012-02-12 19:00:56 | ファンタジー(異世界)
さて、この人も久しぶりだなぁの第983回は、

タイトル:暁の天使たちシリーズ(全6巻、外伝2巻)
出版社:中央公論新社(初版:’02~)
著者:茅田砂胡

であります。

茅田さんといえば、何も考えずに単純におもしろいという作品を書いてくれる作家さんではあるけれど、さて、これはどうかなぁ?

ともあれ、ストーリーは、

『8歳になるデイジー・ローズは、お気に入りの薔薇園にある天使像の前で、銀色の天使と出会った。
驚きのあまり、声も出せないデイジー・ローズに今度は金色の天使が声をかけてくる。

金色の天使の名はリィ。デイジー・ローズの一番上の兄であったが、容姿はまったく似ていなかった。
突然の出来事に、逃げるように家に戻ったデイジー・ローズは、リィが銀色の天使を伴って訪れたことを家族に伝える。
ちょうどお茶の時間でもあった家では、リィとともに訪れた銀色の天使……シェラ・ファロットとともにお茶の時間を楽しむことにする。

さておき、あまり家に寄り付かないリィがなぜシェラを伴って訪れたのか。
それは「失われた惑星(ロスト・プラネット)」から来たというシェラの後見人に、リィの血の繋がった父であるヴァレンタイン卿になってもらいたいというためだった。
それはシェラがリィとともにティラ・ボーン……通称連邦大学の中等部に入学するためだった。

ヴァレンタイン卿はそのことを快諾し、ふたりはリィの相棒であるルーファス・ラヴィーとともに連邦大学へ無事入学することができた。
だが、穏やかな学校生活を望むふたりとは裏腹にリィの身体に異変が起きる……』

まず、断っておきますが、「デルフィニア戦記シリーズ」や「スカーレット・ウィザードシリーズ」が好きで、すでにこれらの作品が完結したものとして考えている人にはこのシリーズはお薦めできません。
あとがきにも同様の趣旨のことで苦情が来たことが書いてあります。

で、あらすじにも書いた3人、リィ、シェラ、ルーファスは「デルフィニア戦記シリーズ」に出てきたリィ、シェラ、ルウのあの3人です。
「デルフィニア戦記シリーズ」では19歳になっていたリィと、同い年のシェラですが、この世界(「スカーレット・ウィザードシリーズの世界」)では、10日しか経っていないため、ふたりともに13歳に戻って連邦大学に入学することになります。

また、3巻の「海賊王の帰還」では「スカーレット・ウィザードシリーズ」のケリー、4巻の「二人の眠り姫」では同じくジャスミンが復活します。

実はこの作品、出版された当時、買ってはみたのですが、使い慣れたキャラと世界観をくっつけて別の話を書いているだけ、ということであまりに安易なやり方に読むのを断念したことがあったのですが、いやはや人間年をとると丸くなると言うかなんというか……(笑)
いまでは違和感なく、それなりに楽しく読めました(笑)

で、肝心のストーリーはというと、一応6巻で完結しています。
リィとシェラの学校生活やケリーとジャスミンの復活劇、過去にリィに起きた出来事に端を発するルウの暴走とそれを止めるために動き出すリィとシェラ(とその他(笑))といった流れで6巻は進みます。
この6冊だけ見れば、相変わらず何も考えずに楽しく読める作品には違いないのですが、外伝と銘打たれた2冊が曲者。
外伝とは名ばかりの続きといっていいくらいの短中編集で、この後のシリーズ「クラッシュ・ブレイズ」への繋ぎといっても過言ではないでしょう。
さすがにこれには呆れました。

まぁ、そういうことやキャラと世界観の安易な使い回しを気にしなければ、単純に楽しめる作品ではあるので、そういう人にはお薦めできるシリーズではありましょう。
逆に気にする人にはまったく向かないシリーズとは言えます。

おもしろさでいえば茅田さんらしいキャラとストーリーで楽しめるのですが、読み手を選ぶという意味では手放しでお薦めできる作品ではありません。
個人的には「スカーレット・ウィザードシリーズ」のケリーとジャスミンの非常識夫婦が活躍するところが楽しくて好きなのですが、万人向けでないとことでさすがに良品とまでは言えません。

というわけで、総評としては及第。
特に前作品群を読んでいる方はよくよく考えて手に取ることをお薦めします。



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とりあえず

2012-02-11 14:47:56 | ファンタジー(異世界)
さて、もうすぐ1000回なので頑張ってみようの第982回は、

タイトル:輪環の魔導師 闇語りのアルカイン
著者:渡瀬草一郎
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:'07)

であります。

いやぁ、お久しぶりです。

何年ぶりの更新でしょうねぇ。
最後の記事が2008年だからすでに3年半以上経ってるんですねぇ……。
(思いっきりサボってたな、ってツッコミはなしの方向で(ぇ))

まぁ、ともかくも1000回も近いことですし、ぼちぼち更新していきたいと思います。

さて、再開の最初は「空ノ鐘の響く惑星で」の渡瀬草一郎の次回作です。
ストーリーは、

『辺境の地、ミストハウンドの領主オルドバに仕える薬師見習いのセロは、森の奥の泉で沐浴をするオルドバの養女フィリアーノ、通称フィノの警護(?)をしていた。
14歳のセロと16歳のフィノ。薬師見習いと貴族の娘という立場の違いはあれど、幼馴染みで気心の知れたふたりは……というより、フィノはセロを過剰なまでに溺愛していた。

その辺の事情はさておき、沐浴を終えたフィノたちの前に森で野苺を摘んでいて迷子になったマリルと出会い、フィノは一足先に屋敷に戻ることになった。
セロは薬草を取りながら帰るということで別行動をする。

屋敷に戻ったフィノは、魔導師でもあるオルドバの協力をするという目的で訪れた王立魔導騎士団のハルムバックたちと出会う。

魔導具というものを介して誰もが魔法を操れる世界。
魔導具職人であった祖父を持つセロは、しかし魔導具を操ることも作ることもできなかった。その代わり、なぜか魔導具を使うと壊してしまうという厄介な体質だった。
そのこともあって薬師を目指すこととなったセロは、さりとてそれを悲観してもいなかった。

屋敷に戻ったセロは、フィノの屋敷のある敷地にある自宅でフィノが寝ているのを嘆息していると、主であるオルドバがハルムバックを伴って自宅を訪れた。
祖父ゼルドナートが遺した魔導具を見せてもらいたいというハルムバックに訝しみながらも遺品を取り出すと、ハルムバックは用途の知れない黒い塊の魔導具を貸してほしいという。
違和感を覚えたセロはそれを拒否し、ハルムバックもそれ以上無理強いはしなかった。

その夜、夜にしか採れない薬草を求めて森の中へ入っていったセロは、突然ある少女に命を狙われてしまう。
そこへハルムバックが現れ、祖父のゼルドナートが高名な魔導師である魔人ファンダールの知己であり、それに関して何か知らないかと問うてくる。そしてセロが少女……”魔族”に狙われる理由もそこにあるという。
まったく心当たりのないセロはそのことをハルムバックに告げるが……。

本当に何も知らないことを悟ったハルムバックは、突如豹変し、セロを逃げながら辿り着いた崖下に突き落とす。
まず助からない高さから落ちたセロは……しかし、生きていた。
セロを助けてくれたのはなんと喋る黒猫。
黒猫は、自身を魔人ファンダールの弟子であり、アルカイン・ダークフィールド・ロムネリウスと名乗った。

アルカインの出会いと、ハルムバックたちの思惑が、セロの今後の人生を大きく揺るがすこととなる。』

えー、まず世界観だけど、前作「空鐘」がSF要素を含んだファンタジーだったのに対し、こちらは一般的に認識されているファンタジーの世界観を若干アレンジしたもので、世界観を想像するのは容易だと思う。
いわゆる魔法使いは魔導師だし、魔法は魔導具。
魔道具は誰にでも使えるけど、才能の差があるのでやっぱり魔導師と一般人の区別はある。

魔族という存在は人外の生命体ではなく、あくまで人間が根本であるというところが「魔族」という名称から受ける印象とは異なるものの、奇を衒う部分はないから設定の妙味というものに欠けるけど、安心感はある。

「空鐘」と違って今回は続きを意識したものとはいえ、1巻完結でもあるし、物語の緩急もついていて好感が持てる。
キャラもセロやフィノの性格や関係性といったものや、アルカインと魔族との関係を通して明確になっているし、それぞれ個性があって、キャラも立っている。

文章的な面も「空鐘」同様、過不足なく読みやすい印象で及第点。
ただ「空鐘」1巻を読んだときと同様、勢いに欠けるので続きを読もう! という気になかなかさせられないのが残念なところ。

まぁ、世界観の平凡さはあれど、キャラ、ストーリーともにきちんと読ませてくれる作品ではあるので、悪い面よりいい面のほうが多いのは事実。
個人的におもしろかったかと言われれば、とりたててオススメ! って感じではないけれど、さりとて落第になるほど悪い面もない。

手に取って損はないとは思うので、良品未満及第以上、といったところかなぁ。
ラノベ点を考慮しても、ぎりぎり良品に手が届かない、といったところなので、総評としては及第、かな。


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いろいろ読まないとなぁ

2008-04-06 18:03:51 | ファンタジー(異世界)
さて、ラノベとかマンガとかが多いなぁの第961回であります。

タイトル:狼と香辛料VII
著者:支倉凍砂
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:'08)

であります。

6巻を読んでから、7巻読んで記事にするかどうか考えて……なんて考えてて、あっさり7巻が出てました。
早いな! と思って買ってはみたものの……短編集でした。
短編集、と言っても実際は中編1本に短編2本という構成ではあるんだけど。

では、それぞれのストーリーをば。

「少年と少女と白い花」
『ある領主の屋敷で下男として働いていた少年クラスは、突然現領主の弟が現れ、現領主が死んだと言われて屋敷を追い出されてしまった。僅かな食料と水のみを持たされて。
しかし、クラスはそのことをまったく悲観していなかった。むしろ自由になれたこと、そして一緒に旅をすることになった少女アリエスがいてくれたから。

だが、鳥や馬すら知らない超世間知らずのアリエスと、まだ稚いクラスの旅はとても楽観視できるものではなかった。
ある夜、いつものように野宿をすることになったふたりに、狼の群れが近づいてくる。
身を守るものと言えば、杖代わりにしている棒きれひとつ。

絶体絶命の状況は、唐突に狼たちが去っていくという不可思議な行動によって救われる。それと同時に、ひとの姿をしながらも耳と狼の尻尾を備えた少女ホロがふたりのもとへ現れた。』

ホロがひとり旅の途中に出会ったクラスとアリエスの物語で、ロレンスとは出会う前の物語。
世間知らずで、しかもまだまだ10代半ばといった程度のふたりと、老獪なホロ、という構図で、ホロの年上のお姉さんっぷりが存分に発揮されている作品。

まぁ、ロレンスは(少しは)海千山千の行商人で、クラスとアリエスは純朴な少年少女なので、こういう構図になるのは当然と言えば当然。

ストーリーは……ホロは出ているが、どちらかと言うとクラスとアリエスふたりが中心の展開。
男だからアリエスを守らなければならない、という可愛らしいクラスの矜恃や、仕組まれた、これまた可愛らしい罠など、少年が少女を守る小さなナイトを気取った定番のお話。

あまりにも普通すぎて、さして見るべきところはないが、定番なので安心して読める中編ではあろう。
心を広く持って、よくやったね、とほほえましく読んであげるのが吉。

「林檎の赤 空の青」
『ホロは大量に買ってしまった林檎120個を前に苦慮していた。いくら好きだとは言ってもこれだけ大量にあれば飽きてしまうもの。
林檎の別の食べ方の話をロレンスからひとしきり聞いたあと、ふたりはこれから迎える冬に向け、冬用の服を買いに出かけることにした。』

これは……ロレンスが怪我をした記述があるので5巻と6巻の間の話、ということになるんだろう。
著者もあとがきで「長編の幕間」と言っているとおり、単にロレンスとホロの日常を描いただけの話で、さして見るべきところなし。

「狼と琥珀色の憂鬱」
『ロレンスとホロは、羊飼いのノーラとともにささやかな祝宴を行っていた。
だが、ホロはたった1杯の酒でもう酔いが回ってきてしまっていた。
体調が悪い、ということには気付いていたが、ささやかとは言え、祝宴を台無しにするわけにもいかず、耐えていたホロだったが、いつしかそれも限界に達し……』

えーっと、ノーラが出てくるというと……(検索中)……2巻のあと、というくらいか。
いろんな出来事が重なり、疲労がたまったホロが倒れてしまい、そのことでいろいろと考え事をするホロの姿……つまり心理が描かれた話で、完全にホロ視点の文体、という本編や前2作とは趣の異なる作品。

一言で言ってしまえば、いままでのラブコメ路線を補完するだけの短編。
……なのだが、あとがきで「最もプッシュするところ」と言っているだけあって、めっさ読みにくい。
だいたいホロとロレンスのやりとりとか、地の文とか、無駄に回りくどい悪癖があるのに、これはそれが極まってる印象。

それにストーリーそのものも「ラブコメ路線の補完」ってだけなので、読後感は「あっそ」しかないくらい。
まぁ、本編も完全にラブコメに走ってるし、キャラ萌えのひとにはホロの心理というものが知れておもしろいのかもしれないが、ラブコメまっしぐらにいまいちな評価をしてる私としては評価は低い。


というわけで、都合3編。
「ふつうで定番」「中途半端」「ラブコメ路線の補完」……唯一読めるのが最初の中編だけってのは……かなり痛い……。
なんか、最初のころはぼちぼちで、3巻とか4巻はよくなってるなぁと期待できるものだったんだけど、このところ、出来が悪くなってるとしか言いようがない。
そんなわけで、総評としては落第。

まぁ、本編ではないので、今後記事にするかどうかは次の本編を読んで、ってとこかな。
もっとも、もうほとんど期待しないけど。



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だいじょうぶか、をい!?

2008-03-16 01:14:08 | ファンタジー(異世界)
さて、第955回は、

タイトル:ゆらぎの森のシエラ
著者:菅浩江
出版社:東京創元社 創元SF文庫(初版:'07)

であります。

なんか菅さんの本を読むのって久しぶりだなぁ、と思っていたら200回以上も前に読んだっきりでした(^_^;
しかも、2007年のとは新しいじゃん、と言うことで借りてみましたが……。

『都から多く離れた辺境の地キヌーヌ。
塩の霧に覆われ、作物も育たず、漁にも出られず、ひとびとの生活は困窮していた。
さらに霧によって枯れていく自然に反比例するように出現する異形の化け物たち。

そんなキヌーヌにある村にまた全身を甲冑に身を包んだ化け物が現れる。
ひとびとに手をかける化け物……金目は不意に不思議な声を聴く。
それによって失われていた自我を取り戻した金目は、自らが犯した所業に怖れ、自分を化け物に変えた主人パナードへの憎しみを募らせる。

そんな金目は、さまよい続けた森の中でひとりの少女シエラと出会う。
「騎士さま」と金目を呼ぶシエラは、不思議な少女だった。知恵遅れでまともに喋れないシエラは、自ら選んだあらゆるものと食べることによって、急速に成長していく。

成長を早めるシエラ……その背景には荒れていく自然、次々と現れる異形の化け物、その主であるパナード、そして昔話として忘れられつつあった妖精王と女王の伝説があった。
さらにそれは生物の根幹に関わる重大な出来事につながっていくのだが……』

読んでみて、まず「だいじょうぶか、菅さん!?」と思いました。
去年出版されたというのに……と思っていたら、もともとは89年に出たものの再版だということがわかって一安心。

まずはストーリーですが、流れだけを見れば単なるヒロイック・ファンタジー。
金目とシエラが出会い、パナードとの対決に向かう王道とも言えるもので、ストーリーそのものにはさして見るべきところはなし。
とは言え、煽り文句にはSFファンタジーとあるとおり、舞台は異世界ファンタジーだけど、その背景にあるものはきちんとSF的な要素が入っていて、そうしたSF要素が物語の重要なキーになっているところは、さすがにSF畑の人間と言ったところか。

ただ……読みづれぇ……。
もともと89年の作品だと知らなかったころは、ただひたすらにこの読みにくさ=下手さ加減はいかんともしがたい。
つか、菅さん、こんなに文章下手だったっけなぁ、って思うくらい情景が浮かばない。
比較的文章は簡潔なほうなのだが、簡潔な文章できっちりと読ませるのは難しい、というのがはっきりとわかるくらい。

これではストーリーがいくらよくても読む気が……。
まぁ、実際最後まで読むのにだいぶん苦労して、2週間以上読むのにかかっちまったんだけど~(笑)

さておき。
総じて、物語の背景となるSF的な要素やそれをファンタジーの中に溶け込ませて物語を進めるところはおもしろい。
ストーリーそのものは王道のヒロイック・ファンタジーだし、ラストもメインのふたり、サブのふたりとハッピーエンドに締めてくれているので、お話としては無難でオススメもしないが、「どうだ?」と訊ねられれば「悪くないよ」と返せるくらいだろう。
読みづらさという最大の欠点はあるものの、ここさえどうにかなればと言ったところか。

てなわけで、微妙~なところにいるのだが、ぎりぎり及第ってところかなぁ。
これがホントに最近書いたんならあっさり落第なんだけど、かなりの初期作品というところで甘めに。

ファンならばってか

2008-02-17 19:28:03 | ファンタジー(異世界)
さて、第947回であります。

タイトル:空ノ鐘が響く惑星で 外伝 -tea party's story-
著者:渡瀬草一郎
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:'07)

であります。

人気シリーズで全12巻をもって完結した通称「空鐘」で語られず、あとがき曰く、読者の要望が強かったこともあり、刊行された短編集。
スタイルは、本編の10年後、本編の主人公であったフェリオやウルク、リセリナたちがアルセイフで平和に暮らし、それぞれ男の子と女の子に恵まれたころ。

ふたりの教育係として王宮で暮らしている「来訪者」のシアがやんちゃな子供たちに相変わらず手を焼いている中で、出会った人物からそれぞれの話を聞く、と言う体裁になっている。
なので、それぞれの各短編の間にはシアを中心とした「幕間」というものが挟まっている。

まぁ、幕間の話はさておき、本命となる各話から。

「余録一 錬金術師ノ嘆息」
舞台はラトロアで、最も長い短編。
本編中で、「死の神霊」を奪還するためにハーミットの告白を半年後に先延ばししたシルヴァーナのふたりの恋の行方を描いた話。

『時期もまだ「死の神霊」事件から半年、非戦派のハーミットの兄たち、ラトロアの議員の仲間のひとりが暗殺されると言う事件が勃発。
ハーミットは約束の半年を気にしながらも、相変わらず不穏なラトロアの情勢の中、実家であるエアル邸に留まっていた。

そこへシルヴァーナから、兄たちも命を狙われていると言う手紙が舞い込む。
姿を見せないシルヴァーナ。「死の神霊」事件の際に知り合った北方民族の拠点へ向かうハーミットは、シルヴァーナの身に危険が迫っていることを知る。』

いわゆるツンデレ系の美女シルヴァーナと生真面目で腕の立つ剣士ハーミットの話だが……私が副題つけるなら「お姫さま救出(小)作戦」(笑)
まぁ、そんな感じの話でせう。
ヒロインの性格上、ベタっぷりはあまりないのだが、逆に真面目な話のぶん、さぶいぼなラストで、やや耐性があるひとのほうがいいでしょう。

「余録二 幻惑ノ剣士」
10年後、騎士団にいながら副業で画商をし、さらに自分の絵まで混ぜて売っていると言う相変わらずの器用貧乏だが、パンプキンと互角に渡り合う実力を持ったお気軽騎士ライナスティの過去話。
すでに序章では、相棒のディアメルと同棲(未婚(笑))し、子供までいるわりに、変わらずディアメルの尻に敷かれているのだが。
さて、ストーリーは、

『故国シビュラから、とにかく出る。そのためにアルセイフに向かう隊商の護衛として雇われた……と言うか、商人の好意で同行させてもらえることになった若き日のライナスティ。
そこで出会ったドノヴァンという老人から、アルセイフで行われる剣術大会のことを教えてもらう。

故国で師匠から、剣術の他、様々なことを教えられたライナスティはそこで出される賞金で今後の旅の稼ぎにもなるし、負けてもともとと言う気持ちで出場することになるが……』

やはり、昔からライナスティはライナスティでした(笑)
ライナスティを主人公にすると、剣術大会と言いながらもあんまり緊張感のない話になってしまうんでしょうかねぇ。
とは言え、その過去、剣術の秘密など、盛りだくさんな内容で、単純に楽しめる作品。

「余録三 今宵、二人ノ結婚式」
未だに軍務審議官として辣腕を振るうベルナルフォン卿。
女嫌いで通しているベルナルフォンが何故ずっと独り身で通しているのか、その過去を描いた話。

『田舎の貧乏貴族とは言え、貴族は貴族。最初の出会いは互いに最悪だったベルナルフォンとその許嫁のシェリヌは、年を経るに連れて愛し合い、結婚式を挙げる日を心待ちにするようになっていた。
だが、レスターホーク家には厄介な御仁がいた。ベルナルフォンの母であるモリーアンだった。

それでも、情熱的で心優しいシェリヌは義母となるモリーアンとも良好な関係を築こうと努力するも、その心はレスターホーク家を巻き込む悲劇の前には無力だった。』

ベルナルフォンの隻眼の秘密、独り身を通す理由など、これはしっとりと落ち着いた悲劇で、全体的に甘めの短編集の中では異色。
物語としてはこういう雰囲気のある作品は好きなので、4編の中では一番のお気に入り。

「余録四 王ト王妃ノ今日コノ頃」
時期はフェリオたちが親善使節としてジラーハへ向かっているころ。
タートムとの戦争で知り合ったソフィアに好意を寄せる国王ブラドーと、貴族の娘ながらも若くして隠密の技でアルセイフを守ってきたソフィアの恋愛物語。

『ソフィアは正直、戸惑っていた。若いころから父に倣って隠密の技をもってアルセイフの国境を守ってきただけに、男性との接し方なんてこれっぽっちもわからない。
しかも相手は国王だけあって、余計にどうすればいいのかわからない。

そんなところへベルナルフォンの養女となったクラウスの元妹ニナの手紙が。
その好意に甘えて恋の話に花を咲かせるふたり。
それでもなかなか踏ん切りがつかないソフィアは、世話になっているラシアン・ロームの屋敷で、ラシアンと父バロッサの会話を盗み聞きしてしまい、その対抗心からとんでもない行動に出てしまう。』

最もベタ甘なブラドーとソフィアの恋愛ものだが……すんません、いかにも男が書いた都合のいい恋愛ものと言うか何というか……。
どーせ本編のラストで、愛妻家ぶりが描かれていたので、わざわざこのふたりじゃなくてもよかったんじゃないかいな、って気がする……。
この短編集の中では一番評価が低いかな。


と言うわけで、各話ごとでした。
途中の幕間とかは、それぞれが出会い、そして最後には連れ立って王宮での私的なお茶会へ、と言う流れ。
それにしても、ムスカ教授も結婚して子供いるし、ハーミットとシルヴァーナにも娘が出来てるし、ライナスティとディアメルも息子が出来てるしで、まー、ものの見事にどいつもこいつもハッピーエンドな人生になってんねぇ。

短編集としての出来は好みの問題はあるものの、どれもそれなりに読める作品で悪くはないのだが、概ね定番。
特徴的なのはライナスティの過去話くらいで、このシリーズのファンでなければさして手に取る必要性は薄い……つか、確実に薄い。
そもそも後日談だったり、本編の途中の話だったりするので、本編知らないとわけわかんないだろうし。

つーわけで、総評としては及第。
ファン、もしくはファンでなくても全編読んだひとにはオススメできるけど、いまから全巻読んで買え、っつーのはよほど金と暇があればどうぞ、ってくらいにしか薦められないので、この辺が妥当なとこだろうねぇ。



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注意報発令中

2008-01-13 14:01:03 | ファンタジー(異世界)
さて、今回は早いぞの第937回は、

タイトル:狼と香辛料6
著者:支倉凍砂
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H19)

であります。

えーっと、確か出たのが去年の12月……だったはず。
なんか5巻を11月に紹介した気がするけれど、あれはけっこう時間経ってから書いたんだよねぇ。
出てから3ヶ月くらいは経ってた気が……(爆)

さておき、今回は1ヶ月も経ずに読んでみました。
ストーリーは、

『レノスの町で、エーブという商人との商談を裏切られたロレンスは、しかしいつか訪れるふたり旅の終わりを覚悟したホロの手を再び握り、旅を続け……るはずだったが、裏切られたことにホロはいたくご立腹。
完全に引きずられるようにして、エーブを追ってケルーベという港町へ向かうことに。

ローム川を下る船に便乗し、いままでの陸路から船旅となったロレンスとホロ。
その途中、いくつかある関所でひとりの少年が関所の兵士と悶着を起こしているところに出くわす。
詐欺に遭って偽の証文を掴まされた少年コルは、その悶着を収めるために、ロレンスを「先生」と呼んで助けを求めてきた。

仕方なく助け船を出し、船旅に同行することになったコル。
そのコルが持っていた偽の証文の紙束からジーン商会という商社の不可思議な謎を見つけたロレンスは、いつもながらに商人のクセであれこれと思案を巡らせる。
そんな折り、ある一言がきっかけでホロの機嫌を損ねてしまう。
いったい何がホロの気を損ねたのか、まったくわからないロレンスは、もう口をきかないと言い出すホロに振り回され……』

すいません、一体全体、どこをどうやったら商人の話が、げろ甘のラブコメになるんでせう?
……つーか、今回はまずさぶいぼ症候群のひとにはさぶいぼ保証付きに甘々のラブコメです。

5巻でなんのかんの言って、ホロの手を取ったロレンス。
商人としてのストーリーの合間で語られていたラブコメ要素も、確かに5巻でひとつの区切り、と言うことはわかる。
わかるのだが……6巻はほとんど商人らしい話はなしで、ロレンスとホロの他愛ない痴話喧嘩に終始している、と言うのは商人という他にあまり類のない設定が魅力のひとつであるこのシリーズにとって、いかがなものかと思う。

確かに、ロレンスとホロ。
ふたりの微妙な関係もこの作品がアニメになるほど人気があることのひとつであろうが、それにしてもあまりにも偏りすぎ。
しかもストーリーは、ほんとうにふたりの痴話喧嘩。
そこに新たにコルという少年が加わったものの、ラブコメとしてはごくごくふつうの話で、さして見どころはない。
いかにもこのふたりらしい、とは言えるものの、ごく一般的なラブコメの域を出ていない。

まぁ、その分、キャラとしてホロの魅力は十二分に表現されているし、ラブコメ要素をこの作品の第一に考えているひとにとっては、とてもおもしろい作品になっているのかもしれない。
もちろん、ラブコメ以外にもコルという新しいキャラの関係もあるにはあるが、これもサブのひとつにしか見えない。

さて、いつも問題にしている文章は、今回は特に目立ってどうこういうことはない。
そもそも商人としての話がほとんどないのだから、淡々と描写していればいい。
相変わらず回りくどいところはあるし、地の文と会話文との位置が微妙に離れていて掴みにくいところはあるものの、目を潰れる範囲だろう。

総じて悪くはないとは思うのだが、ストーリーはラブコメに偏りすぎでふつう。
ふたりのラブコメ主体のひとにはかなりおもしろく読めるであろうが、私のように商人としての話も重要な要素と見ているひとには物足りないだろう。
そんなわけで総評としては及第、と言ったところが適当か。

しかし、3巻のときに「あと3冊くらいで完結させてもらいたいもの」と書いたけど、もうその3冊になっちまってんなぁ。
しかもさらにあと4,5巻くらいは平気で続きそうな気配……。
まぁ、もうここまで読んでんだから最後まで読むつもりではあるけど、どうだかなぁ。
もう記事にする必要性が薄れてきてる気がしないでもない……。
7巻読んでから考えるか……。



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