つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

無理難題は言った者勝ち

2007-02-28 23:59:35 | ミステリ
さて、私は無理難題なんて言いませんよ、な第820回は、

タイトル:タイトルマッチ
著者:岡嶋二人
出版社:講談社 講談社文庫

であります。

岡嶋二人の長編ミステリ。
両氏お得意(?)の誘拐物で、例によってサクサク読めます。



元世界ジュニア・ウェルター級チャンピオン最上栄吉の元に、一通の手紙が届いた。
顔面蒼白な妻から手紙を受け取り、栄吉は息子の健一が誘拐されたことを知る。
警察には知らせるな、というお決まりの警告の後に、奇妙な一文があった――詳しいことは、琴川三郎のほうへ連絡する。

琴川三郎は栄吉と同じジムに所属するボクサーである。
三郎に連絡をよこした謎の人物は、ジムの玄関マットの下にもう一通の手紙があることだけを告げて、電話を切った。
新たな手紙に書かれていた要求はたった一つ、二日後に行われるタイトルマッチで、三郎が相手をノックアウトで倒すことだった……。

知らせを受けた警察はすぐに捜査を開始したが、余りにも時間がなさ過ぎた。
そんな中、半ばヤケになった三郎はサンドバッグを叩いた際に、拳を痛めてしまう。
普通なら棄権するのが当然の身体でリングに上がる三郎はチャンピオンに勝てるのか? そして健一の安否は――?



というわけで、今回のネタはボクシングです。
他作で、競馬界、ボウリング業界、コンピュータ業界等の内幕を書いている両氏だけに、本作もきっちりと下調べをされている御様子。
実力はあってもチャンピオンになれないのは何故なのか? とか、マッチメイクはいかにして為されるのか? 等、無知丸出しの私にとっては興味深い話がいくつも出てきます。

ストーリーは、誘拐された健一の命がかかったタイトルマッチに望むジムの面々の話と、正体不明の誘拐犯を追う警察の話、二つを同時進行させていく形で進みます。
プレッシャーから拳を痛めてしまった三郎の苦悩、本来ならば自分の拳で息子を救いたい栄吉の葛藤、誘拐犯がチャンピオン側にいる可能性もあるため、思うように動けない警察の焦燥等、追い込まれた人々の姿を描きつつ、トラブルと謎の連発で読者を引き込んでいく展開は、さすが『誘拐物の岡嶋二人』といったところ。(笑)

これで、タイトルマッチ前に犯人が捕まったり、健一が保護されたりしてはお話になりません。
警察の必死の捜査にも関わらず、試合は始まってしまいます。
右手の爆弾を隠し、かつて栄吉を破った強敵に挑む三郎の運命は――本編で確認して下さい。

とまぁ、非常に良くできた作品なのですが、私的にはイマイチでした。
キャラは生きてるし、構成も悪くないし、盛り上がりも充分なんだけど……何と言ったらいいか、妙に据わりが悪いのです。
前述したように、話の流れからして健一も犯人も試合開始まで見つからないのが解っているところとか、そもそも犯人が誰であろうと話が成立してしまうところとか、試合の勝敗と健一の生死は関わりがないと予想が付いてしまうところとかが、微妙にテンションを下げてしまった……そんな感じでしょうか。(自信ない)

悪くはないけど、オススメまではいかない作品。
相変わらずノンストップで読めますが、期待し過ぎるとラスでコケるかも知れません。



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ガール・ミーツ・ボーイ

2007-02-27 23:56:03 | ファンタジー(現世界)
さて、やっぱりというか当然と言うかの第819回は、

タイトル:9S <ナインエス> VI
著者:葉山透
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H17)

であります。

あとがきを読むまでもなく、読んだあと「あぁ、やっぱり」と言うことで、ADEM編、中巻となった第6巻。
5巻のラストでやむなく黒川の手に落ちた由宇。黒川の舞台「海星」の侵攻に晒されつつも凌ぐNCT研究所……黒川の思惑に翻弄される由宇と闘真のふたりと、ADEM。
さて、肝心のストーリーは、

「底知れぬ男、黒川謙がとうとう牙をむいた。合理的かつ合法的にNCT研究所へと侵攻していく黒川の軍勢。老人達はただ、黒川の動静を見守るしかなかった。
その頃、黒川により逃げ場を失った闘真は焦りを感じていた。囚われの由宇に残された時間は限られている。その時、忽然と現れる人影。闘真はついに超越者と対面する。そして……。
高々度上空に存在する飛行要塞フリーダム。そこに由宇はいた。遺産の情報を求め由宇へと迫る黒川。世界最高峰の頭脳VS冷酷な悪魔の息詰まる攻防の行方は――!? 闘真と由宇。すれ違う想いは、再び相まみえることができるのか!?」

さすがに中巻ともなると、徐々に盛り上がってきて、おとなしくて物足りなかった上巻(5巻)よりも、引き込まれる強さというものが感じられる。
NCT研究所で繰り広げられる攻防に、毒カプセルの融解時間に縛られつつも捕らえられたフリーダムの中で静かな戦いを演じる由宇、タイムリミットを前に再び禍神の血を覚醒させ由宇を助けるために立ち上がる闘真。

いくつかの重要な謎の片鱗を語りつつ、終盤に向けて加速中、と言ったところだろうか。

しかし、いろいろと序盤中盤と見せ場はあるものの、やはり最大の見せ場はラストだろうねぇ。
自らを律し続け、あらゆる望みに背を向けてきた由宇が初めて律を超えて望んだ心の叫び。

エピソードやキャラの背景はいろいろあるけれど、ある人物との触れ合いの中で自らの心の真実に気付く、なんてネタは古今東西かなりの頻度で使われたお約束。

……お約束とは言いながら、こういうシーンは大好き(笑)
「幸せになりなさい」みたいな感じであたたかく見守ってあげたくなるねぇ(爆)
……なんか、かなりオッサンな感じ方だよなぁ……。
実際、そうなんだけど……。

とは言え、次巻への引きとしてはかなり強力。
由宇を死へと導くタイムリミットとも相俟って、これをリアルタイムで読んだひとはかなり下巻が待ち遠しかったであろうことは想像に難くない。
……まぁ、私も残りを全部買って、6巻を読んでから寝ようと思って読み始めたばっかりに、結局7巻に手を出さざるを得なくなったわけで、さらにそのせいで寝たのは夜中の4時過ぎてたりしたけど……(爆)

ともあれ、だいぶん盛り上がってきて、勢いも復活。
おもしろくなってきたぞぉ(笑)



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月の船は来たか?

2007-02-26 23:59:36 | 小説全般
さて、相棒につられて、な第818回は、

タイトル:つきのふね
著者:森絵都
出版社:角川書店 角川文庫

であります。

お初の作家さんです。(※私の方は)
第242回で相方が紹介したのは短編でしたが、本作は長編。
こちらも中学生が主人公で、不安定な心理を丁寧に描いています。



時は1998年。中学二年生の鳥井さくらは人生にくたびれ果てていた。
親友だった中園梨利とは気まずくなり、進路は定まらず、同級生の勝田はしつこく付きまとってくる。
二年後、自分達は本当に高校生になれるのか? そもそも西暦2000年自体やってくるのか? 抱えた不安をよそに、容赦なく時間だけが過ぎていった。

そんなさくらにも、唯一安らげる場所があった。
年上の友人・智さんが住む部屋――そこにいるだけで、さくらは心の平穏を得ることができる。
全人類を救うための宇宙船の設計図に没頭しているのがちょっと気になるが、それでも、彼が優しい友人であることに間違いはなかった。

だが、そんな危なっかしい平穏は長く続かない。
意地でもさくらと梨利との仲を修復しようする勝田が、遂に智さんの部屋にまで乗り込んで来たのだ。
自分の聖域を汚されたさくらは激しい怒りを感じるが、その後も勝田は執拗に智さんの部屋に現れ――。



例によって、一言感想を述べると。

実に美しいお話でした。

自らの出口を塞いでしまった主人公、逃げたくても逃げられない泥沼の中にいる親友、不器用な方法でお節介を続ける友人、優しいが闇を抱えている年長者――四人のキーパーソンが揃った時点で、ある程度先の予想はつくし、実際その通りの予定調和なラストを迎えてはいるのですが、そこまでの展開が非情に自然で、素直に大団円のラストを受け入れることが出来ました。

最初から最後まで、主人公・さくらの一人称。
ちょっと臆病だけど観察力に優れる彼女は、自分のことで悩む姿と他人を心配する姿を交互に見せつつ、読者を中学生の時間へと誘ってくれます。
私は『今のリアルな中学生』を知らないので断言はできませんが、自分の時代の価値観を修正出来ない大人が言うところの『理解できない現代っ子』の心理を上手く描けていると感じました。

作者が若いから(本作発表時三十歳)と言ってしまえばそれまでかも知れませんが、少なくとも読者一人(私のことですね)を納得させてしまった時点で勝利でしょう。
さくらと梨利が万引きをやっていたこと、勝田がさくらを付け回していたこと、中盤でさくらが智さんに「セックスしよう」と言ったこと等、頭の固い人なら眉を潜めそうな行為にも、彼女や彼なりのちゃんとした理由付けがされています。
これでも、『今の子供は理解できん』とか言う奴がいたら、蹴った方がいいですね。(乱暴)

物語は、人の領域にずかずかと踏み込んできてお節介を働く勝田がさくらと梨利を強引に仲直りさせようとし、それがエスカレートした結果、智さんの闇の部分が浮き彫りになっていくという流れで進みます。
現状に不満はあってもなかなか次の一歩が踏み出せないさくら。パワーはあるものの思考回路が単純過ぎるため余計に事態を混乱させる勝田。デコボココンビの迷走は凄まじく、一時はかなり危険なとこまで行きました。
もちろんこれで、最悪の事態を引き起こして終わり! では悲惨過ぎるので、二人には最後の救いが与えられます。智さんの親友にして、本作の神キャラ――ツユキさんです。

彼はウィーンに留学しており、日本にはいません。
最後まで本人は登場せず、智さんの言葉と、手紙だけで存在を示します。
特に、後半送られてくる手紙は非情に重要な意味を持つのですが――
これが智を救う決定打になっていない点が秀逸。

仮に、この手紙で智が立ち直るなんて話になっていたら、私は迷わず本を放り出したでしょう。
飽くまで、すべてのケリはメインキャラ四人が付けます。
しかも、最後にちゃんとタイトルネームでもある『つきのふね』のエピソードにもオチが付くというオマケ付き。

何度も言いますが、ラストの展開は予想が付きます。
最後の智の告白も……月並みな感じがしないでもありません。
さんざん引っ張った割には、梨利が妙にあっさりと動いたのもちと違和感があります。
しかし、敢えて言いましょう――実に美しいエンディングだから良いではないかっ!
(私がこういう感想吐くのも珍しいなぁ)

児童文学に近い雰囲気ですが、どちらかと言うと大人に読んでもらいたい作品です。オススメ。
いつもなら、ここでちょっとだけ皮肉を言うところなんだけど……主人公達の頑張りを考えると、言えません。(爆)

またやっちまった

2007-02-25 17:10:19 | ファンタジー(異世界)
さて、1年も前かよ……の第817回は、

タイトル:七姫物語
著者:高野和
出版社:メディアワークス 電撃文庫(H15)

であります。

日曜版(ラノベの日)のネタを探し、図書館にあるかを検索し、予約がなくすぐに借りられるかを確認してヒットしたのがこれですが、ぢつは1年以上も前に相棒が「デビュー作」の魔力に負けて読んでいました(爆)
と言うわけで、またもや図らずもクロスレビューとなってしまった本書ですが……。

「ある大陸の片隅、そこでは七つの主要都市が先王の隠し子と呼ばれる姫君を擁立し、国家統一を目指して割拠した。その中の一人、七宮カセンの姫に選ばれたのは九歳の孤児カラスミだった。彼女を担ぎ出したのは、武人のテン・フオウ将軍とその軍師トエル・タウ。二人とも桁違いの嘘つきで素性も知れないが、「三人で天下を取りにいこう。」と楽しそうに話す二人の側にいられることで、カラスミは幸せだった。しかし、彼女が十二歳になった時、隣の都市ツヅミがカセンへの侵攻を始める……。
第9回電撃ゲーム小説大賞<金賞>受賞作。時代の流れに翻弄されながらも、自らの運命と真摯に向き合うひとりの少女の姿を描いた新感覚ストーリー。」

だそうです。
……うん、間違ってはない……と言うか、電撃文庫の編集ってこういう紹介文、うまいんじゃないかとよく思うよなぁ。
ゼッタイ私が書くよりわかりやすい……(爆)

さておき、まずは初手から。
数十ページで文体に挫折しそうになったよ……。
無駄に多い体言止め。
これには本気で辟易した。

……とは言え、そうした個人的な好みを差っ引いて見れば、カラスミの視点で語られるこの文章は、作品の雰囲気によく合っており、時折見える少女らしい仕草など、カラスミの魅力を伝えるのには十分役立っている。
またこうしたふわふわとした雰囲気を見せる文体は、作品の世界観にも合っており、著者あとがきに「世界観が独特と審査員の方々に評価」とあるように、確かに和風だが和風すぎない独特の世界観を読む者に感じさせる要因となっている。

ただ、こうした世界観、雰囲気が合っているからと言っても、縹渺として浮ついたものでなければ、の話。
あとがきの上記評価のあとの「世界観なんかどうでもよかったというのが本音」との言葉に集約されていると思うが、雰囲気はあるが地に足のついていない世界観では、物語も薄っぺらに見えてしまう。

実際のところ、ストーリーはどうか……と言う話になると、すいません、もうストーリー紹介見なければ思い出せません。
このあとすぐ「狼と香辛料4」を読んだのが最大の原因なんだけど、それでもここまで印象に残らないストーリーも珍しい。
まぁ、ツヅミの襲撃からこっち、カラスミと護衛の少年ヒカゲふたりでうろうろ(だけではないが)しているうちに、なんかテンとかが戻ってきて、あっさりとツヅミなんかを攻略してしまったので、激しく盛り上がりに欠けているのも原因だろうとは思うけど。

雰囲気が感じられる作品ってのは嫌い……じゃなくてむしろ好きなんだが、別の作品を読んだだけであっさりと消えてしまうような雰囲気とストーリーじゃ、いつもながらに雰囲気がどうのと言ってる私でも評価はしづらい。
ラノベ点を考慮しても、ぎりぎり及第には届かないか。



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サイコなのはどっち?

2007-02-24 23:25:23 | ホラー
さて、別にラノベ中心のブログではないのよの第816回は、

タイトル:壊れゆくひと
著者:島村洋子
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H10)

であります。

ファンタジーをカテゴリのトップから……って何回言ったっけ、このフレーズ……(爆)
まぁ、それはひとつの理由ではあるんだけど、どーも「9S <ナインエス>」のおかげでライトノベルの冊数が増えてるのが気になるんだよね。
乱読上等が身上なんだから、いろいろと読むべきなんだけどねぇ……。
おもしろいのよ、「9S <ナインエス>」シリーズ……。

さておき、そんなわけもあってお初の作家さんでございます。……たぶん、ブログ内検索に引っかからなかったので。
ストーリーは、久本まりこと言う20代後半の主人公を中心とした物語で、詳細は以下。

「どこにでもいる普通の人々、あたりまえの日常生活が、私の周りで少しずつズレていく。
してもいないミスをあげつらう”いい人”と評判の同僚。
自分はアイドルの恋人だと言い張る子持ちの友人。
顔も思い出せないのに恋人だと手紙を送ってくる男。
狂ってしまったのは私なのか。
それとも周りの人々なのか。
現実と虚構の狭間から滲み出す狂気を描いたサイコ・ホラー」

だそうです。

そういうわけでカテゴリはホラーにしたけれど、この紹介文を読んで、ぞくぞくするようなこわ~い話を期待していたんだけど、ぜんぜん怖くなかった……。

ストーリーは、主人公まりこの一人称で語られ、一人称で描かれる以上のことはあまり書いていない。ほぼ、まりこが出会う様々な虚構を信じ込んでいる相手によって引き起こされるまりこの心の動きが主となっている。
紙面としては白いほうだが、描写不足と言うわけではないので、流れが悪いと言うことはない。

展開も、意外な結末とかが待っていると言うわけではないが、紹介文の「現実と虚構」という言葉には合っていて、物語としての出来はいいと思う。

ただ、サイコ・ホラーと銘打っている割に、まりこが様々な相手から感じ、考えることがとても淡泊だったりして、ホラーっぽさが薄くて怖くない。ラストのほうでちょろっと怖そうなところもあったけれど、「怖そう」であって「怖い」までは行かない。
まぁ、虚構の中にいる様々な相手に感じるまりこの気持ちはけっこう頷けるところがあるけれど、「そうそう」って頷けて怖いわけがない。
これなら小川洋子の「刺繍する少女」のほうがよっぽどか怖い。

とは言え、まりこの語る様々な虚構の中の人物との出会いと、まりこの中の現実と虚構が曖昧で、そうした境界線のあやふやな作品世界はしっかりと感じ取れる作品ではある。

と言うわけで、サイコ・ホラーでありながら怖くないが、物語の出来は悪くない……と言うところでこれは及第だろうね。

さくさく行こう

2007-02-23 23:59:15 | ファンタジー(現世界)
さて、もう恒例? の第815回は、

タイトル:9S <ナインエス> V
著者:葉山透
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H17)

であります。

3巻4巻の上下巻が完結し、続いて著者曰くADEM編の始まりとなる第5巻。
1巻のあとがき、2巻などから長編過多の傾向が激しい著者だけに、もうここまで来ると5巻のあとがきに「上下巻」の文字があってもぜんぜん不思議ではありません。
と言うか、上中下になるかも……と書いてある時点で、そうなることが確定だと確信したぞ、私は。

さて、上中下巻になるであろうADEM編の導入編。ストーリーは、

「ADEMを離脱した由宇、そして闘真。峰島勇次郎の痕跡を求め、二人の逃避行が始まる。向かうは因縁の地―勇次郎が失踪し、幼き由宇が拘束された旧峰島研究所であった!
一方、ADEM指令伊達は難局に直面する。先のミネルヴァの一件での社会的損害、そして由宇の脱走の責を問われ、更迭の危機に。その裏には老獪な政治家さえも手玉に取る切れ者、黒川謙がいた。ADEMに代わる強硬な組織設立を目論む黒川は、伊達より早く由宇を拘束しようと動く。そして由宇たちを追う、第三の集団―謎の傭兵部隊「七つの大罪」。
かつてない脅威が由宇たちに迫る!!」

今回は、まぁ、導入編と言うことで、比較的おとなしめ。
4巻のラストでADEMを離れた由宇と闘真。1巻で登場し、闘真に目を掛けつつも遺産強奪組織「蜃気楼」に殺された横田健一の家で束の間の平穏な日々や、自らの目論見……理想を実現するために画策する黒川、元同僚である黒川と語り合うADEM司令の伊達などなど……。
由宇や闘真の戦うシーンなどはあるけれど、以降のストーリーを見据えてか、こうしたシーンも派手さに欠ける。

もちろん、終盤の旧峰島研究所での出来事や、変わりつつある由宇と闘真の関係など見どころはある。
……あるにはあるが、巻を分けた物語としては、3巻ほど勢いがないのが物足りない。
どうせ上下じゃなくて上中下巻になるんだろうし、序破急の序として見るならば致し方ないか……とは思うけど、もうちょいぐっと引きつけられるような勢いが欲しいよなぁ。

そんなわけで、いまいち印象が薄いADEM編導入編の第5巻だけど、おもしろくない……と言うわけではないが、従前ほどではない。
これを単体として読むのであれば、さすがに良品とは言い難いか。
……まぁ、ここまでおもしろく読めるものを何冊も出してくれているから、すでにラノベ点はなし、評価はやや辛め、というラノベにしてはハンデがあるのだが。
すでに完結編であろう7巻まで出ていることだし、これは5~7巻まで一気に買って読むのが吉かもしれない。

……私もどうせ買うんだから残り全部買っとけばよかった……(笑)



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続きが読みてぇ~!

2007-02-22 20:15:28 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、これ読んでるとやりたくなるんだよなぁの第814回は、

タイトル:キング・オブ・ザ・ハスラー(第1集~第4集)
著者:谷津太朗
出版社:講談社 KCスペシャル

であります。

扇:ビリヤードはナインボールしかやらないSENでーす。

鈴:ふつうのアミューズメントスポットにはポケット台しかないんだよなと諦めているLINNで~す。

扇:つーか、ドシロートがアーティスティックやっても自滅するだけだぞ、と突っ込むSENでーーーす。

鈴:ブリッジをまともに組めないヤツに言われたくないLINNで~~~~~~~~すっ!

扇:ブリッジ組めなくても九番が入りゃいいんだと言い返すSENでーーーーーーーーす!

鈴:ちっ……これだからナインボールは……。

扇:まぁ、ブレイク後に2→9を狙うのはさすがに無粋だとは思うがな。

鈴:え? 私はそんな酷いことはせんぞ。

扇:もっと酷いことをするのか……。

鈴:当然、ブレイクのあとにどれかひとつでも落ちれば1→9を狙うに決まっているだろう。

扇:それは無粋の極みじゃ。(怒)
せめて三番ボールまでは待てよ。

鈴:いやじゃ
ナインボールは9番を落としてナンボ。
1~8まではおまけじゃ~~~~~~!
……しかし、1~8まで落として9番を落としきれずに負けたことは多数あり(爆)
中途半端に知識と経験があるとこういうことがよくある(T_T)

扇:フッ……以前やった時、私が完勝したことは黙っておいてやるよ。

鈴:まぁ、落としたボールの数は確実に私のほうが上なんだがな。(く、苦しい……(笑))

扇:ナインボールは9番を落としてナンボ。
(LINN語録 第百二版より抜粋)

鈴:おのるぅぇぇっ!!!!
……いいや、前言撤回。やっぱり9番落とすのが勝ちでもそこそこ数落としたらOKにする。

扇:まー……何と言えばいいんでしょうか……いわゆる一つの自己満足って奴ですね。
(音声は一部変更してあります)

鈴:いーんだよっ、それでもっ!
ずぇったいに私のほうがうまいんだからっ!!
……ゼッタイに次は完勝してやる……。

扇:次があるならな。(笑)
最近は、木劇のネタ探しのために漫画喫茶に行くのが定番だし。

鈴:なに、大丈夫だ。
たいていそういうところには、ダーツとか、ビリヤードとか置いてあるし。
……つか、いつも行ってるマンガ喫茶が入ってるビルで、ビリヤードやったじゃん(笑)

扇:そんな昔のことは憶えていない。

鈴:2年経ったか、経たないかくらいなんだがなぁ。
相棒にとってはそんなに昔だったのか……。
(事情により、画面を某俳優に差し替えております)

扇:昔を語るようになったら、もう歳だぜ、とっ×ぁん。
(音声を某大泥棒の孫に置き換えております)

鈴:貴様に言われたくないわぁっ、ル○ぁぁぁぁンっ!
(音声を某大泥棒の孫を追いかけまわすのが趣味のおっさんに置き換えております)
……さておき、そろそろ本題に戻すか……。

扇:ああ、サイドワインダーとか、ドモン・スペシャルだとかゆー無茶な必殺技を使って、主人公が強敵を打ち破っていく、異次元ビリヤード漫画だな?

鈴:それはブレイクショットやっ!!
あんな少年マンガ的必殺技満載ビリヤードマンガで荒唐無稽すぎるのと一緒にするでない。

扇:同じマガジンKCなんだけどなぁ。
仕方ない、真面目にやるか。
通背拳という防御無視の極悪技を使う主人公が――。

鈴:それは「鉄拳ミンチ」やっ!!
ったく、ぜんぜんネタがちゃうやんけ。

扇:その言い間違い、みんな言ってたよな……わざと。(笑)
ともあれ、前回の記事は君が書いてるんで、真面目な話は任せよう。

鈴:では、ストーリー紹介を。
あるプールバーで賭けビリヤードで常勝無敗を誇っていた的場ヒロ。そこに現れたおっさん=世界ビリヤード選手権前年度優勝者岡部雄志に負けたことをきっかけに、ナインボールの日本代表を賭けた選手権へ出場することに。
日本の並み居る強敵を打ち破り、世界選手権へ向かうヒロ。
さらなる強敵との戦いの果てに、世界選手権を制したヒロは、ナインボールから一転、新たな競技であるアーティスティックの世界へと挑む……!

扇:……どこのストーリー解説から引っ張って来たんだ?

鈴:いや、いま考えた。

扇:真面目過ぎてつまんな~い。

鈴:いーじゃん、たまにはっ!!
つか、いいからとっととCMとキャラ紹介しなはれっ!

扇:それでは、今週のコマーシャル行ってみよ~!
ポチっとな。


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扇:では、お馴染みのキャラ紹介に参りましょう。
まずは、主人公の的場ヒロ。
スーツとタキシードが似合う高校三年生(後に卒業)で、賭けビリヤードで無敵を誇っていたが、前述の岡部雄志に破れて一般競技の世界に足を踏み入れる。
賭けの世界で生きてただけあって度胸と根性は抜群……ただし、年相応に熱くなりやすい面も持っており、それが原因で追い込まれるシーンもあった。(もっとも、こいつの場合、追い込まれてからの方が強かったりするが)
ヒロインのセレンとは、くっつきそうでくっつかない少年漫画的関係を続けていたが、アーティスティックのペアを組んだ際、『ある重要な会話』をきっかけにお互い相手を愛していることを認めたようだ。
彼の悲惨なところは、その重大なシーンが単行本未収録な点である。
さらばヒロ……格好いい主人公だったんだけどなぁ。

鈴:では、本作ヒロインのセレン・エンフィールド。
ナインボールの世界選手権では、唯一の女性プレイヤーとして登場。当初は、不可思議な……本当は静電気を用いた磁力を操る……技で「魔女」とすら呼ばれて、ヒロの前に立ちふさがった選手だったが、ヒロに破れてからは何かとかまうようになる。
中国代表の選手が惚れていたりと、いかにもヒロインらしいところを見せつつも、本業であるアーティスティックのほうではヒロをパートナーに選ぶなど、その辺のステロタイプのヒロインとはちょっと違うヒロインとなっている。
とは言え、反則まがいの行為にキレたヒロをぶん殴る、誤解にもかかわらず応援の言葉を継げたヒロの足を踏んづける、ヒロと喧嘩をして口をきかなくなる、などなど、ヒロよりも年上の割に、妙に子供っぽいところがかわいい(笑)

扇:良くできたキャラだったな、セレン。
では、ヒロの師匠役の岡部雄志。
世界ビリヤード選手権のタイトルホルダーであり、才能を無駄にしているヒロを日の当たる世界に引きずり出した、食えないおっさん。(笑)
飄々とした人物であり、当然ながらビリヤードの腕前も相当なものだが、世界戦の決勝でヒロと戦うという約束を果たせずに終わり、舞台から去っていった。
準決勝でメサ・ブローシャに破れた後、怒りと悲しみの混じったヒロの叫びに対し、「すまん……」とだけ答える場面は、記憶に残る名シーンである。

鈴:あー、あのシーンはよかったねぇ。
きちんとセレンも出番作ってもらってたし。……つーか、あの後の決勝前のセレンとヒロって、その後のアーティスティックの話より、ラブラブだったような気がするんだが……(笑)
だいたい、決勝前の「勝利の女神の前祝いだ」っつって、セレンにキスたりしてたかなぁ、ヒロ……。

さて、あと出すとすれば、アーティスティックのほうにも顔を出してるジョニー・フッカーあたりかな。
スリークッション出身で、ナインボールの大会にも出場したキャラで、当初、ラスベガスの場末のプールバーで、道化を演じてヒロに勝負を挑み、おどけて勝利をもぎ取る、と言うことを演じた食えないおっさん。
しかし、トーナメントではスリークッション出身のプライドが邪魔をして、ヒロに負ける、と言う味のあるキャラを演じているが、素直に勝ちゃいーじゃん、と思ったのは私だけはあるまい(笑)

扇:また食えないおっさんかい。(笑)
つーか、キャラだけでなく、内容的にも年齢層高めを狙った作品だったよな、これ。
そもそも、アーティスティックをやっちゃってる時点で、普通の少年漫画ではない。
まあ、そこが面白いのだがな。(笑)

鈴:せやな。
だいたい、少年マンガなら(前出)「ブレイクショット」がいかにもな少年マンガだしな。
そう言う意味では、アーティスティックに流れて、まじめなビリヤードマンガをやった稀有な作品だよなぁ、これ。
そのぶん、完結してないのが極めて残念なマンガだよなぁ。
あるサイトでは、単行本未収録の連載分まで掲載しているが、単行本メインの人間にとって、ここはかなり続きがどうなる!? ってのを解消してくれたところではある。
少年マンガの中で、これほど続きをマジで書いてくれと、思った作品はいままでないわなぁ。

扇:あるサイトってな……お前。
感謝しているならちゃんと紹介せんか馬鹿者っ!

今回参考にさせて頂いたのはこちらのサイトです。

『それでもあなたは玉を撞く』

撞球資料館の漫画の項にて、本作単行本未収録の物語について、かなり詳しく書いて下さっています。
というわけで、単行本で悔しい思いをした方、是否続きを楽しんで下さい。
ではでは、今日はこんなところで、さようならー。

鈴:いーじゃん、あるサイトでも行けばわかるんだし……(爆)
まぁ、ともあれ、手に入れにくいマンガで、しかも完結していないと言うとんでもないマンガですが、極めてまじめなビリヤードマンガで、ビリヤード好きなLINN的にかなりオススメです。
とりあえず、単行本を読み、上記サイトで少し完結していない鬱憤は晴らせます。
と言うわけで、今回の木劇はこの辺で。
再見~

三匹目が斬る!

2007-02-21 23:53:26 | 文学
さて、知ってる人いる? な第813回は、

タイトル:三びきのやぎのがらがらどん―アスビョルンセンとモーの北欧民話
著者:マーシャ・ブラウン  訳者:せた ていじ
出版社:福音館書店(初版:S40)

であります。

北欧民話をベースにした童話です。
不思議な空気を生み出す数々の擬音、少しずつ変化して期待感を煽る繰り返し表現、手加減無用の戦いを描くクライマックス等、魅力的な要素がつまった名作。
手元に原本がないので、幼少時の記憶を頼りに書きます。間違った箇所があったら……すいません。



むか~し、昔のことじゃった。
とても寒~い北の国に、山羊達の小さな村があった。
彼らは裕福ではないが、それなりに幸せに暮らしておった。

そんなある日のこと……村の若い山羊が、長老の家に走り込んできてこう叫んだ。

「て~へんだぁ! て~へんだぁ! 谷の下に鬼が住みついちまっただぁ!」

この村の山羊達は、谷の向こうにある山のてっぺんを餌場にしておった。
谷には一本だけ吊り橋がかかっており、これを渡らないと山に行くことはできない。
谷底に住みついたトロルという鬼は大きな音が嫌いで、橋を渡ろうとした山羊達をみんな喰ってしまう……若者は、そう言ってさめざめと泣いた。

「このままじゃあ、オラ達は飢え死にだぁ」

長老は慌てて村の者達を呼び集めたが、誰も良い考えが浮かばす、途方に暮れるだけじゃった。

「村を捨てるしかねぇべ……」

誰かが、ぽつりとそう言った時、ゴンゴン、と長老の家の戸を叩く音がした。
すうっと戸が開き、中に入って来たのは、村の者ではない三匹の山羊じゃった。

「話は聞かせてもらった。俺達に任せてもらおう」
「お、おめぇさん達はいったい……」
「鬼狩の大」
「謀略の中」
「泣き落としの小」
「人呼んで、三匹のがらがらどんとは俺達のことだ」
「あんた達が、あの鬼を退治してくれるって言うのかい?」
「ああ……報酬は山の上の草だけでいい」
「そりゃ~、ありがてぇこったぁ」

みんな同じ名前のがらがらどん達は、そのまま、谷へと向かったのじゃが――。



とまぁ、嘘の粗筋は置いといて……。

名前は同じ、姿は別物の三匹の山羊『がらがらどん』が、腹一杯草を食べて太るため、山のてっぺんを目指す物語です。
山に通じる吊り橋の下には、トロルという毛むくじゃらの化物が住んでおり、こいつをどうにかしないと谷を渡ることができません。
三匹はそれぞれの持ち味を発揮して、一匹ずつ橋を渡っていきます。

トップバッターは一番若い『がらがらどん小』。
他の二匹は、「俺達がついてるぜ」とか言いながら、一番非力な奴の背中を押します。
さすが、名前こそ同じものの兄弟でも何でもない三匹組、まずはヒエラルキーの最下層にいる奴を送り込んで様子をみようってことらしいです。(笑)

半分泣き落としのような形で、『がらがらどん小』は橋を渡ります。
「かた、こと」という可愛らしい足音に騙されたのでしょうか? 次の奴喰えばいっか~、と納得して道を通してやるトロル君……甘々ですね。
通行料として命寄こせっ! とかいう阿漕な商売やってるんだから、もっと非情にならないと生き残れないと思います。
(どっちの味方だ、私?)

二番手は、「がた、ごと」という微妙に中途半端な足音の『がらがらどん中』。
一言で言ってしまいましょう。こいつは、舌先三寸で世の中を渡っていく詐欺師です。
「俺の後に来る奴の方が美味いぜ」、とにこやかに仲間を売り飛ばし、彼は悠々と橋を渡ります。

そして……やって参りました、最凶最悪のラストバッター『がらがらどん大』。
こいつは生物兵器です。
黒い巨体、血走った目、蒸気吹き出しそうな鼻、岩でも砕けそうな馬鹿でかい角……トロルと対峙したシーンの彼の姿は、とても山羊のそれではありません。つーかもう、誰がどう見たって化物。(笑)

しかし、腹をすかせたトロル君、無謀にも化物山羊に因縁を付けます。
「おうおうおう、俺の橋をがたごと言わせやがるのは誰でぇ!」
「俺だ……お前を殺しにやってきた大がらがらどん様だ!」

台詞は微妙に変わってますが、大体こんな感じの会話の後、二人は仁義なき戦いに突入します。
結果は……当然ながら、大がらの圧勝。哀れトロル君は、肉をひきちぎられ、その屍を谷底に晒すことになります。
冗談みたいに聞こえるでしょうが、マジでヴァイオレンスな戦いでした。今のところ、童話でこれほど残酷な戦闘シーンにお目にかかったことはありません。しかも、絵でしっかり描いてあるって、をい!

殆ど記憶だけで書きましたが、話は大体それで全部です。
今から考えるとツッコミ所満載ですが、幼少時は夢中になって読んでいました。
何と言うか……トロルをぶっ殺す時のカタルシスが、子供心を捕らえて放さなかったって事なんでしょうか?
(最初から大が渡ればいいんじゃん、というツッコミは当時から入れてたような憶えがあります。スレたガキやなぁ……)

いわゆる『子供に勧めたい童話』の範疇からは、はみ出しまくってるかと思いますが、オススメです。
しかし、子供って本当に残酷話好きだよなぁ……。

探偵がいっぱい

2007-02-20 20:35:52 | ミステリ
さて、このまま調子よくいきたいものだと思う第812回は、

タイトル:解決まではあと6人――5W1H殺人事件
著者:岡嶋二人
出版社:双葉社 双葉文庫(初版:H1)

であります。

岡嶋二人の長編ミステリ。
五つの探偵社に持ち込まれた奇妙な依頼と、それによって導き出されるある事件の真相を描きます。
連作短編調の構成と、軽妙な文章で、いつものごとく一気に最後まで読めました。



カメラの持ち主を探して欲しい……女はそう言った
女の名は平林貴子。十中八九、偽名である。
だが、こういう依頼人はさして珍しくなかった。探偵・神山謙一はその仕事を受け、解決した。

渡辺弘美は、叔母の民子のところに持ち込まれた依頼を無理矢理奪い取った。
依頼人の名前は平林貴子。依頼の内容は喫茶店探し。
依頼人がちらりとだけ見たという、店の頭文字二つ……殆どそれだけを頼りに、弘美は調査を続けるが……。

野崎道雄は、顔の見えない女から電話だけで奇妙な依頼を受けた。
彼女自身ではなく、藤田という男が被害を被った事件についての調査である。
女の素性で解っているのはただ一つ、平林貴子という名前だけ――!



すべての探偵社に同じ偽名で調査を依頼するって、妙なとこでヌケてますね貴子さん。(笑)

とまぁ、いつものツッコミは置いといて、連作短編チックな長編ミステリです。
全六章構成で、各章のタイトルが5W1H(WHO? WHERE? WHY? HOW? WHEN? WHAT?)になっている点が非常にユニーク。
主人公は各章毎に異なりますが、どの章にも平林貴子+αな方々が深く関わっており、物語の進行とともに事件の全貌が明らかになります。

面白いのは、各章で貴子が探偵に依頼する調査が実に奇妙であること。
全体を俯瞰出来る位置にいる『読者』ならともかく、断片的に関わっている探偵達は彼女の真意を探り当てることができません。
依頼は果たしたけど、どこか釈然としない……そんな彼らの不満を受け継ぐような形で、読者はまた別の依頼を追うことになります。次が読みたいという欲求が自然に沸いてくる、実に上手い構成です。

ナビゲーター兼、事件の当事者である平林貴子の素性が殆ど不明なのも、先を読みたくなる要因になっていました。
ある時は不安げな顔の依頼人、ある時は何者かを追う追跡者、ある時は声だけの素性不明の人物として登場し、探偵達を困惑させつつ、問題が解決すると煙のように消えてしまう『謎の女性』(←重要)。
彼女の目的、そして、正体は何なのか? すべての依頼が果たされた時、彼女は一体何をするつもりなのか? 期待しつつ読み進めていくと――第五章で衝撃の展開がっ!(ああ、言ってしまいたい!)

個人的には、第六章ですべての探偵が一同に会し、すべての謎が明らかになるという展開を期待したのですが……名前だけで登場はありませんでした、残念。
第六章の主役に不満があるわけではありませんが、オチは……うーん、ここでそういう話に落とすかぁ? といった感じ。
第五章までに全くネタフリがないわけではありませんが、それでも最後のどんでん返しは強引すぎた気がします。

ラスに少し不満はありますが、それでもオススメ。
ただし、割とブラックな話なので、ハッピーエンド好きな人には向かないかも。



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もういいや、っと

2007-02-19 23:59:17 | ファンタジー(現世界)
さて、ここまで来るともう続けるぞの第811回は、

タイトル:9S <ナインエス> IV
著者:葉山透
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H16)

であります。

もうここまで来れば、とりあえず全部読んで、全部紹介することにします。
だっておもしろいんだもの(笑)

と言うわけで、早速ストーリー紹介。
3巻は、上下巻の上巻と言うことで、敵味方一堂に会し、「さぁっ、これからどうなる!?」ってところで終わっていたけれど、上巻で語られていたすべてに決着をつける下巻。

「真目家を根底から覆すという驚異の遺産【天国の門】。その力を求め、一つの地にすべての勢力が結集する。麻耶とADEM、そして由宇。その前に立ち塞がったのは、マジシャンの傀儡と化した闘真だった! マジシャンは去り際に予言を残す。三日以内に【天国の門】を渡さねば、この街に血の雨が降るだろう、と。
なす術もなくマジシャンたちを見送るしかなかった由宇と麻耶は、互いの感情を乗り越え手を結ぶ。【天国の門】とは? 遺産を取り出す方法とは? 二人はぶつかり合いながらも真実へと迫っていく。
 そして運命の日――最後に笑うのは果たして!? 俄然ヒートアップの第4弾!」

いやぁ、今回は1巻に負けず劣らず、展開にパワーと勢いがあって、おもしろかったねぇ。
今回は、闘真と由宇、と言うよりも、麻耶と由宇のコンビのほうが前面に出ていて、このふたりのやりとり……ともに得意なところ、苦手なところなど、それぞれのキャラの魅力が十二分に見て取れる話となっている。

また、ストーリーでは闘真と由宇という戦闘寄りなものではなく、峰島の最高傑作とされる卓越した頭脳を持つ由宇と、真目家という極めて強大な組織の持つ権力とが手を組んで展開されるスケールの大きな仕掛けなども見どころのひとつであろう。
だいたい、【天国の門】を取り出すのにあんなことをやるか、おまえら……(笑)

あと、構成と言う面で見れば、闘真が禍神の血を辿ることなども含め、3巻で持ち出されたものを余すところなく使い切った終盤は見事。
……と褒めたいところだけど、とにかく使い切りたかったのかどうかはわからないが、終盤がそれらの謎解きに費やされ、且つ、3巻での前振りが多すぎたために、謎解きに費やされた分量が多すぎて、やや食傷気味になるのは残念。

それとそうした謎解きをする部分に「準備、その一」「解明その一」など、小さなタイトルを付ける部分があるのは書き方としてどうかと思う。
別にそういうことをしなくても、読んでいてそう言う場面だと言うことはわかるのだから、はっきり言って邪魔。
ついでにもうひとつ、謎解きなので仕方がない部分はあるのだが、科学用語満載の説明台詞の多さも、謎解き分量の多さと相俟ってうんざり気味。

ストーリーがおもしろくなければ、確実に斜め読み決定……なのだが、まぁ、そこはやはりおもしろいのでしっかりと読んでしまうのだが……(笑)

まぁ、しかし、マジシャンの話と闘真が禍神の血を辿った話がそうなるのか、とか、【天国の門】をそう使うか、とか、由宇はどんどんどんどん女のコしてくるなぁ、とか、闘真と由宇の「明日はどっちだ!?」な展開、とか、不坐親父の目的はわかるけれど相変わらず悪人ね、などなど、見どころは満載。
おもしろさは上下巻の下巻と言うことで期待を裏切らない展開に、パワーと勢いも加わって、まぁ、少々の難点は帳消しだろうね。

是非、3巻4巻と続けて読んでもらいたい作品。
総評、良品。



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