つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

のろい町に住んでいても感覚的には変わらない?

2005-02-28 20:50:52 | 学術書/新書
さて、一部の人にとっては懐かしいかも知れない第90回は、

タイトル:不思議の国のトムキンス
著者:ジョージ・ガモフ
出版社:白揚社

であります。

平べったい自転車ライダーが通りを走っていく。

そんな絵に見覚えはありませんか?
え? ないって?
じゃ、車庫から染み出てくる車の絵は?
それもない? ふむ……残念。

本書は一風変わった科学の解説書です。
どこが変わっているかというと、各所に科学を元にした物語が挿入されていること。
ただし、飽くまで解説書です。SFではありません……作者曰く。

主人公トムキンス氏はごくごく平凡な銀行員。
ちょっと現代科学(1938年当時)に興味を持っています。
彼は、科学の公演を聞く度に不思議な夢を見ます。

自転車を走らせると通りの景色がぺしゃんこになる『のろい町』。
再び同じ町を訪れ、殺人事件に遭遇してしまう『休息の一日』。
たった一つの遊星しか存在しない小さな宇宙での会話『脈動する宇宙』。
定常宇宙論と膨張宇宙論がオペラで対決する『宇宙オペラ』。
転がるに従って、玉が広がっていくおかしなビリヤード『量子玉突き』。
分身する虎やカモシカが現れる森での狩りを描いた『量子のジャングル』。

どの夢も不思議なものばかりですが、ちゃんと科学に基づいています。
しかし、当のトムキンス氏にはちんぷんかんぷん。
そこで、たびたび登場する老教授がそれらを解説してくれます。
聞いてもさっぱり、なんてこともあるけど。

理系の人は必見。文系の人は……物語を楽しんで下さい。
数式もかなり出てきますが、教授はそれなりに解りやすい解説をしてくれます。

興味を持ったなら、続編の『原子の国のトムキンス』もどうぞ。
って……今だと改訂されてタイトル変わってるんですね。(汗)
詳しくは上のリンク先へ。

ようやく終わった……

2005-02-27 14:45:26 | ファンタジー(異世界)
さて、なつかしシリーズもようやく最後の第89回は、

タイトル:ロードス島戦記 ロードスの聖騎士(上)(下)
著者:水野良
出版社:角川スニーカー文庫

であります。

今回の新しいメインキャラはフレイムの騎士見習いのスパーク。
そしてスレインとレイリアの娘のニース。

ニースが邪神復活の扉であることで、マーモの元宮廷魔術師のバグナードに狙われ、それを守るためにスパークを始めとするパーティが組まれ……。

上下巻のうち、上はほとんどスパークの話。
まぁ、前の巻がこの話の伏線だったので、いろんな国でようやくマーモの支配をどうにかして、そこからマーモへと各国が攻め込んでいくのもメインのひとつ。

んで、第1巻で対決した灰色の魔女カーラの話もここで締めている。

んー、きちんといままでの話をここで完結させてるのは、うまい具合に書いたと言う感じがしないでもない。

いや、きっちりと終わらせたし、矛盾もないし、全体の構成としてはしっかりしている。

しかし……。

懐かしいだけでこれだけの巻数があるシリーズものを読むものではない。

よっぽど好きで、いまでも読み返しておもしろいなぁ、と言える話ならいいけど、大してお気に入りでもない話を選ぶと読み進むうちにかなりどーでもよくなってくる。

「王たちの聖戦」「ロードスの聖騎士」ともに、一括して書評にしてやろうかと本気で思ったぞ。

と言うわけで、今回の教訓。

懐かしいだけでシリーズものを選ぶと馬鹿を見る。

もうそろそろ

2005-02-26 23:21:51 | ファンタジー(異世界)
さて、喋ると言えばヘリコプターもあったような気がする第88回は、

タイトル:王たちの聖戦
著者:水野良
出版社:角川スニーカー文庫

であります。

次の「ロードスの聖騎士」への伏線とも言える本。

以上っ!

……んなわけないだろ(爆)

と言っても、ほんとうにそうなのだから仕方がない。

主人公のパーンたち一行はフレイムからモスへ。
そこでモスのハイランド公国の王子レドリックと出会い、そして公国の王となるべく戦う。

次に聖なる国ヴァリス。
第1巻でともに戦ったヴァリスの神官エト。
このエトがヴァリスの神官王として玉座につき、そして敵と戦う。

そのためにパーンたちは従い、戦っていく……。

そして次はマーモに支配されたカノン。
そこでカノン自由軍と名乗る一団にいた王子レオナーとともにカノンの解放に手を貸す。

3つの話がオムニバスにも似た形式で進んでいくこれも結局は次の巻への伏線。

いや、悪いとは言わないよ。
シリーズものだから中にはこういうのがあるのはかまわない。

でも、次のロードスの聖騎士を読んでるからかもしれないけど、伏線と言う印象が拭いきれない。

次は上下巻だし、その他の作品の中には外伝を読んでないとわからない描写や地の文が出てくる。
なら、わざわざここで伏線まがいの作品を書かなくても、そのままラストに突っ走って、その中で語ってもいいんじゃなか、と言う気がしてくる。

やっぱり、懐かしさだけでシリーズものを評するのは、どうかなぁ……と思う今日このごろ、って感じかなぁ。

SENとLINNとで二人いる!

2005-02-25 22:39:55 | ミステリ+ホラー
さて、人語を解する車と言えば夜のライダーな第87回は、

タイトル:六番目の小夜子
著者:恩田陸
出版社:新潮社

であります。

実はドラマの方を先に見てしまった。

とある高校で、三年に一度だけ行われるゲームがある。
主役は『サヨコ』と呼ばれる人物。
残る全校生徒すべてが、鬼だ。
『サヨコ』は全校生徒にその正体を隠しつつ、ある事を行わなくてはならない。
そして次の『サヨコ』に役目を引き継ぐのだ。

三年に一度にあたるその年。
一人の少女が転校してきた。
彼女の名は『津村沙世子』
伝説の名を持つ少女の存在が、今年のゲームを歪めていく……。

恩田陸のデビュー作にして最高傑作(私的には)。
ただ、ドラマを先に見てしまったのは本当に痛かった。

実は、ドラマの主人公は原作には出てこないキャラクターです。
彼女と沙世子の絡みが非常に秀逸で、彼女なしでは話が成り立ちません。

それと、この作品で最も怖いシーンが文化祭でやるお芝居なのですが。
ドラマの方が凄く怖かったのです。画像って偉大だ……。

原作を否定するようなことを書きましたが、ラストはこっちの方が好きです。
ドラマの方は、なんとなくお茶を濁したような感じだったので。(嫌いじゃないけど)

ミステリー好き、ホラー好き、どちらにも勧めたい一品。
ドラマのDVDも出ています。よろしければそっちも。



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なんか最近ホラー多いかも

2005-02-24 19:43:13 | ミステリ+ホラー
さて、やぁマイケルと言えば人語を解する車な第86回は、

タイトル:ZOO
著者:乙一
出版社:集英社

であります。

ホラーの天才と呼ばれる乙一
風の噂に誘われて、手を出してみたりする。

何なんだこれは。

とオビに書いてありましたが、さほど意表は突かれませんでした。
むしろ、基本をきっちり守ってくれているので、安心して読めた気がする。

短編集なので、一つずつ感想を述べていきます。

『カザリとヨーコ』……姿は同じでも境遇の全く異なる双子の姉妹の話。この短編集の中で、ある意味一番救いのある話。オチはホラーではありません、恐怖が尾を引かないので。蛇足ですが、なんとなく萩尾望都の『半身』を思い出しました。

『血液を探せ!』……何だが現実味の欠けた人々のちょっとブラックなドタバタ騒動。実はミステリ仕立てになっており、注意深く、各人のふざけた会話を聞いていれば犯人当てができる。しかし、ホラー作家ってギャグセンスある人多いなぁ。

『陽だまりの詩』……綺麗なお話。最後の一人になった時、貴方はどうしますか? その問いが無限の連鎖を生むリング・ストーリー。ラストの会話が非常に美しい。

『SO-far そ・ふぁー』……これが一番怖い話。一言で言うと、三人家族の歪んだ関係。さて、三人のうち最も恐ろしい人物は誰でしょう?

『冷たい森の白い家』……家を建てるという行為は、自分の内面と外面を知るのに有効な手段の一つだろう。狼を撃退した末の子豚の家は彼の性格をよく表している。さて、本作の主人公が建てる家とは……。(感想じゃないな、これ)

『Closet』……素直なミステリ。いきなり最初に罠がしかけてあるので注意。

『神の言葉』……主人公の心理描写と机の仕掛けが秀逸。自分がハーメルンの笛吹になったらどうするか? というSF。

『ZOO』……自分で作り出した連鎖の中にいる男の話。虚構の繰り返しから脱出した時、彼は人に戻る。ガススタの店員の台詞が良い。

『SEVEN ROOMS』……状況的には『キューブ(映画)』に近い。囚われの身となった姉弟の苦闘、そして悲しい結末。この短編集で一番好きな話です。しかし、あちこちで救いがないと書かれているけど、この人かなり救いを描いてると思うのは私だけ?

『落ちる飛行機の中で』……『血液~』に続き、尋常ではない状況の中で交わされる緊張感のない会話が楽しい話。劇にしたら面白いんだろうなあ。

ジャンルを選ばない人なので当たりはずれはあると思います。
しかし、短編好きならその中から珠玉の一本を拾えれば幸せ、な筈。
貴方もお気に入りの作品を探してみませんか?



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そろそろ懐かしさも消えてきて

2005-02-23 21:27:54 | ファンタジー(異世界)
さて、ミゲールと言えばマイケル、マイケルと言えば英語の教科書の第85回は、

タイトル:ロードス島戦記 火竜山の魔竜(上)(下)
著者:水野良
出版社:角川スニーカー文庫

であります。

最初は懐かしさが先に立ってたけど、そろそろ懐かしさも消えてきたな。

つか、知能を持ち、魔法さえ操るドラゴンをほいほい倒すなよ。

ともあれ、今回のもうひとつの主役は狂戦士(バーサーカー)とその相棒の女傭兵。
主役は当然、いつものふたり(人間の戦士のパーンとエルフのディードリット)だけど、だいたい2巻からカシューとナルディアとか、物語に関わるその話のときのもうひとつの主役がいる。

そこで今回はこのふたりなんだけど……。
まぁ、今回の話のひとつに、狂戦士をふつうの人間に戻す、と言うのがあるんだけど、これがなぁ。

もとに戻る理由も別にきちんと納得できるとは思うけど、かなり盛り上がりと言うか、そういうのが乏しい。

このひとの淡泊な書き方ってのも影響してるんだろうとは思うけど、もとに戻る、相棒のためにまた狂戦士になって敵を倒す、と言うひとつの見せ場がぜんぜん見せ場になっていない。

別に話が破綻するわけでもなく、伏線もきちんとしてるし、文章もわかりやすい。
でも、この淡泊さが特徴というものを無くしている。

まぁ、逆に言えばこの淡泊さが特徴と言えなくもない……かも。

人生とは49%の運と51%の可能性である。

2005-02-22 18:38:26 | 小説全般
さて、ミゲールって誰だったっけ? とか言ってみる第84回は、

タイトル:砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない
著者:桜庭一樹
文庫名:富士見ミステリー文庫

であります。

児童虐待を扱った作品。

と、最初に危険信号みたいなものを出しておく。

ええっと、個人的には非常に好きな作品です。
キャラクターの立ち位置、過去と現在が絡む構成、小道具の使い方等、非常に計算されており、素直に「上手だなぁ」と言えます。

ただし……開始一頁目で解るので書いてしまいますが、主人公の女の子二人のうちの一人がバラバラ死体になります。こういうのが嫌いな人はここでリタイアしてしまうかも。

物語の進み方に無理があるわけではなく、自然な流れとしてそうなります。
ただ、どうしてそうなってしまったかと言うと、運、としか言いようがない。
虐待され、自我を半ば以上破壊された少女が、鳴らし続けたSOSのかいもなく死ぬ。
どうしても納得いかない……って人は結構いると思います。

ただし、全く救いのない話というわけではありません。
それまで夢の世界に閉じこもっていたキャラクターが、少女の死をきっかけに自我を取り戻し、現実に戻ってくるサブストーリーがあります。
それで少女が報われるわけじゃない、と言ってしまえばそれまでですけどね。

良くできた物語を求める人向き。
割り切ってしまえず、キャラクターに感情移入してしまう人向けではない、かも。
私としてはそういう人にこそ読んでもらいたいけど。

蛇足ですが、読了後に吉田秋生の『吉祥天女』を思い出しました。
こちらは主人公が断然強く、敵側が弱い話ですが人物配置に類似点が見られます。
『Banana Fish』が好きだったという方はこちらも読んでみるといいかも。

最後に一言。

女性作家の容赦のなさは男性作家の比ではない

ちなみに、エログロは作家の容赦のなさの現れではありません。
不快感を与えるか、隠れた情念を呼び起こすだけのテクニックです。



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ホントに懐かしかった

2005-02-21 22:13:55 | ファンタジー(異世界)
さて、いやいやお不動さまはミゲールだったらしいぞの第83回は、

タイトル:ロードス島戦記 炎の魔神
著者:水野良
出版社:角川スニーカー文庫

であります。

なんか1巻よりこっちのほうが懐かしかった(笑)

と言うのは、だいたいどんな小説でもひとつやふたつくらいは、とても印象に残るシーンってのがあるものだと思う。

この2巻はやはりラストか。
炎の部族の長ナルディアが去ろうとするイフリートの炎に飛び込んで逝ってしまうところ。

でも1巻はそういうところがないんだよなぁ。
さらっと読めるのはいいんだけど、さらりすぎてなーんも残らんかった、と言う感じ。

ただまぁ、そうは言っても、たとえば、このナルディア。
女性キャラで部族の長と言う立場ながら、まぁ、ものの見事に長、だね。
そのイメージをそのまま表現してるだけだから、人間味に乏しい。

まぁ、他のキャラにも言えないことではないので、要所要所に弱さを見せたりするともっと味が出てくるんだろうけどねぇ。

ともあれ、このひとの初期のほうの作品なんだろうから、そういうところで眼を瞑っておくか。
いまの作品を読んだことがないから何とも言えないけど、ロードス絡みが出てるんなら、いっぺん読んでみてもいいかな。

せっかく久々に読み返してみたんだし。

ロボットの帝国……あれ?

2005-02-20 14:16:56 | SF(海外)
さて、仏教神の化身とキリスト教悪魔が戦う話もあった気がする第82回は、

タイトル:ロボットと帝国
著者:アイザック・アシモフ
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

むかーし、読んだSFに『最後の共和国』というのがありまして。
狂った一体のロボットが他のロボットを指揮して人間を支配するという話でした。
いわゆるフランケンシュタイン・コンプレックスものの一つですが、人類が完敗するラストを読んで、子供ながらに、「これはやばいんでないかい?」と思った記憶があります。

初手から脱線しました、すいません。
本作はイライジャ・ベイリ・シリーズの外伝的作品であると同時に、ファウンデーション・シリーズとロボット・シリーズをつなぐ橋渡しという不思議な位置づけにある作品です。
(本編については第76回第78回第80回を御覧下さい)

主人公はダニール。サブがジスカルドとグレディア。
ちなみに、ベイリは回想の中でしか登場しません。既に死んでいます(泣)。

前作から二百年が過ぎ、地球とそれをとりまく宇宙国家の関係は大きく変化しました。
宇宙に進出した地球人達が築いたベイリ・ワールドと旧宇宙国家の間には常に不穏な空気が流れており、ダニール達は否応なしに陰謀に巻き込まれていきます。

特筆すべきは、ところどころで挿入されているダニールとジスカルドの会話でしょう。
彼らはグレディア、ベイリの子孫、宇宙国家、地球と関わっていくうちに、ロボット工学三原則に疑問を抱き始め、ロボット工学者ですら気付いていないある法則を導き出します。
そしてそれは、ファウンデーション・シリーズにつながっていくのですが……それが何であるかは御自分の目で確かめて下さい。(引っ張るなぁ……)

ちなみに回想シーンで、ダニールとベイリ、ロボットと人間という決して交わらない立場にいる二人の別れのシーンが描かれています。ファンは必見。



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なつかしシリーズとでも銘打つか

2005-02-19 21:54:23 | ファンタジー(異世界)
さて、裏と言うとなんで大日如来より明王のほうが強いんだと疑問に思う第81回は、

タイトル:ロードス島戦記 灰色の魔女
著者:水野良
出版社:角川スニーカー文庫

であります。

懐かしいなぁ。
奥付を見ると昭和63年初版発行、だもんなぁ。

前にも書いたひかわ玲子先生は日本ファンタジーの草分け、だけど、このロードス島戦記は日本ファンタジーを定着させたひとつ、と言っても過言ではないと思う。

とは言っても、もともとグループSNEと言うマニア集団が、Dungeons & Dragonsと言うテーブルトークPRGをパクって作ったTRPGをもとにした話だけど。

でも、かなり久しぶりに読んだけど、このひと、すごい素直な話を作る。

お約束と言えばそのままだけど、いわゆる剣と魔法の世界で、何の衒いもなく、ストーリーを作っている。

まぁ、主人公のパーン、ヒロインのディードリット……このうち、ディードのほうがパーンに惹かれていく、つまり一緒に行動する、戦う、と言うところの説明が乏しいので、唐突な感じがするけど、そういった若干の引っかかりを除けば、確かに当時から人気が出たのは頷けると思う。
(アニメでかなりの巻数出たはずだし)

でも、いま読むと物足りない感じがないわけではないけど、懐かしさもあって、それなりに読んでしまったわい(笑)

そういう意味では、日本ファンタジーのひとつの試金石(?)だから、ひとつ、読んでみるのもいいのかもしれない。