つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

これはいくら何でも……

2006-06-19 23:42:28 | 古典
さて、久々に古典のカテゴリーが増えると思ったら……な第566回は、

タイトル:竹取物語(全)
編集:角川書店
文庫名:角川ソフィア文庫

であります。

古典ファンタジーの傑作・竹取物語の全訳、および解説本。
正直言って古典は苦手な分野なのですが、一度ちゃんと読んでおくべきだろうと思い、購入。

序盤でいきなりコケました……。

「中をのぞいてみると、背丈が十センチほどの女の子が(後略)」

解説ならともかく、訳文で横文字使うのはどうにかして下さい。(怒)
他にも、「自分の愛情の深さをアピールするために」とか、「もともと要領のいいタイプだから」とか、いつの時代の話やねんという記述が随所に見られます……。

千歩譲って、現代人に解りやすい表現を使った、ということで妥協するとしてもまだ問題はある。
以下は、台詞と台詞の間に出てくるつなぎの文の一例。

「と、やんわりと恩に着せはじめた」
「じいさんはすっかりその気になって」
「と、かわいくない返事をした」

原書のどこにそんな記述があるんだ、をい。

読者が想像すべき部分を勝手に解釈して書いてます。
物語として読みやすいように配慮したつもりなのでしょうが、これは最悪。
原文と比較しながら読むことで、訳者の暴走っぷりを楽しむぐらいしかないかも。

現代語訳と言うよりは、現代風アレンジの物語となっている訳文を除けば入門書としては悪くないです。
原文に加え、時代背景、生活様式、ちょっとした豆知識、物語に込められた男性批判の話等々、解説も充実。
ちなみに、迦具夜比売命なる名前が古事記に登場するという事実を初めて知りました……うがが、不勉強。

±0で△が妥当な線。
難しいことは抜きにして、さらっと楽しむには良いかも。
幻想的な設定と現実的な計算が見事に融合した物語をお楽しみ下さい。

読み終わると……

2005-12-13 20:25:59 | 古典
さて、ホラーカテゴリのような気もする第378回は、

タイトル:新編 百物語
編・訳者:志村有弘
出版社:河出文庫

であります。

『今昔物語集』『宇治拾遺物語』『夜窓鬼談』『耳嚢』等の古典から百編の怪談話を抜き出し、現代語訳した本。
原文を読まないと気が済まない古典マニアならともかく、私のように気軽に読みたいと思っている方には打って付けです。

全八章構成で、各章は基本的に事件の中核を成すモノ毎にまとめられています。
順に挙げると、『鬼篇』『魔物・妖怪篇』『幽鬼篇』『予兆怪奇篇』『死霊・悪霊篇』『人魂篇』『動物怪異篇』『怪談・奇談篇』。
章タイトルだけでゾクゾクしそうですね。
(※私は妖怪フェチでも怪談マニアでもありません)

退治話あり、仏教説話あり、理不尽話あり、オチのない話ありと内容も多彩。
基本的にバッドエンドが多い気がしますが、怪談ってそういうものですよね。(笑)
一つの作品からではなく、時代の異なる複数の作品から話を抜き出しているので、風俗や感覚の変化を楽しむこともできます。

一話の長さは全体平均二頁、短い話だと十行ちょっと、一番長い話でも十頁ぐらいなので、いつでもさらっと読めるのは有り難いところ。
個人的には一夜で全話読み切る耐久レースをオススメしますが、似たような話が連続している場合もあるので気合いがない時はちょっと辛いかも知れません。

怪談話が好きな人にはかなりオススメ。
読み終わった後で怪異が発生しても責任は取れませんが……。

いまごろになって

2005-11-27 16:34:11 | 古典
さて、ようやく続きの第362回は、

タイトル:有職故実(下)
著者:石村貞吉 (校訂:嵐義人)
出版社:講談社学術文庫

であります。

相変わらず、べらぼうに高いな、講談社学術文庫……。
400ページ前後の文庫で1200円~。
まぁ、資料だからいいけど。

さて、官職位階や儀式典礼などを中心に平安時代の制度を解説していた上巻に続いてようやく下巻。(有職故実(上)9月25日

下巻は上巻とは趣を変えて、「服飾」「飲食」「殿舎(寝殿造)」「調度・よ車(「よ」は興の真ん中の「同」が「車」になった漢字)」「甲冑・武具」「武技」「遊戯」の7項目で、どちらかと言えば、「公」が中心の上巻に較べて、「私」の部分が大きくなっている。

「服飾」
「私」の部分が、と言ってもさすがにここは「公」の意味合いが強い。
男女それぞれの礼服が名称ごとに分けられて、解説されているんだけど、……わかりにくい……(笑)
いくら何でも、「ここの帯の先をこう取り回して、後ろに回してから云々」と文字だけで書かれてもさっぱり。
いちおう、巻末あたりにいくつか図絵はあるんだけど、いかんせん量が少ないのが残念。

「飲食」
資料的にここは1、2を争うくらい役に立つところでは、と思うところ。
当時の朝夕の食膳のことから、当時で言う「菓子」(果物)など、どういうものが食べられていたのか、などが解説されている。
ただ、「服飾」のところみたいに項目別に分けられているわけではないので、探すのに難あり。

「殿舎(寝殿造)」
寝殿造とありながらも、鎌倉時代の書院造の解説まである。
いちおう、「寝殿造」と「書院造」の項目はあるけれど、もっと小さな項目分けはされていないので、やっぱり探すのがめんどい……。
巻末の図絵も、寝殿造の建物を鳥瞰したような感じの絵があるだけ。
服飾同様、豊富な絵が入ったのがやっぱりあったほうがいいなぁ。

「調度・よ車」
簾や御頂台などの屏障具、筵や円座などの座臥具、鏡筥なごの家什具、台盤などの飲食具、灯火具などの調度、牛車などの類のよ車の解説。
このあたりは、官職位階によって使うべきものや色などが決められていたので資料的にはここは重要。
つか、使ったらいけないよーなもんを平気で使ってる話なんかあかんやろ(笑)

「甲冑・武具」
いちばん読んでておもしろくなかったところ(笑)
……じゃなくて、やっぱりこれも身につけるもの、と言うものなので、読んでるだけじゃわかりにくいんだよね。
ただ、武具は、武官とか位によって身につけられるものが違ったりするので、疎かには出来ない。

「武技」
カテゴリーを「弓技」にしたほうがいいんじゃないかと思った(笑)
流鏑馬の作法とか、騎射とか、そういうのの作法とかが解説されているところ。

「遊戯」
古典にもよく出てくる貝合(かいあわせ)や歌合などの遊びや蹴鞠など、代表的な遊戯が解説されている。
てか、何とか合わせとか、そういうのってけっこういろんな種類があるのね、と感心。
菖蒲の根合(あやめのねあわせ)って、根っこごときで何競ってんねん、と突っ込みたくはなったけど(笑)

とこんな感じの本ではあるけど、やっぱりどー考えても一般的じゃなさすぎる本だよなぁ。
しかもほとんどが文字じゃわかりにくいものばかりなので、上巻よりも取っつきにくいだろうね。

資料兼趣味

2005-09-25 14:25:55 | 古典
さて、記念すべきキリ番のイブ(?)な第299回は、

タイトル:有職故実(上)
著者:石村貞吉 (校訂:嵐義人)
出版社:講談社学術文庫

であります。

340ページあまりの文庫で1100円!
た、高い……(笑)

しかも巻頭の「自序」には、「昭和28年暮」とあり、古い本を文庫版に復刻した、と言う感じのもの。

有職故実というと、まぁ、平たく言えば、昔の制度や行事などを研究する学問で、「枕草子」や「更級日記」などの随筆や日記文学、「源氏物語」などの物語、「大鏡」などの歴史物語を読むときに、ある程度は必要になる貴族たちの肩書きや、節会などの行事などを知ることができるもの。
もちろん、そうした制度が「延喜式」に代表されるように、奈良・平安時代に概ね固まったこともあって、そういう時代のがほとんどだけど、それより時代が下ったときの話もある。

なので、はっきり言って、この手の本は興味のあるひとでなければ、これっぽっちもおもしろくないんじゃないかなぁ。
強いて言えば、官職・位階くらいは、いわゆる奈良・平安時代をベースにした小説やマンガを読むときに、知っているのと知らないのとでは違うので、せいぜいこの部分くらいかなぁ。

まぁ、かくいう私も興味のあるものとは言いつつも、平安ものを書くときに必要なので半分は資料的な意味合いがあるんだけどね。

さて、本書は大きく4つの項目に分けて解説されている。

「官職位階」は、その名のとおり、用いられた官職及び位階についての章。
ある官職名が、どういう職掌を持ち、位としてはどこに位置するのか、と言うことが、また各組織がどういう仕事をする組織なのか、どう改廃されてきたのかなどまで、詳細に解説されている。

「平安京及び大内裏」は、ホントそのまんま京と大内裏の解説。
平安京のほうは数ある大路の名称や、どこにどういうものがあるのかや、市ではどういうものを売り買いしていたのか、右京と左京の違いなどが詳細に述べられている。
大内裏も、どういう施設がどこにあって、どの殿舎につながっているか、どの殿舎の東西にあるかなどが書かれている。
大内裏のほうは古典を読んでいるとよく見かける名前があるけど、こういう地理とか、構造物のことを文章のみで表現されると、かなり掴みにくいところがあるので、図とか絵をふんだんに使ったものにしてほしかったなぁ、と言うところ。

「儀式典礼」は、即位のことや婚礼、元服、裳着などの成人の儀式などについて。
「年中行事」は1年の宮中で行われる行事や節会などの解説と、その手順……どの官職位階の者が何をするのかなどについて、詳細に解説されている。

上巻はここまでで、下巻はどちらかと言うと制度とかに関するものではなく、服飾などの風俗に関することになっているけど、それは次に。

……にしても、いくら興味があるとは言っても、解説に現代語訳のない原文の引用(漢文であれば読み下し文)が入っているのはちとつらい。
昔と違ってそこまで読めるほうではないので……。

まぁでも、やっぱり官職だの何だのは読んでいておもしろい(と思うのは私だけか(笑))
「枕草子」を始め、「源氏物語」「とりかえばや物語」などの物語は読んでるし、「更級日記」や「蜻蛉日記」などの日記文学もかじったことがあるので、あのキャラはこういう仕事をするところにいたのか、などと思い起こしてみたりするのが楽しい。

行事なども「枕草子」とかには出てきたりするので、こういうのを読んで、また古典を読み返してみる、と言うのもいいかもしれない。

古典好きなら、と言う注意書きつきにはなるだろうけど。

下巻に続く

ようやく4冊目!

2005-09-17 14:52:28 | 古典
さて、カテゴリーを作った割にぜんぜん増えてないなぁの第291回は、

タイトル:日本霊異記(上)
著者:景戒 (全訳注:中田祝夫)
出版社:講談社学術文庫

であります。

前に古典の記事書いたのっていつだっけと思って目録見てみると、3月19日……。
ちと増やさんとなぁ。
相棒ともども、これでも日本文学科出身なんだし。

さて、本書は日本古代の仏教説話集で、概ね5世紀~7世紀くらいの説話を集めたもの。
上中下の全3巻で、基本的なコンセプトは「因果応報」
善い行いをすればよいことが、悪い行いをすれば悪いことが……と言う仏教の教えを説話の中で説いている。

だいたい古典と言うと、学術文庫を選ぶんだけど、これはやはり原文、現代語訳、語釈、と言う構成だから。

古文とかを離れて久しいけれど、昔取った杵柄で、それでも何となくこんな感じ、とわかるものなので、原文というのはあったほうがいい。
でも、やっぱり忘れてることはあるので、語釈があると、「ん?」ってのを語釈で見ながら読む。

んで、最後に現代文を読んで確認。

と言う感じで読めるので、この構成が基本の学術文庫になる。

でも、この日本霊異記、成立年代は概ね平安初期なんだけど、原文は漢文。
なので、本書はちょっとイレギュラーで原文が読み下し文になっている。

なので、実はふつうの古文よりも読みやすい。
さすがに漢字がそのままの意味だったり、違う意味だったり、単語の意味が掴みにくかったりするところがあるけど、それは語釈を見ながらであれば読めるし、語釈があれば、そう古文の知識がなくても読めるんじゃないかな、と思う。

ただ、やはり仏教説話だけあって、抹香臭い……もとい、説教臭い。
コンセプトが因果応報だけあって、こういうことをすればこうなるから、善行を積みなさい、ってのがほとんどだし。

でもまぁ、今昔物語集のもととなった話がたくさんあったりするし、説話なので1話1話はとても短い。

この上巻は35話。
まー、たまには古典でも、そして抹香……いや、説教臭いものでも、と言うひとには古典の割に読みやすいのでどうぞ。

時代を反映して

2005-03-19 11:29:21 | 古典
さて、これからマンガも含めることにした第109回は、

タイトル:とりかへばや物語(1)(2)(3)(4)
著者:不明(訳者 桑原博史)
出版社:講談社学術文庫

であります。

含めると言いながら古典(笑)

「とりかへばや」というのは、「とりかえたいなぁ」と言う意味。

主人公は、活気があって男勝りな姫君、もうひとりが内気でなよなよした若君。
長じるに連れて姫君は公達として、若君は姫として世間に出るようになる。

これだけならまだしも、まるで源氏物語のように姫君は若くして中納言、若君は後宮に入って女東宮(にょとうぐう)付きの尚侍(ないしのかみ)に。(女性の最高職。ただし、そのうち、帝の愛妾みたいな側面を持つようになった)
さらに姫君は右大臣家の姫君と結婚するわ、若君は女東宮に手を出すわ……話の内容はかなりはちゃめちゃな内容になってる。

ざっくりとした話はタイトルの各巻のリンクからamazonに行けばわかる。

まぁでも実際に読んでみた感じでは、姫君、親友の宰相中将(さいしょうのちゅうじょう)に押し倒されて子供を産む。けれどこれを捨てて若君と入れ替わって後宮へ戻り、さらに帝に愛されて中宮になって幸せな人生を歩むことになる。

ただ、ラストにこの宰相中将(三位の参議と兼ねる中将。概ねいいとこのぼっちゃんがなる)がいまは中宮となってしまった姫君の子供を慈しみながら、かのひとはどこへ……と言うシーンがえぐい。

ストーリーもかなり無理がある。
だいたい姫君と若君が入れ替わることになるわけだけど、この時点で姫君は右大将、若君は尚侍。
まったく接点のない仕事の割に、あっさりと入れ替わって周囲に溶け込むふたり。

いちばんの難点はここかなぁ。

でも、やはり時代を反映して、雰囲気は退廃的で、重い。(成立は平安末期)
けっこうどろどろしたところもあるし、暗い、重い話が好きな私にとってはいくつかの難点を除けばけっこう楽しめる作品だと思う。

まぁ、枕草子や源氏物語のようにメジャーではないけど、ここまで残ってる作品だけのことはある。

ただ、やはり学術文庫なので、原文、語釈、訳文の構成。
他にも訳文だけのものもあるので、逆にそっちを読むほうが古典が苦手なひとにはいいかもしれない。

でも、古典好きとしては、原文でしか味わえない雰囲気とか、そういうのを見てもらいたい、とは思うけど。

中国の幽霊ってのは

2005-01-21 23:01:34 | 古典
さて、いつの間にか過ぎてしまった50回を記念する間もなく第52回は、

タイトル:聊斎志異(上)(下)
著者:蒲松齢
出版社:岩波文庫

であります。

清代に書かれた、神仙や幽霊、狐などなどが出てくる怪奇譚を集めたもの。
もちろん、著者の手が入っているから、集めた話のまんま、というわけではない。

ともあれ、そんなことより、日本と中国の幽霊ってのはここまで違うかねぇ、と言う感じかな。

日本は番町更屋敷に代表されるように、恨み辛みで出てきて、呪い殺すとか、どろどろしたのが多いけど、中国の幽霊(鬼(キ)と呼ぶ)は極めて人間的。

ある幽霊は、ある書生と所帯を持ったりするし、ある幽霊は釣りの途中で酒を飲んでた人間と仲良くなって酌み交わすし、あげくの果ては土地神様になって恩を返すわ、日本の感覚で幽霊を見ると、その違いがとてもおもしろい。

本書は精選した92編の訳文を収めたもので、ひとつひとつの話も短く、通勤通学の電車やバスの中で読むには最適。

古典だしなぁ、と言うひとにもさらっと読めておもしろいと思う。

あとは全491編を読むだけだな(爆)

今度は日本の古典

2004-12-18 20:48:47 | 古典
さて、今度は日本の古典の最高峰(だと思っている)の、

タイトル:枕草子 全訳注(上)(中)(下)
著者:清少納言(訳者 上坂信男 神作光一 湯本なぎさ 鈴木美弥)
出版社:講談社学術文庫

であります。

清少納言、最高!!

ではなくて……

「春は曙」という書き出しで有名な、随筆と言うジャンルの先駆けとなった作品で、清少納言が好きなもの、気に入っているもの、嫌いなもの、興ざめなことなどなどを、自らの視点で描いています。

また、中宮彰子に仕えた女房としての宮廷生活を鮮やかに描いた珠玉の作品でもあります。

つか、中宮さま、LOVE!!なところが笑えてよし!

清少納言のほうが年上にも関わらず、中宮彰子はほとんどお姉さん。
とにかく、「中宮さまはなんて素晴らしいの!?」と言う雰囲気がかなり……と言うか、出まくり。

「香炉峰の雪」の段(中宮彰子が雪の朝、「香炉峰はいかならん」とおっしゃって、清少納言だけが意を汲んで簾を上げて、内裏の雪景色をお見せ申し上げた、と言う話)雪景色をは有名だけど、こういうところにも「中宮さま!」と言うのが出ている。

この本は、原文、語釈、現代語訳、余説の構成で、古典アレルギーの人には向かないとは思う。

訳文オンリーのものは読んでないので知らないけどね。

ちなみにまたこの本のこと、書いたりして(爆)