つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

あぁ、やっぱり……

2012-02-26 14:47:15 | ファンタジー(現世界)
さて、そろそろ普通のも読まないとなぁと思いつつもの第988回は、

タイトル:お釈迦様もみてる 紅か白か
著者:今野緒雪
出版社:集英社 コバルト文庫('08)

であります。

「マリア様がみてる」(通称マリみて)の姉弟編として刊行された本書。
はっきり言って、まったく興味がなかったので手を出していなかったのですが、図書館にあったこともあって、ようやく1巻を手にしてみました。
まぁ、多大な期待はこれっぽっちもせず、読んでみましたが、はてさて……。

さて、ストーリーは、

『花寺高校入学の日の朝、福沢祐麒は校門からしばらく行ったところにあるふたつの分かれ道の前で立ちすくんでいた。
それぞれの分かれ道の入り口には机があって、上級生が待っている。
だが、そこに留まっているのは祐麒ひとりで、他の入学生は何に疑問も持たず、次々と分かれ道を選んで進んでいってしまう。

このまま留まっていても埒があかないと判断した祐麒は、同じ附属中学からの持ち上がり組でも見つけて聞いてみようと踵を返したとき、不意に誰かとぶつかってしまう。
幸か不幸か、ぶつかった誰かからこれが花寺学院高校で有名な源平関所であり、源氏は白、平氏は紅と分かれているらしいことを知る。

だが、それを知ったところで祐麒にはどちらも選べなかった。
そして祐麒の選んだ道は、そのどちらでもなく、真ん中の山を突っ切っていってしまう。

祐麒は意識していなかったが、関所破りと称される祐麒の行為にひとりの上級生が追いかけてくる。
体格の差か、はたまた上級生だからか、程なく捕まってしまった祐麒は、その上級生から関所破りについて脅され、源氏か平氏かを選ぶことを迫られる。
関所破りは重罪だの、選べなければお仕置きだのとのたまう上級生にかちんと来た祐麒は、その上級生が所属していない方という回答をする。

結果的に、それは無所属であることを選択することになり、入学早々、祐麒は無所属のつらさを味わうことになる。』

いやー、もうこの話、まったくもって潤いがないねぇ。

まぁ、舞台が男子校なんだから仕方がないとは言え、唯一の潤いが祐麒の姉で、「マリみて」の主人公祐巳ちゃんだけというのはちょっと……。

それはさておき、ストーリーは関所破りをしてしまった祐麒に無所属を決定づけた原因であり生徒会長でもある柏木優との出会いから、生徒会に関わっていくことになる祐麒の受難を描いた作品と言ったところだろうか。
それに、花寺学院高校伝統の源氏(体育会系)と平氏(文系)と言った厳格な派閥、烏帽子親と烏帽子子という「マリみて」の姉妹制度に似たシステムを絡めて話は進んでいく。

何故か生徒会に呼び出されて、生徒会役員である上級生と勝負することになったり、ひょんなことから友達ができたり、中学時代の祐麒のエピソードがあったりと、話そのものは程よくネタをちりばめつつ、けっこうテンポよく流れていく。
私みたいに読むのが速いほうの人間からすれば、一時間半もあれば一冊読み終わってしまうくらいで、そういうところは「マリみて」に通じるところがあるかな。
まぁ、「マリみて」も本書もページ数はさほど多くないし、この著者の作品は「マリみて」以外読んだことないので、これがこの人の特徴なのか、単に両方学園コメディとしての軽さを意識してであるのかはわかんないけど。

ただ、潤い云々を別にして、学園コメディとして見た場合、「マリみて」よりもおもしろみがない。
と言うか、姉弟編としてどうしても比べてしまうんだよねぇ。
それを除けば、学園コメディとしてのおもしろさはあるし、「マリみて」同様、軽く読むには適した作品ではないかと思われる。
「マリみて」は百合要素があるので、読み手を選ぶところがあったけど、こっちは薔薇要素がないのでむしろ手に取りやすいのかもしれない。

個人的には「マリみて」の大ファンなので、それに見劣りする本書は落第と言いたいところではあるけれど、客観的にはいい部分もあるし、取っつきやすさで言えばこちらのほうが上。
さすがに良品と言うまでには至らないけれど、総評としては及第点をあげてもいいと思う。

それにしても……。
結局2011年は「マリみて」が出なかった……。
「マリみて」のファンとしては本書の続きよりも、「マリみて」の続きのほうが気になってしょうがないってのに、なんか著者は書く気がないのか、祐巳ちゃんたちが三年生になった最初の「リトルホラーズ」以降、外伝二冊出たっきりだしなぁ。
まぁ、祐巳ちゃんと祥子でやり尽くした感はあるだろうけど、祐巳ちゃんたちの卒業まで書いてくれ、今野緒雪。
そこまで出たら満足するからさー。
(実はこっちが本音だったりして(笑))


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いちおうラノベかな

2012-02-25 15:17:48 | 小説全般
さて、雑誌のダ・ヴィンチって読んだことないんだけどの第987回は、

タイトル:吉野北高校図書委員会
著者:山本渚
出版社:メディアファクトリー MF文庫ダ・ヴィンチ(初版:'08)

であります。

MF文庫と言うとラノベの印象なんだけど、あとにダ・ヴィンチとつくとどこに分類していいやら迷いました。
本書に限って言うならラノベっぽいのですが、内容は恋愛小説っぽい(あくまで「っぽい」)ものなので、「小説全般」に分類。

で、ストーリーはと言うと、

『徳島県徳島市の吉野北高校に通う川本かずらは、校舎とは別館になっている図書室に滑り込んだ。
今日は自らが所属する図書委員の臨時委員会があるからだ。
委員会までには時間があるけれど、もうすでに委員長の岸本一――通称ワンちゃんに、同じクラスの藤枝高広、後輩の上森あゆみが来ていた。

かずらは、他の委員が揃うのを待つ間、いつものメンバーと雑談しながら他の委員を待つ間、かわいい後輩のあゆみのほんとうにかわいい姿に感じ入ったりしていた。
けれど、そこには少々複雑な気持ちも混ざっていた。

同じ図書委員で気の合う男友達でもある武市大地とあゆみは付き合っているのだった。
「どうせ大学に行くときに別れるのならば彼女なんて作らない」――そんなふうに言っていた大地があゆみと付き合っていることを告げられたときはびっくりした。
……したけど、大地の説明を聞いて腑に落ちた気がしたけれど、その実、かなり動揺していた。

大地とは気が合って、本の趣味や価値観、考え方が似ていて、ちょっと特別な男友達だった。
でも大地とあゆみがうまくいって欲しいと言う気持ちもまた本音だった。

そんなかずらに、藤枝は「かずらは大地のことが好きなんだろう」と言ってくる。
けれど、かずらは大地への気持ちは恋愛感情ではないと答える。あゆみのような強い感情ではないからだ。

それに納得したように引き下がった藤枝は、かずらのことが好きだった。
一年生のとき、ほとんど不登校だった藤枝はワンちゃんと知り合い、その縁で図書室に顔を出したとき、ちょうどワックスがけをする日で、かずらに半強制的に手伝わされたことがきっかけで、図書室に入り浸るようになり、二年生になったときに図書委員にもなった。

居心地のいい場所をくれたかずらを好きな藤枝は、大地への気持ちに蓋をしてしまうようなかずらの態度にもどかしさを感じていた。
その反面、自分の気持ちを知って欲しいと言う欲望もあり、またそれを知ったときのかずらの態度が容易に想像できてしまうがために好きだと言うことができてないでいた。

そんな中、大地があゆみと別れると言いだし――それは大地の考えすぎの単なる誤解だったのだが、その顛末を聞いたかずらの態度に、藤枝はとうとう……』

う~ん、数回程度じゃ要約の感覚を取り戻すのはまだまだってとこだなぁ。

それはさておき。
本書の第一印象は、「まぁ、かわいらしいお話だこと」ってな具合でしょうか。(もちろん、いい意味ではない)
ストーリーは図書委員をやっている高校生たちの恋愛を絡めた感情の機微を描いた作品、と言ったところで、第3回ダ・ヴィンチ文学賞編集長特別賞を受賞した表題作に、あゆみを主人公にした書き下ろし「あおぞら」の中編2作が収録されている。

とにかくキャラ全部がいい子ちゃんすぎて、リアリティに欠けている。
山本文緒の「恋愛中毒」みたいにドロドロしたのとは真逆で、嫉妬や独占欲と言った高校生であろうと持っていて当然な感情の表現というものがほとんど、ない。
あえてそれに該当すると言えば藤枝だろうが、このキャラもそこまで強い印象を与えるものではなく、リアリティのなさを補うまでにはいってない。

と言うか、かわいくてかずらに「素敵女子」と評されるあゆみを筆頭に、メインで登場する図書委員のキャラが全員「いるかよ、こんなヤツ」ってな具合。

ストーリーの構成は、かずら視点から藤枝視点へ移行しながらストーリーを展開する表題作と、あゆみ視点の書き下ろしだが、ともに奇を衒うような展開もなく、いい子ちゃんたちのいい子ちゃんな感情の起伏を日常の中で表現しているだけで、これと言った盛り上がりがあるわけではなく、至って平板にストーリーは進んでいく。
まぁ、ごくありふれた日常を描いていくのは難しく、それを描けている点は評価できるが、いかんせんキャラがこれじゃぁねぇ……。

その割にはAmazonのレビューの評価っていいんだよなぁ。
さわやか、とか、切ない、とか――すんませんが、いったいどこからそういう評価が出たのか教えてもらいたいです。
(単に私がひねくれているだけだろ、と言うツッコミはなしの方向で(笑))

と言うわけで、総評としていいところがあまりにも少ないので、落第にせざるを得ないだろうなぁ。



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これが……

2012-02-24 23:00:40 | ファンタジー(異世界)
さて、ほんとうは別のを借りたかったんだけどの第986回は、

タイトル:パンツァーポリス1935
著者:川上稔
出版社:メディアワークス 電撃文庫('97)

であります。

ほんとうは「GENESISシリーズ 境界線上のホライズン」が本屋で平積みされていたり、アニメになっていたりしていたので、こちらを読みたかったんだけど、あいにく図書館の予約が入っていたので断念。
そこでならばデビュー作なんかを、というわけで本書です。

ストーリーは、

『1920年のドイツ……ドイツで最も有名な冒険家であるフーバー・タールシュトラーセを乗せた有人宇宙船は、打ち上げの成功とは一転、予定の衛星軌道に乗らず、宇宙へ飛び出そうとしていた。
衛星軌道を周回するしか機能がない宇宙船で重力圏外へ行くと言うことは死とイコールであった。
それを知った技師であり、宇宙船を設計したパウルは、親友であるフーバーとの交信を行うが、フーバーはパウルに最期の言葉を残し、パウルはフーバーを追って宇宙へ行くことを決意する。

15年後……。
1935年のドイツのとある上空では、ドイツ空軍の飛行空母ブラドリックブルクの甲板でふたりの男が対峙していた。
ひとりは青年で、もうひとりは空母の指揮官である軍人だった。

青年ヴァルターと指揮官であるオスカーは軍で開発された機体dp-XXXを巡って意見を戦わせていたが、dp-XXXで宇宙へ行きたいと主張するヴァルターと、dp-XXXを危険視するオスカーとではいくら話を続けても平行線をたどるだけだった。
交渉は決裂し、オスカーはヴァルターを始末しようとするが、そこへdp-XXXが迫ってくる。
dp-XXX、ヴァルターがカイザーブルクと呼ぶ機体は、空母から出撃した機体を撃破し、ヴァルターを乗せてベルリンへと飛び去っていった。

一方、ドイツでも五指に入る武器商の娘であるエルゼは、広大な自宅の森の中で馬を歩かせながら父親と口論になっていた。
そのとき、森の中から煙が出ていることに気付き、そこへ向かうと兵器の使用で故障したカイザーブルクを修理するために降り立ったヴァルターとパウルに出会う。

ふたりのカイザーブルクで宇宙へ行くと言う夢に興味を覚えたエルゼは、カイザーブルクの性能や機体を見聞きしたり、修理のための協力をしたり、はたまたカイザーブルクにヴァルターとパウルのふたりを追ってきた軍との戦闘になし崩し的に巻き込まれたりするうちに、宇宙へ行くことに惹かれていく。』

読み終わったあと、真っ先に思ったのが、キャラもストーリーもオチも薄っぺら~い話だな、と言うこと。
巻初のカラーイラストにある人物紹介に簡単なキャラ説明がある。
ヴァルターは「傲岸不遜、この世に恐れるものないって感じの青年」とあって、そのとおり。
……と言うか、それ以外に語りようがないほどにそれだけのキャラで人間味の微片もない。

パウルは頑固者とあるが、いわゆる職人気質的な頑固者のステロタイプなキャラだし、エルゼに至ってはなぜふたりに協力し、なぜ宇宙へ行くことを決意したのかと言った重要な部分がすっぽり抜け落ちていて、キャラが立っていない。

ストーリーも特に目立った特徴もなく、盛り上がりにも欠け、割合平板に進んでいく。
まぁ、ヴァルターのフルネームとか、成長していくカイザーブルクの過程とか、空中戦とか、人によっては読みどころはあるのかもしれないけど、正直「それで?」って感じでおもしろいとは全く感じなかった。

まぁ、設定だけはしっかりしているようで、カラーイラストの最後に年表があったり、精霊の力を結晶化したものを動力とする精霊式駆動機関と言った概念、実在の地名や歴史(第一次世界大戦とか)を使いながらもパラレルワールドとしての世界観を構築と言ったところとかは評価していい部分であろうか。
表紙裏の「変形成長する飛行戦闘艦。光剣で斬りむすぶ空中戦と、数多くのアイディアを盛り込んで」って煽り文句、単に設定のことしか言ってないか? って気がしてきた……。

しかし、これが第3回電撃ゲーム小説大賞<金賞>受賞作ってんだからなぁ。
まぁ、まだ3回目だし、いまみたいに秀逸な作品が多数応募されるような時代じゃなかったのかもしれないけど、それにしてもこれが金賞ってのはなぁ……。
私が審査員だったら金賞どころか最終選考にすら選ばないぞ、きっと。

と言うわけで、ラノベ点を考慮するまでもなく、落第決定。
もっとも、最初がこれでもいろいろ書いていれば「境界線上のホライズン」みたいに人気が出て、アニメにもなる作品が出てくるんだから、書き続けていくのも大事なことなんだぁねぇ……。


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こういうのが好きなのかな?

2012-02-19 13:18:54 | 伝奇小説
さて、第985回は、

タイトル:沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ一
著者:夢枕獏
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'11)

であります。

この人の作品を読むのは「陰陽師」以来だなぁ。
と言うか、「陰陽師」以外、まったく知らないんだけど(笑)

さて、ストーリーは、

『密教を学ぶために遣唐使船で唐へ渡った空海、そして同じ船で儒学を学ぶために唐へと渡ってきた橘逸勢(たちばなのはやなり)。
目的地とは遠く離れた地方で足止めを食いながらも、何とか唐の副帝都である洛陽にたどり着いた空海一行。

爛熟期にある唐の副帝都で道士の技に、大唐帝国の懐の深さを垣間見、長安への道すがらちょっとした怪異を鎮めたりしながら旅を続け、長安へと入ることができた。

その頃、長安では劉雲樵(りゅううんしょう)という役人の家に猫の妖物が取り憑き、妻の春琴を寝取っただけでなく、様々な予言をして的中させたりしていた。
中でも徳宗皇帝の死まで予言し、的中させてもいた。

また同時期、驪山(りざん)の麓、除文強の綿畑では夜になるとどこからともなく声が聞こえると言う怪異が起きていた。
その声もまた皇太子である李誦(りしょう)が病に倒れることを予言し、これまたそのとおりになっていた。

長安に入った空海は、それらの怪異を聞きつけ、興味を覚える。
実際に劉雲樵の屋敷に出向いて猫の妖物と問答をしたり、逸勢とともに行った妓楼で情報を集めたりしながら空海は唐で起きている怪異に深く関わっていくこととなる。』

……どう見ても空海と逸勢の関係が「陰陽師」の晴明と博雅の関係とダブってしまう。
まさかこういう関係しか書けないわけではないだろうから、単に似てしまったと言うだけだろうけど、「陰陽師」を読んでいてこれを読むとちょっと引いてしまう。

初手から「なんだかなぁ」と言う気持ちにさせられる先制攻撃はさておき……。
全四巻の第一巻ということで、ストーリーは序盤。
空海一行が地方で足止めを食らっているところを空海が解決して旅が再開できたり、怪異を調査したりする空海側のエピソードと、長安や驪山で起きる唐での怪異を巡るエピソードなどを絡めてストーリーは進んでいく。

19年という年月をかけて書かれた作品だけあって、よく調べたよなぁと言う印象が強い。
歴史だけでなく、漢詩や密教のこと、当時すでに長安に入っていたキリスト教やゾロアスター教にまで言及しているところは素直に感心できる。

……で、肝心のストーリーのおもしろさはと言うと……。

微妙……。

まぁ、まだ序盤だからこれからの展開が気にならないわけではないけれど、でも続きが読みたい! と思わせるような勢いは乏しい。
Amazonの評価はけっこういいので、歴史ものや伝奇小説好きの人には一見の価値があるかもしれないけど、そうでない人にとってはおもしろみに欠ける作品かもしれない。
巻ノ一も読んだので、一応巻ノ二も読んでいる途中ではあるけど、個人的にあまり食指が動かない。
まぁ、たとえば図書館で予約していた本が借りれる状況になったら、そっちを先に読んで後回しでもいいや、くらいにしか感じていないわけで……(^^;
(実際、予約が入っていないことをいいことに貸出期間延長したりしたもんなぁ……)

文章も相変わらず簡潔……と言えば聞こえはいいけど、軽くて深みはない。
まぁ、これは「陰陽師」のときから変わらないので、この人の文体として許容してしまえばいいんだろうけど、ちょっとくらい文章にも気を配ってほしいとは思う。
もっとも文章に拘ってしまうのは私の悪い癖なので、あまり気にしないでもいいかも(^^;

……と、なんかとりとめもなく書いてしまったけど、総評としては可もなく不可もなくと言ったところで、まぁ、及第と言ったところかなぁ。
夢枕獏のファンや歴史ものとかが好きな人にとっては、空海という珍しい素材を扱った伝奇小説と言うことでおもしろく読めるかもしれないのでね。


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完全な新シリーズ……だけど

2012-02-18 15:41:58 | 小説全般
さて、あ、茅田さん続いたなの第984回は、

タイトル:祝もものき事務所
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C.NOVELS(初版:'10)

であります。

「デルフィニア戦記シリーズ」「スカーレット・ウィザードシリーズ」のキャラと世界観を長らく引っ張ってきた茅田さんですが、中央公論新社からの新刊ではようやくの新シリーズです。(後は角川スニーカーの「レディ・ガンナーシリーズ」、再販の「桐原家の人々シリーズ」くらいしかありません)
舞台は日本、ジャンルは……何なんでしょうね(^^;
分類するのがとても難しい作品です。

そのストーリーは、

『椿江利は、弁護士の雉名に紹介された事務所を訪れていた。
所長の百乃喜太朗(もものき たろう)と秘書の花祥院凰華(かしょういん おうか)のふたりだけの事務所で、探偵でもない何やらよくわからない事務所だった。
だが、江利はここに一縷の望みを託して来ていた。
弟の無実を証明してもらうために。

しかし、それは難しい注文だった。
弟である黄瀬隆は殺人の罪で捕まっており、なおかつアリバイはない、凶器はある、目撃者もいる、ついでに(強要されたと隆は言うが)自白供述調書にまでサインしている。
普通の弁護士なら無実を主張するのは到底無理、減刑を焦点に裁判で争うのが賢明と考えるしかないほどの状況であった。

もともとは警察職員で、探偵でもない百乃喜は、ついでに親の遺産で食っていけるだけの財産があることもあってか、仕事に対してやる気は皆無、刑事ですらなかったため調査能力なども皆無、弱気で根性すらもなしというダメ人間。
面倒くさい仕事と断ろうと思っていたのだが、秘書の凰華に押し切られる形で江利の依頼を受けることになった。

だが、何の能力もないダメ人間の百乃喜には何から取り掛かっていいのかすらわからない。
そこで江利に百乃喜を紹介した弁護士の雉名を始め、幼馴染の舞台役者の芳猿、女顔だけどそこそこ名の知れた格闘家の犬槇、ハッカーの才能のある鬼光に協力を依頼する。
一方の百乃喜は、凰華の最大の武器である人脈をもとに、黄瀬隆が勤めていた会社の社員から隆と被害者との関係について聞き込みをする。

聞き込みである程度の事情を知った百乃喜は、寄りたいところがあるという凰華と別れ、ひとり事務所へ帰ろうとしたのだが……。
ここでも百乃喜のダメっぷりが発揮される。
百乃喜は、重度の方向音痴だったのだ。

だが、それこそが百乃喜のはた迷惑ではあるが重要な特殊能力(?)でもあった。
方向音痴を遺憾なく発揮してたどり着いた場所は、西多摩郡嶽井町。辛うじて東京都内にある田舎町だが、この場所とそこに住む人々と江利たち姉弟にとって浅からぬ縁があった。
百乃喜の特殊能力を身をもって知っている雉名たち幼馴染は、嶽井町という地名を手がかりに、隆の無実を証明するために動き出す。』

犬も歩けば棒にあたる。
百乃喜が歩けば手がかり、または証拠に当たる。

そういう小説です。(どういう小説やねん!(笑))

それはさておき、一見覆りそうにない有罪確定の被告を無罪にするために奔走する「凰華や雉名たちのお話」と言ったところでしょうか。
百乃喜ははっきり言って活躍しません。
手がかりや証拠に「偶然」ぶち当たってしまうという特殊能力(?)を除けば、本当に役立たずなのでこいつが本当に主人公なのかと疑ってしまいたくなるくらいです(笑)
実際、出番は弁護士の雉名のほうが多いので、こっちのほうが主人公なんじゃないのかというくらいです。

ストーリーは江利の依頼を発端とする古い因習に囚われた人々とそれを打破しようとする江利たちのお話の部分、隆の無実を証明するための部分のふたつに分けられるでしょう。
それらが絡み合ってストーリーが進むわけですが……。

正直、説明がだらだら続くのに辟易しました。
まぁ、無実を証明するための調査なのですから、何がどうなっているのかの説明は必要不可欠なのですが、新たに判明した事実を説明していくのをただ単に積み上げていって、ストーリーが完結してしまった、という印象が強い。
事件はすでに起きているものなので、新たに発生するわけでもなく、そのため盛り上がりに欠けるし、地道な事実の積み重ねなので派手さもないし、著者自身あとがきで書いているとおり、地味~に話が流れていきます。

非常識を書かせたら天下一品の茅田さんなので、そういった部分は相変わらずおもしろく読ませてもらいましたが、逆に言えばそういう部分以外に見るべきところがなかったり……。
茅田さんのファンならば、らしい作品とは言えるので買いでしょうが、客観的にオススメできるかどうかと言えば疑問。

と言うわけで、総評としては及第と言ったところが妥当かな。


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要注意

2012-02-12 19:00:56 | ファンタジー(異世界)
さて、この人も久しぶりだなぁの第983回は、

タイトル:暁の天使たちシリーズ(全6巻、外伝2巻)
出版社:中央公論新社(初版:’02~)
著者:茅田砂胡

であります。

茅田さんといえば、何も考えずに単純におもしろいという作品を書いてくれる作家さんではあるけれど、さて、これはどうかなぁ?

ともあれ、ストーリーは、

『8歳になるデイジー・ローズは、お気に入りの薔薇園にある天使像の前で、銀色の天使と出会った。
驚きのあまり、声も出せないデイジー・ローズに今度は金色の天使が声をかけてくる。

金色の天使の名はリィ。デイジー・ローズの一番上の兄であったが、容姿はまったく似ていなかった。
突然の出来事に、逃げるように家に戻ったデイジー・ローズは、リィが銀色の天使を伴って訪れたことを家族に伝える。
ちょうどお茶の時間でもあった家では、リィとともに訪れた銀色の天使……シェラ・ファロットとともにお茶の時間を楽しむことにする。

さておき、あまり家に寄り付かないリィがなぜシェラを伴って訪れたのか。
それは「失われた惑星(ロスト・プラネット)」から来たというシェラの後見人に、リィの血の繋がった父であるヴァレンタイン卿になってもらいたいというためだった。
それはシェラがリィとともにティラ・ボーン……通称連邦大学の中等部に入学するためだった。

ヴァレンタイン卿はそのことを快諾し、ふたりはリィの相棒であるルーファス・ラヴィーとともに連邦大学へ無事入学することができた。
だが、穏やかな学校生活を望むふたりとは裏腹にリィの身体に異変が起きる……』

まず、断っておきますが、「デルフィニア戦記シリーズ」や「スカーレット・ウィザードシリーズ」が好きで、すでにこれらの作品が完結したものとして考えている人にはこのシリーズはお薦めできません。
あとがきにも同様の趣旨のことで苦情が来たことが書いてあります。

で、あらすじにも書いた3人、リィ、シェラ、ルーファスは「デルフィニア戦記シリーズ」に出てきたリィ、シェラ、ルウのあの3人です。
「デルフィニア戦記シリーズ」では19歳になっていたリィと、同い年のシェラですが、この世界(「スカーレット・ウィザードシリーズの世界」)では、10日しか経っていないため、ふたりともに13歳に戻って連邦大学に入学することになります。

また、3巻の「海賊王の帰還」では「スカーレット・ウィザードシリーズ」のケリー、4巻の「二人の眠り姫」では同じくジャスミンが復活します。

実はこの作品、出版された当時、買ってはみたのですが、使い慣れたキャラと世界観をくっつけて別の話を書いているだけ、ということであまりに安易なやり方に読むのを断念したことがあったのですが、いやはや人間年をとると丸くなると言うかなんというか……(笑)
いまでは違和感なく、それなりに楽しく読めました(笑)

で、肝心のストーリーはというと、一応6巻で完結しています。
リィとシェラの学校生活やケリーとジャスミンの復活劇、過去にリィに起きた出来事に端を発するルウの暴走とそれを止めるために動き出すリィとシェラ(とその他(笑))といった流れで6巻は進みます。
この6冊だけ見れば、相変わらず何も考えずに楽しく読める作品には違いないのですが、外伝と銘打たれた2冊が曲者。
外伝とは名ばかりの続きといっていいくらいの短中編集で、この後のシリーズ「クラッシュ・ブレイズ」への繋ぎといっても過言ではないでしょう。
さすがにこれには呆れました。

まぁ、そういうことやキャラと世界観の安易な使い回しを気にしなければ、単純に楽しめる作品ではあるので、そういう人にはお薦めできるシリーズではありましょう。
逆に気にする人にはまったく向かないシリーズとは言えます。

おもしろさでいえば茅田さんらしいキャラとストーリーで楽しめるのですが、読み手を選ぶという意味では手放しでお薦めできる作品ではありません。
個人的には「スカーレット・ウィザードシリーズ」のケリーとジャスミンの非常識夫婦が活躍するところが楽しくて好きなのですが、万人向けでないとことでさすがに良品とまでは言えません。

というわけで、総評としては及第。
特に前作品群を読んでいる方はよくよく考えて手に取ることをお薦めします。



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とりあえず

2012-02-11 14:47:56 | ファンタジー(異世界)
さて、もうすぐ1000回なので頑張ってみようの第982回は、

タイトル:輪環の魔導師 闇語りのアルカイン
著者:渡瀬草一郎
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:'07)

であります。

いやぁ、お久しぶりです。

何年ぶりの更新でしょうねぇ。
最後の記事が2008年だからすでに3年半以上経ってるんですねぇ……。
(思いっきりサボってたな、ってツッコミはなしの方向で(ぇ))

まぁ、ともかくも1000回も近いことですし、ぼちぼち更新していきたいと思います。

さて、再開の最初は「空ノ鐘の響く惑星で」の渡瀬草一郎の次回作です。
ストーリーは、

『辺境の地、ミストハウンドの領主オルドバに仕える薬師見習いのセロは、森の奥の泉で沐浴をするオルドバの養女フィリアーノ、通称フィノの警護(?)をしていた。
14歳のセロと16歳のフィノ。薬師見習いと貴族の娘という立場の違いはあれど、幼馴染みで気心の知れたふたりは……というより、フィノはセロを過剰なまでに溺愛していた。

その辺の事情はさておき、沐浴を終えたフィノたちの前に森で野苺を摘んでいて迷子になったマリルと出会い、フィノは一足先に屋敷に戻ることになった。
セロは薬草を取りながら帰るということで別行動をする。

屋敷に戻ったフィノは、魔導師でもあるオルドバの協力をするという目的で訪れた王立魔導騎士団のハルムバックたちと出会う。

魔導具というものを介して誰もが魔法を操れる世界。
魔導具職人であった祖父を持つセロは、しかし魔導具を操ることも作ることもできなかった。その代わり、なぜか魔導具を使うと壊してしまうという厄介な体質だった。
そのこともあって薬師を目指すこととなったセロは、さりとてそれを悲観してもいなかった。

屋敷に戻ったセロは、フィノの屋敷のある敷地にある自宅でフィノが寝ているのを嘆息していると、主であるオルドバがハルムバックを伴って自宅を訪れた。
祖父ゼルドナートが遺した魔導具を見せてもらいたいというハルムバックに訝しみながらも遺品を取り出すと、ハルムバックは用途の知れない黒い塊の魔導具を貸してほしいという。
違和感を覚えたセロはそれを拒否し、ハルムバックもそれ以上無理強いはしなかった。

その夜、夜にしか採れない薬草を求めて森の中へ入っていったセロは、突然ある少女に命を狙われてしまう。
そこへハルムバックが現れ、祖父のゼルドナートが高名な魔導師である魔人ファンダールの知己であり、それに関して何か知らないかと問うてくる。そしてセロが少女……”魔族”に狙われる理由もそこにあるという。
まったく心当たりのないセロはそのことをハルムバックに告げるが……。

本当に何も知らないことを悟ったハルムバックは、突如豹変し、セロを逃げながら辿り着いた崖下に突き落とす。
まず助からない高さから落ちたセロは……しかし、生きていた。
セロを助けてくれたのはなんと喋る黒猫。
黒猫は、自身を魔人ファンダールの弟子であり、アルカイン・ダークフィールド・ロムネリウスと名乗った。

アルカインの出会いと、ハルムバックたちの思惑が、セロの今後の人生を大きく揺るがすこととなる。』

えー、まず世界観だけど、前作「空鐘」がSF要素を含んだファンタジーだったのに対し、こちらは一般的に認識されているファンタジーの世界観を若干アレンジしたもので、世界観を想像するのは容易だと思う。
いわゆる魔法使いは魔導師だし、魔法は魔導具。
魔道具は誰にでも使えるけど、才能の差があるのでやっぱり魔導師と一般人の区別はある。

魔族という存在は人外の生命体ではなく、あくまで人間が根本であるというところが「魔族」という名称から受ける印象とは異なるものの、奇を衒う部分はないから設定の妙味というものに欠けるけど、安心感はある。

「空鐘」と違って今回は続きを意識したものとはいえ、1巻完結でもあるし、物語の緩急もついていて好感が持てる。
キャラもセロやフィノの性格や関係性といったものや、アルカインと魔族との関係を通して明確になっているし、それぞれ個性があって、キャラも立っている。

文章的な面も「空鐘」同様、過不足なく読みやすい印象で及第点。
ただ「空鐘」1巻を読んだときと同様、勢いに欠けるので続きを読もう! という気になかなかさせられないのが残念なところ。

まぁ、世界観の平凡さはあれど、キャラ、ストーリーともにきちんと読ませてくれる作品ではあるので、悪い面よりいい面のほうが多いのは事実。
個人的におもしろかったかと言われれば、とりたててオススメ! って感じではないけれど、さりとて落第になるほど悪い面もない。

手に取って損はないとは思うので、良品未満及第以上、といったところかなぁ。
ラノベ点を考慮しても、ぎりぎり良品に手が届かない、といったところなので、総評としては及第、かな。


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