さるみみ屋

夫サボさん、私さるみみと2000年生まれ長男コナンくん
2004年産次男エナリくんとの「人生楽ありゃ苦もあるさ」日記。

「海と毒薬」読了

2015-08-06 15:30:07 | さるみみ文庫2015
これも長い間手を出せずにいた作品の一つ。
遠藤周作といえば、国語の教科書に載っていた「白い風船」が思い出される。
あの主人公「凡太」そのままなのがうちのエナリだと思うんだけど、
そうしたユーモアのある、和やかな作品とは正反対の重苦しい話だった。

戦争中の米軍捕虜生体解剖実験事件という実話がベースにあるわけだけど
登場人物や背景設定はまったく実際の事件の当事者とは関係ないという。
それでもこの本を読んだ後に、事件がどういう結末(実験をした医師らの処罰について)を
たどったのかを確認せずにはいられなかった。

戦争医学への貢献のために人を殺すことは正しいことなのか
そこに対して良心の呵責を覚えない戸田と勝呂の対比というのもがわかりやすく書かれていて
戦争の中にあって、毎日空襲で人が死ぬか、ここ(病院)で死ぬのか(結核患者が多かったので)
人が死んでいくのが普通の状態の中で、人の心が麻痺していくのも仕方がないのか、
そういう時世であっても、人の良心や命への思いは決して変化してはいけないのではないか。
そういうところを問われている、非常に重たい作品だった。

決して医師という立場に限らず考えさせられるテーマではあったけど
医学部志望者にはきちんと読んでおいてほしいと思う1冊だったわね。

プロローグの乾いた風景がまたこの作品の入り口に絶妙な明かりを灯しちゃってる感じで
この作品は10年位前に読んでおくべきだったと思わせられたし
やっぱ遠藤周作はすごいな~と改めて思わせられた。

古い作品は時代背景が全然違ってて(獅子文六のとか)まるで昔の映画見てるみたいというか
ファンタジーとかみたいな雰囲気を感じるものもあるんだけど、
こういう古い作品なんだけど、人の根底に流れるものを問う作品というのは
やっぱり自分自身がちゃんと向き合いながら読まないと現代の作品に比べても
本当に直球で鋭く迫ってくるので、読んだ後に何も残らなかったり、うわべだけしか受け取れなくなって
(今回だったら「ああ、生体解剖怖かった~」とかね)しまうので注意が必要だわね。

サボさんにもぜひ読んでもらってこのテーマについて話をしたいと思う今日この頃。
さて、次もまた待ってるよ~たくさんの本が!