妙宣寺から国分寺に向かう道中の左手に「寿宝山太運寺(たいうんじ)」というのがある。昭和の評論家亀井勝一郎は、「苔むした石段の下から眺めたかやぶきの山門は、佐渡で私の見た諸寺の門の中で最も端正であった。背景の杉の大樹と実によく調和している。時代はそう古くはあるまいが、小さいながら清楚で、引き締まっていて、東山時代の高淡さえしのばれる。そういう山門を作ろうと思って作ったのではなく、ただ何気なく出来上がったという趣がいいのである」と、彼が佐渡を訪れた際にまとめたエッセイの中でその印象をこのように記している。含蓄のある、それでいてこの寺の特徴を端的に捉えた名文である。亀井ならずとも、誰もがこの山門の前に佇めば、思わず古の昔に立ち返ったような感動を覚えるであろう。
確かにグリーンの苔に、グレーのかやぶきは配色の観点からもぴったりであり、苔むした参道が軽く湾曲しながら、上方へと広がる様は、遠近法の原則に忠実に設計され、視覚効果を最大限に利用した造りになっている。山門の両脇に配置された赤い服をお召しの三体づつのお地蔵さんが、これまたいいアクセントになっている。春の日の雨上がりの午前中に訪ねたのだが、このお寺にはこの時間帯がよく似合うと思った。確かに勝一郎の言うように、私も、佐渡の寺社の山門の中では、この寺が一番コンパクトで可愛いと思えた。
画像はEOS-1DXで撮影しました。
山門
山門脇にある
お地蔵さん
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