惣領冬美の描くボルジア漫画が出たというので買ってきました。1巻2巻同時発売。分厚いですが、まだ序編の序編という感じで、この先何十巻も続いてゆきそうです。
なんでも、ボルジア伝の中で最も定評のある「サチェルドーテ版」というのを元にマンガ化したというのですが、、、 不勉強な私はそんな名前の本、聞いたことないですぞ。
「日本では知られていない本が原作」とは言っても、チェーザレ・ボルジアやミケ嬢に突拍子の無い性格付けがなされているわけではなく、前に読んだサガンの『ボルジア家の黄金の血』と比べても、極めて手堅く描いてあるものを読ませてもらった、そんな実感がしました。
一巻目は学生時代のチェーザレの話。
主人公アンジェロとチェーザレたちの学んだ大学は、フィレンツェ共和国の勢力圏にあるピサの町にありまして、その大学では生徒たちの出身地ごとに「学生団」ができていて、害のない対立を繰り広げている、そんな話。
で、学生時代から若いチェーザレがかっこよく活躍するのはいいんだけど、ここのチェーザレは頭の良いちょいワルタイプのいい人を演じていて、ちょいと物足りない。なんだかウマの話でこの巻は終始してしまった。さらに物足りないのは登場人物の少なさ。この時代のイタリアはスーパースター揃いで最高に楽しい時代だと思うのですが、この巻ではスペイン団の頭領のチェーザレとフィオレンティーナ(フィレンツェ)団の子トップのジョヴァンニ・ディ・メディチのいざこざが主であって、父ロドリーゴ(後に“教会史上最悪のローマ法王”と呼ばれる事となるアレッサンドロ6世)や大ロレンツォがちょっとしか出てこない。
サガンの話とは違って、ミケ嬢は仮面なんかかぶっておらず、ちょっと冷酷な優等生を演じてる。黒髪です。また、サガンの話とは違って、父ロドリーゴはチェーザレがまだ幼い頃から、息子の行く末に大きな期待を寄せている。サガンの方が展開がドラマティックだったので、それと比べてしまって、波乱の部分が少なくつまらないなーとちょっとだけ感じます。
一方で、この巻では父ロドリーゴの幼い頃の肖像画が飾ってありました。ちょっと目を見開いてしまった。塩野七生の『神の代理人』の中の「教皇アレッサンドロとサヴォナローラ」の話で、このロドリーゴ・ボルジアという人のかっこよさに惚れてしまっている私は、これまで何度もこの人の若い頃の絵を描こうとしているのです。ロドリーゴ・ボルジア、のちのアレッサンドロ6世は「次の法王」として辣腕を振るい始めた60歳前後の頃から歴史に姿を現すのですが、もっともっと若くてパワーに満ち溢れた頃はそれはそれはうっとりするような行動力の人だったに違いない。そのようなことを感じさせる人なのです。
惣領版 私が、はるか前に描いたヤツ
やっぱりスペイン人ってのは、黒髪だとはいっても、髪に強く巻きが入っていて、サラサラヘアーな人はいないんですね。ミケちゃんも。私の絵は誤りなんです。ちぇー
二巻になって、ボルジア家の最大のライヴァル、ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ枢機卿登場。待ってましたッ。この人も後に“闘う法王”と呼ばれた教皇ユリウス2世となる傑物なんですが、ロドリーゴの生存中は常にボルジア家によってやり込められていた人であるのだ。
この巻で、そのロドリーゴ・ボルジア枢機卿とジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ枢機卿が激しく口論をするシーンがあるのですが、その場面がまんま「動物のお医者さんの漆原教授とその昔の学友の口論」を思い起こさせて笑えた。どちらも大人げがないのだ。見た目はいかめしいのに。
こんな顔です。
しかし、のちのユリウス2世をこんなにイヤな男に描いてしまっていいんでしょうか? 最初に出てきた「ちょっとお間抜けな青年アンジェロ」って、ミケランジェロのことなんでしょ? ミケランジェロとユリウス2世って、のちに重要な結びつきを持つことになるんでしょう? また、この漫画のプロローグは「今から2000年前、古代ローマ帝国の礎を築いた英雄カエサルの名をご存じの方は多いだろう。だが、歴史上にもう一人のカエサルがいたことを、いったいどれだけの人が知っているのだろうか?」という重々しい語り口で始まるのですが、それを言ったら法王ユリウス2世だって、ユリウス・カエサルから名前をもらっているのだから、この漫画は多分「カエサル(チェーザレ)vsカエサル(ジュリアーノ)」の対立の物語として物語が展開するはずなんだ。(ローヴェレ枢機卿の顔を見ればカエサルを模していることが分かります)。そしてそれを言ったらアレッサンドロ6世だってアレクサンドロス大王であるわけで、つまるところ、この三者のうちだれが主人公アンジェロ(天使)を掴めるか、それで天下を取るか、そういう話になっていくんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか。
…ま、ここでのユリウス2世がいくらいやらしい漆原教授そっくりだとはいっても、カンタレラでのユリウス2世に較べれば遥かにマシです。
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