くらげのごとく…

好きなことを考えてふわふわ漂ってるような
時間が心地良かったりする。
たとえ時間の無駄遣いだったとしても…。

木の上の軍隊

2013年04月21日 | 藤原竜也



初日は急用で行かれなかったが、どうしても早く見たくて先週サイドシート席を買い足した。舞台上にそびえるガジュマルの木が圧巻だ。締め殺しの木と呼ばれる大木に身を隠す、上官と新兵。上官は本土、新兵は沖縄の象徴。

私が物心ついた頃、まだ沖縄は外国で通貨もドルだった。沖縄返還のニュースが記憶の彼方にある。ジャングルに身をひそめていた兵隊さんも実際にいた。小野田さんとか横井さんとかが見つけ出された時の敬礼姿が印象に残っている。上野近辺には手足がない元日本兵が座っていた。鳴り響く軍歌と白い包帯姿が衝撃的で直視できなかった。戦後を色濃く引きずっていた昭和40年代…、そんなことをぼんやり思い出した。

夏が来るたびに、「沖縄行きたいね~」なんてみんなが言う。あのきれいな海と太陽の元で思い切りバカンスを過ごしたい。そんな憧れの観光地沖縄には犠牲の歴史があった。国は沖縄を生贄にした。

「その背中を見ていると、何でそうゆうことをするのかねぇ、出来るのかねぇとへんな気持ちがこみ上げてきます。」
上官の背中に新兵は語りかける。

二人は2年間も木の上で一緒に過ごしているのに理解しあえず溝を深めていく。沖縄の矛盾の歴史が浮き彫りになっていく。戦争が終わっても目の前の基地はどんどん大きくなり、空にはオスプレイが飛び交っている。沖縄は現在も矛盾をかかえたままなのだ。

井上ひさし原案だけど、これは若い作家による新作だ。戦争を知らない世代が現代の視点で書き上げた脚本が新鮮だ。演者も演出も井上ひさしという旗印の元、新たな物を生みだした。この作品に井上ひさしの幻影を追う必要はない。挑戦でもない。敢えていうなら深いところで精神が繋がっているのかなって感じた。だから、もちろん再演を重ねていくことも出来るだろうし、また違った作家が書くことだって出来るだろう。

濃密な2時間、台詞の一つ一つが重なり合い、絡み合う。3人のバランスがとてもいい。ビオラの響き、波の音、爆音…そして変わらないガジュマルの木。木から下りられない二人の行き場のない魂が課題を突きつける。「憎みながら信じる」なんて苦しくて悲し過ぎる。

無垢な新兵の竜也くん、台詞を丁寧に聞かせてくれる。台詞を大事にすることは井上さんからもらったものだもね。静かな竜也くんはある意味、また新境地な感じもした。今年の竜也くんはとにかく面白い。藁の盾では凶悪犯、ドラマでは引きこもり、詐欺師もあれば父親で医者もある。そして次の舞台は「ムサシ」の再再演だって。あら~、滝の白糸、期待していたけど外れたわ~。それにしても井上作品が続くなあ。今度の小次郎は溝端淳平くん。興味本位で野島伸司脚本のウサギがでて来る、彼の主演舞台を観に行ったことがある。いやあ、びっくりするほど上手かった。膨大な台詞量をこなし、ちょっと竜也チックなところもありで意外性があった。もともと舞台もやりたかったんだね。淳平くんとならいい作品になりそうな気がする。竜也くんも若手を引き上げる中堅どころになってきた。月日が流れるのは早いもんだ。