長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

在りし日の名曲アルバム  鬼束ちひろ『 SINGLES 2000-2003』

2015年07月25日 22時57分26秒 | すきなひとたち
鬼束ちひろ『 SINGLES 2000-2003』(2005年9月7日リリース 東芝EMI )

74分15秒(CD)+26分(初回盤DVD)

 『 SINGLES 2000-2003』は、鬼束ちひろ(当時24歳)の2ndベストアルバム。
 初回限定生産盤のみ、2003年8月に行われたライブ『 UNPLUGGED SHOW '03』の模様を一部収録した DVDが付属する。初回盤と通常盤ではジャケットの配色が違う。
 すでに所属を離れた東芝EMI からリリースされた2枚目のベストアルバム。前作『 the ultimate collection 』と同様に、鬼束本人は作品には全く関与していない。そのため、鬼束の公式サイトのディスコグラフィーにおいても本作は記載されておらず、非公式扱いとなっている。アルバム初収録となる『いい日旅立ち・西へ』を含む全シングル曲に加え、アルバム『インソムニア』収録曲『 We can go 』の別バージョン『 We can go summer radio mix 』や、アルバム『Sugar High』初回限定生産盤のボーナスCD として発表されていた『 Castle・imitation(オリジナルバージョン)』、松任谷由実のトリビュートコンピレーションアルバム『 Queen's Fellow yuming 30th anniversary cover album 』で鬼束がカヴァーした『守ってあげたい』なども収録されている。
 オリコンウィークリーチャートで最高7位を記録した。

収録曲
全作詞・作曲 …… 鬼束 ちひろ
プロデュース …… 羽毛田 丈史(『シャイン』編曲は土屋望、『 Cage 』編曲は土屋望と羽毛田丈史の共同)

1、『シャイン』(2000年2月 1stシングル)
 ※シングルバージョンのアルバム収録は初である。
2、『月光』(2000年8月 2ndシングル)
3、『 Cage 』(2000年12月 3rdシングル)
4、『眩暈』(2001年2月 4thシングル)
5、『 edge 』(2001年2月 4thシングル 両 A面)
6、『 infection 』(2001年9月 5thシングル)
7、『 LITTLE BEAT RIFLE 』(2001年9月 5thシングル 両 A面)
 ※シングルバージョンのアルバム収録は初である。
8、『流星群』(2002年2月 6thシングル)
9、『 Sign 』(2003年5月 7thシングル)
10、『 Beautiful Fighter 』(2003年8月 8thシングル)
 ※アルバム初収録。
11、『いい日旅立ち・西へ』(2003年10月 9thシングル)
 ※アルバム初収録。
12、『私とワルツを』(2003年11月 10thシングル)
13、『 We can go summer radio mix 』(2001年3月)
 ※1stアルバム『インソムニア』収録曲『 We can go 』のラジオオンエア限定バージョン。アルバム初収録。
14、『 Castle・imitation(オリジナルバージョン)』(2002年12月 3rdアルバム『 Sugar High 』初回限定生産盤特典ディスク)
15、『守ってあげたい』(2002年12月 トリビュートアルバム『 Queen's Fellows 』収録曲)
 ※松任谷由実の17thシングル『守ってあげたい』(1981年6月)のカヴァー。

初回限定生産盤特典DVD『 UNPLUGGED SHOW at The Symphony Hall 2003.8.5 OSAKA 』
 2003年8月29日に朝日放送で放送された番組『 The Symphony Hall Sound Renaissance Vol.1 鬼束ちひろ』から、ライブ映像のみを抜粋して収録している。
1、『嵐ヶ丘』(2003年8月 8thシングル『 Beautiful Fighter 』カップリング曲)
2、『眩暈』
3、『 infection 』
4、『 CROW 』(2002年3月 2ndアルバム『 This Armor 』収録曲)
5、『 Beautiful Fighter 』


 な、なんで昨年に1st ベストアルバムがリリースされたばっかなのに、またベストを出すのか……なぜベストを出し尽くすんだ、上田!

 何も知らない消費者の側から見れば、なんとも売り手の苦心惨憺というか、「やむやまれず……」みたいな裏事情が透けて見えるような手なのですが、なまじクオリティが保障されているので困っちゃうんですよね。完全な二番煎じだったら気楽にスルーできるのですが、前作のベストアルバムとは、ちょっと趣向が違うんですよね。

 前作『 the ultimate collection 』と同様に「本人不在」という、普通じゃないけど音楽業界ではよくありそうな事情でリリースされた今作なのですが、前作はおそらくプロデュースの羽毛田さんによる「鬼束さんにそうあってほしかった音楽スタイル」を再構築した選曲になっていたかと思うのですが、今作はタイトルの示す通り、ただ粛々とシングルの A面曲を集成したという内容になっています。そして、それだと両 A面曲を含めても12曲だけになってしまうので、今まで通常盤のアルバムに収録されることのなかった3曲と、初回限定盤にライブの模様をおさめた DVDをつけるという、「東芝EMI 時代の鬼束さん総ざらえ」ともいうべきラインナップとなっているのです。なんか、春陽堂文庫で乱歩生誕100周年を迎えた1993、4年ごろにごろごろ刊行された『江川蘭子』とか『五階の窓』とかの合作探偵小説群を思い起こさせるような、「売れるもんならなんでも売る」という商魂を感じさせますね。東芝EMI さんにとっては、鬼束さんとこれでほんとのオサラバ、というわけなのでしょうか。

 ただ、シングル曲を集めましたっちゅうのは、これまた昨年に『シングルBOX 』というそのまんまの形で一度やってますからね……ま、再発売して並べただけじゃなくて、1枚のCD にまとめたという点では、ありがたいのか? う~ん。

 そんな感じなので、この記事で扱うべき内容は、シングル曲以外のボーナストラック的な3曲と、初回限定版の2003年8月のライブ映像ということになりますね。ちょっとそこらへんに触れますか。

 まず、聴けば元気になる初期の名曲『 We can go』の「summer radio mix 」というバージョンなのですが、これはタイトルの通り、ラジオ放送のために編集されたバージョンとのことで、サビ部分を冒頭に持ってきたりして約40秒ほど短くなっているものの、曲調は全く同じものとなっています。この曲は鬼束さんの1st アルバム『インソムニア』の目玉曲にもなっていたようですので、ラジオで聴取者の耳をキャッチするためにも、ダイレクトに鬼束さんの声を届ける構成になっています。じっくり前奏を流して始まるオリジナルバージョンもいいのですが、鬼束さんのパワーが伝わってくるこっちのバージョンもいいですよね。羽毛田さんの世界を優先するならオリジナル、鬼束さんの声を優先するなら summer radio mixというわけです。プロデューサーと歌い手さんの立場の違いが際立つのがおもしろいですね。

 次の『 Castle・imitation』のオリジナルバージョンなのですが、3rd アルバム『 Sugar High』の初回限定盤ディスクに収録されていたバージョンが今作でやっと通常盤に入りました。やっぱこれ、当初は普通にシングル曲としてリリースする予定だったのでしょうか。これは、いつもの羽毛田さんらしくピアノと弦楽器がメインになっていたおとなしいアルバムバージョンと違って、いかにも RPGゲームのテーマソングらしいフルバンド演奏を従えた壮大なバージョンとなっています。こちらもまた、サビ部分の鬼束さんによる「生きて」の連呼が非常にパワフルなので、それに耐えうる音の厚みを持ったオリジナルバージョンの方がふさわしいような気がしますね。やっぱ、羽毛田ワールドならアルバムバージョン、鬼束さんの声ならオリジナルなんだなぁ。ここでも、羽毛田さんのプロデュース力の、ただ一つ一つ作品を作るだけではない、一貫したコンセプトを持った計画性がうかがえます。まぁ、もう青い鳥は飛んでっちゃったんだけどね!

 最後の収録曲の『守ってあげたい』は言うまでもなくユーミンへのトリビュート曲なのですが、編曲は羽毛田さんなので、他の曲とまるで遜色のない「鬼束さん&羽毛田プロデュース」作品に仕上がっています。2002年の曲ですが、翌年の『いい日旅立ち・西へ』を予見させる、「何を唄っても鬼束さんの世界になる」強固な個性を証明するものになっていますね。
 それにしても、歌詞は他人の約20年前のものだったとしても、ここで「守ってあげたい あなたを苦しめるすべてのことから」と唄っている鬼束さんが、同じ月(2002年12月)にリリースされた自分のアルバムで「 I`m not your God」って唄ってるんですから、もはや笑ってしまう他ありませんね。どっちやねん! じゃなくて、どっちも同じ鬼束さん!! 多面的であればこそ、それが人というものなのです。頼みごとは、その人の機嫌を見てお願いしましょう。

 本作の初回限定版のライブ映像 DVDなのですが、常に猫背、左肩をやや上げて左手と五本の指をテルミン奏者か操り人形師のようにひらひらブンブン上下させながら熱唱する鬼束さんのお姿が堪能できる5曲となっております。私としましては、1st と2nd どちらのベストアルバムにも採用されなかった名曲『嵐ヶ丘』が拾われているのがうれしかったです。隊長、大阪ザ・シンフォニーホールに怪獣出現!!

 その内容でも充分に満足なのですが、この映像が、例の鬼束さんの声帯結節手術のほんとの直前(2003年8月)に収録されていることも史料的に非常に貴重だと思います。そう言われれば確かに、鬼束さんの声が全体的に低めで部分的にかすれが入る様子も見受けられるのですが、これもプロになった鬼束さんの生の「味」といいますか、曲のクオリティを下げる要素に全然なっていないのに、うなってしまいます。でも、あれはご本人としては違和感がありありで、だいぶ不自由だったのでしょう。

 やっぱね、超一流の歌手のライブって、多少音源版と唄い方が違っていたりトチったりすると逆にレアでうれしかったりするって聞くんですけど、鬼束さんの声の多少のかすれも、そういう世界の才能であることの証拠なのではないでしょうか。ライブの時点で、若干22歳……恐ろしいほどの早熟さ!!


 こんな感じで、2005年の鬼束さんのリリース状況は、ベスト盤で過去の東芝EMI 時代の遺物をおがむという、いちおう商品として成立してはいつつも、実に寂しい結果に終わってしまいます。これでいいわけねぇじゃねぇかよう、これほどのお人が!!

 新しい、今を生きている鬼束さんの声が、新作が聴きたい!

 しかし、ご本人が『育つ雑草』という一発大噴火を経て休眠に入ってのち、ふたたび重い重い天の岩戸を開けてお出ましになられたのは、実にその「2年後」のことなのでありました……

 女神さま~、帰ってきてくだせぇ! アマテラスさま、鬼子母神さま、カーリー神さま!!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする