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フォクスル再び〜空母「ミッドウェイ」博物館(おまけ 「スレッシャー」沈没事故)

2019-11-23 | 軍艦

 

一度ミッドウェイ博物館のフォクスルなる区画について説明していますが、
もう一度、前回よりマシな写真をご紹介させていただくことにします。

フォクスル(FOCS'LE )は船首楼のことで、立派な日本語があるため
この言葉を日本人がそのまま使うことはまずありません。

船首楼、文字通り船首にある区画のことで、大型の船は「ミッドウェイ」のように
アンカー関係の装具が備えてあり、帆船時代は船員の居住区になっている部分です。

「forecastle」=前方のお城

が元々のこの部分を指す名称ですが、なんでも短縮する海の上では、
これを縮めて「フォクスル」(英語だとフォクソー的な)と称するわけです。

これは、右舷側を後方から歩いてきて、フォクスルのある区画にきた時、
最初に目にするプレートで、「ミッドウェイ」現役の頃から設置されていました。

「艦首楼 関係者以外の立ち入りを禁ず」

として、

「錨と係留具(Mooring )が放出されている時には厳守せよ
エクササイズは2000から0600までの間のみ許可される
その際部署および部隊は大尉に必ず使用許可を得ること」

となっています。

ここでいう「エクササイズ」というのが文字通りこの場所を使った
体力錬成のことなのか、不思議だったのでちょっと検索してみると、

Sergeant William Schultz, engineer squad leader with 2nd Combat Engineer Battalion, Battalion Landing Team 3/8, 26th Marine Expeditionary Unit, performs exercises during a cardio class in the ships foc'sle while in the U.S. Navy 5th Fleet Area of Responsibility, Oct. 1, 2010. 26th MEU is currently embarked aboard the ships of Kearsarge Amphibious Ready Group operating in the U.S. Navy 5th Fleet Area of Responsibility.

出てくるわ出てくるわこの手の写真が。
これはキアサージュに乗り組んでいる海兵隊のエクササイズ風景ですが、
全天候型で広いフォクスルは昔から運動に利用されてきたんですね。

皆が同じ艦首方向を見ながら体を動かしているようですが、
やはり感覚的に皆そうしてしまうのかなと思いました。

さて、冒頭のフォクスルの写真は、展示用にペイントされたキャプスタンに
周りに展示物を配した現在の「ミッドウェイ」博物館の様子で、
とても現役当時の現場の雰囲気ではないと思いますが、それでは
実際の錨の揚げ降ろしはどんなふうに行われていたのでしょうか。

Aircraft Carrier Anchor Drop – Forecastle Anchor Room

これはやはり空母の錨揚げ降ろしシーンなので、ほぼこんな感じだったと思われます。
土煙のようなものが上がり、(巻き上げられていた錨鎖に付いていた海底の泥か)
火花が上がるのも見えます。
引き揚げのときには比較的周りに人が近づいて作業を見守っていますが、
投げ下ろしのときには距離を置いて離れて見ているらしいのがわかります。

フォクスルのある部分は艦首の突き出た部分なので、下階がなく、
下は海で、その床には、錨鎖を海面に落とすための穴が空いています。

人一人ならすっぽりと抜け落ちる(鎖があるので簡単ではないですが)
大きさなので、展示のためにアクリルガラスで覆われています。

ここからかつて投げ落とされた鎖は、「ミッドウェイ」が日本勤務中の
約18年間というもの、その錨で横須賀の海に彼女を係留していたと考えると、
我々日本人にはなかなか感慨深いものがあります。

最後にここから錨鎖が落とされたのは、2004年のことです。
それまで係留されていたブレマートン海軍基地から自力ではなく、
曳航されてやってきて、サンディエゴの海に錨を打ち、それから
半年後には博物館としてオープンしてしまったそうです。

最初から、博物館として完成するのは10年後、としながらも、
とりあえずオープンさせて、それから色々とやっていく(資金集めとか)
というイージーゴーイングなやり方は、アメリカならではで、
軍事遺産に対して官民共にその保存に協力的であることを表しています。

オープンした当初は、ほとんど現役のままの姿をしていて、
公開される場所も非常に限定的であったということですから、おそらく
フォクスルが一般人に見せられる状態になったのも随分後のことでしょう。

ここは艦首右舷部分で、繋留する為の舫のリールと投げ落とす為の穴が、
ハッチを開けた状態で下を覗き込むことができるようになっています。

舫を出す穴の横にはそれを確認する為の舷窓と、その下部にも窓があります。

かつてこの窓の外にあったのは横須賀の港でした。
今はその向こうにサンディエゴの海軍基地を臨みます。

写真を撮っていたら向こうからやってきた漁船には、数え切れないほどのカモメが
おこぼれをもらうために、周りを取り囲んでいるのが見えました。

この写真は、フォクスルに最初に足を踏み入れたときに現れる部分です。
今わたしが立っているのは艦首で、艦尾側を見るとこのようになっているわけです。

艦首側を見ながら後ろに向かって進んでいくと、こんな通路が現れます。
ドアのない通路には、保護のため分厚い補強がされているのにご注目。

この部分には、かつてここで使われていた装具がこのように展示されています。

「デタッチャブル・リンクス」(取り外し可能な連結器)

としてここにある説明をそのまま翻訳しておきます。

船の錨に繋がれている錨鎖の長さは「ショット」と呼ばれる道具で連結されます。
標準的なショットは「15ファソムズ(90フィート)」の長さです。

海軍で使われている連結具のタイプはここにある「Cシェイプリンク」を
二つの連結プレートで挟み込むようにして使われるものです。

「テーパード・ピン」で各部を固定し、「リードプラグ」で固定します。

知っていたからどうなるというわけではありませんが、
連結するときにこれを手作業で行うというのがすごいですね。

最初にサンドレットを投げて岸壁に細いもやいを渡すと、それを引っ張るうちに
細い舫には艦体を岸壁の舫杭と結ぶための太い舫が繋がってきますが、
「ミッドウェイ」ほどの艦体の大きな船にもなると、こんな太いものになります。

今ふと思ったのですが、今のところ全く一般に公開されていない
「いずも」「かが」などのフォクスル、艦首楼部分にもやはり、
「ミッドウェイ」とほぼ変わらないようなシステムが設置されているのでしょうか。

ところで、これ、何かに似ていると思ったら、あれですよあれ。
ケバブに入れるお肉を焼く、なんていうの?あのスタンド。
ぐるぐる回して肉を削ぎ取って・・・。

特別な垂直の串に肉をどんどん積み重ねて塊を作り、
あぶり焼きにしてから外側を削ぎ落としていくという仕組みで、
昔は珍しかったのですが、
最近では日本にもトルコ人が結構いるのか、
どこの夜店にも
一つはケバブスタンドが見られるようになりました。

横須賀の年越しでも見たし、富山のスキー場のランタン祭り会場にさえも(笑)

これは壁に直接描かれた絵です。

1963年4月10日に起こった原子力潜水艦「スレッシャー」の乗員全員を悼み、
当時の「ミッドウェイ」乗員の手によって制作された「メモリアル」で、
ここが改装された後にも手をつけず、上部をアクリルで保護して残しています。

先日映画「原子力潜水艦浮上せず」をご紹介したばかりなので、
この映画でテーマになっていた当時最新鋭のDSRV誕生のきっかけになった
この痛ましい潜水艦沈没事故についてちょっとお話ししておきます。


事故当時の艦長は、ノーチラス号の北極点通過航海にも参加した経験も持つ
ベテラン海軍軍人である
ハーヴェイ少佐でした。

事故直前、海中救助船スカイラーク(USS Skylark, ASR-20)は、
マサチューセッツ州コッド岬付近でスレッシャーからの通信を受けました。

「・・・小さな問題が発生、上昇角をとり、ブローを試みる」

スカイラークはその後、隔壁が壊れる不吉な音を聞き取りました。
乗組員と軍及び民間の技術者、合計129名全員の命が失われた瞬間でした。

その後、バチスカーフトリエステ、海洋調査船ミザール (USNS Mizar, AGOR-11)
および他の艦船を使用して行われた大規模な水中探索の結果、スレッシャーの残骸は
2,560mの深海で大きく6つの部分に分かれて発見されました。

「スレッシャー」急激に沈没した時の状況がwikiにありました。

機関室への浸水により原子炉が停止した

→緊急浮上を試みた

→ジュール=トムソン効果により
バラストタンクの弁が氷で詰まってしまい排水不能に陥る

→浮上できず機体は艦尾を下にして沈没していった

という経過がGIFで表されています。

「スレッシャー」は急激に沈没する過程、おそらく海深400~600mの間で
艦のコンパートメントが内側に向かって潰れ、全乗員はほぼ即死、
どんなに長くとも1~2秒以内には死亡したと考えられています。

わずかに慰めがあるとすれば、「小さな問題」から全員の死亡まで
あっという間で、全員が恐怖を感じる時間が短かったということでしょうか。

前回には気づかなかったものに目が行くこともあります。
これらはここの住人が使っていたらしいツールで、下は

「Turnbuckle Wrenches」(回転レンチ)

これはなんとなくわかりますが、上は

「Rousting Hook」

ラウスティングというのは人を寝床から追い出すという意味ですが、
起きてこない水兵をベッドから追い立てるための・・・まさかね。

 

続く。






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5 Comments

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錨甲板 (Unknown)
2019-11-23 17:25:50
>「錨と係留具(Mooring)が放出されている時には厳守せよ。エクササイズは2000から0600までの間のみ許可される。その際部署および部隊は大尉に必ず使用許可を得ること」

ここの「大尉」は英文では「Assistant First Lieutenant」とあるので「甲板士官補佐」になります。米軍におけるFirst Lieutenantは副長補佐で、自衛隊だと3尉の若手をつけますが、米軍は副長前のベテランをつけ、各科長の所掌ではない、艦内全般の業務を仕切ります。

>これはやはり空母の錨揚げ降ろしシーンなので、ほぼこんな感じだったと思われます。土煙のようなものが上がり(巻き上げられていた錨鎖に付いていた海底の泥か)火花が上がるのも見えます。

抜錨時、錨鎖は海底の泥を水洗いしながら、錨鎖庫(この動画だと巻き上げ機の向こう側)に格納されます。航海中はそのままなので、錆が付きます。そのため、投錨の際には、錨鎖に付いた錆が粉になって飛び散りますが、それが土煙のように見えます。

>投げ下ろしのときには距離を置いて離れて見ているらしいのがわかります。

かなりな勢いで落ちるので、巻き込まれないように離れて見守ります。巻き込まれたら、最低でも足はなくなる。錨に巻き込まれるので、恐らく命を落とすと思います。

>「いずも」「かが」などのフォクスル、艦首楼部分にもやはり「ミッドウェイ」とほぼ変わらないようなシステムが設置されているのでしょうか。

ほぼ同じです。自衛隊では錨甲板と言ってます。
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ケンターシャックル (お節介船屋)
2019-11-24 10:31:21
「デタッチャブル・リンクス」は日本ではケンターシャックルと呼ばれ、構造も鎖環の中央で分解し、両端に連結する普通鎖環を組み込み、中間にスタッドを入れ、組み合わせ本体とスタッドの間にピンを差し込む構造でちょっと違います。
普通錨鎖は25mでアメリカの90ftと微妙に違います。また錨鎖の繰り出し長さを視認するためこの部分に着色します。
アンカーを連結用シャックルで吊りその次がアンカーシャックル、短鎖、連結シャックル、拡大鎖環、スイブル、拡大鎖環、普通鎖環、ケンターシャックル、普通鎖環と続きます。主錨鎖を通常は12連繋ぎ、最後は錨鎖庫に設置されたケーブルクレンチと呼ばれる錨鎖係止金物にケンターシャックル、錨鎖庫短鎖、エンドシャックルで繋ぎ留めます。

動画で揚錨しているシーンがありますがホースで海水を射出してドロを流していませんので錨鎖の艦首からの出入り口をホースパイプと言いますがこの中間部分に海水散水装置を組み込んでいるのではと思います。

普通錨鎖は12連と言いましたが右と左で連数を変えたりしています。「いずも」もようにバウソナーがありこのドームを傷つけないよう右アンカーを艦首先端に配置しバウアンカーとしている艦はこちらが常用となりますので連数を多くしていると思います。

主錨、主錨鎖は船の大きさ、風圧面積の多少、把駐力等を勘案して決められますが錨鎖径が太くなれば扱いにくくなりますので強度を上げて、太さを細くし、重量軽減も図っています。

なお参照本の「いずも」写真で、揚錨機も錨鎖車の上に係留索用の巻胴もあり、係船機や索用ドラムも数多く配置されています。また索を繋ぎ止めるボラードやビットも多く配置されています。「ミッドウェー」は見学のため相当の艤装品を撤去したのではと思います。
ホースポイプのアクリル板は見学のためであり、止め金具は実装備の物を使用していますが揚錨作業の無い時は必ず格子状の塞ぎ板を取り付けて安全対策が取られています。

主錨係止金物や錨鎖係止金物の配置等アメリカと海自の違いがありますがどうも「ミッドウェー」は見学のために撤去されたのか簡便に見えます。係留索用ドラムは写真のような立型ドラムは海自にはないと言っても良いと思います。索が写真のように均一と巻き取ることは通常作業では困難でしょう。

参照海人社「世界の艦船」No894、岡田幸和著「艦艇工学入門」
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皆さま (エリス中尉)
2019-11-28 16:04:03
unknownさん
Assistant First Lieutenant=甲板士官補佐First Lieutenant=副長補佐
ですね。覚えました。

>錆
あの土埃みたいなのは錆ですか!
ここで働く人はマスクをしていないと肺に疾患を起こしそうですね。
珪肺よりタチが悪そう・・。

>いずもとかが
就役中はまず日本では見せてもらえないだろうなあ・・。
かといって護衛艦が展示艦になることなど将来的になさそうだし、
一般人には見る機会は永遠に訪れないのか・・・・。

お節介船屋さん
>ケンターシャックル、kenter shackleですね。
シャックルはそのものが金属の連結具という意味があるそうですが、
ケンターって何なんでしょうか。
調べたらどうも「ケンター式」という意味で付されているようなので、
固有名詞(企業名?)かなとも思いました。

>「ミッドウェー」は見学のため相当の艤装品を撤去したのでは
なるほど、その可能性は大いにありますね。
考えたこともなかったのでちょっと眼から鱗です。
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ケンターシャックル (お節介船屋)
2019-11-29 09:44:12
スペルはそのとうりです。
語源は分りません。済みません。
堤元海将補の「桜と錨の気ままなプログ」に詳しく説明がありますので添付します。
上手く添付出来ない事が多々ありますのでその場合は上記プログにアクセスして錨と錨鎖の話(5)を開いてください。

http://www.navgunschl.sblo.jp/article/48971294.html
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錨甲板 (Unknown)
2019-11-29 10:53:53
以前「かが」の体験航海(修理地回航)レポがあったと思います。中尉はえらいさん(招待者)枠で行かれたと思いますが、後援会とか内輪枠(笑)で、CPOあたりに知り合いがいれば「錨甲板を見たいんですけど」とお願いすれば見せてくれると思います。
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