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パシフィックコースト航空博物館~デルタダートとサンダーチーフ

2014-08-11 | 航空機

昨日、テレビのHDチャンネルをつけていたら、

「ウルヴァリン SAMURAI」

が始まりました。
今年の公開で日本が舞台であるため劇場に見に行った映画ですが、
導入部は、ウルヴァリンが1945年の長崎に生きていた当時、
陸軍の青年将校であったヤシダを身を挺して原爆の爆風から守る、
というものです。

そのことから息子に長崎に投下された原爆の話をしているとき、
ふと、その日が8月9日であることに気がつきました。

この日この放映を見た人のうち、どれくらいがそれに気づいたか
わかりませんが、そういうことを意図して企画した「中のアメリカ人」
もいるのだなあと、小さなことですがなぜか少し安心しました。 


さて、先日訪れたサンタローザのパシフィックコースト博物館見学記、
続きと参ります。
 

Convair F-106 Delta Dart


1950年初頭、空軍がコンベア社に開発を依頼した要撃機は

計画が遅れ、1954年の期限までに納入される見込みはないということから、
空軍は同社から暫定的な要撃機を導入することにしました。
それが

F−102A デルタダガー

といいますが、これが最終的にF-106 デルタ・ダート
と命名されました。

空軍のこの機体への要求性能は 

最大速度マッハ2以上、
上昇限度2万1300m以上、
戦闘行動半径378nm以上

というたいへん厳しいものでした。

しかし最初のプロトタイプはたいへん残念なパフォーマンスで、
速度はマッハ1.9、上昇限度1万7370m

しかもマッハ1を超えてから最高速度にたどりつくのに
4分30秒もかかることが判明したのです。
これではとても要撃機の役目を果たすことはできません。

というわけで、その後継続的なエアインテークの開発を重ねたのち、
完成した277機の単座、63機の複座の機体が空軍に調達されました。



少しこの写真では分かり難いですが、翼の前縁には

コニカル・キャンパー

といわれるわずかな垂れ下がりがつけられています。
これは迎え角の大きいときに飛行機の失速を防ぐ仕組みです。

このコニカル・キャンパーを大きくした高揚力装置を
スラット(英語ではslats)といいます。

スラットといえば、ここスタンフォードにはコメント欄で少しだけ話題にした
Linear Accelerator研究所がありましたね。



わざわざ写真を出してきてまでボケてみる。
それスラット違うスラックや。
しかしボケついでに少し余談をしておきます。

この入り口の表示には

NATIONAL ACCELERATOR LAVORATORY

OPARATED BY STANFORD UNIVERCITY FOR THE
U.S. DEPARTMENT OF ENERGY

とあります。
SLACというのは

Stanford Linear Accelerator Center

という最初の名称の略なのですが、名称が変わった今も
最初のこの略称が使われているそうです。

で、雷蔵さんのコメント後、あらためて気がついたのですが、
何と、いつも使っていた高速道路の出口付近には何カ所にも

「SLACは次の出口」
「SLACは次を左」「SLACは→」

というような案内が緑に白地の表示(大学や野球場など、
人がたくさん集まるようなところの案内)でされていたんですよ。



今まで何回もそこを通ってきているのに、SLACを意識したとたん
今まで全く見えてなかったそれが急に見えてきたんですね。


これは認識と知覚のメカニズムについての面白い実験結果です。
人はいかに自分の関心事以外には認知する働きを停止しているか、
ということを表わしているのではないかと思った次第です。

そこで俄然我田引水です。

A−6とEA−6Bの機種判定が問題になったとき、

パンフ等で展示機の(せめても)機名・型式名を
確認してきてくれさえすれば、毎年繰り返されずに済む
喜劇もとい悲劇(^^)ではなかろうか」


と「うろうろするあれあれさん」に言われてしまったわけですが、
わたし、どちらもちゃんとやっているつもりなんですよ。

ただ、現地にいるときにはだいたい時間が限られているので、
とにかく確認より何より写真を的確に分かりやすい順番で撮ることだけ
心がけ、照合は後で写真を見て行う、ということにしているのです。

まあ、「うろうろするあれあれさん」のおっしゃるとおり、

現物を見る時点で機種がわかっていれば避けられる間違いなんですが、
案外いい加減な現地のパンフやHPに判定を惑わされてしまうと、
間違いを認識するのに大変困難を要するということなんですね。



と、こじつけの余談でいいわけをするエリス中尉でしたが次に参ります。

先が尖っているので赤いカバー(のようなもの)
を付けたノーズは、地上管制システムとデータリンクするための仕組み。
ドローンの先が親の敵のように尖っていたのと同じような理由です。



なぜ「デルタ」「ダート」なのか、上から見ると分かりやすいですね。
これはどう見てもダーツです(笑)
ちなみに、当機を改良後、さらに戦術航法装置などを書き換えるなどの
手直し作戦を

「ダートボード作戦」

と言ったそうです。
こういう作戦の名前には中の人が楽しんでつけたような
シャレの効いたものが時々ありますね。 


胴体の真ん中にくびれがあるのがお分かりですか。
これを

「エリア・ルール」

といい、音速を超えて飛ぶ飛行機の抵抗を軽減する仕組みです。
ちょうど翼があるところで断面積が急増することによって空気の抵抗が生まれるため、
これを緩和するのが目的です。

そしてコクピットの風防をご覧下さい。
完璧に三角です。



横から見ると窓が三角形。
しかしこれは・・・もしかしたらコクピットに座ったら

正面が見られないのではないだろうか。

三角形のフレームがちょうど前にあるわけですから。
いやー、現地では全く不思議に思わなかったけど、こうして見ると
実に不可思議な構造の風防ですね。
座席に座ってどんな風に外界が見えるのか、是非「コクピットデー」
には試してみたいものです。アメリカに住んでないと無理ですが。

スプリッターベーンの無数の穴といい、黎明期の超音速機というのは
今にしてみればとんでもない仕様をあれこれと工夫している様子がよくわかります。
技術革新と共に素材の発明でそれらは全て解決されていったわけですが、
こんなところに先人の努力の跡が窺えます。



ARMAMENTとは軍装や装備のことですが、何も描かれていません。
この角を生やした毛むくじゃらの部隊マスコットの装備を
乗員がいろいろと面白がって書く欄だったのではないでしょうか。

ところで、この機体の説明板には、

IN HONOR OF AND REMEMBRANCE OF
Major General Jimmy J. Jumper


と書かれています。
メイジャー・ジェネラルは米陸軍における少将で、海軍では
少将をリア・アドミラルといいます。
ついでに、海軍では上から

アドミラル・オブ・ザ・フリート(元帥)のもとに
アドミラル(大将)
バイス・アドミラル(中将)
リア・アドミラル(少将)

となります。
海自はアドミラルが幕僚長に相当するので元帥のカウンターはありません。
陸軍でも元帥はなく、

ジェネラル(大将)
ルテナン・ジェネラル(中将)

そしてジミー・ジャンパーのメイジャー・ジェネラルとなります。
ジャンパー少将は統合任務功績章を授与された軍人で、
その息子のジミー・ジャンパー少将は現在統合参謀本部のチーフ。

おそらく、とう博物館にも深く関与しているのだと思われます。

当機は、ラングレー空軍基地にあったジャンパー少将の要撃隊、
第405飛行隊に敬意を表しています。




この隣には次に説明するF−105サンダーチーフが置いてあります。
実はデルタダートとサンダーチーフは同じエンジンを積んでいるのですが、
デルタダートの翼面積はサンダーチーフの2倍くらい大きなものです。

にもかかわらず、重量は若干こちらの方が軽かったそうで、従って
格闘能力は当初の予想を上回るほど優秀。
MiG-21 と同じような特性を持ち、ベトナムに派遣されていた
ファントムII
の仮想敵機として訓練に使用されたほどでした。

wikiによると

”F-106 の加速力と低翼面荷重による高空での高い運動性能は
F-4 パイロットをてこずらせたといわれている”

とのことです。



デルタ・ダートは冷戦時代の防衛を目的に生まれ、
20年間その任に当たり、1988年に退役しました。
翌年の1989年、ゴルバチョフとブッシュ両大統領の間で
冷戦終結の宣言が採択されています。

冷戦時代を象徴するような戦闘機と言えましょう。




REPUBLIC F-105 THUNDERCHIEF

先ほどお話ししたようにF−106とは同じエンジンを積んでいますが、
翼の形や全体のシェイプが全く異なります。
見た目は全く戦闘機=ファイターですが、軽爆撃機仕様で
この細い機体に爆弾槽を備えており、

「FとB(爆撃機)を付け間違えたのでは」

という軽口が奉られたりした、マルチロールのさきがけ的存在です。



サンダーチーフ、というのは雷の部隊の大将という意味なので、
いわば雷王ということにでもなりましょうか。
どうもチーフという言葉のイメージが軽い気がする日本ではイマイチの
ネーミングである気がしますが、それはともかく、このサンダーチーフ、
あまりにもニックネームが多いことでも有名です。

Thud 「どさっ」 “雷が轟音を立てて落ちる”(大量の爆弾を投下することから)
Thunderthud  「落雷」(同じ)

Hyper-Hog 地面を掘り返すもの”(“凄い豚(猪)”)
Ultra-Hog (同じ)

Squash Bomber ”握りつぶす(ように爆撃する)爆撃機”
Iron Butterfly ”鉄の蝶”
The Nickel ”5セント硬貨”(機体の平たいこととセンチュリーシリーズの5番目だから)
One-Man Air Force ”一人(で全部やってしまう)空軍”
Triple Threat ”3つの脅威”(戦闘、爆撃、核攻撃をこなす多用途性から)
Republic Iron ”リパブリック社製鉄鋼製品”“リパブリック鉄工所”(頑丈だから)

どれもこれもこの飛行機に対する敬意と驚嘆が含まれているものばかりです。
いかにパイロットたちに評価が高かったのかがわかりますね。




ベトナム戦争に投入されたしょっぱなに、たまたまMiG-17に撃墜されたため、
これはだめかもわからんね、と思われてF−100(マッハ1)に護衛される、
という屈辱的な時期もありましたが、その後その雪辱を果たすという気概に燃え
彼らは果敢にMiG−17に立ち向かい、撃墜記録をあげることに成功しました。 

しかし空戦のときには爆弾を棄てねばならなかったため、
撃墜記録にこだわって爆撃を二の次にしたきらいがないでもありません。

北ベトナム空軍は結果として米軍の空爆を阻止することが出来たわけで、
むしろそれが目的で出撃していたという話もあります。 

先日お話しした陸上自衛隊の広報館には、ヘリや戦車、自走砲
などの装備が展示してあって、これはおそらくどれも動的展示ですが、
歴史的な航空機、特に戦闘機でまだ飛行が可能であるものがあるのは
アメリカならではかもしれません。

このサンダーチーフは、2011年の航空ショーのときに動的展示され、
ワインカントリーの上空にその翼を翻し飛翔しています。



レッドリバーショウボート
レッドリバーバレーなんて曲がありましたね。
キャプテンがテキサス出身なのでしょう。



otter(カワウソ)1とA Mean Bear(意地悪クマー)
かつてこのサンダーチーフに乗ってベトナム戦争を生き抜いた
パイロットたちのタックネームでしょうか。


サンダーチーフは北爆の主力として使用されたD/F型総生産数751機のうち、
385機、つまり半分が戦闘や作戦中のトラブルで失われています。

まさに、ベトナム戦争に殉じた戦闘機といっていいでしょう。



 



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1 Comments

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今週はお盆休みです~ (雷蔵)
2014-08-11 13:16:39
F-106はカッコいいですね。San Diegoの航空宇宙博物館には車輪の替わりにスキーを付け、水上滑走を出来るようにした海軍型?が展示されています。

先端の突起はデータリンクアンテナではなく、対気速力を計測するピトー管だと思います。ゴミが入ると詰まって計測出来ないので、地上ではカバーを付けます。アンテナにはカバーは不要です。

エリス中尉だったら、海軍乙事件はご存知だと思いますが、この時の連合艦隊司令長官搭乗機は、このピトー管のカバーを離陸前に外し忘れて、対気速度が不正確なために燃料不足に陥っています。海軍も米軍のように「Remove Before Flight」をつけておくべきでした。
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