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映画「サブマリン爆撃隊」〜Uボート急襲作戦

2022-05-12 | 映画

第一次世界大戦のアメリカ海軍駆潜艇もの、
「サブマリン・パトロール」後半です。

金持ちの気まぐれで海軍に入ったら、小さな木製の駆潜艇に放り込まれ、
文句を言う間もなく船団護衛の任務に乗り組むことになったペリー。

しかし、衝撃的に恋に落ちた女性が、偶然護衛する補給船の船長の娘でした。
これはもう、頑張っていいところを見せようと張り切ってしまうでしょう。



船団は荒れた海を乗り切り、ようやく外海に出ることができました。

初めて取る船内での食事の席で、駆潜艇乗員たちの会話から、
ペリーは、その愛するスーザンの乗る爆薬輸送船
「マライア・アン」が、潜水艦に攻撃を受けるも難を逃れたと知ります。

すでに船団はUボートの出没する海域に差し掛かっていたのでした。



食事後、ゴミを甲板から廃棄していたコックのスパッズは、
うっかりドラム缶を海に落としてしまいました。



波に漂うドラム缶を見張りの「教授」は潜水艦の潜望鏡と見間違え、
警戒警報を発令したため、たちまち総員配置が命じられます。



機銃、爆雷にも配置し、機関室のペリーも初戦闘に張り切るのですが、
皆初めてのことで緊張し、幾つものミス連発。



すぐにそれは誤認だとわかり、ジェネラルクォーターは解除となりました。



しかし、実はその時Uボートの方は本当に船団を発見していました。



ミスをした教授は皿洗いを命じられましたが、チーフが怖くて降りられず。
狭い見張り台でベテランと一緒にくっつき合ってワッチしていたところ、
汚名返上、今度こそ本物の潜望鏡を発見しました。



たちまち艇内にベルが鳴り渡り、再び総員配置です。
さっきのはリハーサルだったと思えばいいのよね。



停止に前進全速、次々と降りてくる指令に、機関室のペリーもフル回転。
それにしても彼、いつの間に機関室での任務をマスターしたのか。



聴音員に、艇長は潜水艦の機位を探知させました。



どこかでも見たことがあるV字型の爆雷投射機も発射準備完了です。

発射するには、Vの根本にあるスイッチを足で押すと、
V字の先から爆雷が飛んでいくという仕組みです。

日本海軍の装備だと、九四式爆雷投射機がこんな感じです。
Y砲と呼ばれていたものですね。



艇長が右手の紐を引くと、それが「テー」と言う合図のようです。
この頃の駆潜艇独特の仕組みかもしれません。


駆潜艇から雨霰と降ってくる爆雷に、ついにUボートは浸水を始めました。


しばらくして海上に浮いてきた救命胴衣を見て、(キールと書いてある)
艇長は沈没した独潜水艦の掌帆長のものだ、と判断し、すぐに命じます。

「スロウエイトの鐘を」




鐘の鳴り響く中、全員が死者の魂のために敬礼を捧げました。

スロー8はいわゆる「八点鐘」です。
一般的にエイトベルは「ワッチ(当直)の終わり」を意味しますが、
これから転じて、弔いの鐘として船乗りが亡くなった時に鳴らされます。



「八点鐘」(eight bells)という用語は、航海用語の婉曲表現では
「終わり」を意味し、 一般人の死亡記事などで使用されることもあります。



潜水艦発見の功労者である見張りの教授も、マストの上から敬礼。



そしてドレイク中尉にとって、これが艇長となって初めて上げた
文字通りの「金星」となりました。



船団は無事イタリアのブリンディジに到着しました。
イタリア半島をブーツに喩えたとき、ヒールに相当する位置にあります。



アメリカ軍の艦艇が寄港する港で、小さな駆潜艇の乗員は、
戦艦乗りの水兵たちに最初馬鹿にされますが、そんな彼らも
駆潜艇のマストに付けられた星を見ておとなしくなりました。



それはUボート撃沈を表す殊勲の印だからです。



船団と護衛艇に別れてイタリアに到着した恋人たちは、
早速お互いを求めてソワソワと浮き足立ちますが、まず、スーザンは、
こんなところで女は目立つから船の外に出るなと言い渡されてしまいます。



ペリー・タウンゼントの方は自転車を漕いで駆けつけてきますが、



イタリア人の警衛とマカリスターに阻まれて、岸壁で足止めです。



そこでペリーは身の軽い16歳の駆潜艇の水兵、ジョニーを輸送船に潜り込ませ、
彼女を誘い出すための手紙を渡すことに成功しました。



手紙を見た彼女が約束の地元の高級ホテルに行くと、そこには案の定、
ペリーが金に物を言わせ、ホテルの特別室を借りきって待っていました。



当ホテルのホテルマン、ルイジは、かつてニューヨークにいたことがあり、
タウンゼント三世とは旧知の仲でした。

ルイジは二人のために窓の外に楽団まで用意しており、
彼の合図で「サンタ・ルチア」の演奏が始まるという趣向です。



イタリアでのロマンティックな逢瀬にうっとりと酔う恋人たち。

実はペリー、このホテルで彼女と結婚してしまうつもりで、
アメリカ政府を通して領事館の書記官やら市の職員を手配済みです。

しかしスーザンはペリーの性急さにちょっと引き気味。

いくらお付き合いは結婚申込から、と言うこの時代でも
こんなに手回しが良すぎるのも怪しいと誰もが思いますよね。

それに父親の反対が彼女には引っ掛かっているのです。



ペリーにすれば父親は自分を殴った煙たい相手ですし、
娘を自分にやりたくないという気持ちもまあわからないでもないので、
親父抜きでとっとと結婚してしまおうというわけです。

高まる愛のムードにルイジが感極まって泣き出したその時、



どうやってここを知ったのか。
マカリスターと父親のリーズ船長がズカズカと踏み込んできました。


父親は有無をいわせず娘をマカリスターに連れて行かせ、
怒りに任せてペリーをまたもや殴りつけます。

この映画、殴るシーン多すぎ。



二人がうまく行っても、うまく行かなくても泣いてしまう、
泣き虫のルイジにとりあえずお礼を言って、ペリーは
非常召集のかかった艇に戻ることになりました。



艇の舷門では、警備による身体検査が行われます。
外国の港では色々まずいものを持ち込む輩がいるからですね。



チーフはひと睨み、舷門を身体検査なしで顔パスしてしまいますが、



スパッズはズボンの中の酒瓶がバレて、服の上から叩き割られてしまいます。


こちら、「マライア・アン」号のスーザンの部屋では、
リーズ船長がカンカンの娘を一生懸命なだめていました。

スーザンは父の横暴を責め、ペリーを愛していると言って聴きません。



そこに船長を訪ねてきたのは、なんとイタリア海軍の従軍牧師です。

牧師は、アメリカ大使代理がペリーとスーザンの結婚許可証を出したので、
頼まれてホテルに行ったところ、式は中止になっていた、
あなたが反対したせいで結婚式がダメになったと聞いたが本当か、と言い、

「私には知る権利がある。
あなたが娘をどうしてあんな善良な若者と結婚させたくないのか」


アメリカ政府、大使、従軍牧師、というパワーワードに、
案外権威に弱いらしいリーズ船長は最初オタオタしていましたが、
牧師が二人の結婚許可証実物を見せると、顔色が変わりました。

遊び人だと思っていたが、あいつ、もしかして本気なのか・・・?



さて、同時刻、港の駆潜艇599号の甲板では、ドレイク艇長が
本部から打診された秘密の決死作戦について説明していました。

これまで31隻もの同胞の船を撃沈してきたUボート「オールドマン26」が
アドリア海の機雷堰の裏にいると特定されたので叩きに行く。
自分は「個人的な理由で」(懲罰人事だから実績を挙げなければならない)
任務に志願したが、上からは志願兵だけで出撃しろといわれた。

俺と一緒に任務に参加する志望者を募る。

と、こういう話です。



総員が無言で一歩前に踏み出しました。
我らがタウンゼント三世ももちろんその中の一人です。

駆潜艇の出航準備が始まりました。

その時です。
リーズ船長が、結婚許可証についてペリーに真意を糺すためやってきました。


気が立っている上に腹も立っていたペリー、
今更何しに来たんだと問答無用でリーズを殴りつけてしまいます。

なかなかどちらも暴力的な人たちですな。

しかもこの非常時、後甲板の隅に転がっているおっさんに誰も気がつかず、
艇はあっという間に岸壁を離れてしまいました。



リーズ船長がフラフラ立ち上がった時には時すでにお寿司。
いかに小艇といえども作戦に急行する軍艦を止めることはできません。



止めてくれたら泳いで帰る、と言いかけた船長ですが、
ドレイク中尉が「オールドマン26号」を追うと言った途端、
手伝うから連れて行ってくれと言い出すではありませんか。

いや、民間人を軍艦に乗せてはダメだろう。

しかしドレイク中尉は、この際ベテラン船長の腕を借りることにしました。

「ありがとう、キャプテン(船長)」

「ありがとう、キャプテン(艇長)」



機関室に配属?されたリーズ船長に、ペリーは何も言わせず、
彼を新兵としてコキ使い出すのでした。



駆潜艇はいよいよ機雷原に突入しました。
ここから先は船のエンジンを止め、タグボートで駆潜艇を引っ張りながら
機雷を慎重に避けて進んでいきます。

タグボートの船頭に乗り込むのはベテランのチーフです。
船端に立ったチーフは、ボートに乗り移る直前にこう言います。

「艇長、親子二代にお仕えできて良かった」

これは・・・・遺言代わり?




つまりこういう状態で進みます

今やチーフの目は駆潜艇乗員全員の目。

チーフが機雷を見逃したら、その時は全員が爆死です。
もちろんサーチライトも懐中電灯も使えません。



ただオールが波を切る音だけが聞こえます。
耳を押さえている人は、聴音長で、音声を探知しています。



機関室で二人っきりになったスーザンの父と恋人。
父はただ言葉少なに娘のことを褒め、恋人もそれに同意します。



今やこの二人は一緒に死ぬかもしれない運命にあるからです。
最後の瞬間まで父と恋人が喧嘩していたことを知ったら、
彼女はどんなに悲しむか知れません。



チーフが見張るタグボートと駆潜艇の横を、機雷がいくつも流れていきます。
ツノを触らないように手で避けながらじわじわと進んでいくと、



ついに機雷堰の向こうのU26の根拠地に到達しました。
瞬時に総員配置、そののち急襲による攻撃開始です。

ちなみにこの頃はまだナチスが政権をとっていませんから、
潜水艦にはハーケンクロイツではなく鉄十字だけがペイントされています。



先制攻撃はまず機銃から。



Uボート側も反撃開始。



Uボートの艦砲だと思われます。



激しい艦砲の応酬の末、駆潜艇の機関室部分が浸水。



床に昏倒し意識を失ったペリーをリーズ船長は抱き起こし、

「私だ!父親だ!スーザンの父だ!」

二人は協力してポンプによる排水作業とダメコンを行いました。



何人かの負傷者を出し、火災に見舞われながらも、
なんとか先にUボートを撃沈することに成功。



「撃ち方止め!」

長い沈黙の後、タバコを咥える艇長でした。



翌日、駆潜艇599号は無事帰港しました。



怪我人は出ましたが、死者はなし。



リーズ船長は駆潜艇を去る前に、今や危機を乗り越えてお互いに意気投合し、
理解しあった娘の恋人に、濡れてしまった結婚許可証を渡しました。



艇長とも握手、そして下艇です。
日本語字幕では「海軍のことがわかってきた」となっていますが、正確には

「海軍のことは以前より好きでなくなったが、
前より海軍のことを考えるようになった」

と言っています。



そしてペリーとドレイク中尉です。

ペリーはドレイクにタバコを勧められ、火をつけてもらったライターを
そのまま結婚祝にやると言われて感激するのでした。

ここで二人の最初の出会いのシーンを思い出してみます。

少将の部屋の前、ペリーはドレイクにタバコの火を借りて、
調子の悪いライターの調子を直してやっていましたが、
彼の印象は悪く、ドレイクはペリーにムカつくというものでした。

つまり、あの時から今回までに二人が乗り越えた出来事が、
同じ動作にも全く違う意味を与えているというわけです。

ジョン・フォードの作品は、このようにディティールが細やかで
この頃の作品ながら、子供騙しのような矛盾点が見られません。

これが、フォードが名匠と呼ばれる所以なんだなと思います。


駆潜艇隊に、故郷から手紙が届きました。

あなたのためにケーキを焼くわという母の手紙を読み上げる者、
手紙に香水の香りがするなどと叫ぶ者で艇内は賑やかです。



手紙で初めて本名が知られた乗員もいます。

「エルズワース・フィケットって誰?エルズワース・フィケット」

スパッズが黙って教授から手紙をひったくりました。

これは日本語で喩えれば、ジャガイモと呼ばれていた(spud=ジャガイモ)
おっさんの本名が、実は万里小路薫だった、みたいな感じかと。




皆が唖然として注目していると、エルズワース・フィケットは、

「義母が俺のカフェの名前を勝手に変えやがった。
『 COSY NOOKIE COOKIE SHOPPIE』だとさ」
なんかわからんがこれはひどい。



「博士」は大学から学士号が授与された通知に大喜び。
「Magna cum laudeだ!」(最優秀賞のこと)



その時、隊司令の車が到着したと知らせがありました。




上官の敬礼は部下にワンテンポ遅れて、船尾の旗に向かって行います。



「ドレイク、全艦隊が君を尊敬しているぞ。よくやった」



大佐と同行してきた士官全員が、旗への敬礼を行います。



副官ともう一人、中尉まで。
さすが海軍オタクのジョン・フォード、こんな描写も手を抜きません。



そして激励とねぎらいの言葉を賜りました。



その頃、「マライア・アン」船上では、ルイジの仕切りによって
ペリーとスーザンの結婚式の準備が勝手に進められていました。



ケーキに花束、牧師さんの用意もバッチリ。
あとは花婿が到着するばかりです。
ルイジは早くも感激で嗚咽し始めました。



そこに人がやってきたという知らせあり。

「花婿だ!」

ルイジの合図で楽団の演奏が始まりました。
が、そこに飛び込んできたのは「教授」。



「え・・・?」



教授はペリーから彼女に当てた手紙を持ってきたのでした。
我々はもう出航するという言葉に、ルイジがガッカリして嗚咽をはじめます。
手紙には、

「このあとマルタで船を修理してからバルト海に出撃する」

と書かれていました。



呆然とするスーザン。



しかし、ペリーは任務に忠実であろうとしただけで、
決して彼女を捨てたのではありません。
「マライア・アン」の横を航行する駆潜艇から、彼はスーザンを呼び、



「スーザン!僕は君を・・・・皆、手伝ってくれないか?
『僕を愛してる?』って!

1、2、3!

ドゥー・ユー・ラブ・ミー?



「いえ〜〜〜〜す!」

マカリスターも一応叫んでます。
彼、実はスーザンに想いを寄せていたのに、いいやつじゃないですか。



「ウィル・ユー・ウェイト・フォー・ミー?」



「いえ〜〜〜〜〜〜〜す!」



「ジブラルタルで会おう!」



晴れやかな顔で投げキッスを送るスーザンでした。



悦びに溢れながらもキリリと軍帽を被るペリーの表情に
「錨を揚げて」が重なり、映画は終結します。



1939年の映画ということであまり期待せずに観ましたが、
さすがはジョン・フォード、一瞬も人を飽きさせない展開はさすがで、
最後まで楽しんで見ることができました。

Submarine Patrol (1938) Director John Ford


スペイン語字幕版ですが、YouTubeでは英語字幕も可能です。
ディレクターズカットで是非ご覧ください。



終わり。