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映画「戦場にながれる歌」〜”命ヲ捨テテ”

2020-01-14 | 映画

北支戦線での戦闘において戦死した者の慰霊式が行われることになりました。

♬命ヲ捨テテ

彼らは戦友の亡骸を荼毘に付す葬送で、「命ヲ捨テテ」を演奏します。
戸山学校での遺骨の出迎えの時にこの曲を使わなかったわけはこれでした。

弔銃発射に続き、荘厳な儀礼曲が奏楽されます。

まさか同じ軍楽隊員を早々に演奏で見送ることになるとは
誰も思っていなかったはずです。

クラリネットのチンドン屋出身鷲尾。

相撲取り出身の青田。

クラリネットの新井准尉。北支での隊長です。

トロンボーンの安田上等兵

トランペットの毛利上等兵小川安三が演じています。

いろんな映画に出演した脇役で、「海底軍艦」ではムウ帝国人(笑)、
「今日も我大空にあり」では郵便屋、「太平洋奇跡の作戦 キスカ」では
砲撃兵、「日本のいちばん長い日」では巡査役、「日本海大海戦」では
サバニ船で敵艦の存在を知らせた久松五勇士の一人を演じました。

「死にたくないから軍楽兵を志願した」

と言っていたフルートの中平はこの戦闘で戦死しました。

「中平の馬鹿野郎。
あんなに死にたくない生きて帰るんだって言ってたやつが・・」

「命ヲ捨テテ」が礼式曲として制定されたのは明治25年。
真珠湾の九軍神の遺髪が帰国した時も、同曲が演奏されましたし、
記録にはありませんがおそらく山本五十六大将の葬儀でもそうだったでしょう。

軍神や元帥だけでなく、名もなき兵士であっても等しく戦死者は
この曲をもって送られました。 

 

さて、前回も指摘したように、本作では、
中国人が日本人に向ける敵意がどこまでも執拗なまでに強調されます。

♩愛国の花

を演奏し「宣撫工作」を行う音楽隊ですが、

彼らが行ってしまうとぞろぞろと立ち去ったその壁には・・・、

はい、こんなスローガンが(笑)

道中、牛さんの群れに遭遇し、追い払うために楽器をフル活用する音楽隊。

雪深い農村で車のシャフトが破損し、足止めを余儀なくされた御一行様。
大事な楽器を雪の斜面で転がしてしまうというアクシデントもあり。

近くの民家に助けを求めに行くと、なんとこんな人が出てきてびっくり。

この中国人が雪深い田舎の一軒家でなぜ京劇の化粧をしているのか謎ですが、
それよりもこれを演じているのが森繁久弥ってんでこちらがびっくりです。

森繁久弥、スッピンで顔出しできない理由でもあったんでしょうか。

娘も、田舎の雪に埋もれた一軒家で父親と二人きりなのにバッチリ化粧をして
イヤリングやリボンをつけているという謎。

現れた娘の婚約者に、二人を人質にしてシャフトを買いに行かせている間、
京劇おやじは(どうやってそんなことを知ったのかは謎ですが)、

「あんたたち日本兵は南京で罪もない2万人の人を殺しました」

などと言って日本兵を責めたりします。

東京裁判で松井石根が訴追された原因の一つ、いわゆる「南京事件」が、
当時どのように世間に認識されていたことがわかるセリフです。

この6年後、朝日新聞に本多勝一の「中国の旅」が連載され、そのあまりの内容に
朝日新聞の読者ですら違和感を覚えて(特に当時は戦争に行った人もたくさんいた)
抗議が殺到したそうですが、朝日新聞はこれを一切否定せず今に至ります。

その後中国にこれを政治カードとして利用され続け、彼らの主張する犠牲者数は30万人、
すでに当時の南京市の人口を超えてとどまるところを知りません(笑)

脅迫されながらも約束どおりシャフトを手に入れてくれた娘の婚約者に
疑った軍楽兵たちが平謝りすると、婚約者はキリッと決め台詞を。

「あなたたちのためにやったのではない。私たちの幸せのためだ!」(`・ω・´)

無辜の中国人を殺しておいて、むやみに人を疑うなんて悪い日本兵たちよねー(棒)

彼らの出発直前、現地を離れる汽車を待つ間も、目の前で日本兵が
無益に中国人を殺しまくるというこれでもかのおまけ付き。

中国人たちの憎悪の目、仲間を暗殺され、爺さんの説教、そして匪賊と戦って仲間戦死。
軍楽隊にとっては一つもいいことがなかった「中国の旅」でした。

さて、ここでまたしても急展開。
新井隊は天津からいきなりフィリピンに配属されることになりました。

ここで彼らは、空襲で目をやられたという小沼中尉(加山雄三)に再会します。

トランペットの毛利上等兵は、小沼中尉の世話をしていた戦争孤児の
フォリピン人少女の服についていた大きな蜘蛛を取ってやったのを
娘に勘違いされ、いきなり頰を殴られますが、

彼女の美貌は毛利の心をも殴りつけることになりました(笑)

真理アンヌ、当時17歳。
どう見てもご本人の素性どおりインド系の容貌ですが、フィリピン人の設定です。
彼女はこの前年、「自転車泥棒」でデビューしたばかりでした。

その晩行われた演奏会は、フィリピン人の好きそうなラテンの曲メインです。

曲に合わせて踊り出す陽気な町の人々の影から、トランペットを演奏する
毛利上等兵をじっと見つめる娘の姿がありました。

ところで、北支にいた音楽隊がフィリピンに直接転属というのは
どうも無理のある設定に思えるのですが、どうしてこうなったかというと、
おそらくですが、中国戦線で日本軍が悪辣だった、ということを強調しすぎて
ロマンス的な要素を入れにくくなったからではないでしょうか。

松山監督は中国人女性を被害者としてのみ描くことに執着していたようで、
彼女らの一人が鬼畜のような殺人集団である日本兵と恋に落ちては、
中国で日本軍が悪いことをしたという表現に水を差すことになります。

それから、後半アメリカ軍の捕虜になるという展開を思いついたので、
どこか太平洋戦線に舞台を移す必要があったんですね。

さて、その後、どうやってコミニュケーションを取ったのか謎ですが、
毛利と娘の仲は人のいない海辺でデートをするまでに進展しております。

彼らのセリフは一言もなく、映像だけでその淡い恋が描かれます。

が、映画的に見ると、こういうのは「フラグ」というんですね。ええ。

小沼隊長が25名の隊員を集めて訓示を行いました。
彼らは音楽隊としての使命を終え、これからは迫撃砲小隊に加わって戦闘を行うのです。

シンガポールなど他の太平洋戦線に派遣された音楽隊は全て玉砕したことが伝えられ、
伝令によって予定されていた最後の演奏会も出撃のため中止になることが判明します。

 

移動途中で激しい攻撃に遭う音楽隊、いや今や迫撃砲小隊。
迫撃砲なんて一体どこにあるんだ状態なわけですが。

このシーンは、さっきまで俳優が顔を出していた部分を爆発で吹っ飛ばすという
大掛かりなセットで撮られています。

そこでフラグが立った毛利上等兵、戦死し二階級特進。
なぜなら彼らは迫撃砲に編入される段階ですでに一階級ずつ昇進していたからです。

呆然と顔を見合わせる残りの軍楽兵たち。

この後、転がる日本兵の無残な遺体を見ながら進んでいきます。

いく先々で水漬く屍草生す屍を目撃し、絶望が支配し始めた一行が
海辺に到着したとき、彼らの耳に音楽が聴こえてきました。

 

♩アヴェ・マリア シューベルト作曲

まるで地獄のような世界に突如降り注いだ天上の調べに、
軍楽隊員たちは衝撃を受けて思わず立ち止まりました。

チェロとピアノによる「アヴェ・マリア」。

彼らが今いるこの地獄のような戦場で聴くには
あまりにも現実離れした、天上から降り注ぐようなその響きは
彼らを呆然とさせるのに十分でした。

その音は天上からではなく、海上から聞こえてきます。

アメリカ軍の船が、逃げ隠れしている日本兵に投降を呼びかける
宣撫工作を行っていたのです。

「日本の兵隊さん 戦争は終わりました

マネラはもちろんコレヒドーの要塞も落ちました

むいきな抵抗は やみましょう

アンメリカは 捕虜になった人を殺しません

ふにで日本に送ります

日本では おとさんやおかさんが あなたのかえいを待っています

今からでもおっそくない むいきな抵抗は やみましょう」

というわけで彼らは投降し、捕虜と呼ばれる身になったわけです。

軍楽隊が捕虜になったことをどうして知っているのか、
毛利上等兵を好きだったフィリピン娘は、収容所の柵の外から
ブーゲンビリアの花を持って彼の姿を探し続けていました。

音声はありませんが、彼女の口は

「モウリ」「モウリ」

とつぶやいているのがわかります。

しかし、捕虜になって労働をする軍楽隊の中に、彼の姿はついに見つかりません。

娘は毛利の運命を察して、思い出の浜辺に一人佇むのでした(´;ω;`)

 

 

続く。