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ロシア・イスラム国・中国と「力の空白」~西原正氏講演より

2015-06-12 | 日本のこと

ジャンルカテゴリを「海外ニュース」とするのに、適当なのがこれしかないとはいえ
モヤっとしてしまいました。
「海外」じゃなくて「国際」というジャンルを作ってくれんかなgooブログは。

西原正氏は現在、平和・安全保障研究所という平和と安全に関するシンクタンクの
理事長であり、かつて防衛大学校で教鞭をとっていたことがある国際政治学者です。
全国防衛協会連合会(仮名・地球防衛協会)で行われた講演の内容が、
今の国際情勢を「三行でいう」的なポイントでまとめられたものだったので、
それをさらに簡単にまとめて誰にでもわかるようにご紹介しようと思います。



先日、ドイツで行われたG7において、

「南シナ海で行われている力による現状変更は認めない」

という声明が出されました。 

ようするに中国を牽制したわけですが、現在の世界では、南シナ海を始め、
「力による現状変更」が意図され、その結果「力の空白」を生んでいる地域が3つあります。
それを企んでいる国と、その地域は次のとおり。

ロシア による クリミア併合

イスラム過激派 による 勢力拡大政策

中国  による 南シナ海、東シナ海 


この地域の現状についての総括がこの日の講演の主題でした。
それでは、まず各地域についてざっと今の状況をまとめると。

まずロシア。
ロシアはソ連となり、それが崩壊して周辺国が独立してしまいましたが、
現在のロシアはクリミア併合によって「ロシア帝国」を復活させようとしています。

イスラム。



昔この地域は赤の部分が「イスラム」だったのですが、



いわゆる「イスラム国」は、こんな感じに「イスラム王朝」を復活させたいわけです。
なぜスペインを飛ばしてポルトガル?という気もしますが(笑)
アフリカの上半分を乗っ取る構想にしているのは、

「アフリカは乗っ取るの簡単そう」

ってことなんですかね。(全然このへんの知識なしで言ってますので念のため)

ちなみに彼らは2014年に「カリフ制」を復活させました。
カリフというのは「後継者」という意味で、開祖ムハンマドの「後継」となる指導者のことです。

イスラムの考え方によると、カリフの治める「国」には国境が必要ではないそうで、
「イスラム国」なのにいったいどこの「国」なのか、と皆が思うのはこのせいだと思われます。


そして中国。
我々に関心の深い「現状変更の総本山」が中国で、ご存知のように海洋進出への野望を
全く隠すことなく岩礁を埋め立ててまで現状を変更しまくっているわけですが、
陸においては、こんなことを企んでおります。

 

新シルクロード、というのがこの構想のネーミングだそうですが、三つのいずれの地域にも共通するのは

「昔の夢よもう一度」

と、かつての栄光の時代の復権を狙っていることです。

(ここまで書いて、裸一貫の小国が当時の大国によって支配されていた世界のあちこちに進出し、
曲がりなりにもあれだけ領土を展開した例は、近代史においては大日本帝国だけではなかったか、
とふと思いついたのですが、他にそんな例があったらどなたか教えてください。)

シルクロードによって中国は政治、経済、安全保障を確立させるという狙いがあり、
福建省に自由貿易区を据えてシルクロードの拠点にしようとしているのです。



南極に中国人の観光客が押しかけてペンギンに接近するため顰蹙を買っている、
というニュースを先日読んだところですが、中国は北極もなんとかしようとしております。

2011年に海自の幹部学校にて作成された資料によると、ロシアはまず、
ここに最も意欲を示している国家で、北極点下にこっそり国旗を立てたそうです。
写真を見ると、国旗といっても海の中に立てるものなので、錆びない棒に
赤白青の三色のプレートをつないだ、アイデア賞受賞作品みたいな旗です。

カナダ・デンマークも近いので当然北極に関与している国ですが、それよりわからんのは
中国がなぜかここにも、取得のための布石を着々と打っているということです。

だいたいお前ら北極に近くもなんともないだろっての。

どの国も北極の資源と航路の獲得、領海の拡大をしたいわけですが、問題はこれらの国が
北極圏で軍事演習をしたりすることで、武力衝突の危険があることです。


さて、これらの3地域に共通して言えるのは、

現状変更を許す力の空白

が 生じてしまったことですが、その理由はなんでしょうか。


まず、ロシアの場合は、クリミアで住民投票が行われ、95%が

「ロシア編入に賛成」

という結果が出ました。
特にフランスが弱体したEUがここに至るまでロシアに抵抗しなかったこと、
そしてオバマでは動きを抑えることもできなかったということで、この力の空白に乗じて
ロシアはクリミア編入という現状変更を行ったのです。

アメリカは、

「住民投票はウクライナの憲法に反する。ロシアの軍事介入は国際法に違反するものであり、
そうした暴力や脅しの下で行われた投票結果を国際社会は認めない」

と遺憾を表明したのですが、
経済制裁など行っても効果は微々たるものですから、ロシアにとっては痛くもかゆくもありません。


イスラムでは、2013年にアメリカが軍を引き上げたところで力の空白が生まれました。
過激派の伸長の理由の一つに、イスラム国というのは電子戦略とでもいうのか、
映像において大変高度な技術を駆使し、それを宣伝に使ったり、SNS、
ソーシャル・ネット・ワーキングサービスで広報や勧誘などを行っていることがあります。

捕虜の処刑映像を世界中にネットで流すようになったころからこの傾向は顕著になりましたが、
最近ではその映像もまるで映画のような高画質の、しかも効果を加えたものが見られるそうです。

カリフ制が「国境のない国家」を標榜することと、EU によって国境概念が希薄したことは重なりますし、
1916年の「サイクス・ピコ協定」によって分割された元オスマン帝国領の中から、
昨今では、その欧米諸国の存在そのものが希薄になってきていたということも空白を生んだ理由です。


そして中国

「中華民族の偉大なる復興」

というのは習近平国家主席がよく演説に取り入れる言葉ですが、また

「アジアの安全保障はアジア人で」

というのも習近平のお気に入りの言葉です。
まあ、言い換えれば「日本からアメリカは出て行け」と言ってるわけです。

中国が覇権主義であることは世界中の皆が「知ってた」状態なのですが、それでも
西欧では対中依存が増大しているため、強く出られないどころか、ドイツなど
訪独を中国に遠慮してダライ・ラマを国に入れないなど、盛んに媚びているわけです。

自国の経済優先で、中国が侵略しようとしている地域の利益などは、はっきりいって
ヨーロッパの国々にとってはどーでもいいことだからですねわかります。

日本、アメリカ、カナダの蹴ったAIIB (アジアインフラ投資銀行)ですが、ヨーロッパ諸国の参加は
大した出資率ではないため、つまりこれも「媚中」のなせることだと言われております。

西原氏は国内で腐敗の闇が深い中国が中心となって、どうして腐敗しない組織が作れるのか
と言っておられましたが、わたしもあの国をなぜ信用する気になれるのか、
世界の参加国の皆さんに聞いてみたいくらいです。


話が逸れましたが、中国に対しては マーケットとしての中国に媚びる動きに加え、
オバマ政権の中国に対する弱腰姿勢、「声明」はだせども力出さずの態度を
すっかり中国がなめてかかってきた結果、力の空白がそこに生まれました。
カーター国務長官になって、ようやくアメリカは中国に対し強い姿勢をとるようになったのですが、
これももう少し早ければ中国の動きは南シナ海でもここまで素早くはなかったと言われています。

日本が民主党政権で尖閣の漁船衝突事件のとき、配慮するような態度をとったことも
中国に誤ったメッセージを与えることになってしまいました。





つまりこれらの「力による現状変更」を許す「力の空白」の原因を一言で言うと

西側陣営の弱体化とオバマ政権の指導力の低下

に尽きるということになります。
そこで、日本はこれにどう向き合っていくべきでしょうか。

ちょうど先日、わたしは防衛協会の席で武居海幕長にご挨拶した時、
既知の元海将のお噂を海幕長から伺ったのですが、その方は

Military Statemen Forum


という、いわば日米軍人賢人会議といったものに出席のため渡米しているということでした。

こちらからは、現統幕長を始め、歴代統幕長ら防衛省代表として赴き、アメリカ側も

歴代の統合参謀本部議長に元海軍作戦部長、太平洋軍司令官等々、錚々たる軍高官との
意見交換が行われたそうです。

この席でも、 さぞかし現状変更が現在進行形で行われている地域についての
情報交換が活発に行われたものと想像しますが、何よりも重要なことは、日米同盟が
世界の平和に貢献しているということを互いに確認しあったということだったのではないでしょうか。

(ということを出席した方から伺いました)


端的に言って日本のまず取るべき立場は、アジアに「力の空白を作らない」ことです。


もっとはっきりいうと「中国を暴走させない」ということでもあると思うのですが、
そのためには日米同盟の強化で、アメリカをアジアに引き止めることが必須となります。
そのことによって、パワーバランスは平衡を保つことができ、結果として抑止力が
平和を保ち続けるというわけです。

「日米安保なんて何の役にも立っていない、金の無駄だ」

と共産党などはよく言いますが、こういう左巻きなひとたちは
「何も起こらなかった」ことが日米同盟の効果である、ということになぜ思い至らないのでしょうか。

現に、南シナ海では遠慮なしに行動を起こしまくっている中国が、
尖閣には衝突船事件以来、表立った動きを見せていません。


これは誰がなんと言おうと

「米軍の存在によって力の空白が生じるべくもなかった」

ということに他なりません。

米軍がいなければ、憲法の縛りで身動きできない日本において、尖閣に1日で足場を作り、
一ヶ月で基地を作って乗り込まれていたことはまず間違いのないところです。


また、パワーという意味での経済力を言うと、GDPの1位と3位はアメリカと日本です。
経済力の29%を日米でしめているわけで、対して中国はまだ13%にすぎません。
たとえロシアと組んだところでロシアは全体に対してわずか2.4%のGDPしかありませんから、
日米がタッグを組んだところに中国が力で現状変更を行うことは「不可能」です。

この他、

日米豪印の協力を推進すること

日本の新安保法制と日米ガイドライン

日米豪とNATOとの連携を深める

などの、他国との連携を強化する対策。
このために今政府は安保法制を見直すための審議を行っているわけですね。

そしてインフラ投資によって中国が覇権を拡大しようとしている同じ地域、
アジア、中東、アフリカへの投資を積極的に行っていく、ということも重要になっていくでしょう。 


力による現状変更の何が悪いかというと、それが規模の大きな武力衝突のきっかけとなり得るからです。
日本には、今、大国として「力の空白を生まない」、地域のバランサーとなることが求められています。



(講演内容をもとにしましたが、随分私個人の見解が入ってしまいました。
演者の西原氏のご意見と違う点があるかもしれませんが、悪しからずご了承ください)