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ヒラー航空博物館~007「女王陛下のジェットパック」

2014-07-12 | 航空機

イアン・フレミング原作「007 サンダーボール作戦」は、
007シリーズの第4作で、ショーン・コネリーの主演によるものです。

原子爆弾2発を搭載したNATO空軍のヴァルカン爆撃機が犯罪組織
「スペクター」に奪われ、身代金として1億ポンドのダイヤモンドを要求。
英国諜報部は「サンダーボール作戦」を発令。
ボンドはバハマに飛び、(女にちょっかいかけながら)核爆弾を捜索する—

というストーリーなのですが、毎回話題になるボンドの秘密兵器のなかで
最も話題になったのが、画像でボンドが背負っている

ロケットベルト(ジェット・パック)

でした。




最初にジェットパックを考案したのはロシアの技術者チームです。
1919年のことと言いますから、航空機も実用化されたばかりの頃です。
しかしこれはアイデアが特許を取っただけで、実用化されませんでした。


時代は思いっきり飛んで1958年。
チオコール社(アメリカ)のエンジニアが、

「プロジェクト・グラスホッパー」

というジャンプベルトの開発を行いました。
推力は高圧圧縮によってくくられた窒素で、それを噴出する二つの小さなノズルが
垂直下方に向けられており、ベルトを着用してノズルの弁を開くと、
その噴出で7mのジャンプができ、前方には時速4~50キロの速さで進みました。
これは実験だけにとどまりそれ以上の開発はされていません。

そして1959年。

エアロジェットジェネラルコーポレーション

は、米軍との契約によりジェットパックの開発を始めました。

米軍はこの開発に非常な興味を寄せていました。
用途はまず偵察、そして山の斜面に空からアクセスしたり、川を横断したり。
あるいは地雷原を飛び越えることが可能になるからです。

ただ、研究はしたものの結局それは軍の運用には至りませんでした。
なぜかって・・・・危険だったからじゃないかなあ。



ロケットパックの稼働原理は過酸化水素駆動です。
当初は触媒との反応で高温ガスの放出が行われ、
それがノズルから噴射されるというものでしたが、
なんといっても過酸化系推進剤は事故のときに火災や爆発の危険を伴い、
人体にとっても大変危険です。

後にターボジェットエンジンが搭載されたタイプができ、
これは空気を排出するもので、
ロケットパックよりも性能と安全性は増したものと思われます。




いずれも初期の頃のジェットパックです。
上記写真右は

ベルテキストロン・ロケットベルト

これはジェットパックやロケットパックの最も古い、知られたタイプです。
過酸化水素によるもので、欠点も山積みと言えました。


◎飛行時間はわずか30秒以内(写真にも航続時間28秒とある)

◎噴射剤の過酸化物の高コスト

◎パラシュートを使える高度まであがらないので安全性に欠ける

◎コントロールの訓練でも安全性は保証できない

◎全て手動なのでとてつもなく難しい


これを開発したのは

ウェンデル・F・ムーア

チャック・イェーガーが超音速を突破した、あのXS−1の開発を行った技術者で、
ベルX−2の開発研究を行いながら(息抜きというやつだったのかもしれません)
ロケットベルトの開発も行っていたそうです。

左は航続時間2時間と飛躍的に機能が改善しています。
これが右の製品からわずか2年後のもので、

LTV Corporation社製

昔、コルセアやクルセダーを作ったこともある「ボート」社です。

 

LUNAR POGO(1965~68) Bell Textron

航続時間10分 過酸化水素方式 手動

小さなロケット推進のプラットフォーム型。
背景が真っ赤ですが、これはカリフォルニアでよく見かける植物です。
名前は知りませんが。

 

たまたま去年撮った写真が、同じヒラー航空博物館の同じフォルダに入っていました。


 

JET BELT    Bell/Williams Research(1969~1984)

バイプラスタービン式 ジェット燃料 

航続時間10~30分 手動



REACTION ROCKET  Martin Marretia 1973

窒素ガス デジタル フライバイワイヤ ジャイロ式

ジェットパックは宇宙開発が盛んだったころに現れたので、
宇宙で使うことを期待して開発されたものもありました。



重力がないのをいいことに、本来なら重すぎて持てないものも
こうやって担いでしまえるというわけです。
他のジェットパックより重そうですね。

無重力状態ではジェットを噴出すると宇宙の彼方に飛んでいってしまうので(多分)
おそらく人間の力では推進できない動きを補遺する仕組みなのだと思われます。
 




COMMERCIAL JET PACK  N.TYLER  POWER HOUSE
(1970~)

過酸化水素方式 航続時間30秒 手動




ここにはこの実物が展示されています。
これこそがボンドが「スペクター」のジャック・プヴァール大佐を殺害した後、
脱出用に背負って飛んだ、ジェットパックです。



実用的ではないけれど、衆目を集めるジェットパックは、コマーシャルや
映画の撮影等に大いに活躍しています。



エクソスケルトン・フライング・ビークル

ライ・バイ・ワイヤ方式で簡単に操作できまた安全だそうです。
非常時の電源も供給される仕組みなのだとか。
航続時間は2時間40分。燃料はガソリンです。

これだけの時間飛べるのなら、通勤通学くらいには十分使えますよね。

もしそうしようと思った場合、道交法はどうなっているのでしょうか。



さて、この黒装束は最近の映画に登場したものですが、
皆さん何の映画だかお分かりですか?



トムクルーズの「マイノリティレポート」なんですが、わたくし残念ながら
この映画を見ていないので何がどうでてきたのか全く知りません。

ところで、このジェットパック、映画やコマーシャルしか使われていないということは
かなりお値段もお高いはず。
ここで気になるコストをちょっと調べてみたところ、

Tecnologia Aeroespacial Mexicana (TAM)製の「ロケットベルト」
飛び方と手入れの講習込み価格は25万ドル、約2500万円

ジェットパック・インターナショナル社製のジェットパックH202
講習込みで15万5000ドル(約1600万円)

The Martin Jetpack社のサイトによると、個人用ジェットパック
50000ドル(500万円)


最後のマーチン社のは妙に安いですが、ちゃんとサイトを見ていないので
その理由は分かりません。
これくらいなら買える!と興味を持った方は調べてみて下さい。

しかしどれも、航続時間はだいたい30秒といったところです。
そう、過酸化水素で推進している限り、この30秒というのは絶対の壁なんですね。
まあ、ジェットパックH202は30秒の壁を破った!ということで、
33秒の世界最長航続時間を誇る過酸化水素式ジェットパックだそうですが。


ところで・・・・何に使うのよ、これ。(基本的な疑問)

どう考えてもこれは「遊び」くらいにしか用途はあるまい、と思ったのですが、
調べてみれば案の定・・・・。

Jet Pack Hawaii

過酸化水素とか墜落の危険とかが全く無い、それが水の上のジェットパック。
パックから吹き出すのは水です。
おそらく黒いホースはポンプに繋がっていて、そこから高圧の水を噴射するために
海水が供給されるのでしょう。
たとえ墜落しても水の上、ちゃんとヘルメットもしているし、よほどのことが無い限り
事故は起こらなさそうに見えます。

これは、ハワイに行ったときちょっとやってみてもいいかな、という気になりませんか?

そして、やはりアメリカにはこんな人もいます。



将来は通勤も可能に? 空飛ぶ「ジェットパック」一般販売へ

見られない場合は→https://www.youtube.com/watch?v=MyRe3CW6Dak


「10万ドルを払える裕福なアドレナリン中毒者」のために30年来の自分の夢、

ジェットパックの開発を個人でして、販売までこぎ着けた男。

この映像を見ていただければ、ジェットパックを背負ったとき
どのように飛ぶのか非常に分かりやすいと思います。


しかし、プーンと飛んでいるところを狙い撃ちされたり、風に煽られて墜落したり、
そんなリスクを考えてさすがのアメリカ軍も一旦費用は出してみたものの

「やっぱりこれ無理だわ」

と思って開発をあきらめたんだと思うんですが、そもそも軍が介入しなかったことが
結局開発がそこから全くと言っていいほど進まなかった理由だと思います。
航空技術のほとんどは軍の必要性によって発達してきましたからね。

しかし上のYouTubeの開発者グレン氏のもとには、

「国境周辺の警備に使うため5つの軍隊と6つの政府から問い合わせがきて」

いるのだそうで、「軍」組織が相変わらずこのジェットパックにかなりの
関心を持っていることも事実です。

人類は鳥のように飛ぶことに憧れたからこそ、今日まで航空技術を発展させてきました。
乗り物を使って飛ぶことが当たり前になっても、いやだからこそ

「自分の体を使ってまるで鳥になったように飛んでみたい」

という「アドレナリン中毒者」は後を絶たないと見えます。



「ジェットマン」、B17爆撃機と共に大空を舞う

ついにここまで来たか、という感があります。




ところで・・・・・。

ボンドの話に戻りますが、グレン氏の言う「興味を示している6つの政府」のなかに
「女王陛下の政府」は入っているのでしょうか。