◎キリスト教以前のヨーロッパの信仰の中心
ルーグは、ヘルメスに比定されるあらゆる技能の神である。
ある日ルーグは、キリスト教到来以前のアイルランドの中心地ターラの王宮の大宴会にやってきた。
何か特別な技芸がないと王宮に入ることを認められなかったので、ルーグは、私は造り職人だと紹介したが、門番は、既に王宮にいるのでダメだと断ったすると、ルーグは、私は鍛冶屋だと紹介した。すると門番は鍛冶屋もいるのでダメだと断った。
そこで、ルーグは戦士だ、ハープ奏者だ、英雄だ、詩人だ、歴史家だ、妖術師だ、治療師だ、祝宴の酌人だ、金属加工師だと自分の技能を紹介し続けたが、ことごとく既にいると断られた。
そこでルーグは、これらの技能をすべて一人で持っている者はいるかときいたところ、いなかったので、やっと王宮の大宴会に入ることを認められた。
またルーグは、双六(ボードゲーム)や馬術や球技を発明した。ルーグは、片目、片足で戦場に登場し、鍛冶屋であり、戦争の神であることも象徴する。
更にルーグ崇拝は、キリスト教到来以前のアイルランドだけでなく、ヨーロッパ全域にわたっていたらしい。フランスのリヨンや、オランダのライデン、ドイツのライプチヒなどは、すべてルーグの城塞という意味のルグドゥヌムという言葉から派生したことが知られている。
古代ローマのカエサルも、ルーグの神像が他の神に比べて非常に多いことを述べており、ローマ以前は、ヨーロッパ全域で非常に人気のある神だったことがしのばれる。キリスト教がこの寺院や神像を破壊する時は、非常に抵抗されたようだ。
ローマでは、キリスト教以前はミトラ信仰やキャペレ信仰が強かったようだが、イギリス、フランス、ドイツなどでは、ルーグ信仰が相当な勢力であったようだ。
ルーグについては、北欧神話の主神オーディンの箴言のようなまとまったものがないので、興味深いエピソードからその面影を想像するしかないが、現世利益を見せながら、正しいもの、本当のものに導いて行こうとするやりかただったことがしのばれる。