◎求道のモチベーション
(2010-04-07)
さよならサイレント・ネイビーは、地下鉄サリン事件でサリンを地下鉄にまいた豊田容疑者の友人が書いた本。豊田容疑者は東大の物理の人。
結局豊田容疑者がどのように洗脳されたかは、はっきり書いていなかったし、かれがどのようにオウムに入信したかもはっきり書いていなかったが、ほぼ拉致同然に教団施設に連れて行かれ、麻薬と視聴覚による洗脳を受けてああなってしまったらしい。
事件から15年以上たつが、豊田容疑者は洗脳から抜けたが、洗脳から抜けていない幹部も少なくないのは、洗脳の恐ろしさを十二分に物語る。悟りは心理ではないとはいえ、それに至る道程は心理なのだから、道程を誤れば人生全体を台無しにする。ところがその道程は正師によってしか示されないのだから師匠選びは重要だ。しかし、その師匠を見分ける目を、いまだ悟らぬ我々は持たない。
洗脳には洗脳する側と洗脳される側がいる。洗脳する側は誰が洗脳を仕掛けているかを承知して、情報の真偽を取捨選択して取り扱う。官僚や国会議員やマスコミは、洗脳を仕掛ける側であるから、新聞やテレビで流す情報は信用しない。敢えていえばその情報についての利害関係者が語る情報しか信用していないものだ。
若い時分にそういうことを知る機会があったが、テレビや新聞や週刊誌の情報を信用しないで生きている人は、世間にはそんなに多くはないものだ。
さよならサイレント・ネイビーを見ると、第七サティアンの位置が三県の境に位置するなどその犯罪をすることを目的とした高度な玄人情報に裏打ちされていることから、まず先にサリンなどの犯罪をしようとする知られざる巨大で高度な組織があって、それがオウムをして実行せしめたという外形に気がついている。
オウムが如何に高学歴集団であったとしても、せいぜい30才そこそこの若者が数百人集まってもにわかに高度な組織犯罪をできるものではないだろうというのは、ベテランの社会人なら想像がつくものだと思う。
こうした集団を組成できた本質は、「自分のメリット」を求めることを正当化する社会通念そのものにある。自分が向上する、すっきり納得して生きたい、願望を実現したいなどの快適さを求めるニーズに対して、超能力の魅力と地獄への恐怖を煽ることで洗脳して入信せしめるという手口はこの本にも書かれている。「自分のメリット」を求める以上、いつでもカルトにつけ込まれる可能性があるということ。
現代の求道は「自分のメリット」を求めないことでスタートしなければならないが、そんなことでは、求道のモチベーションにならないというとんでもないジレンマがある。しかしそのジレンマを克服しないと次の時代はない。
現代で最大の洗脳は、「人間が肉体であると思い込んでいること」であると考えている。法律や経済もその原則でできてはいるんだけれど。