Luna's “ Life Is Beautiful ”

その時々を生きるのに必死だった。で、ふと気がついたら、世の中が変わっていた。何が起こっていたのか、記録しておこう。

医療制度改革の欺瞞(2)

2007年07月29日 | 一般
わたしが勤めている会社の取引先の会社の社長さんがおっしゃっていたんですが、その社長さんのお住まいに非常に近い病院では、もう小児科がないのだそうです。社長さんにとっては非常に納得のいかないことなのだそうです。なぜって、社長さんの感覚で言えば、病院から医者がいなくなる、ということが非常識のように思えるのだそうです。「何のための病院だ」とおっしゃっていました。二世帯住宅にお住まいで、娘さん夫婦と同居しておられるのですが、お孫さんの診療のために通院がかなり遠くなって、憤懣やるかたないといった風でした。みなさんのご近所でも、小児科や産婦人科がなくなった病院があると思います。今、医師、看護師の不足は非常に深刻で、もはや「医療崩壊」ということばが現実になっているからです。なぜこんなことが起こるのかといえば、小泉内閣による「構造改革」に原因があるのです。医療費抑制政策です。

昨年夏に「全日本民主医療機関連合会」がこのような抗議声明を厚労省に提出しました。

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医師の需給に関する検討会」報告書に抗議する



2006年8月18日
全日本民主医療機関連合会
会 長 肥田 泰


 7月28日、厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」は最終報告をまとめた。


 今回は、統計的手法も駆使して16年後には必要な医師が供給される見込みであるとし、現在の医師偏在による困難については、行政、大学、学会、医師会などが協力して努力するべきこととした。そして、さすがに現場に近い委員の発言を無視できず、病院勤務医の負担や地域格差、小児科、産婦人科等の問題に言及したものの、今後とも医学部定員増という施策はとらないし、有効でもないと結論付けた。これまでの検討会報告に見られたような「医師の過剰問題」に対する執拗なまでの危機感の表明は影を潜めたものの、結論は従前のものと同じであった。


 前回の検討会報告(平成10年10月)は、新規参入医師を削減するために、入学定員のさらなる10%削減にはじまり、国家試験受験回数制限、卒前教育での不適格者の進路変更、保険医の定年制の検討まで提案していた。そして8年後の今日、医師不足によって全国各地で地域医療の崩壊と言われるような事態が多発している。今回これらに対して踏み込んだ提起をしたというものの、前回報告書の提起した新規参入医師削減の方針への反省が一言もないのはなぜなのか。わずか8年まえの過去に責任をもたないような「検討会」の提案をまともに受け止める関係者がいるのであろうか、あらためて厚生労働省に問い質したい。


 また、医師の勤務状況を調査して医師の需要と必要数を導いたとしているが、現場の実態や実感からは大きくかけ離れている。病院に滞在している時間がすべて勤務時間でないとしたり、病院勤務医の大きな負担となっている当直を勤務時間から除外するなど、必要医師数の算定根拠に疑問を持たざるを得ない。そして、必要医師数の算出を客観的にしたといいながら、簡単にできる人口当たりの医師数の国際比較にはまったく見向きもしないのはなぜか。人口あたりの医師数で見ると、日本はOECD加盟国平均の70%に満たず、平均に追いつくためにはあと12万人が必要で、今のペースなら40年以上かかる計算になる。


 安全で、質の高い医療を求める国民の声、身をすり減らしながら現場を守る医師や看護師の悲鳴を無視するのか。厚生労働省の本音は、中小病院つぶしによる病床の大幅削減によって、医師を増やさず医療給付費も削減できるということではないのか。全日本民医連は、地域医療を守る立場からこの最終報告に抗議するとともに、病院勤務医が将来に希望を持って働き続けられるよう医師の絶対数増加をふくめた施策を要求する。


 公的医療給付費削減の流れの中での医師需給計画ではなく、せめて国際社会並に医療費を増やし、医師、看護師増員はじめ安全安心の医療が実現できるよう厚生労働省は全力を尽くすよう強く要請する。

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医師はどのていど不足しているのかということについては、冒頭に書いた社長さんの近所の病院から小児科がなくなったという出来事に見られるとおり、すでにわたしたちの身近に見られるようになっているのです。小児科消滅については、2002年にこんな事件がありました。

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2002年(平成14年)9月、岩手県一関市で、生後8ヶ月の乳児が4軒の救急病院に連絡を取ったが小児科医がいないことを理由に断られ、最終的に5軒目の病院の当直だった眼科医の診療を受けることになりましたが、容態が急変、眼科医は泣きながら心臓マッサージを行いましたが、死亡しました。

子どもを持つ親にとって、症状を訴えられない乳幼児が急にぐったりしたとき、異物を飲み込んだときに小児科医がいる救急病院が近くにあれば安心です。しかし小児科医不足から小児救急医療ができないのです。都心部の大病院では常勤医師による24時間体制が取れますが、日本では8割の子どもが小児科医のいない救急病院で治療を受けているのです。

子どもの治療には専門的な知識と経験が必要です。厚生労働省は全国を360の医療圏に分け、小児科医が当直できる病院を確保すると宣言しましたが、その体制ができたのは全国で51箇所だけでした。


(「崩壊する日本の医療」/ 鈴木厚・著)

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この事件はたしかにうっすら覚えています。たしかマスコミの反応は、特にテレビでは受け入れを断った4軒の病院のほうを責め立てていたように記憶しています。しかし、実際に責められなければならないのは行政のほうなのです。みんな「改革」というキャッチフレーズにやすやすと欺かれて小泉さんは支持するのですが、責められなければならないのはその小泉さんと、彼のバックボーンである財界なのです。

以下、上掲書より、現在の医療の現場の問題をきちんと書いておこうと思います。このブログを訪れてくださる方に、もう欺かれないように、そして真に糾弾しなければならない人たちに目を向けてもらいたいのです。もし、この記事をご覧になってくださったのであれば、そのあとご自分でインターネットなどで調べていただき、行政にどんどん声をあげていってもらえれば、と願っています。

まず、医療現場から医師たちが逃げ出す、という現状があるそうです。

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日本の小児科医は約1万8千人ですが、小児科医を希望する医学生の数はピーク時の6割になっています。

小児科では女性医師の比率が高く、小児科医の32%が女性、30歳以下では40%が女性です。女性医師の場合は、出産や育児で休むことがあります。また小児科医の高齢化が進み、医療現場で働ける医師数は実数よりはるかに少ないのです。

夜間の救急外来が多いのが小児科医の特徴ですが、家庭のある女性医師や高齢の医師に徹夜の当直はきつすぎます。24時間体制の小児科医は多忙で責任が重く、それでいて給料が安いのです。割に合わない、という理由で逃げ出すのは仕方のないことです。

小児科医不足は小児科の診療報酬が低いことが原因です。子どもの診療には多くの時間とエネルギーがかかります。点滴を刺すだけでも数人がかりの修羅場となります。大人のように検査はできず、投薬も少なく、診療に手間と時間がかかるのに、小児科の診療報酬は低いのです。

厚労省は小児科の診療報酬を優遇するとしていますが、100円上げれば、「優遇した」というのが役人の常套手段であり、また感覚なのです。救急現場では小児科医の労力に見合った診療報酬には至っていません。平成17年の子育て支援は1兆774億円ですが、小児救急の整備予算は16億円にすぎないのです。



母親は万が一のことを考え、子どもを救急病院に連れてきます。しかし実際には大学病院などの小児救急でも、コンビニ感覚で受診する患者が急増しています。小児救急病院を受診する患者の9割以上は緊急処置の必要のない軽症患者です。また、ワクチンを打って欲しい、診断書が欲しいなどの救急には不適切な要求をする例が増えています。

親は救急病院を24時間利用できるコンビニと考え、日中につれてこないで、自分たちに都合のいい夜間に子どもをつれてきます。しかも救急車はただですから、こんなに都合の良いことはありません。また自治体の公的援助により小児医療が無料の自治体がほとんどです。その制度があるために、診療してもらって、薬をもらわなければ損、という感覚が生じています。

小児医療ではこのような多くの軽症患者に時間を取られ、重症患者への対応が遅れるという弊害をもたらしています。



勤務医は激務なのに、収入は開業医より少なく、そのため勤務医は病院をやめ、残された勤務医の労働条件が悪化するという悪循環を生んでいます。開業医の診療所は、医師の住んでいる自宅と違うところが多く、小児科の診療所での夜間診療はまれです。

大学病院の小児科では100円の収入を得るのに、人件費や医薬品などの費用が120円かかっています。中小病院では小児医療をやればやるだけ赤字となるため、次々に小児科の看板を下ろしています。東京都内でも公的病院である青山病院(東京都渋谷区)では小児科を廃止、多摩南部地域病院(多摩市)と中野総合病院(東京都中野区)では入院患者や急患の受け入れをやめています。小児患者が外来に溢れていても、病院が赤字になる診療報酬体系になっているからです。

小児救急を担えるのは、補助金をもらえる自治体病院ばかりで、自治体病院の小児救急医は溢れる患者を前に悲鳴をあげています。将来を担う大切な子どもを守るためには、子育て支援以前の問題として、小児医療を充実させることです。



1999年(平成11年)8月16日、小児科医の中原利郎医師(44)が勤務先の都内の佼成病院の屋上から飛び降り自殺しました。中原利郎医師は便箋3枚に次のような遺書を残しています。


「小児科の消滅は、医療費抑制政策による病院経営の悪化が要因と考えられます、生き残りをかける病院は経営効率の悪い小児科を切り捨てます。現行の医療保険制度では、手間も人手もかかる小児医療に十分な配慮を払っているとは言えません。

わが病院も常勤医6名で小児科を運営してきましたが、現在は常勤4名体制です。私のような44歳の身には、月5回から8回の当直勤務はつらすぎます。スタッフには疲労蓄積のようすが見てとれ、これが医療ミスの原因になってはと、ハラハラの毎日です。

まもなく21世紀を迎えます。経済大国日本の首都で行われるあまりに貧弱な小児医療が、不十分な人員と陳腐化した設備の下で行われています。その場しのぎの救急、災害医療。この閉塞感の中で、私には医師という職業を続けていく気力も体力もありません」。


遺書には、小児医療に十分な配慮がなされていないこと、医療費抑制政策が病院経営を悪化させ、病院が経営効率の悪い小児科を切り捨て、病院では相次いで小児科が廃止されていることを訴えていました。

中原医師は部長代行という激務の中で、日本の小児医療を嘆いての自殺でした。中原医師の気持ちは彼だけのものではなく、小児科の勤務医はみな同じような思いをしているのです。これだけの激務に(月5回から8回の当直勤務など)耐えながら、中原医師は労災の認定を受けられませんでした。自殺当時、中原医師は月8回の徹夜の当直を行っていましたが、「当直は通常勤務であり、時間外労働には値しない。月8回の当直は激務ではなかった」というのが労災認定却下の理由でした。

このような馬鹿げた理屈に対し、医師たちはなぜ反発しないのでしょうか。日本小児科学会、日本医師会、日本弁護士連合会はなぜ黙っているのでしょうか。佼成病院は宗教団体の付属の病院です。宗教は人々の幸せのためにあるのです。なぜ人々の幸せのために闘わないのでしょうか。中原医師の成仏だけを祈る宗教団体ならば、宗教団体の看板を下ろすべきです。

年間90人以上の医師が自殺しているのです。どうでもよい研究を学会で議論するよりも、医師の過重労働は数百倍大きな問題です。これでは医師は、行政に飼いならされた奴隷以下です。筆者は中原医師の死を無駄にしたくありません。


(上掲書より)

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医師の増加を抑えること、安く叩かれた診療報酬、そのために医療現場では医師や看護師の労働に過重がかかってしまっていること、引用文中の中原医師の遺書には、現場のスタッフは疲弊しきっている、そのために医療ミスがあってはとハラハラしている、と訴えておられますが、事実、医療ミスは増加しています。それらには単純ミスが多いのです。単純なミスが増えるというのはそれだけ疲労していることが十分うかがえるのです。

この根本にあるのが、「医療費抑制政策」です。上掲書によれば、日本の医療はかつてWHOによって、世界第1位と評価したそうです。医療機関へのアクセスのよさ、高度な医療と安い診療費、平均寿命の高さと、乳児死亡率の低さ、という点が世界第1位なのです。これは素晴らしいことではないでしょうか。一方アメリカ合衆国はといえば、37位でした。アメリカは医療も「産業」なので、市場原理の下に運営されています。医療は「商品」であり、患者は「消費者」なのです。ですから貧しい人はまともな医療を受けることができません。市場原理主義のアメリカの考え方によると、「貧乏なのは本人の責任なのだから、医療を受けられないのは本人の責任」なのです。

そして日本は、小泉元首相以来、このアメリカ型の市場原理主義を導入しつつあります。まさにそれは進行しているのです。安倍首相も「改革を止めるな」という小泉キャッチフレーズを継承しています。さらに憲法の改正により、国民の権利を縮小し、国家という抽象的な概念への義務を押しつけて、アメリカと経団連の意向ばかり推し進めます。今、参院選の開票結果を見ながらこれを書いているのですが、自民党は27議席、公明党が6議席、民主党は55議席となっていて、自民党は大敗のようすなのですが、中川さんも石原さんも、これは安倍首相への不信任とは受け止めていないということを言っています。つまり安倍政権続投の意思を表明しているのです。それはつまり日本のアメリカへの属国化政治をこれからも続ける、という意味です。国民の生活を犠牲にして、経団連に迎合し、アメリカ防衛のための軍事力強化を推進し続けなければならない、という…なんでしょう、この信念は!強迫観念なのか、財界に完全に牛耳られているのか。

みなさん、年金問題に収束させようとする自民党とマスコミにだまされないでください。自民党支配には、私たちの未来を豊かにする意図がないのです。このシリーズはもう少し続けたいです。暗い話題ですが、それはつまり現実というものが暗いのです。暗いのが今の事実なんです。明るく前向き思考でいきたいのであれば、今はこの暗さを直視する必要があると思います。「医療制度改革の欺瞞(3)」では医療ミスと医療事故を書きます。みなさんが読んで下さることを強く希望します。医療は憲法で保障されたわたしたちの「生存権」の問題なのですから。


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