Luna's “ Life Is Beautiful ”

その時々を生きるのに必死だった。で、ふと気がついたら、世の中が変わっていた。何が起こっていたのか、記録しておこう。

T 子の思い出

2006年05月14日 | 一般
用事ができて、実家に戻らなければならなかったが、その帰りに通っていた中学校を通ってみた。新しい校舎などが建っていたり、校庭に植わっていた木々がなくなっていたりで、ちょっと風景も変わっていた。でも体育館は昔のままで、なつかしさを感じさせてくれた。年をとると、むかしと変わっていないものを見つけて、遠く遥かな感慨に浸れるのが心地いい。きのうの雨も上がり、よく晴れて風が心地よい涼しさで、わたしは、自分が中学生だった頃に思いをはせていた。

中学校の頃の親友でT子を思い出す。T子はしっかり者で、気が強く、人柄も大人っぽい子だった。いつもわたしの味方になってくれたし、励ましてもくれた。T子がいなければ、わたしはきっと引きこもりになっていただろう。エホバの証人ということで、いろいろと制約があって、学校行事にひとりだけ参加できなかったとき、いちばん目立つ女の子からすごい意地悪をされた。わたしがクラスでいちばん背が高かったので、おとなしいのにやたらと目立つヤツっていうことで、おもしろくなかったのだろう。でもそんな時にもT子はわたしにいつもどおりに接してくれた。先生もいい人で、わたしをすごく助けてくれた。

わたしを高校に進学させないようにさせるつもりだった親を必死に説得してくれて、3流だけれどなんとか女子高に行かせてくれた。当時は1975年で、エホバの証人にとってはハルマゲドン到来の年だったのだ。わたしはそれでもバプテスマは受けなかった。伝道がいやだったからだ。学校の友だちの家とか、わたしを嫌っているかのナンバー1の女の子とかの家なら、最悪だもん。母はそんなわたしを狂わんばかりに責めたて、なんとかバプテスマを受けさせようとした。父もわたしをひっぱたいても受けさせようとした。でもその頃には、わたしは母よりは大きくなっていたので、抵抗して押しのけたり、父の腕を制したりできたので、会衆では「ワル」のように見られていた。家庭では地獄のような毎日をわたしは送っていたのだった。

だから学校でT子と一緒にいられる時間は、とてもしあわせだった。ハルマゲドンが来ても、T子と一緒なら、死んでもいいと思っていた。T子は勉強がよくできた子だったので、市内の有名な公立進学校へ進むことになった。お別れやね。うん、でも見かけたら声をかけるようにしような。卒業式が近づいていた、小春日和の日に、いっしょに浜まで自転車で出かけた。空はほんとに春霞で、白くてまぶしく、波も穏やかで、キラキラ輝いていた。T子はそのときに、隣のクラスのある男子のことが好きだと打ち明けてくれた。知ってたよ、そんなこと。チョコレート持ってたでしょ? うん、でも渡せなかった。同じクラスなら何とかなったろうに、さすがのT子も隣のクラスに入っていく、ということはできなかったみたいだ。恋をすれば誰だって内気になっちゃうもんね。その日はきれいな夕焼けを見るまでおしゃべりして、夜に家に帰ることになってしまった。その時に撮った写真はいまでも大切に持っている。

集会を休んだので、家にはだれもいなかった。帰ってきたらまたカミナリだ。わたしはさっさと寝た。でもたたき起こされて怒鳴りつけられ、家から閉め出されそうになったが、近所の人が介入してくれてどうにかこうにか収まった。

ハルマゲドンは来なかった。4月、わたしは女子高の入学式の場にいた。T子はもういない。高校生活はわたしにとっては暗い、暗い時代だった。高校には行ったり行かなかったりで、毎年ぎりぎりの出席日数で学年をあがることになった。T子から、1年生の頃までは暑中見舞いの代わりの手紙、年賀状の代わりの手紙が来ていたが、年賀の挨拶状はわたしは出さなかった。すっかりひねくれていて、どうせT子はもっといい友だちを持っているに違いないし、あたしなんてもうどうでもいい人だと思っているに違いない、なんて考えに落ち込んでいた。

T子。今、どうしているかなあ。幸せな家庭を持っているんだろうなあ。高校を卒業して、わたしはエホバの証人になった。社会の責任から逃げたのだ。もういちど、あの頃に戻りたいなあ。今なら、その時その時に何をすべきか分かるのに。風の涼しさが、ちょうどいっしょに海に行ったときのようだったので、かなり感傷に耽ることができた。とてもしあわせな気分になれた。風に当たっているのって、わたしは好きです。身体中を通り抜けてゆくような、心が透明になるような、すがすがしい気分。でも、ほんとうは、何かを成しとげなかった後悔への感傷よりも、何かを成しとげた楽しい思い出への感傷のほうがずっと勝っている。あたしは、もうそのような思い出を今日一日、明日一日、作ることを旨として生きている。じっと年下の人と一生懸命恋をする、どんなにばかにされたって。中学校の頃、図形の問題が好きだったから、数学の独習もする、海外にどんどん旅行する。やりたいことはなんでもする。人間の命を、人生を精いっぱい使い尽くす。ニンゲンとして生まれてきたこのチャンスをおもいきり楽しもう。



「ただ、今この瞬間に生きよ」。 エピクテトス
コメント (2)
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