●基盤なき単一通貨・ユーロ
インタービュー/Prof.ハンケル : カール・シラー蔵相時代に大蔵省次官をつとめ、その後10年間、ドイツ復興銀行チーフ・エコノミストを勤める。1997年、シャハトシュナイダー、ネリング、シュターバッティーと共にユーロ導入に反対する訴えを憲法裁に行った。以下はNeue Solidaritatに掲載されたインタビュー内容である。
問: 10年以上にわたり、貴方はマーストリヒト条約及び欧州通貨同盟の先鋭な反対論者で、この問題についてコメントを行うだけでなく、政治的にも、裁判の面でも積極的に活動されていますが、その動機は何ですか?
答: 目下の状況から話を始めましょう。一体、(国民の間に渦巻いている)巨大なユーロ不信が何に起因しているのか?ここから話を戻して行きましょう。
問: 昨日、長年にわたりユーロの批判者であるZepp-LaRouche女史がドイツのマーストリヒト条約からの離脱、ドイツマルクへの復帰を要求する声明を発表し、数日前にはフランス銀行のNoyerが、通貨同盟加盟国はユーロ体制から離脱出来ると言明しています。またイタリアでもユーロについての論議が起こり、HSBC等の銀行もユーロ体制が崩壊するといったスタディーを発表しています。
答: こうした事実は初めからユーロに反対して来た者にとり満足の念を起こさせるものですが、反面、なぜ今頃になってユーロのデメリットが突然発見されたかは驚きです。こうしたデメリットはユーロが誕生する前から明瞭に分かっていたことだからです。異なる国家、国民経済をいっしょくたにした複合体に単一通貨を通用させるという試みが機能するはずがないからです。
ユーロ地域では全く歪んだ競争が進行しています。比較的貧困で、経済的に遅れた諸国が、その後進性を武器に競争を行い、後進性が競争のメリットになっています。こうした宿命的な過程の背景は、ユーロ導入によりかつての弱体通貨、資本形成の脆弱な諸国の通貨リスクがゼロになったことです。
貧困のため賃金、社会的スタンダードが低く、高価なインフラ構造もなく、それ故税金も安い諸国が、現在では税金メリット、社会保障費用、賃金面でのメリットを売り物にして、高度に発達した諸国に向けられるはずの投資を横取りしています。
我々が目下、目にしている状況----ヨーロッパ辺境諸国への投資の流出----は生産性の法則に反するまったく歪んだ(諸国間の)競争の姿です。高価なインフラ構造、高度な社会的スタンダード、高賃金を努力して獲得した生産性の高い諸国が、その豊かさのために罰を受け、資本、雇用、投資、成長ポテンシャルを失っています。
ヨーロッパ共同市場は最初の40年間、主に(各国間の)通貨競争を通じて、こうした状況が生じるのを防いで来ました。
アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリア、つい先頃までフランスも、2年ないし3年毎に通貨の切下げを行っていました。これにははっきりした理由があり、外人投資家は切下げがあれば一夜にして資本の一部を失うことを覚悟しなければなりませんでした。ドイツには強く、安定した通貨があったため、非常に大きな立地メリットがあり、外人投資家は(マルク)切り上げのメリットを享受出来、また利子率も名目、実質共にヨーロッパで一番低いという状態でした。ドイツマルクがなくなったことによりドイツは高度な生産性をもつ経済という吸引力を失いました。
それは、ヨーロッパ内での負担調整を行うためで、意図されたものだという「善良人間」もいますが、これは危険な幻想です。現在、資本形成の弱体な国々が希望に満ちた状況を呈していますが、これは長続きしません。ブームと同時にインフレが進行しているからです。目下、資本形成が弱体な諸国、すなわち貯蓄の低い諸国に巨大な資本が流れ、欧州中央銀行から低利のクレジットを受けています。こうした諸国にも資本形成が高度な諸国同様の利子率が適用されているからです。その結果はインフレです。
問: アイルランド、スペインの不動産バブルはこうしたインフレの表現ですか?
答: その通りです。目下、ユーロ通貨圏にインフレ率の格差が生じていますが、この格差は資産価格(不動産価格、証券価格等)を加えると、もっとはっきりします。
これは、欧州中央銀行がいかにお手上げ状態にあるかも示しています。辺境諸国ではインフレと戦う一方、生産性の高い諸国ではデフレ、失業と戦わねばならないからです。辺境諸国については、インフレを抑えるために利子を上げなければなりませんが、そんなことをすれば生産性の高い諸国におけるデフレ危機が更に深まり、政治紛争も拡大するでしょう。反対に欧州中央銀行が高度生産諸国の要求をのんで、利子を低くすれば、辺境諸国のインフレが更に激化します。
それではTriche総裁は何をしているかと言えば、何もせず成り行きにまかせています。これは最小の災禍かも知れませんが、これにより一方ではインフレ、他方ではデフレという状況が更に進行し、ユーロが終わりに近づいていることを示しています。
このことはグリーンスパンも認めている事実で、同氏は"The Euro may be come, but will not be sustainable."と語りました。
この発言は四教授がドイツ憲法裁に対しユーロ導入に反対する裁判を起こしたのとほぼ同じ時期になされました。
問: 1997年のことですか?
答: 1992年にシャハトシュナイダーが連邦憲法裁にマーストリヒト条約が違憲であるとの裁判を起こし、その結果「マーストリヒト判決」が出されました。この判決の基調は、「ユーロの導入は許され、ドイツ憲法に違反しない。しかし、欧州中央銀行はドイツ連銀の伝統を引き継ぎドイツマルク同様の安定性を保証しなければならない」ということで、判決理由には、「安定性の基礎がなくなれば、ドイツ政府は通貨条約から離脱することも可能である」と書かれています。1997-98年の違憲裁判で我々はこの判決を論拠として論陣をはりましたが、それは導入が予定されていたユーロがまさにこうした前提を満たせないことが明瞭だったからです。いわゆる「安定同盟」の実現は不可能です。その理由は、経済危機が生じた場合、まず税金収入が欠落し、それ故赤字が増大する---というのが我々の論拠でした。まさにこうした事態が現在、生じています。
問: ヨーロッパ通貨システムの中心的設計ミスはデフレ/インフレの同時進行であると言われましたが、なぜこうした設計ミスが明らかに存在するのにユーロ・システムが強硬に導入されたのかお話頂けますか?
答: その背景をなすのが「強制力理論」で、政治的に[初めから]ヨーロッパ合衆国をつくるのが無理なので、通貨同盟を通じてそれを達成するという考えです。まず、共通通貨を導入すれば、(各国間の)コーディネーション及び同化への強制力が非常に強くなり、通貨同盟の結果として、政治的統一も最後には自(おの)ずから実現されるという理論です。
我々は「ユーロ裁判」でこうした「強制力理論」が(計画通りに)進行することはありえないことを指摘しました。あらゆる歴史的経験に矛盾しているからで、どんな世界史、貨幣史においてもこうしたタイプの通貨同盟が長期にわたり機能したことはありませんでした。
ヨーロッパ通貨同盟の寿命はせいぜい5年から7年で、被害を受けた諸国、負け組が通貨同盟から離脱するでしょう。
異質な国々から構成されている (構造、生活維持費、1人あたりの所得格差は最低3:1 [ヨーロッパ通貨同盟に12カ国が加入していた時代の比較数値]のため、すぐに異なる利害が顕在化し、争い、紛争が生じるでしょう。これは通貨統合により達成しようとしている政治的目標とは逆の事態です。
ヨーロッパ統一通貨は、それが導入される以前に莫大な構造、財政調整を行い、(経済)格差をなくし、政治的な協調関係がつくられなければ機能しませんが、そのような関係がつくられたという根拠は過去にも現在にも全くなく、通貨同盟は構造調整、財政調整を行わずコンセプトされています。….
問: フランス、オランダでヨーロッパ憲法条約が拒否されたことは、ユーロ導入以来、生活水準が低下し、経済的・社会的不安定状態が増大していることと直接関係しているのではないのですか?
答: それが現実です。生産性の高度な諸国は負け組で、開発段階の低い諸国が見かけの繁栄をとげています。一般市民は-政治家達より賢明なので-こうしたことを良く知っており、中核をなす諸国(ドイツ、ベネルックス諸国、フランス、イタリア)が陥っている危機的状況が明瞭に統一通貨のネガティブな影響によるものであることも知っています。高度成長諸国では積極的な景気政策、雇用政策を展開出来なくなっています。ユーロ導入により通貨交換率という「静かな」調整機構がなくなり、各国の利率も固定され、安定同盟により国家財政も動きの取れない状況になっています。
積極的経済政策の4つの柱のうち3つ(通貨交換比率、利子率、国家財政)がユーロ導入により固定され、残ったのは賃金の「対応」だけになりました。これは致命的な状況で、シュレーダーの《Agenda 2010》はドイツの賃金水準をヨーロッパの平均水準に落とすための別称にすぎません。
私達はユーロ裁判の訴状及び「ユーロの幻想」という本でユーロが導入されれば社会的市場経済も、福祉国家ドイツの実現も全く不可能になることをはっきりと言明してあります。
問: 国が積極的な投資政策、雇用政策を行う能力は既に1992年のマーストリヒト条約で去勢されていますが、こうした事態が貫徹された理由は何だとお考えですか?
答: 関係諸国は異なる利害を追求し、貧しい低生産性諸国
アイルランド、スペイン、ギリシア、ポルトガル、(一定の程度まで)イタリアはユーロの導入により低利子、資本の流入を希望していました。フランスにとってはドイツマルクをなくすことが中心で、ミッテランのアドバイザー達はマーストリヒト条約がドイツにとり「第二のベルサイユ条約」であることを納得の行く形で保証しています。フランスはヨーロッパ共同市場により、ヨーロッパの諸機関を通じ、ヨーロッパを支配するという目標を追求し、ドイツマルクはそうした目標追求の邪魔者だったからです。
また、オーストリア、オランダ等の小国もドイツマルクと連動していたため、ドイツマルク圏にとどまるよりはユーロ圏に入ることを望みました。ドイツ連銀の決定にはオランダもオーストリアも参加できなかったのに対し、欧州中央銀行では共同決定権を行使出来るからです。このため、設問はなぜドイツが自己去勢、すなわち通貨権力の喪失を承認したのかということです。ワーグナーのオペラ《神々の黄昏》に見られるような国民的特性が50年毎に繰り返される結果なのか?
問: それともドイツ再統一の代償なのか? コールは1989年12月にドイツマルクを最終的に放棄したことを自分の政治家としての履歴の中で「最も暗黒な時」と言っていますが
答: しかしコールは署名する数時間前に「政治同盟が形成されなければ、通貨同盟を承認しない」と言ったばかりなのに、マーストリヒト条約に署名しました。
最も明瞭な回答は1992年に、(後に外相となった)フィッシャーから聞きました。ヨーロッパ問題についてのフランクフルト大学でのパネルディスカッションで、レペーニス(社会学者)、私、フィッシャーが基調報告をしました。レペーニスはイタリア王国に統一通貨が導入された19世紀に生じた深刻な問題について話をし、私はユーロが導入されればヨーロッパにも同様な繁栄地域と貧困地域への分裂が生ずると発言しました。するとフィッシャーは、二人の専門家の意見に賛成だが、それでも自分はマーストリヒト条約に賛成し、緑の党にこの条約に賛成するよう「指示を与えた」と発言しました。大きな沈黙が会場に広がり、やっと一人の学生が、「それは一体何故なのか」とフィッシャーに質問しました。
「アウシュヴィッツを経験した後に、ドイツの政治家は反ヨーロッパ的姿勢をとれない」からだというのがフィッシャーの答でした。ヒットラー、第二次大戦の生贄としてドイツを解体し-「紅茶に砂糖を溶かすように」(カール・シラー)
--ヨーロッパに統合する。フィッシャーの答の解釈はこれ以外にはないでしょう。これがドイツマルクと国家財政の自立性を放棄したドイツの動機です。
問: フランスはユーロ導入を強行しましたが、今では[ドイツに次ぐ]第二の敗者で、先週Christian Noyer [フランス中銀]が通貨同盟加盟国はこのユーロ・システムからの離脱が可能であると声明しています。フランスは何を考えているのですか?
答: まず指摘しておきたいのは、Noyer は全く当然のことを言っただけだと言う事です。国際法に基づく条約は常に解約が可能で、国際条約は自国の利益のために締結されるもので、そうした基盤がなくなれば、たとえ解約条項がない場合でも、グロチウスの国際法定義では、条約の合法的解約が許されます。目下の状況で皮肉なのは、[通貨同盟条約には解約条項がないのに、今回フランス、オランダ国民が拒止した]憲法条約にはそうした条項があることで、EU憲法条約が国民投票で可決されたとしたら、何も通貨同盟からの離脱の論拠にグロチウスを引っ張りださなくてもすむわけです。
というわけで、Noyer は当たり前のことを反復しただけですが、しかし現在それを行ったことにより、同氏もフランスがユーロ導入により間違ったカードをつかまされたことを理解したとの印象が強く生じます。フランス政府はマーストリヒト条約のもたらす結果を見誤り、フランス国民がその罰を下したわけです。国民の方が政治家より賢いというケースは歴史上珍しいことではありません。
問: アメリカはユーロに関し奇妙に矛盾した態度をとり、ユーロがドルの地位を脅かすのではないかという生来の不安がある一方、今ではユーロが危機に陥っていることについて人の不幸を喜ぶ態度が見られます。
反面、目下の状況(貿易、通貨)はアメリカにとっても破局的です。そこで質問ですが、ユーロ危機とドル危機は同じ硬貨の裏と表で、世界通貨システムが全体として新たなブレトンウッズ体制への再編を迫られているのではないのですか?
答: 世界中どこにも利口な政治家もいれば馬鹿な政治家もいます。アメリカの利口な政治家達はユーロが問題の解決策にはならないことを初めから知っていました。また彼らはユーロがドルの競合になることについてもそれほど心配していません。彼らの危惧は、避けることの出来ないユーロ危機がドル危機、世界経済危機、通貨危機に発展しないかということです。勿論これは現在の世界通貨システムが最善だということではありませんが、中心となる二つの通貨(ユーロとドル)が危機に陥れば、安定した世界経済の基礎がなくなります。
問: この問題には再度戻りたいと思いますが、先ずユーロ体制からの離脱の仕方について質問します。その場合、心理的ファクターも役割を果たすと思いますが、どのようなやり方で整然と離脱出来るとお考えですか?
答: 最初のステップは、ヨーロッパがユーロ導入により袋小路に入り込んでしまったという認識が増大していることで、これはフランス、オランダの国民投票の結果にも現れています。これに以下のような状況が加わります。すなわちEUが東欧諸国に拡大され、生産性の低い諸国が今まで以上に通貨同盟に加盟すれば、通貨同盟は終わりをつげます。しかし新たにEUに加盟した諸国はユーロ体制への参加を是が非でも要求し、それは外交文書化されています。これらの諸国はユーロ・システムに加盟することにより、低金利と安い資本の導入を期待しています。そうなれば、裕福さの格差は3:1ではなく、6:1に拡大します。EUの東方拡大が通貨同盟の放棄を要求するという認識をヨーロッパのエスタブリシュメントは理解する必要があります。その理由からも、ユーロに対する選択肢を探す必要があります。
問: (そうなれば)通貨同盟から離脱するという意思をドイツは明瞭に表現する必要があるわけですが、意見調整、新たな形の協力関係が考えられますか?
答: ユーロに対する選択肢がヨーロッパにおける通貨戦争や世界経済のカオスを引き起こすような事態になってはなりません。それ故、私はG7ないしG8 における意見調整が非常に重要と考えています。というのも、ヨーロッパ諸国ないし国際的な合意を得ずに一方的な行動に踏み出せば、大きな乱気流を引き起こすことになりかねないからです。ユーロの導入によりヨーロッパがダイナミックになったのではなく、ダイナマイトを抱え込むことになりました。このダイナマイトは世界金融システムを吹き飛ばしてしまうような爆破力を持っています。これはヨーロッパもアメリカも明瞭に見ておかねばならない事実です。
次のステップとして、何をユーロの選択肢とするか考える必要があります。勿論、以前の各国通貨に戻るのが理に適ったやり方で、これは疑いもなく高度工業諸国の利害と一致しますが、開発の遅れている諸国はそれに反対するでしょう。
イタリアを例にとると、リラに戻れば、大幅な切下げとなり、大きなインフレに見舞われます。
それ故、第一段階ではユーロを換算単位及びヨーロッパの通貨シンボルとして残すというのが私の考えです。そうすれば、各国通貨の換算基準が出来ます。また、1979年に造られたヨーロッパ通貨システム(EWS)の継続として通貨政策をコーディネイトする共同機関をつくればよいと思います。そうすればEZB(欧州中央銀行)は中央銀行ではなくなり、ヨーロッパのIMF となります。
問: ユーロを基準にした換算比率は、必要な場合、秩序ある形で変更出来ますが、そうすると各国通貨に戻るということですね?
答: ユーロの実験の失敗が明瞭に示しているように、ヨーロッパの各国通貨が競争することに対する選択肢は存在しません。また、各国通貨への復帰は、まだ各国に中央銀行が存在しているので、容易に出来るでしょう。欧州中央銀行が各国通貨及び中央銀行の「母親」であるといった間違った見解が広まっていますが、実際には「娘」にすぎず、欧州中央銀行の資本は各国中央銀行が出しているので、「娘」に新たな任務を与えればよいわけです。また、ユーロ紙幣を見れば、どの紙幣にも番号と文字が印刷されていますが、この文字を見れば紙幣がどの国の中央銀行で発行されたか分かります。ひょっとすると「ユーロの父親」はすでにユーロの終わりを考えていたのかも知れません。
問: すべてのユーロ紙幣を各国通貨に換算し直すことが出来るということですが、反面、ドイツはインフレの悪夢を経験しているため、多数の人が金を交換することに不安をもっています。どう対処すればよいのですか?
答: 以前のユーロ建て債権及び債務を問題なく再びドイツマルクに換算出来ることを国民に告げればよいだけです。以前の交換比率は(各国の)インフレ率が変化したため違ってきています。それ故、現実のインフレ率を考慮した換算比率を設定します。ヨーロッパ諸国間の債権、債務についても現実の交換比率を基礎にします。この通貨交換は供給面で全く問題ありません。
問: ユーロからドイツマルクへの復帰手続きの処理はそれほど複雑な事態ではないということですか?
答: その通りです。各国通貨への復帰手続きには技術的にも、経済的にも問題ありません。ただ、金がかかるだけの話で、ドイツマルクをユーロに転換した時同様、800億マルク程度かかるでしょう。この金額は当時、国が支払ったものではなく、主に民間企業が払いました。新たなコンピュータープログラムの作成費用、新たな請求書の印刷といった費用です。通貨の交換は、旧DDRマルクとドイツマルクの交換、ドイツマルクとユーロの交換という実績があるので、ほぼルーチン作業です。
問: フランスでもドゴール政権下で実施された通貨改革はポジティブな心理的効果を国民にもたらしましたが
答: 私はドイツマルクへの復帰は国民にポジティブな効果をもたらすと思います。一つだけ注意しなければならないことは、多数の国では所得の換算レートだけでなく、価格の換算レートも固定しましたが、ドイツでは価格の換算レートは経済界に一任されたため、その結果(国民は)「インフレ感」をいだいています。どのレストランもドイツマルクの値段をそのままユーロに横滑りさせ、昔 1マルクだったものを1ユーロで売っています。オランダや他の幾つかの国はずっと賢明で、法令で(各国通貨とユーロの)換算レートがすべての価格に適用されることを規定しています。それ故、ドイツマルクに復帰する時にも、価格の換算レートも----少なくとも最初の年は----法令で規定する必要があります。
問: Zepp-LaRouche女史は国際法に準拠したマーストリヒト条約からの離脱及び各国通貨の再導入の他に、1967年の安定及び成長法の効力を復帰させるよう要求していますが、これに対する貴方のお考えはどうですか?
答: ユーロ導入が連邦議会(衆院)の決議を経て決定されているため、ドイツマルクへの復帰にも連邦議会の決議が必要で、これには連邦評議会(参院)の承認を要します。これが第1ステップです。
既に述べたように、所得だけでなく、価格についても換算レートを規定するよう施行令を作成する必要があります。以前の名目換算レートをインフレ率を考慮して書き直す必要がありますが、これは技術的に全く問題ではありません。またユーロ紙幣の返還、ドイツマルク紙幣の新規発行も技術的に全く問題ではありません。
http://www.ohnichi.de/Toki/toki119.htm
http://www.ohnichi.de/Toki/toki120.htm
●2006年にドル・クラッシュ?
●世界システムの危機は11月7日の米国中間選挙をきっかけに半年~1年間の衝撃期に突入
●米国を上回るスペインの不動産バブルの破裂がユーロの信認に与える激震
【私のコメント】
現在進行形の米国の世界覇権の失墜は、近日中に米国金融市場の大波乱という形態で決定的な段階に突入することであろう。その激震は同時に、ドイツと欧州辺境地域が同じ利子率を得るというユーロという通貨の致命的欠点をさらけ出すことになるだろう。
私は以前、スペインなどの欧州辺境諸国がユーロから離脱するのではないかと想像していたが、現実にはドイツやフランスなどの経済大国がユーロを離脱して、ユーロ自体が機能しなくなり消滅に向かう可能性が高そうである。独仏+ベネルクス+オーストリアが集団でユーロを離脱して別の統一通貨を結成する可能性も完全には否定できないが、共通通貨制度失敗の衝撃の記憶が新しい期間にはそれも困難だろう。
インタービュー/Prof.ハンケル : カール・シラー蔵相時代に大蔵省次官をつとめ、その後10年間、ドイツ復興銀行チーフ・エコノミストを勤める。1997年、シャハトシュナイダー、ネリング、シュターバッティーと共にユーロ導入に反対する訴えを憲法裁に行った。以下はNeue Solidaritatに掲載されたインタビュー内容である。
問: 10年以上にわたり、貴方はマーストリヒト条約及び欧州通貨同盟の先鋭な反対論者で、この問題についてコメントを行うだけでなく、政治的にも、裁判の面でも積極的に活動されていますが、その動機は何ですか?
答: 目下の状況から話を始めましょう。一体、(国民の間に渦巻いている)巨大なユーロ不信が何に起因しているのか?ここから話を戻して行きましょう。
問: 昨日、長年にわたりユーロの批判者であるZepp-LaRouche女史がドイツのマーストリヒト条約からの離脱、ドイツマルクへの復帰を要求する声明を発表し、数日前にはフランス銀行のNoyerが、通貨同盟加盟国はユーロ体制から離脱出来ると言明しています。またイタリアでもユーロについての論議が起こり、HSBC等の銀行もユーロ体制が崩壊するといったスタディーを発表しています。
答: こうした事実は初めからユーロに反対して来た者にとり満足の念を起こさせるものですが、反面、なぜ今頃になってユーロのデメリットが突然発見されたかは驚きです。こうしたデメリットはユーロが誕生する前から明瞭に分かっていたことだからです。異なる国家、国民経済をいっしょくたにした複合体に単一通貨を通用させるという試みが機能するはずがないからです。
ユーロ地域では全く歪んだ競争が進行しています。比較的貧困で、経済的に遅れた諸国が、その後進性を武器に競争を行い、後進性が競争のメリットになっています。こうした宿命的な過程の背景は、ユーロ導入によりかつての弱体通貨、資本形成の脆弱な諸国の通貨リスクがゼロになったことです。
貧困のため賃金、社会的スタンダードが低く、高価なインフラ構造もなく、それ故税金も安い諸国が、現在では税金メリット、社会保障費用、賃金面でのメリットを売り物にして、高度に発達した諸国に向けられるはずの投資を横取りしています。
我々が目下、目にしている状況----ヨーロッパ辺境諸国への投資の流出----は生産性の法則に反するまったく歪んだ(諸国間の)競争の姿です。高価なインフラ構造、高度な社会的スタンダード、高賃金を努力して獲得した生産性の高い諸国が、その豊かさのために罰を受け、資本、雇用、投資、成長ポテンシャルを失っています。
ヨーロッパ共同市場は最初の40年間、主に(各国間の)通貨競争を通じて、こうした状況が生じるのを防いで来ました。
アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリア、つい先頃までフランスも、2年ないし3年毎に通貨の切下げを行っていました。これにははっきりした理由があり、外人投資家は切下げがあれば一夜にして資本の一部を失うことを覚悟しなければなりませんでした。ドイツには強く、安定した通貨があったため、非常に大きな立地メリットがあり、外人投資家は(マルク)切り上げのメリットを享受出来、また利子率も名目、実質共にヨーロッパで一番低いという状態でした。ドイツマルクがなくなったことによりドイツは高度な生産性をもつ経済という吸引力を失いました。
それは、ヨーロッパ内での負担調整を行うためで、意図されたものだという「善良人間」もいますが、これは危険な幻想です。現在、資本形成の弱体な国々が希望に満ちた状況を呈していますが、これは長続きしません。ブームと同時にインフレが進行しているからです。目下、資本形成が弱体な諸国、すなわち貯蓄の低い諸国に巨大な資本が流れ、欧州中央銀行から低利のクレジットを受けています。こうした諸国にも資本形成が高度な諸国同様の利子率が適用されているからです。その結果はインフレです。
問: アイルランド、スペインの不動産バブルはこうしたインフレの表現ですか?
答: その通りです。目下、ユーロ通貨圏にインフレ率の格差が生じていますが、この格差は資産価格(不動産価格、証券価格等)を加えると、もっとはっきりします。
これは、欧州中央銀行がいかにお手上げ状態にあるかも示しています。辺境諸国ではインフレと戦う一方、生産性の高い諸国ではデフレ、失業と戦わねばならないからです。辺境諸国については、インフレを抑えるために利子を上げなければなりませんが、そんなことをすれば生産性の高い諸国におけるデフレ危機が更に深まり、政治紛争も拡大するでしょう。反対に欧州中央銀行が高度生産諸国の要求をのんで、利子を低くすれば、辺境諸国のインフレが更に激化します。
それではTriche総裁は何をしているかと言えば、何もせず成り行きにまかせています。これは最小の災禍かも知れませんが、これにより一方ではインフレ、他方ではデフレという状況が更に進行し、ユーロが終わりに近づいていることを示しています。
このことはグリーンスパンも認めている事実で、同氏は"The Euro may be come, but will not be sustainable."と語りました。
この発言は四教授がドイツ憲法裁に対しユーロ導入に反対する裁判を起こしたのとほぼ同じ時期になされました。
問: 1997年のことですか?
答: 1992年にシャハトシュナイダーが連邦憲法裁にマーストリヒト条約が違憲であるとの裁判を起こし、その結果「マーストリヒト判決」が出されました。この判決の基調は、「ユーロの導入は許され、ドイツ憲法に違反しない。しかし、欧州中央銀行はドイツ連銀の伝統を引き継ぎドイツマルク同様の安定性を保証しなければならない」ということで、判決理由には、「安定性の基礎がなくなれば、ドイツ政府は通貨条約から離脱することも可能である」と書かれています。1997-98年の違憲裁判で我々はこの判決を論拠として論陣をはりましたが、それは導入が予定されていたユーロがまさにこうした前提を満たせないことが明瞭だったからです。いわゆる「安定同盟」の実現は不可能です。その理由は、経済危機が生じた場合、まず税金収入が欠落し、それ故赤字が増大する---というのが我々の論拠でした。まさにこうした事態が現在、生じています。
問: ヨーロッパ通貨システムの中心的設計ミスはデフレ/インフレの同時進行であると言われましたが、なぜこうした設計ミスが明らかに存在するのにユーロ・システムが強硬に導入されたのかお話頂けますか?
答: その背景をなすのが「強制力理論」で、政治的に[初めから]ヨーロッパ合衆国をつくるのが無理なので、通貨同盟を通じてそれを達成するという考えです。まず、共通通貨を導入すれば、(各国間の)コーディネーション及び同化への強制力が非常に強くなり、通貨同盟の結果として、政治的統一も最後には自(おの)ずから実現されるという理論です。
我々は「ユーロ裁判」でこうした「強制力理論」が(計画通りに)進行することはありえないことを指摘しました。あらゆる歴史的経験に矛盾しているからで、どんな世界史、貨幣史においてもこうしたタイプの通貨同盟が長期にわたり機能したことはありませんでした。
ヨーロッパ通貨同盟の寿命はせいぜい5年から7年で、被害を受けた諸国、負け組が通貨同盟から離脱するでしょう。
異質な国々から構成されている (構造、生活維持費、1人あたりの所得格差は最低3:1 [ヨーロッパ通貨同盟に12カ国が加入していた時代の比較数値]のため、すぐに異なる利害が顕在化し、争い、紛争が生じるでしょう。これは通貨統合により達成しようとしている政治的目標とは逆の事態です。
ヨーロッパ統一通貨は、それが導入される以前に莫大な構造、財政調整を行い、(経済)格差をなくし、政治的な協調関係がつくられなければ機能しませんが、そのような関係がつくられたという根拠は過去にも現在にも全くなく、通貨同盟は構造調整、財政調整を行わずコンセプトされています。….
問: フランス、オランダでヨーロッパ憲法条約が拒否されたことは、ユーロ導入以来、生活水準が低下し、経済的・社会的不安定状態が増大していることと直接関係しているのではないのですか?
答: それが現実です。生産性の高度な諸国は負け組で、開発段階の低い諸国が見かけの繁栄をとげています。一般市民は-政治家達より賢明なので-こうしたことを良く知っており、中核をなす諸国(ドイツ、ベネルックス諸国、フランス、イタリア)が陥っている危機的状況が明瞭に統一通貨のネガティブな影響によるものであることも知っています。高度成長諸国では積極的な景気政策、雇用政策を展開出来なくなっています。ユーロ導入により通貨交換率という「静かな」調整機構がなくなり、各国の利率も固定され、安定同盟により国家財政も動きの取れない状況になっています。
積極的経済政策の4つの柱のうち3つ(通貨交換比率、利子率、国家財政)がユーロ導入により固定され、残ったのは賃金の「対応」だけになりました。これは致命的な状況で、シュレーダーの《Agenda 2010》はドイツの賃金水準をヨーロッパの平均水準に落とすための別称にすぎません。
私達はユーロ裁判の訴状及び「ユーロの幻想」という本でユーロが導入されれば社会的市場経済も、福祉国家ドイツの実現も全く不可能になることをはっきりと言明してあります。
問: 国が積極的な投資政策、雇用政策を行う能力は既に1992年のマーストリヒト条約で去勢されていますが、こうした事態が貫徹された理由は何だとお考えですか?
答: 関係諸国は異なる利害を追求し、貧しい低生産性諸国
アイルランド、スペイン、ギリシア、ポルトガル、(一定の程度まで)イタリアはユーロの導入により低利子、資本の流入を希望していました。フランスにとってはドイツマルクをなくすことが中心で、ミッテランのアドバイザー達はマーストリヒト条約がドイツにとり「第二のベルサイユ条約」であることを納得の行く形で保証しています。フランスはヨーロッパ共同市場により、ヨーロッパの諸機関を通じ、ヨーロッパを支配するという目標を追求し、ドイツマルクはそうした目標追求の邪魔者だったからです。
また、オーストリア、オランダ等の小国もドイツマルクと連動していたため、ドイツマルク圏にとどまるよりはユーロ圏に入ることを望みました。ドイツ連銀の決定にはオランダもオーストリアも参加できなかったのに対し、欧州中央銀行では共同決定権を行使出来るからです。このため、設問はなぜドイツが自己去勢、すなわち通貨権力の喪失を承認したのかということです。ワーグナーのオペラ《神々の黄昏》に見られるような国民的特性が50年毎に繰り返される結果なのか?
問: それともドイツ再統一の代償なのか? コールは1989年12月にドイツマルクを最終的に放棄したことを自分の政治家としての履歴の中で「最も暗黒な時」と言っていますが
答: しかしコールは署名する数時間前に「政治同盟が形成されなければ、通貨同盟を承認しない」と言ったばかりなのに、マーストリヒト条約に署名しました。
最も明瞭な回答は1992年に、(後に外相となった)フィッシャーから聞きました。ヨーロッパ問題についてのフランクフルト大学でのパネルディスカッションで、レペーニス(社会学者)、私、フィッシャーが基調報告をしました。レペーニスはイタリア王国に統一通貨が導入された19世紀に生じた深刻な問題について話をし、私はユーロが導入されればヨーロッパにも同様な繁栄地域と貧困地域への分裂が生ずると発言しました。するとフィッシャーは、二人の専門家の意見に賛成だが、それでも自分はマーストリヒト条約に賛成し、緑の党にこの条約に賛成するよう「指示を与えた」と発言しました。大きな沈黙が会場に広がり、やっと一人の学生が、「それは一体何故なのか」とフィッシャーに質問しました。
「アウシュヴィッツを経験した後に、ドイツの政治家は反ヨーロッパ的姿勢をとれない」からだというのがフィッシャーの答でした。ヒットラー、第二次大戦の生贄としてドイツを解体し-「紅茶に砂糖を溶かすように」(カール・シラー)
--ヨーロッパに統合する。フィッシャーの答の解釈はこれ以外にはないでしょう。これがドイツマルクと国家財政の自立性を放棄したドイツの動機です。
問: フランスはユーロ導入を強行しましたが、今では[ドイツに次ぐ]第二の敗者で、先週Christian Noyer [フランス中銀]が通貨同盟加盟国はこのユーロ・システムからの離脱が可能であると声明しています。フランスは何を考えているのですか?
答: まず指摘しておきたいのは、Noyer は全く当然のことを言っただけだと言う事です。国際法に基づく条約は常に解約が可能で、国際条約は自国の利益のために締結されるもので、そうした基盤がなくなれば、たとえ解約条項がない場合でも、グロチウスの国際法定義では、条約の合法的解約が許されます。目下の状況で皮肉なのは、[通貨同盟条約には解約条項がないのに、今回フランス、オランダ国民が拒止した]憲法条約にはそうした条項があることで、EU憲法条約が国民投票で可決されたとしたら、何も通貨同盟からの離脱の論拠にグロチウスを引っ張りださなくてもすむわけです。
というわけで、Noyer は当たり前のことを反復しただけですが、しかし現在それを行ったことにより、同氏もフランスがユーロ導入により間違ったカードをつかまされたことを理解したとの印象が強く生じます。フランス政府はマーストリヒト条約のもたらす結果を見誤り、フランス国民がその罰を下したわけです。国民の方が政治家より賢いというケースは歴史上珍しいことではありません。
問: アメリカはユーロに関し奇妙に矛盾した態度をとり、ユーロがドルの地位を脅かすのではないかという生来の不安がある一方、今ではユーロが危機に陥っていることについて人の不幸を喜ぶ態度が見られます。
反面、目下の状況(貿易、通貨)はアメリカにとっても破局的です。そこで質問ですが、ユーロ危機とドル危機は同じ硬貨の裏と表で、世界通貨システムが全体として新たなブレトンウッズ体制への再編を迫られているのではないのですか?
答: 世界中どこにも利口な政治家もいれば馬鹿な政治家もいます。アメリカの利口な政治家達はユーロが問題の解決策にはならないことを初めから知っていました。また彼らはユーロがドルの競合になることについてもそれほど心配していません。彼らの危惧は、避けることの出来ないユーロ危機がドル危機、世界経済危機、通貨危機に発展しないかということです。勿論これは現在の世界通貨システムが最善だということではありませんが、中心となる二つの通貨(ユーロとドル)が危機に陥れば、安定した世界経済の基礎がなくなります。
問: この問題には再度戻りたいと思いますが、先ずユーロ体制からの離脱の仕方について質問します。その場合、心理的ファクターも役割を果たすと思いますが、どのようなやり方で整然と離脱出来るとお考えですか?
答: 最初のステップは、ヨーロッパがユーロ導入により袋小路に入り込んでしまったという認識が増大していることで、これはフランス、オランダの国民投票の結果にも現れています。これに以下のような状況が加わります。すなわちEUが東欧諸国に拡大され、生産性の低い諸国が今まで以上に通貨同盟に加盟すれば、通貨同盟は終わりをつげます。しかし新たにEUに加盟した諸国はユーロ体制への参加を是が非でも要求し、それは外交文書化されています。これらの諸国はユーロ・システムに加盟することにより、低金利と安い資本の導入を期待しています。そうなれば、裕福さの格差は3:1ではなく、6:1に拡大します。EUの東方拡大が通貨同盟の放棄を要求するという認識をヨーロッパのエスタブリシュメントは理解する必要があります。その理由からも、ユーロに対する選択肢を探す必要があります。
問: (そうなれば)通貨同盟から離脱するという意思をドイツは明瞭に表現する必要があるわけですが、意見調整、新たな形の協力関係が考えられますか?
答: ユーロに対する選択肢がヨーロッパにおける通貨戦争や世界経済のカオスを引き起こすような事態になってはなりません。それ故、私はG7ないしG8 における意見調整が非常に重要と考えています。というのも、ヨーロッパ諸国ないし国際的な合意を得ずに一方的な行動に踏み出せば、大きな乱気流を引き起こすことになりかねないからです。ユーロの導入によりヨーロッパがダイナミックになったのではなく、ダイナマイトを抱え込むことになりました。このダイナマイトは世界金融システムを吹き飛ばしてしまうような爆破力を持っています。これはヨーロッパもアメリカも明瞭に見ておかねばならない事実です。
次のステップとして、何をユーロの選択肢とするか考える必要があります。勿論、以前の各国通貨に戻るのが理に適ったやり方で、これは疑いもなく高度工業諸国の利害と一致しますが、開発の遅れている諸国はそれに反対するでしょう。
イタリアを例にとると、リラに戻れば、大幅な切下げとなり、大きなインフレに見舞われます。
それ故、第一段階ではユーロを換算単位及びヨーロッパの通貨シンボルとして残すというのが私の考えです。そうすれば、各国通貨の換算基準が出来ます。また、1979年に造られたヨーロッパ通貨システム(EWS)の継続として通貨政策をコーディネイトする共同機関をつくればよいと思います。そうすればEZB(欧州中央銀行)は中央銀行ではなくなり、ヨーロッパのIMF となります。
問: ユーロを基準にした換算比率は、必要な場合、秩序ある形で変更出来ますが、そうすると各国通貨に戻るということですね?
答: ユーロの実験の失敗が明瞭に示しているように、ヨーロッパの各国通貨が競争することに対する選択肢は存在しません。また、各国通貨への復帰は、まだ各国に中央銀行が存在しているので、容易に出来るでしょう。欧州中央銀行が各国通貨及び中央銀行の「母親」であるといった間違った見解が広まっていますが、実際には「娘」にすぎず、欧州中央銀行の資本は各国中央銀行が出しているので、「娘」に新たな任務を与えればよいわけです。また、ユーロ紙幣を見れば、どの紙幣にも番号と文字が印刷されていますが、この文字を見れば紙幣がどの国の中央銀行で発行されたか分かります。ひょっとすると「ユーロの父親」はすでにユーロの終わりを考えていたのかも知れません。
問: すべてのユーロ紙幣を各国通貨に換算し直すことが出来るということですが、反面、ドイツはインフレの悪夢を経験しているため、多数の人が金を交換することに不安をもっています。どう対処すればよいのですか?
答: 以前のユーロ建て債権及び債務を問題なく再びドイツマルクに換算出来ることを国民に告げればよいだけです。以前の交換比率は(各国の)インフレ率が変化したため違ってきています。それ故、現実のインフレ率を考慮した換算比率を設定します。ヨーロッパ諸国間の債権、債務についても現実の交換比率を基礎にします。この通貨交換は供給面で全く問題ありません。
問: ユーロからドイツマルクへの復帰手続きの処理はそれほど複雑な事態ではないということですか?
答: その通りです。各国通貨への復帰手続きには技術的にも、経済的にも問題ありません。ただ、金がかかるだけの話で、ドイツマルクをユーロに転換した時同様、800億マルク程度かかるでしょう。この金額は当時、国が支払ったものではなく、主に民間企業が払いました。新たなコンピュータープログラムの作成費用、新たな請求書の印刷といった費用です。通貨の交換は、旧DDRマルクとドイツマルクの交換、ドイツマルクとユーロの交換という実績があるので、ほぼルーチン作業です。
問: フランスでもドゴール政権下で実施された通貨改革はポジティブな心理的効果を国民にもたらしましたが
答: 私はドイツマルクへの復帰は国民にポジティブな効果をもたらすと思います。一つだけ注意しなければならないことは、多数の国では所得の換算レートだけでなく、価格の換算レートも固定しましたが、ドイツでは価格の換算レートは経済界に一任されたため、その結果(国民は)「インフレ感」をいだいています。どのレストランもドイツマルクの値段をそのままユーロに横滑りさせ、昔 1マルクだったものを1ユーロで売っています。オランダや他の幾つかの国はずっと賢明で、法令で(各国通貨とユーロの)換算レートがすべての価格に適用されることを規定しています。それ故、ドイツマルクに復帰する時にも、価格の換算レートも----少なくとも最初の年は----法令で規定する必要があります。
問: Zepp-LaRouche女史は国際法に準拠したマーストリヒト条約からの離脱及び各国通貨の再導入の他に、1967年の安定及び成長法の効力を復帰させるよう要求していますが、これに対する貴方のお考えはどうですか?
答: ユーロ導入が連邦議会(衆院)の決議を経て決定されているため、ドイツマルクへの復帰にも連邦議会の決議が必要で、これには連邦評議会(参院)の承認を要します。これが第1ステップです。
既に述べたように、所得だけでなく、価格についても換算レートを規定するよう施行令を作成する必要があります。以前の名目換算レートをインフレ率を考慮して書き直す必要がありますが、これは技術的に全く問題ではありません。またユーロ紙幣の返還、ドイツマルク紙幣の新規発行も技術的に全く問題ではありません。
http://www.ohnichi.de/Toki/toki119.htm
http://www.ohnichi.de/Toki/toki120.htm
●2006年にドル・クラッシュ?
●世界システムの危機は11月7日の米国中間選挙をきっかけに半年~1年間の衝撃期に突入
●米国を上回るスペインの不動産バブルの破裂がユーロの信認に与える激震
【私のコメント】
現在進行形の米国の世界覇権の失墜は、近日中に米国金融市場の大波乱という形態で決定的な段階に突入することであろう。その激震は同時に、ドイツと欧州辺境地域が同じ利子率を得るというユーロという通貨の致命的欠点をさらけ出すことになるだろう。
私は以前、スペインなどの欧州辺境諸国がユーロから離脱するのではないかと想像していたが、現実にはドイツやフランスなどの経済大国がユーロを離脱して、ユーロ自体が機能しなくなり消滅に向かう可能性が高そうである。独仏+ベネルクス+オーストリアが集団でユーロを離脱して別の統一通貨を結成する可能性も完全には否定できないが、共通通貨制度失敗の衝撃の記憶が新しい期間にはそれも困難だろう。
偶然、このブログと記事を見つけたのですが、正直、驚きました。ただただ、驚きました。2006年の年末の時点で、この記事ですか。。。。
これから、ちょくちょく目を通すようにします。
いや、驚きです。