Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

バケモノの子

2015年09月03日 | 2010年代 邦

バケモノの子  The Boy and The Beast

2015年 日本〈アニメーション〉
監督・脚本:細田守
製作:齋藤優一郎、伊藤卓哉、千葉淳、川村元気
声の出演:役所広司、宮崎あおい、染谷将太、広瀬すず、山路和弘、津川雅彦、リリー・フランキー、大泉洋、宮野真守、山口勝平、黒木華、大野百花
キャラクターデザイン:細田守、山下高明、伊賀大介
作画監督:山下高明、西田達三
美術監督:大森祟、高松洋平、西川洋一
編集:西山茂
音楽:高木正勝


 東京都・渋谷をさまよう身よりのない9歳の少年は、バケモノの“熊徹”の後を追って、もう一つの世界【渋天街(バケモノ界)】へと入り込む。少年は“九太”と呼ばれ、弟子をほしがっていた熊徹に武術を習い育てられることになった。

 【渋天街】は、市場が立ち並ぶ賑やかな街で、バケモノたちが所狭しと行き交いしている。まず「向こう側の世界」に広がる光景がどれだけ魅力的なものか、というのが冒険物語において重要なところだと思うのだけれども、さほど異世界感は無い。人間と同じようなものを食べて一戸建ての家に住んでいるし、バケモノたちの造形もデフォルメ感なく、獣を人化して特徴を無くしたような、いや人を少し獣っぽくしたような。。。武骨な熊徹に九太の世話ができるのかと案じて日参する多々良と百秋坊、そっと見守ってくれている長老の宗師もいて、どうも安心安全な世界に見える。

 しかもバケモノ界では、人間は心に「闇」を宿して災いを呼ぶと言われ、避けられるという設定・・・! ということは、この獣人たちには心の闇が無いのだよね? それじゃあ人間の方がよっぽどバケモノっぽいじゃないか、と思う。天井対決であるはずの熊徹と、そのライバル・猪王山の戦いより、バケモノの子たち(九太と一郎彦)の戦いの方がよっぽど壮大でデンジェラスだし。

 九太は成長とともに人間界に惹かれていき、同じ年代の女の子を気にかけたり大学受験を考えたりして、異世界で育った割には「フツ―」の男の子になっていくようにみえる。しかし彼にとっては、自由気ままなバケモノ界よりも、人間界になじんでいく方がよっぽど冒険だろう。仮想現実に身も心もどっぷり浸した若者が、進路相談を前に現実へと目を向けていくよう。今やリアルも仮想現実のひとつかも知れないけど、ただ実生活には無数のルールがあるし自分自身や他人の心の闇とも闘っていかなくてはいけない。これは、逆冒険譚なのだなと思った。