Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

ベイビー大丈夫かっ BEATCHILD1987

2014年01月21日 | ロック映画、映像

「ベイビー大丈夫かっ BEATCHILD1987」

2013年 日本
監督:佐藤輝


1987年8月、熊本県阿蘇で開催された日本初のオールナイト・ロックフェスティバルを追ったドキュメンタリー。
しかし収められているのは、ただのライブ画像ではない。
これを観ると、日本って凄いなと色んな意味で感じられる。

THE BLUE HEARTS、RED WARRIERS、岡村靖幸、HOUND DOG、BOØWY 、尾崎豊、佐野元春・・・
と蒼々たるロックスターが出演した「BEAT CHILD」には、予定数を遥かに超える約7万2千人の観客が集まった。
その開演前に突然の豪雨が襲い、草地の会場をぬかるみにし、ライブ前の興奮に包まれた観客たちをひどい勢いで打ち付けていった。
イベントが中止になってしまうのではないか、不安な表情の人々も少なくない。
スタッフも雨の中での機材搬入や送り迎えに時間をとられ、てんやわんやだった。

そんな中、会場に到着した甲本ヒロトは「おい、最高だな♪」と満面の笑顔。
間違いなく会場の誰よりもテンションが高く、この人がすべての雰囲気を変えていく。
楽屋でも「うわあ、すごい雨だな!」「今日は盛り上がるな!!」と本当に嬉しそうだ。
まだオープニングだからとか、この後の記録的豪雨を知らないからとか、そういう問題じゃない。
たとえば世界中がどしゃぶりの雨だろうとゲラゲラ笑えるんだ。 
ヒロトの盛り上がるな!の言葉通り、THE BLUE HEARTSのステージが始まると7万人が息を吹き返し、踊り狂った。

しかし雨はさらに強さを増し、岡村靖幸がステージに立つ頃には、歓声をあげる観客の姿も、雨と雷と闇に紛れて目では見ることができなくなってしまう。

豪雨によって何度となく機材のセッティングが立ち往生し、約1時間半遅れの状態で白井貴子がステージに立った。
こわばる表情を隠して、必死の笑顔を振りまく。
ギターがイカれて鳴らなくなっても、バンドが奥に引っ込んでも、一人きりで広いステージを走り回り、笑顔、笑顔、笑顔。
渡辺美里のような圧倒的なパワーではない。けれど、気迫のこもったステージだった。
なんていうか、奮い立たされずにはいられない。

雨粒まみれの映像をずっと観ているうちに、自分自身も雨に打たれているような感覚に陥る。
身体は冷え、心は燃えている。
HOUND DOGもBOØWYも渾身のパフォーマンスだった!
どしゃ降りの雨ゆえに引き出され、むき出しになる。

大雨警報が出され、記録的な豪雨の中で始まった尾崎豊のステージも凄まじかった。
体調不良で倒れる人が続出し、救急車がひっきりなしに病人を搬送している。
混沌を極める中で、雨にまみれ、水たまりに突っ伏していく尾崎の姿。
激しい歌声に胸をうたれるが、それとは全く逆に好天で行われた前日リハーサルの際のくだけた表情も印象的。

そして、やっとやっと雨は止み、大雨と泥濘とロックンロールに包まれた長い夜が明ける。
佐野元春の「SOMEDAY」が会場一帯に、みんなの心に響き渡る。
なんていう泥の中の大団円!
しかもプロデューサーの春名さんのオチ!つき。

いやあ、凄いなあ。
過酷を極める状態だったとは思うけど、そこに居た人たちを羨ましくも思う。
音楽はやっぱり魂で聴くもんだなあ。