Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

帰ってきたヒトラー

2016年07月16日 | 2010年代 欧州
帰ってきたヒトラー(原題:Er ist wieder da)

2015年 ドイツ
監督:デビッド・ベンド
製作:クリストフ・ムーラー、ラース・ディートリヒ
製作総指揮:オリバー・ベルビン、マーティン・モスコウィック
出演:オリバー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルプスト、カーチャ・リーマン、フランツィシカ・ウルフ、ラルス・ルドルフ、トマス・ティーマ
撮影:ハンノ・レンツ
編集:アンドレアス・ボドラシュケ
音楽:エニス・ロトホフ
美術:ジェニー・ルースラー
衣装:エルケ・フォン・ジバース


土曜日の昼間の回を狙って上映15分前に伏見ミリオン座へ着いたら、すでに満席売り切れだった。翌週、再チャレンジのために早めに行ってチケットを買うことができた。ヒトラーはやっぱり人気あるなあと感心しつつ、見終わって納得だった。

ティムール・ベルメシュのベストセラー本を原作とする秀逸な風刺劇。単なるキワモノタイムスリップではなく、現代ドイツに暮らす人々の声を採り入れる半ドキュメンタリー形式が新鮮かつ辛辣。おもしろくて、頭の中がムズムズした~。2014年地点のドイツが舞台だけど、刻々と社会情勢は変化しているし2016年Ver.だったら、とか想像しても楽しいな。



物語は、突如として現代に目覚めた独裁者ヒトラーが、物まね芸人と勘違いされてテレビやYouTubeで人気を博していく姿を描く。はじめは敵国の策略かと疑うヒトラーだが、すぐさま状況を理解し、情報を収集させ、現代ドイツを理解しようとする。リストラされたテレビマンとともにドイツ国内をまわって番組づくりをする中で、一般の人々から国への不満を尋ねてまわり、自身の支持者を増やしていく。

そのやり方がもう・・・。町を歩く一人一人に声をかけ、あなたの不満は何? そう、強いリーダーが必要だ、僕が何とかしよう、と励ます好漢ぶり。実際にカメラを向けられている人々は映画の撮影だと認識しているこその笑顔と発言だろうし、十分に選定されていると思うけど、洗脳されるよね、これは。

「ヒトラー」の格好を市民に批判されても、今度は失敗しないよ、と既に過去の過ちをすんなり受け入れている新ヒトラー像が実に爽やかに映る。そして同時に軽々と手玉にとられてしまう恐ろしさも感じた。民意など、いくらでも作られる。番組づくりに関わるテレビマンたちがヒトラーに翻弄されまくる右往左往ぶりも合わせて見事だと思った。

黒いスーツを着た男

2016年05月17日 | 2010年代 欧州
黒いスーツを着た男(原題:Trois mondes )

2012年 フランス=モルドバ
監督:カトリーヌ・コルシニ
製作:ファビエンヌ・ヴォニエ
脚本:カトリーヌ・コルシニ、ブノワ・グラファン
出演:ラファエル・ペルソナ-ス、クロチルド・エム、アルタ・ドブロシ、レダ・カティブ、アルバン・オマル、アデル・エネル
撮影:クレール・マトン
音楽:グレゴワール・エッツェル


真夜中のパリ。

酔っ払って友人と騒ぎながら運転していたアルは1人の男をひき逃げした。彼は勤務先である車販売会社の社長令嬢との結婚を間近に控え、貧乏な生活から抜け出すチャンスを逃したくなかった。

自宅の窓から事故を目撃していたジュリエットは慌てて路上に出て救急車をよび、被害者に付き添う。翌日も様子が気になって病院へと様子を見に行き、被害者の家族とも連絡をとり、深く同情する。

被害者の妻のヴィラは、不法滞在しているモルドバ人で経済的にも余裕がなく、不意の事故に戸惑うばかり。病院や警察とのやりとりにも困り、ジュリエットを頼りにする。

この3人の倫理観が不安定で、なんとも辛い。こんなこと、日本では・・・なんて言い切れない。家族や恋人、勤務先、学校やらに隠匿しようと思えば、噓は積み重なっていく。
世の中は理不尽で、人びとは脆い。原題はTrois mondes=3人の世界なのに、邦題は「黒いスーツを着た男」。つまり日本でいえば、どこにでもいるってこと。

夜のパリで美男美女が密会しているにも関わらず、ひとかけらもロマンチックにみえなかった。やりきれない気持ちになる。

クーキー

2015年10月06日 | 2010年代 欧州
クーキー(原題:Kuky se vraci)

2010年 チェコ 
監督・製作・脚本:ヤン・スヴェラーク
出演:オンジェイ・スヴェラーク、 ズディニェク・スヴェラーク、オールドリッチ・カイザー
撮影:ウラジミール・スムットニー
音楽:ミハル・ノビンスキキャスト


汚れて古傷だらけのテディベア“クーキー”は、それでもオンドラのお気に入り。しかし、喘息が悪化するからとオンドラの母親に捨てられてしまいます。収集車に連れ去られ、ゴミ捨て場の山にうち捨てられたクーキーは、オンドラの待つ家へ帰るために、歩き出します。



パペットたちが繰り広げるファンタジックで、ミニチュアな世界。かわいらしさ満点のスクリーンのはずが、今やパペットたちの生活にもいろいろあるようで・・・。心から安心できる場面がほんのわずかというドタッバタッアクションが次々に巻き起こります。森の中で保護してくれた“村長”には邪険にされるし、ゴミ捨て場からは見張り役の“ゴミ袋”!が追いかけてきて次期村長とグルになってしまうし、カーチェイスになれば積み荷に火をつけられるし、早く走り過ぎるとなぜか雪が降り出して大雪に埋もれるしで、一ひねりも二ひねりもしてあるとゆうか、まーとにかく大変。クーキーの冒険は世知辛いのです(手加減してあげて、クーキーはCGじゃないんだよ。生身なんだよっ)。

 そんな中で、6歳の男の子オンドラが自分の大切なテディベアを信じる気持ちが輝いてみえます。離れていても、強い絆を感じさせるオンドラとクーキー。子どもたちが持つ特別な時間を描き、最後にはオンドラが観客のこころを全部持ってっちゃう気がします。

彼は秘密の女ともだち

2015年09月10日 | 2010年代 欧州
彼は秘密の女ともだち(原題:Une nouvelle amie)

2014年 フランス
監督・脚本:フランソワ・オゾン
製作:エリック・アルトメイヤー、ニコラ・アルトメイヤー
原案:ルース・レンデル
出演:ロマン・デュリス、アナイス・ドゥムースティエ、ラファエル・ペルソナース、イジルド・ル・ベスコ、オーロール・クレマンリ
撮影:パスカル・マルティ
編集:ロール・ガルデット
音楽:フィリップ・ロンビ
衣装:パスカリーヌ・シャバンヌ
美術:ミシェル・バルテレミ

 名前をつけてしまったのがいけないのだ、と思う。
 彼である「彼女」を“ヴィルジニア“と呼ぶようになったのはクレールだった。



 幼なじみで学生時代、結婚後もずっと親友だったローラが亡くなった。クレールは、悲しみの中で、ローラの娘と夫をこれからも見守っていくと誓う。葬儀からしばらくして、クレールが様子をみに家を訪れると、ローラの夫ダヴィッドは女装をして娘をあやしていた。驚くクレールに、ダヴィッドは以前から女装の趣味があり、ローラも理解してくれていたと打ち明けたのだった。

はじめは女装に猛反対するクレールだったが、周囲にバレないよう協力するうちに“ヴィルジニア“を受け入れ、女友達として距離を縮めていく。それは、刺激的な冒険を味わう共犯者のようでもあり、憧れ続けたローラの存在と重ねるようでもあり・・・。

 徐々に“ヴィルジニア“と化していくダヴィッドは、単に女物の衣装や化粧を楽しんでいた時とは違う、女性らしい表情を身につけていく。名付ければ、そこから「人格」が生まれる。<本当の自分>なんて無いのだ。亡きローラの存在が強烈な影を落とし、二人を包んでいく。

 クレールが叫ぶ「ローラを裏切れない」という言葉は、観客に対する罠だ。夫、じゃないんだ。そうか、夫のことはとうの昔に裏切っている。性の多様性は、誰の中にでも潜むのだろうと思わされる。

 でもってダイバーシティの渦に呑み込ませようとする監督の手腕ときたら、自然と舌を巻いてしまう。ラファエル・ペルソナースにも無理やり口紅塗ったり妄想シャワーシーン入れたりとかサービスショット満載ぶりにも脱帽。や、多謝。

 劇場を出たときにすれ違ったカップルが「ハッピーエンドだったね」と感想をささやきあっているのを耳にして、ぐぐっと凹んでしまった。誰かのハッピーエンドは、誰かのバッドエンド。私の場合はペルソナース目線で観ているからに過ぎないのだけど。彼があまりにも良い旦那さんを演じているからこそ、なんだか悲しくてしょうがなかった。

プレイヤー

2015年07月22日 | 2010年代 欧州

プレイヤー(原題:Les Infidèles)
 

2012年 フランス
監督:フレッド・カヴァイエ、アレクサンドル・クールテ、ミシェル・アザナヴィシウス、エリック・ラルティゴ、エマニュエル・ベルコ、ジャン・デュジャルダン、ジル・ルルーシュ
製作:ジャン・デュジャルダン、マルク・デュジャルダン、エリック・アネゾ、ギヨーム・ラクロワ
製作総指揮:パトリック・バトー
脚本:ジャン・デュジャルダン、ジル・ルルーシュ 他
出演:ジャン・デュジャルダン、ジル・ルルーシュ、ギヨーム・カネ、マヌ・ペイエ、サンドリーヌ・キベルラン、クララ・ポンソ

 

 浮気好きな男たちが悪戦苦闘するオムニバス・コメディ。
 一話ごとに監督は違うけれど、全体を取り仕切っているのはジャン・デュジャルダンのよう。コメディアンとしての本領発揮で、脚本や演出にも関わり、かなりの鬱屈ぶり、いや、こだわりが見てとれる。全体のテイストは揃えられ、あくまで大真面目の演技でいどむジャン・デュジャルダンとジル・ルルーシュが入れ替わり立ち替わりに、浮気男を演じまくる。

 「だから男は仕方ないんだ」、なんていう開き直りがシーンの端々から大声で聞こえてくる。
 うんざりしそうなところにきて、妙に納得してしまう笑撃のラスト!!
 
 この人たち、絶対浮気してるよね、と思わせるのは演技力ゆえ?
 が、そこにギョーム・カネを巻き込まないでほしい・・・。
 日本で言ったら松山ケンイチを引っ張り込むくらい罪深いことだと思うけど。