蒼ざめた馬の “一人ブラブラ、儚く、はてしなく”

山とスキー、車と旅、そして一人の生活

身近に存在していたフタマタ、メカケのショ~もない実話-その2

2012-05-30 23:56:51 | 駆け抜けた一回性の記憶

阪神大震災の翌春、まだ周りにはまだ沢山の空き地が目立っていた頃。

「あの娘ォ、フタマタかけとったらしいなぁ」、5年前まで勤めていた特殊機械メーカーの営業トップは、ニャ~っと笑ってそう言った。
「あの娘ォ」とは、神戸営業所員A君の不倫相手で、技術部員B君の不倫相手でもあった。二人とも身長180センチ前後、しかし先頭に立つような、集団の中で目立つような派手さはなかった。
但し、不倫時期が重なっていたかどうか、つまり「フタマタ」かどうかは知らない。営業トップは「フタマタ」と言う事にして楽しんでいる様だった。

営業部のA君は、阪神大震災の1年ほど前、東京から転勤して来た若者で、数年後に予定されていた広島営業所の開設要員。第2子(娘)が生まれたばかりだった。
技術部のB君は、その頃から増え出した女子派遣社員とのウワサが色々あって、そう言えば何かの宴会でもそんな女性の側に座って、楽しそうにしていた。中学生くらいの娘がいたはずだ。

そして二人の不倫のお相手の「あの娘ォ」は、技術部の派遣社員。
女性なのに遅くまで仕事をしていて、見積に添付する特殊なタイプの図面を、夜遅くても捜してくれたりして、営業にとってもアリガタイ存在だった。
華やかさや色気を感じさせないガンバリ屋サン、ワタクシ、酔った時には「あの娘ォ、ええなぁ」と、一人はしゃいでいた。

その夜は阪神大震災の一周忌の月末。

毎年1月のオーダーは寂しく、その年も一層寂しかった。
自身の受注も営業所の受注もエゲツない結果になりかけたが、欲しかったオーダーがギリギリに決まって、夜遅くまでその処理をし、何とか体裁を保つことは出来た。
そして明日は四国へ出張。直行するので社用車で帰った。
1月を何とかヤリ過ごしても、ホッとしている余裕はない、もっと寂しい2月が待っている。ワタクシはタダのプレイングマネージャー、ああシンド。

会社を出て高松通りを西へ、須磨でR2に出ると、大きな交差点は赤。

その場合、交差点直前の、阪神高速を降りて来た車がフェリー乗り場へ行くのにR2をUターンするための、中央分離帯の切れ目を使ってUターン気味に対向車線を横切り、住宅街に入って離宮道方向へ抜ける。
このセコイ方法は、いつも不平不満ばかりをブツブツ言っていて、当時名谷に住んでいた前営業所長に教えて頂いたルート。セコいオヤジはセコいルートを見つけ出すものだ。

時刻は22時前、とにかく早く帰りたい。極フツーにそのセコいルートに従う。
Uターン後、偶々対向車線を別の車が走っていたので、いつも曲がる角をヤリ過ごし、その先の角を左折、住宅街に入った。
すると狭い通りの向かいから、タクシーがやって来て客を降ろし始めた。
ワタクシ、一旦停止。降りた客はワタクシの車の右横を通過していく。
ン?アレレ、アイツやん。声をかける間もなく、振り向くとアイツは通りを横切り左手の建物に消えて行った。

アイツとはA君。しつこくもう一度説明すると、阪神大震災の1年ほど前、東京から転勤してきた、数年後開設予定の広島営業所要員、生まれたばかりの娘の父親。
毎週、広島へ出張しているが、その日は月末なので神戸にいた。
しかし、受注処理はせず、ただ旅費精算などをして、夕方のミーティングを済ますと、恩師の退官の宴会があるとかで、さっさと帰っていった。彼は生まれも育ちも神戸、出身大学も地元神戸にあった。
宴会が終わって帰って来た時間としては不思議ではないが、彼のお家は鷹取駅前だったはず。ナンデこんなトコにいるの?引っ越ししたの?

家に着くまでの間、色々記憶を巡らせてみた。

だいぶ前、多分前年の夏が始まる頃。帰ろうとすると「あの娘ォ」はまだ仕事をしていた。一人だった。
派遣社員の女性を一人残して帰る、技術部のノンキさには呆れたが、その夜も「あの娘ォ」には図面を頼んだりしていたワタクシ、置いて帰るわけにはいかない。
ついでにバンゴハンを軽ゥ~くご馳走することにした。
「あの娘ォ」が遠回りして帰らなくてもいいエリアに、老舗焼き鳥屋の須磨店があり、そこへ行って食事をした。
そして、店を出ると「あの娘ォ」は東の方向へ歩いて行った。

暗かったのでピンと来なかったが、あの店から東へ歩くと、A君が消えた建物辺りになる。
と、言う事はA君が消えた建物は「あの娘ォ」の家?、と、言う事は ・ ・ ・ 。

「A君とあの娘ォ、デキテまっせェ、ボク判りますねン、昔からオトコとオンナ、並んでルのを見ると100%、デキテルかどうか判りますねン。蒼馬サンもあの娘ォ、エエ、エエて言うてはったし、歳はなれてるから、変なコトにはなってへんとは思てますけど、まさか三角関係とかには ・ ・ ・ 、気ィ付けはった方が・ ・ ・、ウヒヒ」
そんな「ご忠告」をしてくれたのはもう一人の中堅営業所メンバーC君。彼は営業能力ではなく、男女がデキテルかどうか見定める能力を自慢し、ワタクシをからかった。
「ンなアホなぁ、アイツ、今度次の子供生まれるねんでぇ、それどころやあれへんやろ、大体、それ、不倫やン」
「そうですワ、でも次の子供の事なんか頭にないンとちゃいますぅ、蒼馬サンも、あの娘ォ、エエ、エエて言うて、不倫、期待してはったンちゃいますのン、家の事、忘れて、ウヒヒ」
「ちゃうわい、アホ言うな」

前年の終わり頃、そんなC君とのやり取りがあって、この夜、彼の能力はホンモノだと言う事が判ってきた。

何と言う偶然の重なり。

普段は広島出張中なのに、偶々月末で神戸にいたA君。
月末のオーダー処理で、偶々いつもより遅くまで会社に残っていたワタクシ。
偶々2月の始まりの日に四国出張をすることになって、社用車で帰ろうとしたワタクシ。
セコいUターンコースに、偶々別の車が走っていて1つ先の通りへ左折したワタクシ。
偶々その時間に不倫相手宅へ帰って来たA君。

ホントにこう言う事があったのだ。

かたや、B君と「あの娘ォ」のお話し。それは確か、前年の秋頃。

いつも不平不満ばかりをブツブツ言っていた前営業所長が、帰りに偶々B君の車の前を走っていて、その助手席に座っていた「あの娘ォ」との、タダモノではない雰囲気が、ルームミラーに映っていた、と一部の人間に、B君と「あの娘ォ」との不倫を密告し始めた。
それは我々レベルの耳にも届き、「そやけどB君の相手て、別の娘ォやったンちゃうン」と周りは噂していた。

あぁアホクサ、1月に大地震があったばかり、世間は大変なのに、コイツらようやるわ、いずれにせよ、これらは技術部の話し、営業は関係ない、とワタクシは傍観、対岸の火事。

しかし、これにA君が絡んでくるとそうはいかない、A君は営業の、ワタクシの部下。
営業トップが、広島営業所開設を念頭に置いて採用した、と目される若者。
それが月末にオーダーも上げず、不倫相手宅に帰っていった。最近は広島営業所開設を、疑問視し始めていた。
これは報告すべきか否か。

取りあえず、「あの娘ォ」の上司にあたる、技術部のグループリーダーDサンに、A君と「あの娘ォ」との一部始終を伝えた。DサンはB君の上司でもある。
「ボク、そう言うコト、ウトいしなぁ、取りあえず聞いとくわ」、Dサンはボソっと答えた。彼は趣味の音楽以外には全てにウトい人だった。

Dサンに話した数日後、事態は思わぬ方向に展開する。
ナント、ワタクシが「あの娘ォ」にストーカーしている、と言うのだ。

実はあの「偶然が重なった夜」、A君もタクシーを降りてワタクシの車の横を通過する時、ワタクシに気付いていたらしく、それをワタクシが夜に「あの娘ォ」の家の周りをウロウロしている、と曲解し、Dサンに相談したのだ。自分の不倫は棚に上げて。
もともと被害妄想のA君のやりそうな事だ。
と言うか、自分の不倫が暴露される前に、手を打とうとしたのかも知れない。だからと言って、自分達の不倫事件が消え去る訳ではない、ワタクシのストーカーが笑いのタネになるだけだ。

いずれにせよ、Dサンには一部始終を話している。

DサンはA君と「あの娘ォ」に、それは単なる「偶然が重なった夜」だったと、ワタクシの前で説明したが、それだけではワタクシの気が済まない。
「そんなことより、君、下の子が生まれたばかりやろ!不倫なんかしとってエエンかッ!」
するとDサン、「ちゃうねん、この二人真剣やねン」
「エエッ!真剣ちゅうて、下の子が生まれたばかりですよ」
「イヤ、その辺、キチンとするらしいわ」
「あの娘ォ」と並んで座っていたA君は、「キチンとします、信じて下さい、許して下さい」と泣きそうに言った。

とにかくしばらく、大騒ぎするのはヤメましょう、その日はそう言う結論になった。

その後、A君は家庭を捨ててまで選択した「あの娘ォ」の不幸な半生を語り出した。
曰く、そこそこ高レベルの県立高校を卒業したが、何故か進学せず就職、職場結婚したが、ダンナが働かず夜は居酒屋でアルバイト、その後この特殊機械メーカーに派遣された頃、ダンナとは離婚して、B君とエエ仲になったが、B君は中々離婚せず、挙句の果てB君のヨメハンに怒鳴りこまれた、「泥棒ネコ」と、云々。

「あいつ(B君のこと)、その後も彼女の家に来ては、ヤル事だけやって、帰っとったらしいですワ、ボク、あいつ許せません」
「せやけど、許されヘンのは、生まれたばかりの女の子、捨てて行く君の方とちゃうかぁ」、ワタクシ呆れてそう言うと、
「イヤ、子供二人とも引き取ります。あんなヨメに任しとられません、子供、公園とかに連れ出して、他の子供と遊ばしたりしよれヘンのですワ、子育てとか家事とか出けヘンオンナですねン、前からそれでケンカばっかりしとったンですワ、彼女の両親も急に孫が出来てエエわ、言うてはるそうです」

へぇ、そうですか、ヨカッタヨカッタ。
しかし、ホントにこのままこの不倫事件を上に報告しないで良いものだろうか。

その後、B君以前にも技術部には色々不倫事件があった事を知った。
それはそこそこ有名な噂にもなって、本社の空き部屋に連れ込んでヤリかけたオトコもいたとか。
ある女性社員からは、「蒼馬サン、そんなコト、知らんかったンですかぁ」とまで言われた。
これら不倫事件は全てDサンがリーダーのグループ。確かにメンバーも多いし、ケッタイな事件が発生する危険性は高いが、いくらDサンが、「そう言うコトにウトい」としても、いつまでもそれで済まされる訳ではない。

「やはりこのまま放っとけませんよ、ボクは一応、上に報告します」、とDサンに言った。

その数日後、事態は又、思わぬ方向に展開する。

ナントA君のヨメサンには、東京在住時からの、同じ社員のヨメサンとのお付き合いがあったらしく、そのルートから全てがバレた。
「アイツ、神戸で不倫して、その挙句、離婚すると言い出して、ヨメサンと揉めてムチャクチャになっているそうですよ」、ワタクシが報告する前に、東京の連中は営業トップにそう報告した。

全てチョンバレになって、A君はその特殊機械メーカーを辞める、と決断した。

また神戸営業所はC君と二人の、一年数か月前の状況に戻るが仕方ない。広島営業所開設も延期となるが、そもそもワタクシはどうでもイイこと。

月末のオーダー処理を自ら行って、何とか営業所の体面をギリギリに保った上司を、ストーカーだと曲解し、しかも自分は営業所の成績には何の貢献もせず、さっさと恩師退官の宴会へ行って、不倫相手宅へ帰る、そんなA君を部下として、それ以上付き合いたくなかった。

しかし、事態は更に、思わぬ方向に展開する。

A君は辞めることなく、「あの娘ォ」とメデタク手に手をとって、広島へ行くことになった。

「今のヨメハンと別れたかったら、まず一緒に広島へ行ってそこで彼女と暮らせ、広島営業所が出来るまでは、神戸へ逆出張せい、家を借りたりする費用は会社が出したる、家にはパソコン置いて、そこそこ作業が出来る様にしたる」と、営業のトップはA君に指示したのだ。
「家にパソコン置くちゅうことは、会社の担当の人がウチに来て、接続作業とかをする言う事ですやン、そんなンイヤやし、大体、広島なんかへ行く気、ありませんワ」、直後A君はそう言っていたが、いつのまにか営業トップの指示を受け入れた。

予想もしなかったこんな展開、これには驚いた。

広島営業所開設は、実は役員会での賛同者は少なかったらしい。
しかし、営業トップはどうしてもやりたい。その為には、誰かをまず広島へ住ませたい。
つまり、A君の不倫と離婚を巧く利用したのだ。
この営業トップとは一体何なんだろう。どの様な思考回路からそんな発想が生まれるのだろう。

そんな諸々を、呑みながら昔の友達に話した。
「正に、目的のためなら手段を選ばンちゅう、マキャべリストやねぇ、しかしマキャベリは君主とか国家とかのレベルやし、そのオッサン、ただ育ちが悪いだけちゃうかぁ、メカケの子ォやったりしてェ」
「そんなン、メカケの子ォに対する差別やでぇ」
「しかし、メカケ根性ちゅうのはスゴイらしいでぇ、ボクらの想像を越える強欲らしい、あんまり関わらん方が身のためやでぇ」
「そう言われても、上司やし」
「給料エエらしいけど、大変やねェ」

営業トップは創業者の「メカケ」の子ォ、そんなウワサを聞いたことはあった。

「あの娘ォ」は「フタマタ」かけとった、とニャ~と笑って言った営業トップの全ての行為は、「メカケ」根性によるものだったのか。まぁどうでもエエけど。

ところで、男女がデキテルかどうか見定める能力を自慢していたC君も、実は「あの娘ォ」から誘惑されていたそうだ。
「ンなアホなぁ、ホンマかァその話し」
「ホンマですよぅ、あの娘ォから言われましてン、エレベーターの中で、ワタシ今度正式に離婚するンで、いつでも来て下さい、て」
「それやったら、ボクやなくて、君とA君とあの娘ォとの三角関係になりかけてたワケや、イヤ、君とA君とB君にミツマタかけとったちゅうことか、スゴっ」

イケメン男優の「フタマタ」騒動はもう終わった様だが、そのお陰で、昔のショ~もない出来事を次から次、思い出してしまった。

しかし、まだまだこんなショ~もない実話は続く。