自分のお金で映画を観る歳になってから、所謂ロードショウをほとんど見た事がない。
ワタクシ、洋画は一回目字幕をジックリ読んで、そして二回目は画像をジックリ観る。 そうしないと理解できません。
しかし、ロードショウだと入れ替えがあるし、最近は席まで決められている。 これではムリです。
と、言う事で映画はいつも、繁華街から少し外れて、チョット寂しい、しかし本当の映画好きが集まっていそうな、空いてどこでも座れて、入れ替えなど無関係の映画館で観ます。
別に数ヶ月遅れても良いし、その間色んな評判聞けるし。
最近、そういう映画館段々減ってきて、神戸市内では湊川公園にあるだけ(?)
邦画でしたが、先日、そこで " 春との旅 " をやっていたので観て来ました。
前評判通り、色々考えさせられます。
貧しそうな漁村の、古い木造の家の引き戸がガラっと開き、ジイサンが杖ついてヨタヨタと出て来る。 何かお怒りの様子、ヤケクソ気味。後を追う女の子、背負っているザックがランドセルの様に見え、小学生かと思った。 ジイサンは杖を邪魔そうに放り投げる。 女の子は拾ってジイサンに押し付けるがまた放り投げる。 最初のこのシーン、一体なにが始まるのか、といった感じ。
孫娘は19歳、給食係として働いている町の小学校が廃校になるから、その後は都会へ出て働く、と言い出し、それなら 、脚が悪く一人では生きていけないワシは、養ってくれる兄弟を捜しに行くッ!、 と飛び出したのが最初のシーン。
動きだしたディーゼル車の中、明らかにジイサンは不機嫌、 離れた席で座って遠慮してた孫娘、気を改めてジイサンの隣にドカッと座る、そうして旅は始まる。
しかし、増毛の駅で、髭キレイに剃って出発したこのジイサンの目論見は、ことごとく外れる。
当たり前です。 兄弟もジイサンと同世代の老人仲間。 養うなんて経済的にも物理的にも無理。
でも、それを断る兄弟はみんな優しかった。
最初行ったのは最もソリが合わなかった長兄。
長男なのに養子に行って、豪邸に住んでいる。 しかし、やっと入る老人ホームが決まった矢先で、それは子供に仕向けられた様子。 自分達も追い出される運命。
申し訳なさそうに抱き合って見送る長兄とそのツレアイ、老婆の眼差しが悲しく、優しかった。
次は毎年年賀状が来る一番気があった末弟。
しかし、その住所にはその弟はいなくて、偶然入った食堂で、末弟の代わりに年賀状を出していた内縁の妻と出会う。
弟は恩ある他人の罪を被り8年の刑で服役中。 その内縁の妻は、ご飯お替りOKで儲けの少なそうな食堂を経営しながら、東京に住む予備校生の息子を養っている。
午後の営業を始めるべく自転車で店に戻る弟の妻は、その店で食べ残したオカズを、お替りのゴハンと混ぜて握り飯にして、と頼むこのジイサンの無理にも応える太っ腹、優しかった。
3人目は姉、コケシで有名な温泉の旅館の女将。
最初はジイサンを布団部屋に泊めるが、その後はちゃんとした客間をあてがい、ジイサンには口うるさいが優しい。
そして、孫娘を後継者として迎えたいと言いだす。 しかしジイサンは、薪割りでも何でもやるなら置いてやるが、ただ養うだけはダメ、とキッパリ断る。
あんたのワガママは周りのみんなを犠牲にしている、孫娘だけは犠牲にしないで、あの娘は自分に預けて、あんたは一人で生きていけ、と優しく突き放す。
しかし、孫娘はその温泉旅館に留まることを断り、二人の旅は続く。
最後は仙台の弟。
前日姉から、自分のワガママを孫娘に強いるな、と言われたのに、このジイサン、都会へ来たのでホテルへ泊る、と言いだして、何かの学会でどこも満室なのに、空いているホテル探せ、とまで言う、ワガママ放題。
結局どこもなくて、居座っていたホテルのロビーは追い出され、夜の街を彷徨い、ジイサンは歩けなくなって倒れ、悪態をつく。 ここで捨てて行く、とまで孫娘は叫ぶが、結局二人は仲良くもたれ合ってベンチで朝を迎える。
夜遅くまで飲んでて、電車無くなって、泊るお金もなくてベンチで夜を明かしたコト、何度もあるワタクシ、この一夜のミジメさ、よぉく判りますね。
孫の女の子、カワイソ。 つきあわせたこのジイサン、ホントに捨てられても仕方ない。
弟の住所まで行くが、盛大に営んでいた不動産屋の建屋は更地。 向かいの古い商家で転居先を訊いてそこを訪ねると、大きなマンション。
部屋のドアをエラそうに大声あげて叩くと、ジャージ姿の弟が現れる。
しかし、養ってと頼むと、偉そうにしていた兄貴が何を今さら、オマエはバカだ、と口汚くなじられる。 ジイサン、逆ギレして、殴りかかるがこの弟、反撃しない、 殴られるまま。
そして、ヨメサンにホテルのスィートを取ってやれ、と命じる。
この弟も、それに従うヨメサンもまた優しい。商売うまくいかなくなって財布の中、厳しいのに。
これで兄弟宅巡りは終わりだが、孫娘が、ジイサンが兄弟と次々会っているのを見て、自分もお父さんと会いたくなった、と言い出して、オマケで向かうのはジイサンの娘婿宅。 しかし娘とは離婚しているので、当然ジイサンとは他人。
そして着いた先は北海道の大きな牧場。別荘の様なカントリー風の豪邸。 フレンドリーに娘婿の再婚相手が迎えてくれる。
ここで久しぶりに父と娘が対峙する。 ここからが涙、涙のシーン。
娘は両親の離婚原因を母の不倫だと言う事を知っていた。
父親は母親を殴って出て行って、そして母親は5年前に自殺した。
過ちは償えないものなのか、と母を許せなかった父を責め、オカアサ~ンっと、号泣する娘。
女の子がそそんな泣き方すると、その理由はどうであれワタクシも泣いてしまう。
しかし、浮気したヨメハン、そう簡単に許せるものではない。 原因の半分はムコハンの方にあるンでしょうけどね。
外ではジイサン、牧場のお馬さん、眺めている。
そこへ娘婿の再婚相手が近づいて来て、 自分は母子家庭で育って父親を知らない、あなたをお父さんと呼んでいいですか、そしてここで一緒に暮らしませんか、と言い出す。
やった! 東北各地の兄弟頼って、全て断られ、北海道へ戻って、ナント他人から、しかもセンス良い美人から一緒に暮らしませんか、と言われる、何という僥倖。 ワタクシなら即、はいそうします、ありがとう、です。
しかし、このジイサンは断ってしまう、 涙浮かべて。 自分の人生を悟りきった様な表情。 清々しさが感じられる。
「そろそろおいとましょうか」 「わたしもそう思っていたトコ」 二人は寄り添って、牧場から駆け降りる。 それがなんとなく楽しそう。 やっぱり二人は二人でいい。
夜、そば屋の主人がのれんを片づけている。 中では二人がソバをすすっている。
ジイサンは、昔、このそば屋へ娘 (つまり孫の母親 ) と来た時のことを話し出す。
娘が妊娠したのでもう結婚を認めてやって欲しい、と頼みに来て断られたという話。
娘の相手(つまり孫の父親)は大牧場の息子。
片や、牧場主の息子がもらう嫁は、ニシンで大儲けする夢を捨て切れず、海から離れられない貧しい漁夫の娘。
そんな結婚を認めない親がいる、良くある話。
そして、牧場を捨てて漁夫の娘を取ったオマエの父親を許してやれ、とジイサンは言う。
孫娘は、これからもずっとオジイチャンと暮らす、増毛でまた仕事探して、オジイチャンを好きになるカレシ見つけて、結婚してもオジイチャンと暮らす、と言う。
エエ娘やねぇ。 ワタクシ、ずぅ~と泣いてました。
さて結末はどうなるンだろう。
このままあの海辺の古い木造の家の生活が映し出されるのだろうか。 それなら何かシンドイ。
ジイサン、この歳で一週間程旅して、ホントにもうシンドイでしょう。
もういいのでは、と思って観ていたら、「次は終点、増毛です」 との車内アナウンスが終わって、 孫娘に寄りかかって寝ていたジイサン、床に崩れ落ちる。
オジイチャン、オジイチャン、と叫びながら、もう動かぬジイサンを揺り動かす孫娘、このシーンで終わり。
このジイサン、人生の最後にとても温かい旅をして、ディーゼル車の中で、とは言え孫娘に看取られて、非常に良い死に方をしたのではないか、と思う。 少なくとも、最近流行りの孤独死、孤立死ではない。 ある意味、うらやましい死にかた。
ワタクシの母は孤独死でした。 一人息子がスキー場で遊んだ後、宿で酒飲んで爆睡していた夜に。
その一人息子は自分も孤独死でいい、と思っている、今は。