フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

2月24日(土) 晴れ

2024-02-25 22:02:51 | Weblog

9時、起床。

チーズトースト、サラダ、牛乳、紅茶の朝食。

今日は棋王戦第2局がある。第1局は持将棋(引き分け)だった。持将棋というのは双方が入玉(相手の陣地に王将が入る)して、詰めの可能性がなく、持ち駒が互角の場合にそうなる。めったにない事態である。藤井が先手だったので(藤井の先手での勝率は非常に高い)、後手の伊藤にとっては持将棋に持ち込めたというのは「勝ち点1」くらいに相当するものだった。ただ、かなり早い段階から持将棋を志向するような指し方だったので、「タイトル戦の舞台でそれはどうなのか」とネットでの評判はよくなかった。

ネットで盤面の推移を見ながら、昨日のブログを書く。

角換わり腰掛銀の戦型で先手の伊藤が攻勢に出る。双方、研究範囲なのだろう、どんどん指し手が進み、伊藤が4一飛と打ち込んだところで藤井が長考に入り、そのまま昼食休憩に入った。藤井の銀得だが、自陣はスカスカで、2一の桂馬と9一の香車のどちらかは取られることになる。

12時半に家を出て王子神谷に行く。蒲田から京浜東北線で王子まで行き、地下鉄南北線に乗り換えて、一駅である。

庚申通り商店街というのを抜けたところに「バビロンの流れのほとりにて」という名前の劇場があり、今日はここで劇団獣の仕業の公演『サロメ』を観るのだ。

開園まであと30分。飲食店に入って昼食をとる時間はないので、コンビニでおにぎりとお茶を買う。

たぶん劇場内では飲食はできないので、途中のお寺の境内に食事をとることにする。

ベンチくらいあるかなと思ったが、テーブルまであった。ありがたい。

ここに芝居を見に来るのは二回目だが、近くまできたところで道に迷って、開演に数分遅れてしまった。

オスカー・ワイルド『サロメ』(森鴎外訳)を原作とし、ワイルドが影響を受けたと言われるフローベール「ヘロディアス」(フローベール『三つの物語』所収)も参照し、立夏の脚色・演出。

舞台はローマ帝国の支配下にあるユダヤのマカエラス要塞。分邦王へロデの誕生日の祝宴が行われている。地下牢に閉じ来れられている預言者ヨカナーンは、救世主の出現についてのみならず、へロデが犯した禁忌について語っている。前王であった兄フィリポを失脚させ、兄の妻(ヘロディア)を娶ったのである(その際、へロデは前妻フェサエリスを離縁している)。フィリポは12年間にわたって幽閉された末に殺された。王妃ヘロディアは耳障りなことを言うヨカナーンを処刑するように繰り返しへロデに進言するが、へロデは預言者を殺すことにはためらいがある。王女サロメはフィリポとヘロディアの間に生まれた子どもである。へロデはサロメに娘ではなく女を見るよなまなざしを向け、サロメにはそれが苦痛である。サロメはヨカナーンの声を聴き、その声に恋に落ちる。サロメはヨカナーンと対面し、告白をするが、拒絶されてしまう。


「ヨカナーンとサロメ」(ビアズレーの挿絵)

ヘロデは宴でサロメに舞うことを求め、求めに応じれば何でもおまえの欲しいものをやると約束する。命にかけて、王冠にかけて、神々にかけて誓った。


「腹の踊り」

サロメは舞い、褒美にヨカナーンの首を所望する。ヘロデはそれだけはダメだ(そんなことをしたら禍が起こる)と拒むが、サロメは執拗にヨカナーンの首を要求し、ついにヘロデはその求めに応じざるをえなくなる。


「舞姫の褒美」

サロメは切り落とされたヨカナーンの首を抱き、口づけをする。その様子を見て、ヘロデはサロメを殺すように命じる。兵士たちはサロメを楯の下敷きにして押し殺した。


「お前に口づけしたよ」

原作はサロメの死の場面で終わっているが、獣の仕業版では、絶命する前にサロメが言う、「牝犬のように死ぬのだ。バビロンの娘よ。帯をほどき、たくし上げ、さあ、河を渡るんだ」と。ここで暗転し、最後は河原のシーンで、ヨカナーンとサロメが邂逅する。ヨカナーンは十字を背負い、女は香油の瓶を持っている。縋りつくサロメにヨカナーンが言う、「縋り付いてはいけません。私はまだ父の下にいません。私の兄弟にも伝えなさい」。そして、「どうか、赦しをくれ、神よ」と言って、ヨカナーンはサロメに口付けをする場面で終わる。

バレエ『白鳥の湖』は湖に王子と王女が湖に身を投げて死ぬという悲劇的に結末のほかに、二人が天国で結ばれるという結末や、悪魔を二人で倒して現世で結ばれるというハッピーエンドのバージョンまである。劇団獣の仕業の『サロメ』は、さすがにヨカナーンとサロメが結ばれることはないものの(恋はあくまでもサロメの方からの一方的なものであった)、立ち去る前にヨカナーンの方からサロメに(別れの?)口付けをしようとするというのは、サロメにとっては至福の結末であろう。ただし『サロメ』という芝居にとってそれが至福の結末であったかどうかは難しいところである。現代風のアレンジであるが、運命論的な悲劇『サロメ』にとっては、官能的で狂気じみたサロメの恋はひとりよがりのままでよかったのではないか。悲劇性が薄まるからだ。しかし、もし『サロメ』を運命論的な悲劇として見ないのであれば、サロメの恋が報われる一瞬には意味がある。実際、今回の演出では、「ヘロデの穢れ=ヘロデの先妻フェサエリス」「へロディアの穢れ=彼女の先夫フィリポ」という原作にはない役柄が登場する。その薄汚い姿はヘロデにもへロディアにも周囲の人にも目に見えぬものだが、いつも二人に張り付いている。中世日本の河原乞食と呼ばれた役者たちが異形となって依頼人の罪を引き受ける「代受苦」という賎業があったそうだが、今回の演出における「穢れ」の擬人化は、禁忌を犯して穢れた両親の子どものとしてのサロメが「牝犬のように死ぬ」ことで一種の贖罪を果たす物語として『サロメ』を読むことを可能にする。


終演後、脚色・演出の立夏に挨拶(後ろはへロディア役の手塚優希)。

95分の舞台は観ていて倦むことがなかった。7人の役者たちが一体となっての演技(身体はもつれあい、台詞は響き合っていた)は圧倒的なものであった。男優が女役を演じ、女優が男役を演じるというのは、獣の仕業ではよくあることでまったく違和感はなかった。役者というのはどんな役でも演じることができる、そうでないと一人前の役者とはいえない、ということが今回の舞台でもよくわかった。


物販で購入したブロマイド

唯一、女役(サロメ)を演じた女優・雑賀玲衣にとっては、サロメは女優として一度は演じてみたい役の一つであったそうである。「やってみたい役の一つ」・・・他にはどんな役があるのかは聞かなかったが、『欲望という名の電車』のブランチなどはその一つではないかしら(映画ではビビアン・リーが演じていた)。


終演後、雑賀にポーズをとってもらった。

劇場を出て、来た時とは違う道を歩いていたら、かわいい食堂を見つけた。三度来ることが合ったら、ここでランチをゆっくり食べてから芝居見物をしよう。

JR王子駅の立ち食い蕎麦屋に入る。

かきあげ天玉うどんを注文する。玉子が別皿で出てきた。

なぜ最初から玉子を落とさないのだろうと不思議だったが、もしかしたら、白身が苦手(黄身だけ落としたい)という客がいるのかもしれない。あるいは玉子を溶いてから玉子とじ風にかけ回したいという客がいるのかもしれない。

帰宅して、棋王戦の中継を観たら、こんな局面になっていた。先手の7六歩打に後手が6三桂と打ったところ。後手の優勢である。

以下、8六金、8三角、同龍、同銀と続く。龍と角の交換となった。

以下、7五歩、5五角、5六香、7六歩と進む。7六歩は厳しい一手で、これで後手の勝勢である。

以下、同金、8七銀、5八金、8六桂と進む。

ここで先手伊藤が投了。先手の先攻を受け止めて、反撃に転じてからは、後手藤井が危なげなく寄せ切った一局だった。

夕食は鶏肉とピーマンの丸ごと味噌煮、ペッパーポークのサラダ、しらすおろし、玉子と玉ねぎの味噌汁、ごはん。

食事をしながら『不適切にもほどがある』(録画)を観る。

世界卓球の女子決勝、日本対中国の2-2で迎えた最後の試合、張本美和と陳夢の闘いを第2セットから観た。張本は善戦したが陳の地力が上回った。しかし、陳も中国ベンチも必死の様子が伝わってきた。絶対王者中国をここまで追い詰めるとは大したものである。

風呂から出て、今日の日記を付ける。

1時、就寝。

*都合により明日のブログの更新はありません。

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