知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商法512条の規定に基づく報酬金の請求を否定した事例

2010-12-29 12:06:46 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)8813
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成22年12月24日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

2 争点(2)(原告が被告に対し,商法512条の報酬金を請求することができるか)について

(1) 商法512条は,商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託されてその行為をした場合において,その委託契約に報酬についての定めがないときは商人は委託者に対し相当の報酬を請求できる趣旨のみならず,委託がない場合であっても,商人がその営業の範囲内の行為を客観的にみて第三者のためにする意思でした場合には,第三者に対してその報酬を請求できるという趣旨に解されるが,後者の場合には,その行為の反射的利益が第三者に及ぶというだけでは足りず,上記意思の認められることが要件とされるというべきである(最高裁昭和43年4月2日第三小法廷判決・民集22巻4号803頁,同44年6月26日第一小法廷判決・民集23巻7号1264頁,同50年12月26日第二小法廷判決・民集29巻11号1890頁参照)。
 そこで,上記見地に立って,本件について検討する
・・・

(3) 上記(2)の認定事実によれば,原告は,ネズミの防除を専門とする業者としての立場から,被告製品について様々な意見を述べ,被告も,原告の意見を参考にし,その相当部分を取り入れて,被告製品を開発したことが認められる。しかしながら,上記(2)ウのとおり,被告製品は,そもそも原告と被告の共同開発品という位置付けだったのであり(この点は,甲14において,原告も自認している。),Aによる上記の様々な意見やアドバイスも,共同開発者としての原告自身の利益を図るために行われたものということができるのであって,必ずしも被告に利益を与える意思で,被告のために行われたものと認めることはできない

 したがって,本件において,原告は,客観的にみて被告のためにする意思をもって被告製品の開発に関与したと認めることはできないから,被告に対し,商法512条の規定に基づく報酬金を請求することはできないというべきである。

 原告は,本件において,特許法35条3項ないし5項との均衡からしても,商法512条の規定に基づく報酬請求が認められるべきである旨の主張をするが,特許法35条3項ないし5項は,いわゆる職務発明についての規定であり,本件とは前提とする状況が全く異なるから,原告の上記主張も採用することができない。

最新の画像もっと見る