知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「刊行物に記載された発明」の解釈

2010-12-29 11:21:43 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10163
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 「刊行物に記載された発明」について
 特許法29条2項は,特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,同条1項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたときは,その発明は,特許を受けることができない旨を規定している。そして,発明が技術的思想の創作であることからすると(特許法2条1項),特許を受けようとする発明が同条1項3号にいう特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許を受けようとする発明の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それをもって足りるとするのが相当である。

 これを,特許を受けようとする発明が物の発明である場合についてみると,特許を受けようとする発明と対比される同条1項3号にいう刊行物の記載としては,その物の構成が,特許を受けようとする発明の内容との対比に必要な限度で開示されていることが必要であるが,当業者が,当該刊行物の記載及び特許出願時の技術常識に基づいて,その物ないしその物と同一性のある構成の物を入手することが可能であれば,必ずしも,当該刊行物にその物の性状が具体的に開示されている必要はなく,それをもって足りるというべきである。
・・・
イ 上記の記載によると,引用例1には,胃瘻から注入する半固形状食品の「Rテルミールソフト」が記載されていることが認められる。
 また,「Rテルミールソフト」は,本件出願前からテルモ株式会社が販売する栄養剤であるところ,引用例1に記載されている上記テルミールソフトと同じ製品がテルモ株式会社により販売され,容易に入手可能であったものと認められる(甲6,弁論の全趣旨)。
そうすると,刊行物である引用例1には,胃瘻から注入する半固形状食品の「Rテルミールソフト」の発明が記載されているということができる。

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