知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明瞭でない記載の釈明の判断事例

2007-09-21 08:26:40 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10055
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『(1) 改正前特許法17条の2第3項4号の該当性(明りょうでない記載)について
原告は,「補正4」は,「Pチャネル型TFTのゲート電極及びNチャネル型TFTのゲート電極が何と接続しているか」を明りょうにしたものであり,これによって何らの技術的な意義を付加するものではないから,改正前特許法17条の2第3項4号に規定する「明りょうでない記載の釈明」に該当すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。

ア特許請求の範囲の記載
 ・・・
 以上のとおり,補正前の請求項3に係る発明は,第1及び第2のPチャネル型TFTと第1及び第2のNチャネル型TFTとが直列接続されて構成されるCMOS回路と,第3のPチャネル型TFT及びNチャネル型TFTをその要素とし,それらの接続態様として,上記③ないし⑤に示すような各TFTの電極間の接続関係により特定されている
 これに対して,「補正4」は,「第1の電源制御回路」及び「第2の電源制御回路」なる新たな構成要素を付加し,さらに,「Pチャネル型TFTのゲート電極」及び「Nチャネル型TFTのゲート電極」について,「第3のPチャネル型TFTのゲート電極」は「第1の電源制御回路」に,「第3のNチャネル型TFTのゲート電極」は「第2の電源制御回路」に,それぞれ接続されるよう特定したものである

イ発明の詳細な説明欄の記載
・・・

ウ判断
 上記アによれば,「補正4」により新たに付加された「第1の電源制御回路」及び「第2の電源制御回路」につき,補正前の請求項3と補正後の請求項1を対比すると,補正前の請求項3には,それぞれ「第3のPチャネル型TFTのゲート電極」及び「第3のNチャネル型TFTのゲート電極」に接続されることを規定するのみであって,それ以外には,Pチャネル型及びNチャネル型のTFTからなる半導体素子とどのような技術的な関係を有するのか,何に対する電源制御回路であるのか,「第1の電源制御回路」及び「第2の電源制御回路」内のどの部分が「第3のPチャネル型TFTのゲート電極」及び「第3のNチャネル型TFTのゲート電極」に接続されるのかについて,何らの記載も示唆もない。 そうすると,「補正4」は,新たな技術的事項を備えた回路を付加する補正であるというべきであって,「明りょうでない記載の釈明」に該当するということはできない
・・・
また,「補正4」は,本件明細書中の「発明の詳細な説明」欄の記載に
基づくものということもできない。
よって,原告の主張は失当であり採用することはできない。』

『エ 拒絶査定における指摘に関する原告の主張について
 原告は,「補正4」は, 拒絶査定において,「(5)請求項3に記載の『第2,第3のPチャネル型TFT』及び『第2,第3のNチャネル型TFT』のそれぞれのゲート電極には何が接続されるのか不明瞭である。」 (甲7。3頁19行~21行)との指摘を受けて補正したものであるから,改正前特許法第17条の2第3項4号所定の「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」に該当するというべきであると主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
(ア) 拒絶査定(甲7)には,「この出願については,平成15年8月5日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,4によって,拒絶をすべきものである。」と記載され,同拒絶理由通知書(甲4)には,理由1として「特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と,また理由4として,「特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たしていない。」と記載されていることに照らせば,拒絶査定は,改正前特許法36条4項,5項2号に規定する要件(いわゆる記載不備)を理由としたものではないことは明らかである。さらに,拒絶理由通知書(甲4)を見ても,本件補正前の請求項3(甲6)に対応する請求項である平成14年3月20日付け手続補正書(甲3)の請求項3に対しては,改正前特許法36条5項2号に規定する要件違反(記載不備)の拒絶理由は通知されていない。 してみれば,「補正4」 は,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものではないから,原告の主張は,その主張自体失当である。

(イ) 次に,拒絶査定における指摘事項に対する原告主張を検討する。
拒絶査定(甲7)には,以下の各記載がある。
① 「この出願については,平成15年8月5日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,4によって,拒絶をすべきものである。」との記載(1頁7行~8行)
② 「備考」欄における理由1及び理由4に関する説明及び結論(同頁11行~3頁1行)
破線を施した下段に,「〔以下の記載は,拒絶査定を構成するものではない。審判請求をされる場合は,参考にされたい。〕」(3頁3行~4行)とした上で,「(5)請求項3に記載の『第2,第3のPチャネル型TFT』及び『第2,第3のNチャネル型TFT』のそれぞれのゲート電極には何が接続されるのか不明瞭である。」との記載(3頁19行~21行)④ 「(11)審判請求時に補正を行う際には,補正で付加できる事項は,この出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項のほか,出願当初の明細書又は図面の記載から自明な事項に限られ,且つ特許請求の範囲の限定的減縮,不明瞭な記載の釈明又は誤記の訂正を目的とする補正に限られることに注意し,審判請求の理由で,各補正事項について補正が適法なものである理由を,根拠となる出願当初の明細書の記載箇所を明確に示したうえで主張されたい。‥‥‥」(4頁2行~8行)との記載以上の記載がある。

 そうすると,拒絶査定における「(5)請求項3に記載の『第2,第3のPチャネル型TFT』及び『第2,第3のNチャネル型TFT』のそれぞれのゲート電極には何が接続されるのか不明瞭である。」(3頁19行~21行)との記載部分は,拒絶査定を構成するものではなく,原告に対して特定の補正を教示・示唆するものでもなく,審判請求時の補正に当たって留意すべき点を指摘したものにすぎないと認められる。
以上のとおり,原告の主張は,その前提において採用することができない。』

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