知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

原告商品陳列デザインは「商品等表示」に該当するか

2010-12-29 14:17:29 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)6755
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成22年12月16日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 森崎英二

1 争点1(原告商品陳列デザインは周知又は著名な原告の営業表示であるか)について
(1)ア 原告は,原告商品陳列デザイン1ないし3は,いずれも他店にない独自のものであって本来的な識別力があり,またベビー・子供服販売の業界トップの原告が長年にわたり使用してきたことから,二次的出所表示機能も十分獲得しているとした上で,主位的にはそれぞれ独立して,第1次予備的に原告商品陳列デザイン1及び2の組み合わせにより,第2次予備的に原告商品陳列デザイン1ないし3の組み合わせにより,原告の営業表示として周知又は著名であることを前提に,被告の行為が不正競争防止法2条1項1号又は2号に定める不正競争に該当する旨を主張している。

 本件における原告の不正競争防止法に基づく主張が認められるためには,主張に係る原告商品陳列デザインが,不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう商品等表示(営業表示)であることがまず認められなければなないが,そもそも商品陳列デザインとは,原告も自認するとおり「通常,・・・,などの機能的な観点から選択される」ものであって,営業主体の出所表示を目的とするものではないから,本来的には営業表示には当たらないものである(・・・。)。

イ しかし,商品陳列デザインは,・・・,本来的な営業表示ではないとしても,顧客によって当該営業主体との関連性において認識記憶され,やがて営業主体を想起させるようになる可能性があることは一概に否定できないはずである。
 したがって,商品陳列デザインであるという一事によって営業表示性を取得することがあり得ないと直ちにいうことはできないと考えられる。

ウ ただ,商品購入のため来店する顧客は,売場において,まず目的とする商品を探すために商品群を中心として見ることによって,商品が商品陳列棚に陳列されている状態である商品陳列デザインも見ることになるが,売場に居る以上,・・・など,売場を構成する一般的な要素をすべて見るはずであるから,通常であれば,顧客は,これら見たもの全部を売場を構成する一体のものとして認識し,これによって売場全体の視覚的イメージを記憶するはずである。

 そうすると,商品陳列デザインに少し特徴があるとしても,・・・,それは売場全体の視覚的イメージの一要素として認識記憶されるにとどまるのが通常と考えられるから,商品陳列デザインだけが,売場の他の視覚的要素から切り離されて営業表示性を取得するに至るということは考えにくいといわなければならない。

 したがって,もし商品陳列デザインだけで営業表示性を取得するような場合があるとするなら,それは商品陳列デザインそのものが,本来的な営業表示である看板やサインマークと同様,それだけでも売場の他の視覚的要素から切り離されて認識記憶されるような極めて特徴的なものであることが少なくとも必要であると考えられる。

商法512条の規定に基づく報酬金の請求を否定した事例

2010-12-29 12:06:46 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)8813
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成22年12月24日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

2 争点(2)(原告が被告に対し,商法512条の報酬金を請求することができるか)について

(1) 商法512条は,商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託されてその行為をした場合において,その委託契約に報酬についての定めがないときは商人は委託者に対し相当の報酬を請求できる趣旨のみならず,委託がない場合であっても,商人がその営業の範囲内の行為を客観的にみて第三者のためにする意思でした場合には,第三者に対してその報酬を請求できるという趣旨に解されるが,後者の場合には,その行為の反射的利益が第三者に及ぶというだけでは足りず,上記意思の認められることが要件とされるというべきである(最高裁昭和43年4月2日第三小法廷判決・民集22巻4号803頁,同44年6月26日第一小法廷判決・民集23巻7号1264頁,同50年12月26日第二小法廷判決・民集29巻11号1890頁参照)。
 そこで,上記見地に立って,本件について検討する
・・・

(3) 上記(2)の認定事実によれば,原告は,ネズミの防除を専門とする業者としての立場から,被告製品について様々な意見を述べ,被告も,原告の意見を参考にし,その相当部分を取り入れて,被告製品を開発したことが認められる。しかしながら,上記(2)ウのとおり,被告製品は,そもそも原告と被告の共同開発品という位置付けだったのであり(この点は,甲14において,原告も自認している。),Aによる上記の様々な意見やアドバイスも,共同開発者としての原告自身の利益を図るために行われたものということができるのであって,必ずしも被告に利益を与える意思で,被告のために行われたものと認めることはできない

 したがって,本件において,原告は,客観的にみて被告のためにする意思をもって被告製品の開発に関与したと認めることはできないから,被告に対し,商法512条の規定に基づく報酬金を請求することはできないというべきである。

 原告は,本件において,特許法35条3項ないし5項との均衡からしても,商法512条の規定に基づく報酬請求が認められるべきである旨の主張をするが,特許法35条3項ないし5項は,いわゆる職務発明についての規定であり,本件とは前提とする状況が全く異なるから,原告の上記主張も採用することができない。

出願後に領布された刊行物で出願当時の技術水準を認定することの是非

2010-12-29 11:23:13 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10163
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

原告らは,本件審決が,本願出願後に頒布された刊行物D(甲17)に基づいて,引用例1記載の「Rテルミールソフト」の粘度を認定したことは誤りであると主張する。

 しかしながら,発明の進歩性の有無を判断するに当たり,上記出願当時の技術水準を出願後に領布された刊行物によって認定し,これにより上記進歩性の有無を判断しても,そのこと自体は,特許法29条2項の規定に反するものではない(最高裁昭和51年(行ツ)第9号同年4月30日第二小法廷判決・判例タイムズ360号148頁参照)。
 よって,本願発明の進歩性の有無を判断するにあたって,引用発明である「Rテルミールソフト」が持つ粘度を認定するために,本願出願後に頒布された刊行物Dを参酌したことは,特許法29条2項に反するものではない。

「刊行物に記載された発明」の解釈

2010-12-29 11:21:43 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10163
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 「刊行物に記載された発明」について
 特許法29条2項は,特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,同条1項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたときは,その発明は,特許を受けることができない旨を規定している。そして,発明が技術的思想の創作であることからすると(特許法2条1項),特許を受けようとする発明が同条1項3号にいう特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許を受けようとする発明の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それをもって足りるとするのが相当である。

 これを,特許を受けようとする発明が物の発明である場合についてみると,特許を受けようとする発明と対比される同条1項3号にいう刊行物の記載としては,その物の構成が,特許を受けようとする発明の内容との対比に必要な限度で開示されていることが必要であるが,当業者が,当該刊行物の記載及び特許出願時の技術常識に基づいて,その物ないしその物と同一性のある構成の物を入手することが可能であれば,必ずしも,当該刊行物にその物の性状が具体的に開示されている必要はなく,それをもって足りるというべきである。
・・・
イ 上記の記載によると,引用例1には,胃瘻から注入する半固形状食品の「Rテルミールソフト」が記載されていることが認められる。
 また,「Rテルミールソフト」は,本件出願前からテルモ株式会社が販売する栄養剤であるところ,引用例1に記載されている上記テルミールソフトと同じ製品がテルモ株式会社により販売され,容易に入手可能であったものと認められる(甲6,弁論の全趣旨)。
そうすると,刊行物である引用例1には,胃瘻から注入する半固形状食品の「Rテルミールソフト」の発明が記載されているということができる。