知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明瞭でない記載の釈明として補正が許される場合

2010-12-19 23:06:49 | 特許法17条の2
事件番号 平成22(行ケ)10188
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(2) 原告は,上記(1)②の補正部分につき,図形模様と構造体とは一体のものであって,図形模様を30度回転させるということは,構造体を30度回転させることと実質的に同一であるので,変更には当たらないとした上,「構造体」を「図形模様」に補正することは,図柄の組合せ状態を明確にしたものであって,明瞭でない記載の釈明に該当するものであると主張する。

(3) しかしながら,法17条の2第4項は,拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求と同時にする特許請求の範囲についてする補正は,同項1号ないし4号に掲げる事項を目的とするものに限ると規定しているのであって,明瞭でない記載の釈明として補正が許されるのは,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限られるところ(法17条の2第4項4号),
 平成20年7月4日付け拒絶査定(乙11)の理由となる同19年10月1日付け拒絶理由通知(乙7)は,引用文献との関係で進歩性の欠如を指摘するものであって,上記(1)②の補正部分の補正前の規定について指摘するものではなく,同部分の補正は,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものではないから,明瞭でない記載の釈明に該当するということはできない

* 拒絶査定も「拒絶理由通知」(法17条の2第4項4号)に当たるのではないか?
事件番号 平成18(行ケ)10055
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

行政事件訴訟法10条2項が適用された事例

2010-12-19 22:39:35 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)276
事件名 決定取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月14日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

(1) 原告が,本件出願について
 平成20年11月27日付けで本件拒絶査定を受けた後,本件補正書及び本件意見書を提出したこと,
 特許庁長官が原告に対し平成21年6月8日付けで本件補正書及び本件意見書に係る各手続を却下する旨の本件各却下処分をしたこと,
 原告が本件各却下処分について本件異議の申立てをしたこと,
 特許庁長官が原告に対し同年11月20日付けで本件異議の申立てを棄却する旨の本件決定をしたこと
は,前記第2の1のとおりである。

 そして,原告主張の本件決定の違法事由は,別紙「2 請求の原因について」記載のとおりであり,要するに,原告の本件出願に係る発明は,特許法29条1項各号,2項のいずれにも該当せず,特許要件を充足するのに,これを充足しないとした特許庁の判断に誤りがある,すなわち,本件出願を拒絶すべきものとした本件拒絶査定の判断に誤りがあるというにあると解される。

(2) ところで,行政事件訴訟法3条3項は,「この法律において「裁決の取消しの訴え」とは,審査請求,異議申立てその他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決,決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。」と規定し,同法10条2項は,「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には,裁決取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」と規定している。
 これらの規定によれば,処分の取消しの訴えとその処分についての不服申立てを棄却した「裁決」(異議申立てを棄却した決定を含む。)の取消しの訴えのいずれも提起することができる場合には,裁決の取消しの訴えにおいて主張し得る違法事由は,裁決固有の瑕疵に限られると解される

 前記(1)によれば,本件決定は,特許庁長官がした本件各却下処分に対する行政不服審査法による異議申立てを棄却する決定であるから,本件各却下処分を「処分」とする「裁決」に該当するものと解されるところ,特許法その他の法令において,本件各却下処分の取消しの訴えと本件決定の取消しの訴えのいずれか一方しか提起することができないとする定めはなく,上記訴えのいずれも提起することができる場合に該当するものと解される。
 そうすると,本件決定の取消しを求める本件訴訟において,本件決定の違法事由として原告が主張し得るのは,本件決定の固有の瑕疵に当たる違法事由に限られるというべきである。

 これを本件についてみるに,前記(1)のとおり,原告が主張する本件決定の違法事由は,本件拒絶査定の判断の誤りであって,これが本件決定の固有の瑕疵に当たらないことは明らかであるから,原告の主張は,その主張自体理由がないといわざるを得ない。

引用例の従来の技術は,引用発明としての適格性を欠くか

2010-12-19 21:57:35 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10125
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 引用発明の認定の誤りについて
原告は,引用例の発明の詳細な説明欄に記載の従来の技術(【0002】)は,引用発明としての適格性を欠く旨を主張するほか,本件審決による引用発明の認定を争っている

イ そこで,引用例の記載を見ると,引用例が特許出願をしている発明(以下「甲1発明」という。)は,「・・・」(【0001】)ものであるが,本件審決が引用発明として認定したものは,甲1発明に先行する従来の技術であって,「・・・。」(【0002】)というものである。
・・・
特許法29条2項は,同条1項各号に掲げる発明に基づいて特許出願に係る発明が容易に発明をすることができたか否かを判断する旨を規定しているところ,同条1項3号は,「特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明」と規定しているにとどまり,それ以上に,「刊行物に記載された発明」の適格性について何ら制限をしていない
 そして,引用例(甲1)は,特許 庁作成の公開特許公報(・・・)であるから,本件出願日(平成12年6月30日)の前に日本国内において頒布された刊行物であり,引用例記載の前記従来の技術(引用発明)は,このような刊行物に記載された発明であるから,これに基づいて本願発明及び本件補正発明の容易想到性を判断することに何ら妨げはないというべきである。

 この点について,原告は,平成14年法律第24号により先行技術文献の開示を義務化した特許法36条4項2号が立法される前である平成9年8月15日に引用例が特許出願されており,引用例にいう従来の技術には裏付けがないから引用発明としての適格性を欠く旨を主張する。
 しかしながら,特許法36条4項2号は,出願人の有する先行技術文献情報を有効活用するために出願人による積極的な情報開示を促すものであって,そのことから,反対に,平成14年法律第24号による改正前に出願された発明の明細書であれば,そこに従来の技術として記載された発明に裏付けがないというわけではなく,平成9年8月15日に特許出願された引用例の発明の詳細な説明欄に従来の技術として記載されている引用発明をもって,本件補正発明の容易想到性について判断する根拠としての適格性を欠くということはできない。

実施可能要件を充たさないとした事例

2010-12-19 20:41:24 | 特許法36条4項
事件番号 平成22(行ケ)10125
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(実施可能要件を充たさないとして本件補正を却下した判断の誤り)について
(1) 本件補正発明は前記第2の2(2)に記載のとおり,商品データ及び商品属性データが記録された商品データベース並びに来店者の個人情報を含む来店者データを取得する手段を有し,当該個人情報と商品属性データとの関連性等を点数化することで来店者が各商品に抱く関心の大きさに関する訴求点を計算し,Webページ上に陳列すべき商品(陳列対象商品)を,その「陳列占有面積に応じた数だけ選出する手段」と,その「陳列位置を,各商品の訴求点と,商品データの画像の大きさ又は色とに基づいて決定し,各商品を前記決定した陳列位置に割り当てた電子商店」を生成する手段を備えることを特徴とする商品の陳列決定装置である

 そして,上記特許請求の範囲の記載によれば,本件補正発明が販売対象商品とするデジタルコンテンツについては,いずれも一定の大きさを有する商品データの画像が存在することを前提としており,かつ,当該画像の大きさが陳列位置を決定する条件となっていることから,各販売対象商品ごとに陳列位置を割り当てることができるものであると認められる。

 したがって,本件補正発明を実施する上では,商品の陳列決定装置が,そのような商品データの画像の大きさに関する情報をいかなる形態で保存・管理し,また,どのようにWebページ上に陳列される商品を選出し,かつ,陳列位置を決定するのかが明らかにされる必要がある

 しかしながら,本件補正発明の特許請求の範囲の記載からは,商品データの画像が何をいうかを含め,これらの点は,一義的に明らかとはいい難い。

(2) そこで,本件補正明細書の発明の詳細な説明欄の記載を参酌すると,本件補正明細書には,・・・と記載されている。

(3) しかしながら,本件補正発明は,販売対象商品をデジタルコンテンツに限定しているところ,そもそも,そのような無体のデジタルコンテンツについて,Webページ上に陳列されて視認可能となるような「商品の外観など」(【0008】)に関する画像データを観念することは,それ自体困難である。しかも,本件補正明細書は,ここにいう「商品の外観など」と販売対象商品であるデジタルコンテンツとの関係について何ら説明を加えていないから,本件補正明細書の記載によっても,本件補正発明の請求項に記載された「商品」であるデジタルコンテンツに関する「データの画像」という技術的意義は,明らかではない

 そのため,本件補正明細書は,商品データの画像の大きさに関する情報をいかなる形態で保存・管理しているかや,陳列対象商品として選出された商品(の画像データ)の占有面積(【0013】)に応じてどのように陳列される商品数を決定し,更に最終的な商品の陳列位置を決定する(【0014】)に当たり,商品データの画像の大きさをどのように要素として考慮しているのかを,当該商品であるデジタルコンテンツを対象としてみた場合に,いずれも明らかにしているとはいえない

 よって,デジタルコンテンツに関する「商品データの画像」を前提にして本件補正発明をどのように実施することができるのかは,本件補正明細書の発明の詳細な説明欄の記載を参酌しても不明確であるといわざるを得ず,したがって,同欄の記載は,当業者が本件補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

意見書を提出する機会に関する判断事例(特許法159条2項,50条)

2010-12-19 09:28:46 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10124
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

当裁判所は,以下のとおり,審決には,新たな拒絶理由通知をして原告に意見書を提出する機会を与えるべきであったにもかかわらず,同手続を怠った瑕疵があり,審決は,特許法159条2項,50条に違反するものと判断する。
 ・・・
拒絶査定の記載内容
 審査官がした平成19年3月5日付け拒絶査定(甲13)の記載内容は,次のとおりである。
「・・・上記理由に引用された刊行物である・・・号公報の【図5】や,・・・号公報の【図3】や,・・・号公報の【図5】には,流量計と信号処理回路との間に保護回路を設けることが示されている。また,上記理由に引用された刊行物である・・・号公報の【図2】や段落・・・には,信号処理回路の流量計と反対側の回路接続部に,ツェナーバリアユニット等の保護回路を設けることが記載されている。
 よって,拒絶理由通知に対する補正後の請求項45~50の六発明は,上記公知技術の寄せ集めの域を出ていない。」
・・・

2 判断
 本件では,審決において,本願発明と引用発明との相違点1に係る「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」との技術的構成は,周知技術であり(甲2ないし4),本願発明は周知技術を適用することによって,容易想到であるとの認定,判断を初めて示している

 ところで,審決が,拒絶理由通知又は拒絶査定において示された理由付けを付加又は変更する旨の判断を示すに当たっては,当事者(請求人)に対して意見を述べる機会を付与しなくとも手続の公正及び当事者(請求人)の利益を害さない等の特段の事情がある場合はさておき,そのような事情のない限り,意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項,50条)。
 そして,意見書提出の機会を与えなくとも手続の公正及び当事者(請求人)の利益を害さない等の特段の事情が存するか否かは,容易想到性の有無に関する判断であれば,本願発明が容易想到とされるに至る基礎となる技術の位置づけ,重要性,当事者(請求人)が実質的な防御の機会を得ていたかなど諸般の事情を総合的に勘案して,判断すべきである。

上記観点に照らして,検討する。
 本件においては,
① 本願発明の引用発明の相違点1に係る構成である「・・・」は,出願当初から・・・などと特許請求の範囲に,明示的に記載され,平成19年2月7日付け補正書においても,「・・・」と明示的に記載されていたこと(・・・),
② 本願明細書等の記載によれば,相違点1に係る構成は,本願発明の課題解決手段と結びついた特徴的な構成であるといえること,
③ 審決は,引用発明との相違点1として同構成を認定した上,本願発明の同相違点に係る構成は,周知技術を適用することによって容易に想到できると審決において初めて判断していること,
④ 相違点1に係る構成が,周知技術であると認定した証拠(甲2ないし4)についても,審決において,初めて原告に示していること,
⑤ 本件全証拠によるも,相違点1に係る構成が,専門技術分野や出願時期を問わず,周知であることが明らかであるとはいえないこと,
⑥ 原告が平成19年2月7日付けで提出した意見書においては,専ら,本願発明と引用発明との間の相違点1を認定していない瑕疵がある旨の反論を述べただけであり,同相違点に係る構成が容易想到でないことについての意見は述べていなかったこと等の事実が存在する。

 上記経緯を総合すると,審決が,相違点1に係る上記構成は周知技術から容易想到であるとする認定及び判断の当否に関して,請求人である原告に対して意見書提出の機会を与えることが不可欠であり,その機会を奪うことは手続の公正及び原告の利益を害する手続上の瑕疵があるというべきである。