知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

権利能力なき財団の権利義務を承継する原告への商標権の移転登録請求が認容された事例

2010-12-26 17:21:13 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)2400
事件名 商標権移転登録手続請求事件
裁判年月日 平成22年12月16日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

2(1) 上記認定のとおり,
① 旧協会は,本件出願がされた当時,既に20年以上にわたって本件検定試験を実施し,同試験の受験料を主な原資とする,総額1億円以上の銀行預金を旧協会の基本財産として有していたこと,
② 上記預金の名義は,「日本中国語検定協会」,「日本中国語検定協会代表 B」などとされ,預金通帳や銀行届出印は旧協会の事務局において管理されていたこと,
③ 旧協会は,旧協会規則及び旧協会諸規則を定め,これらの規則にのっとり,理事や理事長を選出し,本件検定試験の実施等の事務を行うための事務局及び各種委員会を設け,理事会において収支予算及び収支決算の承認等がされていたこと,
④ 旧協会は,昭和63年ころに民法(平成18年法律第50号による改正前のもの)39条,37条所定の各項を含む寄附行為(本件寄附行為)を作成し,財団法人設立認可を申請したものであり,本件出願当時も同申請手続を推進していたこと,
が認められる。
 したがって,本件出願当時,旧協会は,個人財産から分離独立した基本財産を有し,かつ,その運営のための組織を有していたものといえ,いわゆる権利能力なき財団として,社会生活上の実体を有していたものと認められる(最高裁判所第三小法廷昭和44年11月4日判決・民集23巻11号1951頁参照 。)。

 また,上記認定事実に照らすと,本件出願及び本件商標権の登録に係る費用を負担したのは旧協会であり,本件出願前に「中検」という標章(本件標章)を使用していたのも,本件商標権の登録後に本件商標を使用していたのも旧協会であって,Bが個人として本件標章ないし本件商標を使用したことはなく,本件商標権がBを商標権者として登録されたのは,本件出願当時,旧協会が財団法人の設立認可を申請中で法人格を取得していなかったため,旧協会を出願人とすることができなかったことから,商標登録出願手続を進めるに当たっての便宜上,Bを出願人としたことの結果にすぎないものと認められる。

(2) そうすると,Bは,本件出願に当たり,旧協会が財団法人として設立後は本件商標権を同法人に帰属させる趣旨で本件出願をすることを了解していたといえるから,旧協会が財団法人として設立したとき,又は,Bが旧協会の代表者の地位を失ってこれに代わる新代表者が選任されたときは,財団法人ないし新代表者に対して本件商標権を移転登録する義務を負っていたものと認められる。
したがって,Bは,同人が旧協会の理事長を退任し,Cが新理事長に選任された時点で,本件商標権をCの名義に移転登録する義務を負っていたものであり,この義務は,Bの相続人である被告に承継されたものと認められる。また,上記認定事実に照らすと,原告は,旧協会によって設立されたものであり,旧協会の権利義務を承継したものと認められるから,被告は,現在,原告に対して本件商標権の移転登録義務を負っているものと認められる。

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