知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「具体的な取引状況」として審決後の不使用取消審判の結果を参照した事例

2010-12-26 16:17:45 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10171
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


1 請求の原因
イ 取消事由2(手続の違法)
・・・
b なお,本願の指定商品/役務の補正は,譲受交渉の後半段階において,引用商標権者が引用商標について第35類に係る指定役務については使用しているが,第43類の「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」に対しては使用していないことが判明したことに基づくもので,本願から第35類の指定役務を削除訂正し,第43類の上記指定役務に対する不使用取消審判請求を前記時期に予定していた。原告は,前記取消審判の審決確定により,本願商標は登録されると確信していた。
・・・

3 被告の反論
・・・
 なお,審理終結通知後に,原告代理人から,電話にて審理の再開の打診があったが,その理由は,引用商標に対して不使用取消審判を請求するとのことであったため,かかる対応は,審理を再開するための合理的な理由に該当するものではなく,時機に後れた対応であることから,審理の再開は行わずに審決をすることにしたものである。
 ・・・
オ 不使用取消審判につき
 商標法4条1項11号にいう「先願の登録商標」は,後願の商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続していれば足りると解すべきところ,本件の場合,審決時(平成22年4月19日)において,不使用取消審判の請求がされている事実は認められないから,引用商標が本件の審決時に有効に存続していた事実は何ら影響を受けることがない
 ・・・そして,審決が維持され,本願商標の拒絶が確定した場合であっても,原告は,事後指定による再出願を行うことができるものであり,原告に多大なる不利益が生ずるものとはいえない



第4 当裁判所の判断
1 ( 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯), ( (2) 商標の内容),(3) 審(決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
 また,証拠(甲2,14)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件審決後である平成22年5月10日付けで,引用商標である商標登録第4558717号の指定役務のうち第42類の「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」につき,権利者・・・を被請求人として,商標法50条1項に基づく不使用取消審判を請求し,同年5月21日(処分日)にその旨の予告登録がなされ,同年8月31日に認容審決(甲14)がなされ,同年11月2日(処分日)に確定登録がなされたことが認められる。
 上記事実によれば,上記予告登録がなされた平成22年5月21日の3年前である平成19年5月21日から,引用商標の商標権者である株式会社ほるぷ出版ないし株式会社ブッキングは,指定役務第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」につき,引用商標を使用していなかったことになる

2 本願商標と引用商標の類否について(取消事由1)
 商標の類否は,・・・,そのような商品・役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品・役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品・役務の出所の誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照 。)

 一方,甲33(引用商標に係る公報)及び甲15(本願商標に係る出願・登録情報の検索結果)の各指定役務欄を比較すると,本願商標(35類は取り除かれ,39類及び43類はそれぞれ変更された後のもの)と引用商標(上記不使用取消審判事件の審決により,第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」が除かれた後のもの)では,その指定役務の抵触関係はないものと認められる。
 そこで,以上の観点に立って,本願商標と引用商標の類否につき検討する。

・・・
(5) 以上の(1)ないし(4)からすれば,本願商標と引用商標とは,外観は相当異なり,観念は「予約」との部分で一部共通し,称呼は原則として「ブッキング」との共通部分があり,これらの諸要素に,前述した取引の実情,とりわけ不使用取消審判により認められた平成19年5月21日からの引用商標不使用の実情を総合考慮すると,本件審決時(平成22年4月19日)において本願商標と引用商標とが類似するとはいえないと認めるのが相当であり,本願商標は商標法4条1項11号には該当しないというべきである。


*事後指定による再出願は、商標法68条の三十二に基づく出願か

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