知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

用語の解釈を誤った事例

2009-01-02 21:57:48 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10188
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 被告の反論
審決の判断は正当であり,審決に原告主張の誤りはない。
(1)  取消事由1に対し原告は,①崩壊性と,②非襞・自立性とを同時的に実現した点に,発明の要点,つまり,発明の技術的意味があると主張するが,原告のいう非襞・自立性については,特許請求の範囲の請求項1において,「基部(13A)および側壁(13B)を備え」,「前記ライナー(13)は,前記液体タンク内にピッタリと密着するよう,非崩壊状態において襞,波,継ぎ目,接合部またはガセットがなく,側壁と基部との内部接合部に溝を有しておらず,前記液体タンクの内部に対応した形状を有している」と記載されているだけであり,原告が主張している「自立性」を裏付ける記載はない
 そして,特許法29条2項に規定する要件を判断するに当たっては,特許請求の範囲の請求項の記載に基づいてなされなければならないことは,特許請求の範囲の機能からして,当然のことであるから,原告の,「自立性」に関する主張は,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づく主張ではなく,失当である。
 なお,「積極的に基部と側壁とで構成して自立性を持たせること」に関しては,「基部」の剛性について請求項7で記載したうえで,請求項10で自立性について記載している点からも,原告の自立性に関する主張は,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づく主張とはいえないことが明らかである。
・・・

第4 当裁判所の判断
・・・
2 取消事由1(相違点の看過)について
(1)  原告は,本願発明のライナーは,崩壊可能でありながら襞がない状態で自立性ないし保形性がある一方,引用発明のライナーは崩壊性については規定するものの,襞がないこと,及び自立性ないし保形性については規定していないから,審決はこの本願発明の要点に係る相違点を看過したものであり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼす旨主張するので,以下検討する。
・・・
ウ 上記ア,イによれば,本願発明(請求項1)のライナーは,噴霧装置の液体タンク内に取り外し可能に配置される液体を収容可能な内袋であり,基部と側壁とを備え,かつ崩壊可能であって,非崩壊状態では襞等を有しないものである(請求項1,図2,図6等)。
 ・・・,本願発明のライナーは,それ自身が収納容器としても使用可能であるとともに,噴霧装置の液体タンク内に配置される内袋としても使用可能で(同⑩),非使用時の保管(同⑨),使用の際の取扱い及び内容液の充填も容易で,廃棄の際には容易に崩壊できるもの(同②)を提供することを目的とするものである。

 そのため本願発明のライナーは「崩壊可能」とされているところ(請求項1),「崩壊可能」は日本語として一義的な意味を有するものではない。そして,本願明細書において崩壊可能の用語をライナーの側壁に関し使用する場合には,手の圧力など,適度な圧力を加えることにより変形でき,基部に向かって押すことができるものの側壁が破壊しない状態を意味する(上記ア(イ)摘記④)と定義されている。またライナーは,支持しなくても延在して直立した状態で立つことができる旨が記載されている(同⑧)。
 そうすると,本願発明のライナーは,手の圧力などの人為的な圧力を加えない限り,側壁は変形せずに収納容器の形状を保つ性質を有するものであり,自立構造(自立性ないし保形性)を有するものといえる


 この性質を有することにより,本願発明のライナーは,非使用時の保管・内容物の充填が容易であり,また内容物を充填したまま単なる収納容器として使用出来ると共に,使用後に廃棄する必要があるときは,側壁が割れたり裂けるなどの破壊をすることなく,手で押しつぶして崩壊させ,廃棄に要する空間を少なくできる等の意義を有するものと認められる。
 また,ライナーは上記のように自立構造(自立性ないし保形性)を有しつつ,「液体タンク内にピッタリと密着するよう,非崩壊状態において襞,波,継ぎ目,接合部またはガセットがなく」(請求項1,関連する記載として上記ア(イ)摘記⑤)との,襞のない(非襞)構造を有していることから,ライナーを別個の収納容器の内側に適合させた状態で,収納容器中の塗料を混合器具によって破損されることなく混合することが可能となる(上記ア(イ)摘記⑦)と共に,ライナー内部に材料が閉じこめられる場所がないために内容物を十分に排出できる(同⑨,⑩)という意義を有するものである。

・・・

オ 以上ア~エの検討によれば,本願発明のライナーは,自立構造(自立性ないし保形性)を有するものであるのに対し,引用発明の袋は,内容物たる塗料がない状態では,自立性ないし保形性を有しないものである。審決が認定した一致点及び相違点は上記第3,1(3)イのとおりであるところ,審決はこの相違点を看過している



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