知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

技術的意義が不明な周知の構成を導入する訂正

2009-01-03 10:45:54 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10254
事件名     審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官  塚原朋一

2 取消事由2(新規事項追加に関する判断の誤り)について
 本件事案にかんがみ,まず,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との訂正事項(訂正事項2)が新規事項の追加に当たるかについて判断する。

(1) まず,特許法126条3項にいう「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」との文言について,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項」とは,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものということができる

 もっとも,明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項は,通常,当該明細書,特許請求の範囲又は図面によって開示された技術的思想に関するものであるから,例えば,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書,特許請求の範囲又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであるということができる。

(2) そこで本件訂正(訂正事項2)について見ると,そもそも訂正事項2は,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との構成を採用しようとするものである。

 しかるに,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)を精査しても,「種類ごとに異なる色に着色」することが,半透明部分を形成することと関連して,どのような技術的意義を有するかについて当業者が読み取ることができる記載部分が存在するとは認められず,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)の記載を総合しても,「種類ごとに異なる色に着色」することが,半透明部分を形成することと関連して,どのような技術的意義を有するかについて当業者が導くことができるとは認められない。この点,訂正前明細書(甲13)の段落【0025】には,「各シンボルは上記実施形態と同様にリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれているが,各半透明部分32aおよび33aにはこの有色インキが印刷されていない。その後の光透過性白色インキによる背景印刷は全面に対して行われ,最後の遮光性銀色インキによるマスク処理は各半透明部分32aおよび33aを除く領域に対して行われている。」との記載があるが,これも,各シンボルがリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれていることを示すものにすぎない。

 したがって,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)の記載を総合しても,当業者が,本件訂正発明のように,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において,「種類ごとに異なる色に着色」するという構成を採用することの技術的意義について導くことができるとはいえず,本件訂正発明のように,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において,「種類ごとに異なる色に着色」するという構成を採用することの技術的意義は不明というほかない。
 そうすると,たとえ属性ごとに各図柄を色で塗り分けること自体は周知の事項であるとしても,そのような技術的意義が不明である構成を新たに導入することについてまで,同様に周知の事項であるということはできない

 以上によれば「特定図柄の半透明, に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との訂正事項(訂正事項2)は,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものということはできず,新規事項の追加に当たるといわなければならない。

組み合わせの動機付けを否定した事例

2009-01-03 09:00:35 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10130
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3  審決の相違点2に係る容易想到性判断の当否について
(1) ・・・

 上記のとおり,オフセンタ機能は,探知画像の描画中心位置を後方へ変化させることにより,前方の表示画面限界位置までの表示範囲を広げて,変化させる前に見えていない探知物標が見えるようにし,他方,後方の表示画面限界位置までの表示範囲を狭め,変化させる前には見えていた探知物標を見えなくする技術である

(2) そこで,引用発明において,周知技術であるオフセンタ機能を採用する解決課題ないし動機等が存在するか否かについて検討する

 前記のとおり,引用発明は,表示器DISPLAY上の全体の表示画面について,自航空機の速度等に応じて,前方の表示範囲を伸縮させるのではなく,むしろ,一定の範囲内に位置する他航空機等のすべてを表示させることを前提ないし想定した発明である。
 このように,引用発明は,全体の表示画面内に,数多く表示されることがあり得る他航空機等の中で,操縦者をして,真に衝突を警戒すべき他航空機を識別させ,そのような航空機に対する注意を喚起させるために,「警戒空域」を円で表示し,かつ,自航空機の速度に応じて,その半径の長さを伸縮させる技術に係る発明である。上記のとおり,「警戒空域」の表示画面は,全体の表示画面に既に表示されている他航空機等の中で,衝突を回避させる必要のない航空機等と,真に衝突を回避させる必要のある他航空機等を,操縦者にとって識別することを容易にするための手段として用いられている。

 上記のとおり,引用発明では,CRT上(表示器DISPLAY上)の全体の表示画面には,衝突のおそれの有無にかかわらず,他航空機が表示されていることを前提として,既に,全体の表示画面に表示されている他航空機の中で,操縦者に対して,真に衝突を警戒すべき他航空機を操縦者に識別させて,注意をしやすくする目的で,「警戒空域」を表示させるという課題解決のための技術であるから,引用発明が,課題をそのような手段によって解決する発明である以上,「警戒空域」の表示範囲のみを,効率的に表示する目的でオフセンタ機能を採用する解決課題,優位性ないし動機等は存在しないというべきであり,仮にあるとすれば,それは,引用発明が想定する課題解決とは全く別個の課題設定と解決手段というべきである