知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

請求項の用語の意義を確定する事例

2009-01-02 22:44:54 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10420
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官  飯村敏明

第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)について
 原告は,本願発明にいう「直流電流成分」は,「ハイパスフィルター」が除去する成分を意味するのに対し,引用発明の「オフセット処理回路38」が除去する「直流成分」や「オフセット値」は,一定の値である純粋な「直流成分」を意味するものであるから,本件審決は本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過したものであると主張する

 しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。

(1) 本願発明について
 原告は,本願発明にいう「直流電流成分」とは,「ハイパスフィルター」によって取り除かれる成分を意味し,純粋な直流成分のみを意味するものではないと主張する
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。

ア 特許請求の範囲の記載
 本願明細書(甲5,7,37)の請求項1の記載は,前記第2,2のとおりであり,これには,「直流電流成分」に関し,「・・・該電流源たる受光部からの電流信号が入力され,該電流信号中の直流電流成分を除去して出力するために,電流源たる受光部からの電流信号をアースに導く抵抗部と,電流源と抵抗部の間から分岐し増幅器との間に配置されるコンデンサ部とから形成されているハイパスフィルターと,・・・」
と記載されている。
 請求項1の上記記載によれば,本願発明では,「直流電流成分」を除去して出力するために,所定の構成を有する「ハイパスフィルター」が用いられることは特定されているものの,他方,同「ハイパスフィルター」によって除去される「直流電流成分」が,原告の主張する純粋な直流成分のみではなく,その他の成分を含むものと合理的に理解することはできない

イ発明の詳細な説明及び図面の記載
進んで,本願明細書(甲5,7,37)の発明の詳細な説明及び図面の記載を検討する
(ア) 本願明細書(甲5,7,37)の発明の詳細な説明及び図面には,「直流電流成分」について,次の記載等がある。
・・・

(イ) 発明の詳細な説明の前記(ア)aないしeの各記載によれば, 「ウエハ表面自身による散乱光に相当する直流成分」を取り除くために「ハイパスフィルター」が用いられることは理解できるものの,電流信号の「直流成分」が,所定の「ハイパスフィルター」の構成で取り除かれる成分であると認めることはできない
 また,【図13】の記載(前記(ア)f)によれば,電流の「直流成分」に相当するのは,水平な直線であるから,電流が一定値をとることは理解できるものの,「直流成分」に「純粋な直流成分」以外の何らかの信号成分が含まれていると認めることはできない
 さらに,【図4】,【図5】の各記載(前記(ア)g及びh)からも,「直流成分除去部」により「純粋な直流成分」以外の何らかの信号成分が除去されるとは認められない。
 その他本願明細書の記載を検討しても,本願発明において,「直流電流成分」が原告の主張する純粋な直流成分以外の成分を含むと認めるに足りる記載は見当たらない

(ウ) 一般に,ハイパスフィルターが,低周波数成分を除去することができるものであることを前提としたとしても,
① 本願発明にいう「直流電流成分」に「純粋な直流電流成分」以外の電流成分(例えば,被検査物であるウエハの表面のうねりや表面のムラなどに起因する低周波の電流成分など)を含むのであれば,本願明細書に低周波の電流成分や低域のカットオフ周波数等について何らかの記載や図示があるのが自然であるにもかかわらず,そのような記載はないこと,
② 「純粋な直流電流成分」をハイパスフィルターで除去すれば,電流電圧変換回路の飽和が防止され,異物検出のためのダイナミックレンジを広くとることができ,異物検出部において,測定可能な異物による散乱光の大きさの範囲が広く,広範囲のサイズの異物を検出できるという「純粋な直流電流成分」における効果が,本願明細書に記載されていること
等の諸点を総合考慮すれば,本願発明の「直流電流成分」を「純粋な直流電流成分」以外の何らかの電流成分を含むものと理解することはできない

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