知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許権に対する質権を行使できなかったことに伴う損害額の算定事例

2009-01-25 20:58:08 | Weblog
事件番号 平成18(ネ)10008
事件名 損害賠償請求控訴・同附帯控訴事件
裁判年月日 平成21年01月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

3 損害の額の検討の手法
(1) 当裁判所の判断
 被控訴人が本件質権を取得することができなかった損害の額を算定するためには,本件特許権の適正な価額を,質権実行によって回収することになる平成10年3月ころの時点において,本件特許権を活用した事業収益の見込みに基づいて算定することが必要である。
 しかるに,本件特許権を活用した事業収益の見込みとは,FS床版事業の収益の見込みを算定することにほかならないところ,FS床版事業が事業収益を生み出す見込みを有するとすれば,それは,本件特許権の活用のみによるものではなく,様々な技術,技能,広範な営業活動,さらにはその前提になる当該事業主体の組織,信用,資本等によるものというべきである。

 そうすると,その中から本件特許権の活用による部分を正しく算定するためには,本件発明自体の技術的位置付け,本件特許権の経済性及び市場性の観点からの位置付けについての検討が不可欠というべきである。そして,かかる検討を踏まえて,本件特許権を含むFS床版事業について評価した額を算定した上で,同評価額に対する技術の寄与度を考慮して本件特許権を含む特許網の評価額を算出し,さらに同評価額に対する本件特許権の割合を考慮して本件特許権の有する技術内容に応じた相応の評価額を得て,これをもって上記損害の額と認定するという手法によるのが相当である。

・・・・

ウ 本件特許権を含むFS床版事業の価値評価
(ア) 本件特許権の評価を行うため,まず,本件特許権を含むFS床版事業の価値評価を行う方法を採用する。知的財産における評価アプローチは,一般的に,インカム・アプローチ,マーケット・アプローチ,コスト・アプローチに大別される。
 インカム・アプローチとは,当該知的財産から期待される収益力に基づいて価値を評価する方法で,当該知的財産によって将来獲得されるキャッシュ・フローを割引現在価値で求める。
 マーケット・アプローチとは,同様の知的財産や,実際に行われた取引事例あるいは市場取引価額等と比較することによって相対的な価値を評価するアプローチである。
 コスト・アプローチとは,研究開発や知的財産を取得するのに要したコストを当該知的財産の価値と考えるアプローチである。

 そこで,単一の評価法に基づいて評価する単独評価ではなく,複数の評価法で算定した結果を併用して総合評価することとする。

・・・

5 本件特許権を含む特許網(理想特許権)の評価額
(1) 当裁判所の判断
 鑑定の結果によれば,事業からの利益の4分の1(25%)を技術の寄与度と想定して技術の価値を測定する方法であるいわゆる25%ルールに基づいて,本件特許権を含む特許網について,3億3000万円の25%である8250万円という評価額が得られることが認められる。鑑定書の記載の概要は,次の(2)に示すとおりのものであって,その推論過程は,その内容自体に照らし合理的であり,その結果は,鑑定書記載の実施料率の実態調査結果をもとにした評価結果の幅に入り,妥当な評価額ということができるから,この鑑定の結果については,高い信用性が認められる。

 そうであれば,本件特許権を含む特許網の評価額は8250万円であると認定するのが相当である。

(2) 鑑定書の記載の概要
ア 本件特許権は,その技術的保護範囲が狭いうえ,その代替技術が出現したためライフサイクルが短く,過去事業において実質的に活用された形跡がない。この点を配慮すると,本件特許権の評価については,いったん,理想特許権すなわち特許網の評価を行って,その後に本件特許権の価値評価を行うのが相当である。

イ 本件においては,本件特許権を含むFS床版事業の評価額を基礎に,特許技術の商業化が成功した場合,事業からの収益の4分の1(25%)を技術の寄与度と想定して,技術の価値を測定する方法である「25%ルール」を採用することとし,その妥当性を別の観点から確認するために,実施料の観点から検証する。

ウ まず,上記「25%ルール」により,本件特許権を含むFS床版事業の価値評価額と推定される3億3000万円に25%を乗じると,本件特許権を含む特許網の評価額は,8250万円となる。

エ これを,実施料率の観点から検証する。まず,鑑定基準日頃の類似上場会社14社の売上総利益率の平均は,平均で13.1%であり,建設業における実施料率は,概ね3%から4%の幅と推定することができる。そこで,これらを前提に,売上高に対する実施料率を売上総利益に対する実施料率に換算して,実施料率から求められる本件特許権を含む特許網の評価額を計算すると,7557万円~1億0065万円という評価幅が得られる。上記ウの8250万円は,実施料率の実態調査結果をもとに実施した上記の評価結果の幅に入るものである

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