知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

新規事項の追加とした審決が取消された事例

2008-06-29 11:07:36 | 特許法17条の2
事件番号 平成19(行ケ)10409
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(補正についての判断の誤り)について
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載を再掲すると,以下のとおりである。
「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル~14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法において,処理対象水と,オゾン発生装置から発生し該処理対象水1リットルに対して0.004mg~0.015mg注入したオゾンと,を混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通してオゾン含有処理対象水中のオゾンを平均粒径が0.5ミクロン~3ミクロンとなるように微細気泡化し,このオゾン含有処理対象水をオゾン処理槽に供給して処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する高度水処理方法。」これによると,前段部分のいわゆる「おいて書き」によって,本願補正発明が「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル~14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法」についての発明であることが示され,後段部分の記載によって,本願補正発明のオゾン処理の具体的な内容を構成として特定しているものと理解することができる。

(2) 審決は,上記の本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載から,本願補正発明は,同請求項の後段に規定した構成のみにより,その前段に規定した「飲料水レベルまで浄化する」発明を含むことになった旨判断するところである

 そこで検討すると,確かに,審決が指摘するように,前段の規定は本願補正発明の連続処理方式の高度水処理方法が達成しようとする浄化の程度を「飲料水レベル」と規定するところではあるが,後段が規定している技術的事項は,オゾンによる有害物質の酸化分解工程であり,オゾン処理のみにより前段に規定する浄化レベルを達成するものであるか否かについての記載は請求項中に存在しない
 そして,かかる記載振りに加え,一般に,特許請求の範囲の記載において,当該発明の構成特定事項の記載の前段に置かれる「・・・において,」とするいわゆる「おいて書き」は,発明の属する技術分野や当該技術分野における従来技術を特定するなど,当該発明の前提を示すことを目的として記載される場合が多いことも勘案すると,上記前段部分の記載は,「飲料水レベルまで浄化する」ことを目的とする連続処理方式の高度水処理方法の技術分野における水処理の一工程としてのオゾン処理に係る発明であると解する余地も十分あり得るのであり,審決のように本願補正発明のみによって上記目的を達成する発明を含むものと即断することは困難であるといわざるを得ない

 そこで,進んで本件補正に係る手続補正書(甲第10号証)の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,同説明中には以下の記載がある。
・・・
 以上の各記載によれば,本願補正発明による汚水の高度水処理方法は,オゾン処理を基本とした高度水処理技術の提供であり,処理対象水の汚染の程度に応じて,オゾン処理に加えて,過酸化水素水処理,電気分解処理,紫外線照射処理,炭化濾材処理等の各種の浄化工程を予定しているものであることは明らかというべきである。
 そうすると,これらの記載を総合すると,本願補正発明は連続処理方式の高度水処理方法の技術分野における基本工程としてのオゾン処理に関する発明であると認めるのが相当であり,同補正発明に係る特許請求の範囲の請求項1の前段の記載があるからといって,オゾン処理のみで前段の浄化レベルを達成する発明を包含することになったものでないことは明らかというべきである

 もとより,上記認定の記載中にもあるとおり,浄化の対象となる処理対象水によって汚染レベルは様々であり,汚染レベルの低い処理対象水については,オゾン処理を行うことによって,「所望の浄化レベル」に到達することもあり得るところである。しかしながら,このことは,本願補正発明のように「飲料水レベルまで浄化」する場合だけでなく,本願発明のように「浄化」する場合においても起こり得ることであり,前者の場合において,「所望の浄化レベル」の内容が若干具体的に記載されているにすぎないものである。

 したがって,本件補正に係る補正事項について,「請求項1に『ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する』という事項を記載することにより,請求項1に係る発明を,オゾン処理のみにより,『ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する』ものを含む発明とするもの」との審決の理解は,誤りであるといわざるを得ない。

 そして,審決は,補正事項についての上記のような誤った理解に基づいて,本願補正発明は,オゾン処理のみにより,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」発明を含むところ,かかる発明は当初明細書等に記載された事項の範囲内のものということはできないとし,その余の点を検討するまでもなく,本件補正を却下すると判断しているのであるから,上記に説示したところから明らかなように,審決は本件補正についての判断を誤ったものというほかない。

2 なお,被告は,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」との補正事項を追加することが新規事項の追加に該当するものでもあると主張するので,念のためにこの点についても検討する(ただし,上記1のとおり,審決は「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」との補正事項が新規事項となるかどうかについて何ら判断を示していないから,仮に被告の主張が認められても,本件補正を却下した審決の判断が誤りであることに変わりはない。)
・・・

 したがって,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことを付加する補正は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において行うものであるということができる。』

(所感)
 オゾン処理のみで「飲料水レベルまで浄化する」とした審決の認定は行き過ぎであったと思う。「連続処理方式」の用語の技術的意義を明細書を参酌して認定し「飲料水レベルまで浄化する」ことを目的とする連続処理方式の高度水処理方法の技術分野における水処理の一工程としてのオゾン処理に係る発明であるとするべきであった。

 請求項は一読したところでは、飲料水レベルまで浄化することと、オゾン処理とその他の工程の処理の役割分担が明確でないようにも読め、印象が悪い。審決はこの「悪印象」の部分を問題としたかったのではないか。そうであれば、新規事項の追加とするのではなく、記載不備を問題とすべきだったのではないか。


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