知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

サポート要件と立証責任

2006-02-25 19:07:59 | 特許法36条6項
◆H17.11.11 知財高裁 平成17(行ケ)10042 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法旧36条5項,特許法36条6項

(判事事項:旧36条5項の趣旨)
『 特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。』
『特許法旧36条5項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。』

(判事事項:サポート要件の立証責任)
『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(特許拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の原告)又は特許権者(平成15年法律第47号附則2条9項に基づく特許取消決定取消訴訟又は特許無効審判請求を認容した審決の取消訴訟の原告,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の被告)が証明責任を負うと解するのが相当である。』

(判事事項:パラメータ発明は具体例が必要)
『本件発明は,特性値を表す二つの技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を構成要件とするものであり,いわゆるパラメータ発明に関するものであるところ,このような発明において,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明は,その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である。』

(判事事項:具体例(実験データ)の後出しは許さず)
『当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開示せず,本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに,特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって,その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し,明細書のサポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。』

(判事事項:新・旧の審査基準の適用)
『特許・実用新案審査基準は,飽くまでも特許出願が特許法の規定する特許要件に適合しているか否かの特許庁の判断の公平性,合理性を担保するのに資する目的で作成された判断基準であって,行政手続法5条にいう「審査基準」として定められたものではなく(特許法195条の3により同条の規定は適用除外とされている。),法規範ではないから,本件特許の出願に適用される特許・実用新案審査基準に特許法の上記規定の解釈内容が具体的に基準として定められていたか否かは,上記(4)アの解釈を左右するものではない。また,平成15年10月改訂に係る特許・実用新案審査基準(甲11)では,明細書のサポート要件違反の類型の一つとして,「出願時の技術常識に照らしても,請求項に係る発明まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合」を掲げ,更にその例示として,「機能・特性等を数値限定することにより物・・・を特定しようとする発明において,請求項に記載された数値範囲全体にわたる十分な数の具体例が示されておらず,しかも,発明の詳細な説明の他所の記載をみても,また,出願時の技術常識に照らしても,当該具体例から請求項に記載された数値範囲全体にまで拡張ないし一般化できるとはいえない場合」を掲げており,この具体的基準が特許法旧36条5項1号の規定の趣旨に沿うものであることは,上記(5)アの判示に照らして明らかであって,そうである以上,これをその特定の基準が適用される特許出願より前に出願がされた特許に係る明細書に遡及適用したのと同様の結果になるとしても,違法の問題は生じないというべきである。』

(感想)
 たいへん踏み込んで判示しており、わかりやすく高品質な判決だ。

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